全国高等学校野球選手権大会 各大会振り返り

【振り返り篇】2007年夏の甲子園

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大会全体

決勝戦は衝撃的な形で幕を閉じた。伝統校・広陵と新鋭公立校・佐賀北という対照的な顔ぶれとなった決勝は8回裏に逆転満塁ホームランなどで一挙5点をたたき出した佐賀北の初優勝で決着した。開幕戦勝利に決勝での満塁ホームランとまるで1994年の佐賀商業をなぞるかのような優勝で不思議な縁を感じさせたが、この大会はまさに佐賀北に始まって佐賀北に終わった大会であった。特待生問題に揺れた1年で公立校が優勝したというのも何かのメッセージのように思えてならない。

大会前は優勝候補の筆頭と思われていた大阪桐蔭が大阪の決勝で敗れてしまい、優勝争いが混とんとしていたが、8強の顔ぶれを見ると九州勢が3校ランクインし、広陵・今治西の中四国勢や常葉菊川・大垣日大の選抜決勝を戦った東海勢も安定した強さを見せた。逆に関西勢は1校も残らず、関東も帝京のみと今年は地方勢の強豪の活躍が目立った。

 

また、今大会から飛ばないボールが導入されてホームラン数は激減。前年の60本から半分以下となった。
来年以降打者がどのように対応していくのか見ものである。

優勝校振り返り

佐賀北は大会前も全く注目はされていなかった。大変失礼なことに、私自身試合前には必ず勝ち負けの予想をするのだが、佐賀北については1回戦から決勝まで全て負けると予想していた、申し訳ない。投手陣は左のサイドスロー馬場が先発。アウトコースのスライダーを中心に組み立て丁寧に試合を作ると、その珍しい球筋になれたところで久保にスイッチ。久保も決して球速は早くないが、外角のコントロールと切れが抜群。これだけアウトコースが続くと相手に踏み込まれて打たれそうなのだが、決して大事なところでコントロールを間違わない。準決勝まで自責点0は見事の一言である。

打者陣は3番副島以外は大物うちはいないが、相手のすきをついてつないでくる打線は好投手からでも確実に得点を重ねた。

そして、このチームで特筆すべきなのは体力と守備力である。引き分け再試合や延長13回の激闘を経ても決して落ちない体力。そして、センター馬場崎のスーパーキャッチや内野陣の体を張って強い打球を止めるシーンは大会が進むにつれて恐れすら抱かせるものであった。守備からプレッシャーをかけられるその強さは圧巻の一言であった。

準優勝校振り返り

準優勝の広陵も素晴らしかった。中井監督が率いた中でも最高傑作のチームではないだろうか。なにせ1年間中国地区では負けなしのチームである。勝ち方をよく知っていた。1回戦の駒大苫小牧戦の逆転勝利で勢いに乗ると、準々決勝では中井監督の体調不良がありながらも選手個々の考える力で状況を打開。練習試合で負けていた今治西の好投手熊代(西武)を沈めた。野村(広島)―小林(巨人)のバッテリーは頭脳的な投球でバッターを翻弄。素晴らしいのは大半がストレートとスライダーの配球であるのにも関わらず、切れ・コントロール・内外角への配球で抑えきってしまうところだ。たまに混ぜるスローカーブも効果的であった。

打線は長距離バッターこそ3番土生(広島)くらいであるが、野手の間を抜く鋭い打球を飛ばす中距離の好打者を上位から下位までずらりと並べた打線は得点能力が高かった。特に6番・7番野村がともに5割以上打っており、相手投手にとっては息を抜く場所のない打線であった。チームのコンセプトとして、4点以上取り3点以内に抑えるという戦いを目指しており、準決勝の常葉菊川戦はまさにその4-3での勝利。後半追い上げられても全く動じずに落ち着いて寄り切り、その落ち着きは選抜優勝監督の常葉菊川・森下監督を感嘆させた。

