• 常葉菊川vs智辯和歌山 2008年夏

    大観衆魅了した、壮絶乱打戦

    大会通算で49本のホームランが飛びかった2008年の記念大会。強力打線を誇るチームが数多く出場したが、その中でも指折りの強打を誇る2校が準々決勝第3試合で激突した。

    常葉菊川は犠打を使わない強攻策を前面に押し出して、前年の2007年選抜で初優勝を達成。田中健(DeNA)、戸狩の2人の左腕も安定感があり、一躍全国屈指の強豪校に名乗りを挙げた。犠打を使わない分、走塁には特に力を入れており、セカンドランナーは自分より右の打球のショートゴロで2塁から3塁を奪おうとするなど、これまでの常識を覆す走塁も見られた。

    その後、夏の甲子園でも広陵に惜敗したもののベスト4に進出。同年の国体も4強入りし、2006年の神宮から全国大会で4連続で4強以上と出場すれば必ず上位まで勝ち進んでいた。

    そして、エース左腕・戸狩と酒井、町田、前田、中川、伊藤と主力野手5人が残ったチームは、秋の大会で圧倒的な強さを見せる。技巧色のつよかっら戸狩はストレートに磨きをかけ、どこからでも長打が飛び出す打線は素晴らしい破壊力を見せた。神宮決勝では横浜と接戦になったものの、その他の試合はほぼ危なげなく勝ち上がった。

    ところが、V候補筆頭で迎えた選抜では初戦で今宮健太(ソフトバンク)擁する明豊に6-4と快勝したものの、続く3回戦で千葉経済大付に2-7とまさかの完敗を喫する。剛腕・斎藤(巨人)の重い速球の前に初回に3者連続三振を喫すると、相手の巧みなポジショニングの前にとらえた打球もことごとくキャッチされた。エース戸狩も初回に2ランを浴びるなど、6失点でKO。投打に圧倒されての敗戦はあまりにも意外であった。

    夏に向けてディフェンス面から鍛えなおしたチームは夏の静岡大会をしたたかに勝ち抜く。決して大勝が続いたわけではないが、選抜で見せたもろさは払しょくした印象だった。甲子園初戦では春季近畿大会の王者・福知山成美との強豪対決に。1点を先行されたが、終盤7回に相手の守備陣のスキを突いた好走塁で逆転勝利。磨き上げた武器で初戦突破を果たした。

    これで勢いに乗るかと思われたのだが、チームにアクシデントが発生する。エース戸狩に肘の故障が出てしまったのだ。3回戦の倉敷商戦は初回にいきなり5失点するなど6点のビハインドを背負うことになった。2番伊藤が前年夏に続いて逆転3ランを放つなど、1イニング7点の猛攻で逆転勝ちを収めたが、今後の戦いが不安視されることとなった。

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    対する智辯和歌山は前年夏に2年生主体のメンバーで甲子園に出場。4番を務めた坂口(巨人)は大会最速の155キロを記録した仙台育英の右腕・佐藤由(ヤクルト)から特大の2ランホームランを放ち、試合には敗れたものの、翌年に大きな期待を抱かせた。

    新チームは新2年生左腕・岡田(中日)と1年生から甲子園のマウンドを経験した左腕・芝田、右サイドの林と3人の投手陣を擁し、例年以上にディフェンス面は安定。打線は坂口以外にも浦田・芝田・勝谷・森本とメンバーが残り、例年同様の破壊力を誇っていた。前年秋の近畿大会では順当に4強入り。選抜切符をつかんだ。

    その選抜では2回戦の丸子修学館戦で逆転された直後の7回裏に1イニング7得点の猛攻で逆転勝ち。智辯和歌山らしい勝ち方でスタートを切ると、3回戦では150キロ右腕・平生を擁する宇治山田商を相手に1点ビハインドの展開となるも、ディフェンスで粘って食らいつき、8回に3番主将・勝谷のタイムリーで同点に。延長10回裏にはサヨナラかと思われたセンターオーバーの打球をセンター田圃が好捕し、延長11回の勝利につなげた。

    智辯和歌山らしい打棒を見せつつも、この年のチームは投手陣がある程度安定し、内外野の守備も含めて、堅守で食らいつく野球ができていた。ただ、準々決勝では近畿王者・東洋大姫路に完封負け。相手のエース佐藤に6安打で完封された。中でも4番坂口は4打数無安打に終わり、大会を通しても14打数3安打と不完全先勝に終わった。

    課題と収穫を持って帰った春の和歌山大会では1年生の西川揺(日本ハム)が4本のホームランを放つ大活躍。新たな戦力の台頭でチームが活性化すると、夏の和歌山大会では4番坂口が4試合連続ホームランを放ってチームを牽引し、春夏連続の甲子園に乗りこんだ。

