• 岩国vs広陵 2003年夏

    2020年05月26日

    大会中盤に生まれた衝撃の大番狂わせ

    2003年夏の甲子園は木内監督率いる常総学院とダルビッシュ(カブス)擁する東北が決勝で激突し、常総学院が名将の有終の美を飾ったことで知られている。しかし、大会前はこの2校も絶対的な優勝候補だったわけではない。1回戦が終わった段階ではどこが優勝するかわからないほど有力校がひしめきあっていたのだ。そんな中、波乱を呼ぶ流れを生み出したのが2回戦で実現したこの隣県同士の対戦カードであった。

    広陵は4季連続の甲子園出場で選抜の優勝校。史上6校目の春夏連覇を目指し、堂々甲子園に乗り込んできた。エース西村(巨人)と好捕手・白浜(広島)のバッテリーは安定感抜群。西村は重いストレートと鋭いスライダーを武器とする剛腕で、選抜決勝では強打の横浜打線を封じ込めるなど、実力を出し切ればそうそう打たれる気配はない。また、春以降急成長した右サイドハンドの北村も制球力に長けており、連戦にも不安はない。

    一方、打線は選抜決勝で横浜の成瀬(ロッテ)、涌井(楽天)から15得点を挙げたように、圧倒的な破壊力を持つ。特に1番上本(阪神)、2番片山、3番藤田の3人は好球必打でどんどん振ってくる積極性が光る。常に先の塁を狙う走塁も光り、嵩にかかって畳みかける攻撃は破壊力満点だ。5番には期待の1年生藤川(阪神)が入るなど、チーム内競争も激しく、上位から下位までハイレベルな打者がそろう。

    広島大会を悠々勝ち抜き、甲子園でもV候補筆頭として臨んだ初戦は県大会で10ホームランの新記録をたたき出した「甲府の暴れん坊」こと東海大甲府が相手だった。しかし、先頭の上本がいきなり先頭打者弾をお見舞いすると、1回から3回まで毎回得点を記録。投げてはエース西村が東海大甲府打線に得点圏に走者は進められるものの、決定打を許さずん6安打で完封し、まずは危なげなく初戦を突破した。

    一方、岩国はこの大会が始まるまで甲子園で7連敗と長い間甲子園で勝てない時代が続いていた。平成に入ってからも1993年選抜、1998年選抜、2000年春夏と頻回に出場するものの、相手打線を抑え込むことができず、打ち合いの末に敗れていた。特に2000年の選抜では好投手・重広を擁し、長野商業を相手に9回に2点差を追いつきながら延長戦の末、惜敗している。

    岩国のチームカラーは好投手を中心とした守りと機動力を活かした攻撃であった。この年もその例にもれず、エース左腕・大伴と津山のバッテリーを中心に粘り強い戦いぶりが光っていた。山口大会決勝では選抜出場の宇部鴻城と接戦となり、9回に大伴が自らホームランを放って追いつくと、延長10回に3点を勝ち越して7-4と勝利を収めた。

    悲願の初勝利を目指して迎えた初戦は山形の羽黒と対戦。ブラジル人留学生を擁するパワフルな相手に対して、大伴が10安打を浴びながらも要所を締めて完封。打線も手堅くチャンスをものにして6-0と快勝し、長い連敗の歴史を止める記念すべき1勝を手にした。

    絶対的エースに待っていた落とし穴

    岩国

    0 12
    0

    広陵

     

    岩国    大伴

    広陵    西村→北村

    優勝候補の筆頭の広陵と前の試合で初勝利を挙げた岩国。隣県同士の対決ながら前評判はやはり広陵が圧倒的に有利であった。この代では練習試合で4試合対戦があったが、広陵の4戦全勝。同じ地区同士だけに力の差は双方が感じていただろう。過去に同地区同士の対戦で起こった番狂わせとしては、江川(巨人)擁する作新学院を練習試合で何度も対戦経験のあった銚子商が倒した試合があったが、同じような展開を思い描くことは難しかった。

     

    1回表、広陵の西村はヒットを許しながらも無難に立ち上がると、その裏、広陵は1番上本がショートへの内野安打で出塁。盗塁と犠打で3塁へ進むと、3番藤田の犠飛で先制点をもたらす。広陵らしい積極果敢な攻めでまずは主導権を握る。

     