ベスト4振り返り

選抜優勝の常葉菊川は貫禄の4強入り。3回戦の日南学園戦では土壇場8回裏に3点ビハインドから代打の2年生伊藤慎吾の起死回生の同点3ランで追いついた。相手の有馬投手(元楽天)が真っすぐ一本で勝負してくる中で高めに浮いたボールを逃さなかった打撃は見事。その後、延長10回裏にサヨナラ打を放ち、史上唯一1試合でサヨナラ打とホームランを放った選手となった。

準々決勝では選抜決勝で破った大垣日大・森田を返り討ち。キャッチャー石岡のホームランなどで6得点を奪い、投げてはエース田中(DeNA)が4安打1失点完投。盤石の強さを見せた。準決勝では広陵に先手を取られ後手後手に回って敗れたが、それでも終盤の追い上げは負けてなお強しの印象を与えた。スタメンの大半が2年生で好投手・戸狩も残る。強さは来年も続きそうだ。

長崎日大は前評判はそこまで高くはなかったが、ベスト4入り。ここ数年清峰に覇権を奪われていたが、長崎大会準決勝で逆転で撃破。伝統校の意地を見せた。大会ではエースで4番の浦口・3番キャッチャーの上戸を中心に力強い戦いを披露。星稜・高木(巨人)、京都外大西・本田、楊志館・甲斐と標準以上の好投手を打ち崩していった。特に上位打線の破壊力は素晴らしく、甲斐の剛速球にも力負けしなかった。

浦口上戸のバッテリーは真っすぐとスライダーでの強気な投球が光った。準決勝では練習試合で勝っているお隣さんの佐賀北のそつない攻めに敗れたが、夏の過去最高成績のベスト4は誇れる成績。昨年の清峰に続き、長崎勢のレベルの高さを示した。

 

ベスト8振り返り

帝京は予選で大阪桐蔭が敗れたこともあり、優勝候補の1番手に挙げられたが、準々決勝で佐賀北に敗退。3回戦までは盤石の戦いだっただけに歯がゆい結果となった。投手陣はエースの大田(DeNA)が選抜のデッドボールによるけがから本調子でなく、左腕エース垣ケ原と2年生右腕高島の2人でつないだ。垣ケ原の安定感は素晴らしく、3回戦では仙台育英の佐藤由規(ヤクルト)をKOした智弁学園打線を完封した。強気にインコースを突き、小気味よいピッチングを見せた。2年生捕手鎌田の好リードも光った。

4番中村晃(ソフトバンク)を中心とした打線の破壊力はすさまじく、下位まで長打力を秘めた打者を並べているうえに、昨夏からの機動力を駆使した攻撃も継続。神村学園のエースをあっという間に打ち崩した攻撃は見事であった。それだけに佐賀北戦の得点機の2度のスクイズ失敗は痛かった。1点ほしい場面であるがゆえに選んだ策なのだろうが、なにか余裕のなさを感じさせた。全国制覇のチャンスであっただけに惜しまれる夏であった。

 

今治西は3季連続の甲子園出場。3度目で念願の8強入りを果たした。このチームは何といってもエースで4番の熊代(西武)が軸。昨夏からこの夏にかけて下半身の割れがしっかりでき、フォームの力強さも増した。球速は140キロ台を記録し、打たれ強さも身に着けていた。2回戦では強打の近江打線を2安打完封。3回戦では昨夏に続いて文星芸大付の佐藤(DeNA)との投げ合い。10安打され先行を許す苦しい展開ながら、我慢の投球でしのぎ、最後は9回に佐藤得意のインロー真っすぐを狙い打って決勝ホームラン。その後も油断ない走塁で攻撃の手を緩めず、大会屈指の左腕に投げ勝った。

攻撃では昨夏ほどの長打力はないが、叩き付ける打撃と走塁で得点を重ねた。守備もショート福岡を中心に堅く、熊代を盛り立てた。
この守備がなければ愛媛決勝での済美との死闘を制することもできなかったろう。
最後は準々決勝で広陵の総合力に屈したが、秋の国体ではリベンジを果たして優勝。熊代を中心に集大成を見せた夏・秋であった。

 