    甲子園では済美・古川、木更津総合・田中と右左の好投手を打ち崩すと、3回戦の駒大岩見沢戦では1点ビハインドの8回表に、4番坂口の逆転3ランを服も打者一巡以上の猛攻で逆転。さらに勝谷、坂口に一発ずつ飛び出し、1イニング3ホームラン、1イニング個人2ホームランの離れ業で終わってみれば15-3と圧倒してベスト8進出を決めた。

    ただ、済美戦は14安打で3点、木更津総合戦は17安打で5点ともう一つ打線がつながり切らず、駒大岩見沢戦も8回になってようやく爆発した印象だった。試合の中で幾分、スロースターターな点は名将・高嶋監督に気にしている部分であった。

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    相手を飲み込む集中打、反撃止めた鉄壁の守備

    2008年夏準々決勝

    智辯和歌山

    1 2 3 4 5 6 7 8 9
    0 1 0 0 1 0 0 4 4 10
    0 0 0 0 3 10 0 0 × 13

    常葉菊川

     

    智辯和歌山  岡田→芝田→林→門口

    常葉菊川   野島→戸狩→萩原→浅川→戸狩

    大会開催前は神宮大会を優勝した常葉菊川の方が経験値と総合力でやや上回るかと考えていたが、エース戸狩の故障で状況は一変。常葉菊川の投手陣はスクランブル状態となり、投手力の差で一転して智辯和歌山有利な予想となった。3回戦で智辯和歌山が素晴らしい逆転勝利を飾ったこともあり、これはあるいは一方的な展開もあるかとすら考えていたのだ。

     

    ともに強打を誇る両チーム。試合は初回から激しい攻防を見せる。1回裏、常葉菊川は1アウトから2番伊藤がセンター前ヒットで出塁すると、続く3番町田はアウトコース寄りのストレートをとらえて右中間を痛烈に破っていく。センター田圃からセカンド勝谷とつないでホーム寸前でタッチアウトに仕留めるが、智辯和歌山の2年生エース岡田にプレッシャーをかけるには十分な攻撃だった。

    常葉菊川の先発は、エース戸狩ではなく、右腕・野島。真っ向から投げ下ろす伸びのある真っすぐが武器だが、ストレートが得意な智辯和歌山としては絞りやすいか。2回表にセンター前ヒットの坂口を送ると、7番高橋は三遊間を破るタイムリーを放って1点を先制する。しかし、その後のチャンスを活かすことはできず、3,4回にも再三ランナーを出しながら得点を挙げることができない。

    それでも、5回表に3番勝谷のヒットに四球を絡めて満塁のチャンスを作ると、8番岡田は押し出し四球となって1点を追加。続く打者は期待の1年生西川である。だが、ここで常葉菊川はエース戸狩をマウンドに送ると、戸狩は肘の痛みから横手投げの投法でコーナーを突いていく。初見ではなかなかとらえるのは難しかったか、西川はショートゴロで凡退してしまう。

    5回までに4安打6四球を得ながら、計10残塁で2点止まり。高嶋監督が危惧していたスロースターターぶりが出てしまい、野島に対して2得点を挙げながらも4回2/3を稼がれてしまう。ここまではまだその後の常葉菊川の猛攻を想像することはできていなかったが、何か起こりそうな気配が漂っていた。

    すると、1回から得点こそ挙げていないものの、鋭いスイングで圧力をかけ続けてきた常葉菊川打線が岡田をついに捕まえる。5回裏、5番前田の死球と6番上嶋のヒットでつかんだチャンスに犠打失策と岡田の暴投が絡んでまず1点。さらに連続三振で2アウトを奪った後に、1番酒井の放ったショートゴロはショート浦田の手前で大きくバウンドし、左中間に転がる逆転タイムリーとなる。まだ1点差だったが、なにか智辯和歌山からツキが逃げていったように感じる打球であった。

    そして、6回裏、智辯和歌山にとって悪夢のイニングが始まった。3番町田の四球と4番中川のライト前ヒットで1,2塁とすると、打席には主将も務める5番前田。逆転されてイライラを隠せない岡田は捕手の要求に反してストレート勝負を挑むが、これが裏目に出る。前田が高めの速球をとらえた打球は打った瞬間にそれとわかるレフトへの特大3ランとなって6-2。一気に智辯和歌山を突き放す。

    ベンチも守っている野手も言葉にこそ出さないが、「何をやってるんだ!?」という雰囲気が漂う中で、これまで試合を作ってきた2年生エースが降板する。智辯和歌山は続くマウンドに経験豊富な左腕・芝田が上がるが、強攻策で迷いのない常葉菊川の猛打と走塁が襲いかかる。

    死球と7番戸狩のヒットでチャンスを作り直すと、代打・丹治のサードゴロを西川がはじいて失点。追い打ちをかけるように1番酒井がレフトフェンス直撃のタイムリー2塁打を放って、9-2。さらに2番伊藤の打ち上げた打球はレフトとセンターが見送る形となって10-2と大きく差を広げる。失策、強打、失策(記録上はヒット)と負のループから抜け出せない智辯和歌山。思いもよらない展開のなか、芝田もマウンドを降板した。