    ところが、2回表に入って岩国打線が西村をとらえ始める。5番・村重の右前打と6番・津山の死球でチャンスを作ると、続く打者の犠打を西村が悪送球。自らのミスでリードが振出しに戻ると、3回表には6番・津山の右中間への適時二塁打で勝ち越し点を挙げる。岩国の各打者はベース板ギリギリに立つことによってインコースを封じ、西村の投球を外角偏重にさせていたのだ。ここは練習試合を重ねたことによる経験が活きた。

     

    しかし、春の覇者もリードを奪われたまま黙ってはいない。に4回裏、4番・白濱が二塁打で口火を切ると、暴投で三進後5番・藤川の打球はショートへの内野安打で生還して同点。さらに7番安井、9番辻、1番上本と大伴のスライダーをことごとく狙い打ってタイムリー都市、この回一挙4点をもぎ取る。V候補らしいスキのない攻撃で再び流れを引き戻す。

     

    これで広陵ペースになったかと思われたが、この日の西村はどうしても調子に乗ることができない。岩国の「インコースつぶし」がボディーブローのように効き、狙い球を絞られる。加えてスライダーの制球にも苦しみ、6回表に7番中柴のタイムリーと内野ゴロ併殺の間に2点を返される。

     

    1点差となって試合は緊迫感を帯び始めたが、6回裏に広陵は再び大伴を攻めてランナー2人をためると、ここで打席にはここまで2試合で全打席出塁の1番上本。大伴のストレートを完ぺきに捕らえた打球は打中間を深々と破るタイムリー3塁打となって広陵が再びリードを3点に広げた。このタイムリーは岩国にとってはダメージの大きなものになるかと思われたが…

     

    リードを広げてもらった西村だが、岩国打線の粘っこさに7回についに捕まる。1番太田尾の四球と2番松前のヒットでチャンスを作ると、犠打で送って1アウト2,3塁で4番大伴がセンターフライを上げる。2アウトかと思われたが、ここでセンター安井がまさかの落球。思わぬ形でピンチが続くと、さらに満塁となって打席にはここまで2安打の6番・津山が入る。西村のアウトコースのややボール気味のストレートを狙い打った打球はセンターの頭上を破るタイムリー2塁打となり、3人の走者一掃。終盤にきて一気に試合をひっくり返した。

     

    さらに内野ゴロの送球エラーで1点を追加した岩国は大伴が粘り強い投球で広陵打線をかわす。この日は1番上本を除いてなかなか上位打線に当たりのない広陵。絶対的エースが打ち込まれたショックもあり、再びリードを奪おうにも打線がつながらずにイニングは進む。

     

    2点のリードを保った岩国は9回表にいよいよ引導を渡しに行く。エース西村を降板に追い込むと、さらに代わったサイドハンドの北村も攻め、広陵の内野守備の乱れもあって3点を追加。北村にとっては不運なマウンドであり、落ち着きとコントロールを取り戻した時には点差は5点に開いていた。

     

    V候補として最後の反撃を見せる広陵はその裏、3番藤田、4番白浜にようやくあたりが出て、無死1,3塁のチャンスを作る。しかし、大伴の冷静な投球の前に後続の3人が凡退し、試合終了。優勝候補の本命が2回戦でまさかの大差で敗れ、甲子園を去ることとなった。

    まとめ

    岩国にとっては2度の3点ビハインドを背負いながら、執念の逆転劇で大金星を挙げた。それまで甲子園で勝ち星がなかったなかで1回戦に勝利し、プレッシャーから解放されたこともあったのかもしれない。ただ、各打者の西村に食らいつく姿勢と点を取られても、内外角を丁寧について崩れなかった大伴の粘り強さが呼び込んだ勝利だったのは間違いない。それまであまりインパクトを残せなかった「岩国」の名が一気に全国区に知れ渡った試合となった。

    一方、広陵にとっては先手を取って試合を進めていたが、大黒柱が打ち込まれるというまさかの事態に、それまで見えなかったチームのもろさが露見してしまった。やはり、選抜優勝によって追われる立場となって研究されたことが想定以上のビハインドとなってのしかかったのだろう。投攻守走すべてにおいて全国トップレベルのチームであったの間違いない。しかし、一つのスキや弱点から一気に流れを奪われる「野球」の怖さをこの日の広陵は身をもって体感することとなったのだった。