大垣日大は選抜に続いて上位進出。春から夏にかけてエース森田の成長が素晴らしかった。春までは決め球のスライダーが目立つピッチングだったが、夏は真っすぐの力強さが増していた。MAX146キロのスピードを誇り、かわすピッチングから相手を圧倒するピッチングに変化。三振の数も4試合で40個となった。

打線は1番小川の不調が痛かったが、それでも4番箕浦を中心に森田を援護。スクイズなどの小技も絡めながら得点を重ねていった。阪口監督も選抜同様、チームを盛り上げる雰囲気を自ら作っており、微笑ましいチームであった。最後は選抜同様に常葉菊川に屈したが(秋・春・夏とも常葉菊川に敗戦)、それでも選抜の希望枠出場からここまでの成長曲線を描いたのは素晴らしいとしか言いようがない結果であり、岐阜に新たな強豪校が誕生したと言えるだろう。

 

楊志館は初出場でベスト8進出。2003年の伊藤を擁したチーム以来(夏の大分大会決勝進出)、県内で常に上位をにぎわせていたが、この夏殻を突き破った。エースの甲斐は力強い真っすぐを中心としたピッチング。被安打は3試合で30本以上と多かったが、それでも真っすぐで徹底的にアウトローを突く投球を貫き通した。バックも堅い守備でエースを盛り立て、要所で併殺を奪った。

打線はチャンスでビッグイニングを作る攻撃が目立ち、初戦は実力上位と見られた高知の国男からスクイズなどであっという間の4得点。3回戦でも開星のエース吉田を中盤捕らえて1イニング6得点した。相手の乱れたすきを逃さない攻撃が光った。大分勢としては実に6年ぶりの初戦突破で久しぶりの上位進出となった。

3回戦まで

その他で光ったチームとしては日南学園が挙げられる。2回戦では桐光学園のと延長11回の死闘を演じ、3回戦でも選抜王者の常葉菊川を追い詰めた。有馬(楽天)、中崎(西武)の2年生好左腕と4番中本を中心とした強力打線で久々に日南学園らしい力強い戦いが見られた。その日南学園に敗れたといえ、桐光学園もさすが神奈川を制したチーム。3番政野を中心に延長で3点差を追いついた攻撃は見事だった。

https://www.youtube.com/watch?v=YtLFaI8ysys

https://www.youtube.com/watch?v=jpW3C2UfUOw

https://www.youtube.com/watch?v=yvTg3HYQHHw

 

また、文星芸大付の佐藤祥万(DeNA)のインコースを強気に突くピッチングも見事。1回戦では140キロ台後半を計測する山崎(オリックス)、岩崎(ソフトバンク)を擁する市立船橋と対戦して完封勝利。球速では劣っても、勝つのはこういう投手だというのを見せてくれた。3回戦では前年敗れた今治西相手に気迫のピッチング。前半5回で10個の三振を奪う迫力であった。最後は熊代に決勝ホームランされたが、大会を彩った好投手であった。

 

新潟明訓の投手永井も好投手であった。140キロ台のストレートに決め球のシンカーで好投し、1回戦は花巻東を5安打完封。2回戦は甲府商業との延長12回の死闘を無失点ロングリリーフで2-1で制した。2試合で30個もの三振を奪った。ドカベンをそのまま絵にかいたような捕手川上とのコンビで新潟勢としては1994年の中越以来久しぶりの3回戦進出を果たした。

 

智弁学園は春の近畿大会を制した強打を存分に披露。特に2回戦の仙台育英の佐藤由規を捕らえた攻撃は見事。下位打線がつないで作ったチャンスに1番キャプテン佐藤、2番1年生稲森の連続タイムリーなど打者1巡の5得点で大会No.1右腕を撃沈した。1回戦で3ラン2本を放った関本も光った。投手も先発内之倉、リリーフ阪口ともに丁寧なピッチングが光った。

