蘇る名勝負

智辯和歌山vsPL学園 No.1 1994年選抜大会 準決勝

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初優勝へ向けて大きな関門を突破!

出場したプロ野球選手…宇高伸次(近鉄)、大村三郎(ロッテ―巨人-ロッテ)、福留孝介(中日―カブス―インディアンス―ホワイトソックス―阪神)

 

 

 

近畿を代表する強豪校同士の対戦。しかし、当時の両チームの立場は今とは全く異なっていた。ともに投打に打力に自信のある両チームが準決勝で顔を合わせた。

 

チーム紹介

PL学園

前年秋に10年ぶりの近畿大会優勝。立浪(中日)らを擁して春夏連覇を果たした1987年以降、大阪の他校の勢いに押され、1992年に久しぶりに甲子園出場。そして、この選抜が2年ぶりの夢舞台であった。この7年間の間に全国大会では近大付、大阪桐蔭、上宮が全国制覇を達成。新興勢力に押され気味のPL学園としてはこの辺りでもう一度大阪の盟主としての地位を取り戻したいところだった。

 

投手陣は右のエース宇高(近鉄)と左腕・光武の2枚看板。宇高は本格派投手の多いPL学園には珍しく、右サイドハンドの投手。しかしながら、技巧派の印象はなく、キレのあるボールで内角をえぐって打者を詰まらせる、中身は本格派の投手だ。左腕で安定感のある光武と形成する投手陣は安定感抜群だった。

 

野手陣はスラッガータイプよりも後ろにつなぐ中距離タイプが多く、成長株の2年生4番福留(中日―カブス―インディアンス―ホワイトソックス―阪神)を中心に上野山、大村(ロッテ―巨人―ロッテ)ら好機に強い選手が手堅くチャンスを活かす攻撃。一時期の超高校級選手をそろえたチームと比べて、高校生らしいチームになった印象だった。

 

初戦は拓大一高の好投手・早田を早々と攻略。相手のミスに付け込んで4回までに9得点。エース宇高も完封を飾って順調なスタートを切った。2回戦は初戦で史上2人目の完全試合を達成した金沢・中野投手と対戦。中野の立ち上がりをとらえて初回に暴投で先制。2回までに3得点を挙げると、投げては左腕・光武がカーブを武器に好投。こちらも完封で4-0と勝利。準々決勝では神戸弘陵を10-1と一蹴。安定感ある内容で優勝した第59回大会以来7年ぶりの優勝へ視界良好だった。

 

智辯和歌山

一方の智辯和歌山はPL学園が春夏連覇を成し遂げた1987年に夏初出場。その後、1989年、1991年、1992年と4度夏の出場を果たすも、すべて1点差で惜敗。成東の押尾(ヤクルト)や学法石川の川越(オリックス)といった好投手や準優勝した拓大紅陵など相手に恵まれなかった感もあるが、なかなか結果の残せない苦しい時期だった。

 

そのころから当時のスタイルを見直して現在の1学園10人という少数精鋭の戦い方に徐々にシフトし、そして1993年夏についに初勝利。奇しくも相手は夏初出場時に敗れた東北高校でスコアも同じ2-1という結果でサヨナラ勝ちを収めた。この大会は3回戦まで進出。川上憲伸(中日―ブレーブス―中日)擁する徳島商に敗れたとはいえ、スタメンに下級生が多く、来年に期待が持てるチームだった。

 

投手では左の笠木、右の松野と左右の両輪が残り、特に松野は前年夏の東北戦でサヨナラ打を放つなど、「持っている」選手だった。打線でも4番捕手の井口、3番中本の中軸コンビに岸部、西中、植中と経験者が残り、高嶋監督もひそかに自信を持っていた。前年秋の近畿大会では嘉瀬(オリックス)擁する北陽に競り負けたものの、裏の優勝候補として期待されていた。

 

まずは1回戦で秋田高校と対戦。制球に苦しむ投手の立ち上がりを攻めて4点を先制すると、投げては松野から笠木への継投で8-4と選抜初勝利を手にした。

2回戦は横浜高校と対戦。投手陣に矢野(横浜―近鉄―楽天)、横山(横浜―日本ハム―横浜)が、野手陣に紀田斎藤宜之(巨人)、多村(DeNA-ソフトバンク―DeNA)がいたまさにタレント集団。初戦は赤星(阪神)率いる大府を10-3と大差で下し、東の優勝候補だった。しかし、試合は智辯和歌山の一方的な展開に。序盤から中本のタイムリーなどで横浜の先発・矢野を打ち崩すと終盤にも加点。笠木から松野への継投も決まり、10-2と思わぬ大差でV候補を沈めた。

 

準々決勝ではこれまた優勝候補の宇和島東と対戦。岩井宮出(ヤクルト)、松瀬鎌田と4人の先発投手を擁する投手陣と4番捕手・橋本(ロッテ)を中心とする強力打線を擁し、初出場初優勝した1988年以来の優勝を狙えるチームだった。中盤に4点先行される苦しい展開となった智辯和歌山。しかし、最終回にあきらめない攻撃で2点を返すと、さらに満塁から1番植中が走者一掃の3塁打。一気に逆転に成功した。その裏に宇和島東も粘って同点に追いつくが、延長10回に「持っている男」松野が勝ち越し打を放ち、優勝候補を下して準決勝へとコマを進めたのだった。

 

終盤の猛攻をしのいだ智辯和歌山が初の決勝進出!