    智辯和歌山は3番手に林をマウンドに挙げるが、選抜で好救援を見せたサイド右腕もこの流れが止められない。この回、さらに6番上嶋、7番戸狩にタイムリーが飛び出して加点。ランナーが好スタートを切り、強攻ありきの打線は巧みなスイングでヒットを放つ。常葉菊川にしかできない、怒涛の攻撃で気が付けば、スコアは13-2となっていた。

     

    大量得点差を追いかけることとなった智辯和歌山。6回は金縛りにあったかのような守りとなったが、常葉菊川投手陣も不安は抱えている。8回になってようやく硬さが取れたか、猛反撃を開始する。

    先頭は1年生の西川。6回にタイムリーエラーをしたミスを挽回せんとする新星は3番手の萩原からセンター頭上を痛烈に抜く3塁打を放つ。続く1番浦田は詰まりながらもレフトに落とすタイムリーで1点を返すと、さらにランナーをためて主砲・坂口に回す。前試合で1イニング2発を放った規格外のアーティストだが、ここはチームバッティングに徹し、右中間へのタイムリー3塁打を放って、2者を返す。この回、代打・平野にもタイムリーが飛び出し、一挙4点を返す。

    ただ、そうは言っても1イニングで追う点差は7点。ライトスタンドで観戦していたが、観衆の間でも「もう終わった」という雰囲気を覆すまでには至っていなかった。

    しかし、スロースターターであるがゆえに、ためこんだ爆発力はすさまじい。最終回、7番田圃のヒットと四球で塁を埋めると、常葉菊川は戸狩を再びマウンドに戻す。ここで、前の回に3塁打を放った西川がまたしても、今度はセンターの横を破る3塁打を放ち、2者が生還。3塁塁上でガッツポーズする1年生の姿にチーム全体の闘志が掻き立てられる。

    さらに、続く1番浦田はこの大会不振に喘いでいたが、戸狩の真ん中よりに甘く入ったボールを思い切り引っ張り上げる。打球はレフトポールを巻くホームランとなって点差はあっという間に3点に。ベンチの坂口が感激の涙を流す中、上位打線に打線が回ることもあり、スタンド全体が波乱を予想し始めていた。

    ところが、ここで常葉菊川に信じられない好プレーが飛び出す。巧打の2番芝田がセンター前ヒットで出塁すると、続く3番主将・勝谷は1,2塁間を破りそうな痛烈な当たりを放つ。これを常葉菊川のセカンド町田が後ろ向きにスライディングしながら好捕すると、その勢いのままセカンドに送球し、併殺に切って取る。ボールだけでなく、流れも奪い去ってしまうようなプレーが飛び出し、残った状況は2アウトランナーなしであった。

    ネクストサークルで一発出れば同点の場面を想定していた坂口だったが、最後は涙ぐんだ状態で打席に入り、サードゴロに。智辯和歌山の壮絶な追い上げと勢いをしのぎ切った常葉菊川が27個目のアウトを奪い、昨年に続く4強入りを果たしたのだった。

    まとめ

    常葉菊川は続く準決勝でも浦添商の好投手・伊波を攻略し、1イニング9点を奪取。3回戦から3試合連続でビッグイニングを作った打線は革命的な破壊力を示した。投手陣が苦しい状況の中で、その不安を補って余りある得点力であった。

    投手としては1試合の中で、すべてのイニングに好調を維持するのは難しいし、場合によっては継投も視野に入れなくてはならないだろう。そのわずかなスキに対して、落ち着く間を与えずに犠打を突かなわい強攻と好走塁で大量点を奪う常葉菊川スタイル。もちろん各打者の確固たる打撃技術は必要であるが、高校野球の攻撃における新たな可能性を示したと言えただろう。決勝では大阪桐蔭に大敗したが、2007年から2008年の2年間の主役は間違いなく常葉菊川であった。

    【セカンドに打ってしまえば望みはありません】 甲子園史上最高のセカンド 常葉菊川 町田友潤選手 – YouTube

    一方、智辯和歌山にとっては、守りにも自信を持っていただけに、6回の1イニングは本当に悪夢のような時間であった。野球の怖さを改めて感じさせられた試合であり、今でも思うのは、2001年から2020年までの20年間で智辯和歌山が最も優勝する可能性が高かったのはこの代だったのではないかということである。

    ただ、それでも一時11点差をつけられながら3点差まで追い上げた反撃には智辯和歌山の意地が詰まっており、観衆の感動を呼んだ。一本調子の投球で失点したエース岡田も最終学年は大きく成長。夏の和歌山大会を無失点で投げ抜くと、甲子園では高嶋監督に甲子園最多タイ記録となる58勝目をプレゼントした。