そして、その智弁学園に敗れた佐藤由規(ヤクルト)だが、1回戦の智弁和歌山との試合はすさまじいピッチングであった。150キロ台を30球以上計測し、130キロ台の高速スライダーと合わせて強打の智弁和歌山を圧倒。全く手も足も出ないといった状態だった。同点ツーランを喫した4番坂口も次の打席では153キロのアウトローの真っすぐで見事に三振に奪った。さらに、2回戦の智弁学園戦ではついに155キロを計測。歴代最速ピッチャーとして名を刻んだ。それだけに下位打者に不用意にインコースを突いてのデッドボールなどから招いたピンチで5失点した1イニングが悔やまれる。打線も下位が少し力不足だったか。

その他では1年の夏に大活躍した京都外大西・本田が最後の夏に真っすぐ主体の強気のピッチングで復活。常総学院との延長の死闘は大会でも屈指の好試合で、常総学院・清原(阪神)の好投も光った。

 

近江の質量ともに豊富な投手陣や甲府商の堀内2世と評された2年生米田、花巻東の1年生菊池雄星(西武)、金光大阪打線を封じた神村学園のサイドハンド、創価の技巧派左腕・勘米良、星稜のエースで4番の高木(巨人)に青森山田のエース石井の強気な投球も印象に残った。

 

一方、岩国・高木、日大山形・阿部、尽誠学園・藤井らは力を出し切れずに敗れてしまった。

 

活躍の光った打者としては、一発を放った岡山理大付・浜野、宇治山田商のエースで3番の中井(巨人)、選手宣誓も務めた前橋商の主将・樺沢、昨夏も一発を放った浦和学院の主砲・赤坂(中日)、佐藤由規から特大の同点2ランを放った智辯和歌山・坂口(巨人)、満塁弾を放った聖光学院・渡辺らが挙げられる。

 

興南は久しぶりの甲子園出場。当山石川幸喜の3投手を中心に粘り強い戦いで個々の能力に勝る岡山理大付に競り勝った。

 

開星はエース吉田の好投で甲子園初勝利。1年生捕手・橋本の活躍も光った。

 

また、東福岡―桜井や広陵―駒大苫小牧など終盤にドラマのある試合も多かった。

 

大阪桐蔭を倒して出てきた金光大阪・植松(ロッテ)は序盤は力強い投球を披露。しかし、神村学園の球数を投げさせる作戦に中盤捕まり、初戦敗退となった。それでも強気なピッチングはさすが中田翔(日本ハム)を抑えただけのことはあった。

 

高知高校と報徳学園の明治神宮の決勝を戦った両校はともに初戦敗退。春夏連続初戦敗退となった。前評判の高かった両校だけに意外な結果であるとともに、相手に研究もされる中で1年間結果を出し続ける難しさも感じさせられた。

 

駒大石見沢は久々の甲子園出場。帝京に力及ばず敗れたが、初回の攻撃はヒグマ打線復活を印象付けるものだった。

 

福井商は3年連続の甲子園で開幕戦に登場。佐賀北に完封負けを喫したが、4番宇野を中心に締まった好試合を演出した。

 

松商学園は近江に力負けしたが、大久保吉沢ら2年生がスタメンに4人残り、来年に期待が持てるチームだ。

 

愛工大名電は3年連続出場も今年も初戦敗退に。しかし、左腕・柴田(巨人)はベーチェット病を患いながらも素晴らしいピッチングを見せた。

 

徳島商は開星・吉田の前にわずか2安打。先発・中野の好投に報いれなかった。

 

市立船橋の山崎(オリックス)、岩崎(ソフトバンク)の両右腕はともに140キロ台後半の速球を披露。初戦で敗れはしたが、この年の千葉のレベルの高さを見せつけた。

 

金足農は先発・高橋が打球を受けるアクシデント。継投で踏ん張り、選抜準優勝の大垣日大と競り合ったが、一歩及ばなかった。

 

久々の出場となった八代東は白石今村石橋の1~3番だけで7安打の活躍。しかし、後ろの打者が続けず、今治西・熊代を崩すことはできなかった。

 

境は9年ぶりの出場も4失策と守備から崩れてしまった。甲子園の怖さを知る結果となった。

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