智辯和歌山

1 2 3 4 5 6 7 8 9
1 0 2 2 0 0 0 0 0 5
0 0 0 1 0 0 0 2 1 4

PL学園

高校野球界の王者に近畿の新鋭が挑む形となった一戦。投打に盤石の試合運びを見せるPL学園に対して、智辯和歌山が自慢の強打でどう立ち向かうかが注目された。

 

初回、PLの先発・宇高に対して、智弁の先頭・植中が外角ストレートをたたいていきなりレフト線へ2塁打。宇高の出鼻をくじく長打を放つと、送ってランナー3塁から4番井口が甘いボールを逃さずとらえてレフトへライナーのタイムリー。王者に対して気後れしそうになるところでの先制パンチ。この初回の得点はことのほか大きいものとなった。ただその後智辯和歌山は牽制死などでチャンスを活かせず。このあたりの落ち着きはさすがPLであった。

 

一方、今大会初めてリードを許したPL学園に立ちはだかったのは智弁の左腕・笠木。荒れ球から繰り出すストレートにPL打線は手を焼いてなかなか攻略ができない。堅実さが売りのPLとしては嫌なタイプの先発投手。序盤を無得点に抑え込まれる。

 

3回表、宇高は簡単に2アウトを取って立ち直りかけたように見えたが、ここから再び智弁の上位打線が襲い掛かる。2番岸部四球の後、3番中本がライナーでセンター返し。1,2塁とチャンスを広げると、4番井口が四球で満塁から5番西中がライトへ2点タイムリー。宇高の投球が良くなりかけている中で、際どいボールを見極めて甘い球を引き出す智弁打線の粘り強さは素晴らしかった。ただここでもそのあとのピンチをセンターからの好返球でホームタッチアウトにしてPLもなかなか簡単に流れを渡さない。

 

4回表、PLは左腕・光武を登板させて流れを持ってこようとするが、智弁打線の勢いが止まらない。2アウト1,3塁とチャンスを作ると、2番岸部がライト線を破る2点タイムリー2塁打。5-0と大きくリードを広げる。光武の肩が温まる前にたたいた智弁の速攻は見事であった。

 

これまでと違い、苦しい展開となったPL学園だが、4回裏にようやく笠木のボールになれはじめ、インサイドの速球をはじき返し始める。2アウト2塁とチャンスを作ると、5番上野山がセンターへタイムリーヒット。1点を返して反撃態勢に入る。投げても、6回から再登板した宇高が前半とは見違えるようなピッチング。丁寧にコースを突く自分の投球で智辯和歌山の打線をわずか1安打に封じ込める。

 

反撃したいPL打線だったが、その後は打線が再び沈黙。6回から松野への継投も決まり、試合は4点差のまま8回へ入った。しかし、ここから「逆転のPL」が顔をのぞかせ始める。9番先頭の北川が甘いスライダーをセンターへはじき返すと、2番松下は3塁手を強襲する2塁打。制球のいい松野の方が対しやすかったか。甘く入ったところを逃さずに、続く4番期待の福留がライトへ2点タイムリー。5-3と詰め寄り、試合はわからなくなる。

 

9回表を簡単に片づけたPLはその裏もさらに反撃へ。先頭が四球で歩くと、2アウトを取られながらも9番北川は執念の内野安打。1塁ランナーの好走もあって1,3塁とチャンスを広げ、打席には1番大村が。今大会当たりの出ていなかったトップバッターがセンター前へテキサスヒット。ついに1点差に迫る。続く打席にはここまで2安打の松下が入り、一打逆転サヨナラの場面だったが、最後はセカンドゴロに終わり万事休す。智辯和歌山が薄氷を踏む思いで初の決勝進出を決めた。

 

その後、智辯和歌山は決勝で常総学院と対戦。左中間を広く開けて打者の引っ張りたい心理を誘導しようとする常総・木内監督に対して、智辯和歌山は愚直なまでのセンター返しで応対し、競り合いの末に7-5で初めての栄冠に輝いたのだった。

 

まとめ

近畿はおろか全国でも王者に君臨するPL学園に対して、智辯和歌山は自分たちの野球を決して崩さずに5-4と競り合いを制した。前日の大逆転勝ちに対してこの日は見事な逃げ切り勝ちだった。横浜、宇和島東、PL学園、常総学院とそうそうたる顔ぶれを破っての優勝。大会前の甲子園練習で優勝候補の宇和島東が記者取材に囲まれる様子をうらやましく見ていた高嶋監督だったが、この大会で智辯和歌山も一躍全国で注目の存在となった。

 

ただ、この後の夏の県大会では高野山に3ホームランを浴びてまさかの予選敗退。春先の練習試合でも明徳義塾などを相手に完勝していたのだが、夏の大会の難しさを知る結果となった。のちに春夏連覇を達成している箕島・尾藤監督に教わったのは、「春結果を残した後、夏も勝ち上がるには一度チームを壊して作り直す必要がある」ということだった。

 

一方、PL学園は序盤のビハインドが響いて惜しくも敗退。ワンサイドで勝ち進んだだけにリードされて少し焦りも出てしまった。しかしながら、ディフェンスの踏ん張りやそつのない攻撃など、随所にPLらしさを見せ、ベスト4という結果を残した。少し甲子園から遠ざかった時期があったが、ここから再び甲子園に頻繁に顔を出すこととなる。

 

https://www.youtube.com/watch?v=gpoJpvHEy8Y

 

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