• 東邦vs上宮 1989年選抜

    2020年06月28日

    残酷な結末となった平成最初の決勝戦

    元号が昭和から平成に変わって最初の大会となった第61回選抜大会。その決勝戦は野球の怖さと奥深さを思い知らされる戦いとなった。

    上宮は2年連続の選抜出場。大阪代表は2年前にPL学園が春夏連覇を達成していたが、そのPLの力が少し落ちて来るや否や、頭を押さえつけられていた強豪校が軒並み頭角を現してきた。

    その一角がスラッガー元木(巨人)を擁する上宮。前年の選抜では高知商の好投手・岡(ヤクルト)を打ち込んで8強入りを果たし、実力を十分アピールした。しかし、準々決勝では宇都宮学園を相手に5点のリードを守れずに敗退。エース壬生を中心とした投手力の弱さが課題であった。

    しかし、新チームでは宮田(ダイエー)-塩路の2年生バッテリーが成長。失点が計算できるようになった上宮は核弾頭・種田(横浜)に小野寺(ロッテ)、元木、岡田と勝負強さをパワーを兼ね備えた中軸を中心に打ちまくり、安定した戦いを見せた。元木は準々決勝で仙台育英の剛腕・大越(ダイエー)から逆転弾を放つなど、大会通算3ホームランをマーク。投打にタレントをそろえ、新たな大阪のチャンピオンチームが生まれるまであと一勝に迫っていた。

    一方、東邦もまた2年連続の選抜出場。山田(中日)ー原のバッテリーを中心に前年の選抜でも決勝に進出し、4度目の選抜制覇まであと一勝としていた。相手は愛媛から初出場の宇和島東。下馬評では圧倒的に東邦有利だったが、宇和島東の強力打線に山田がつかまり、0-6とまさかの完敗で優勝を逃した。

    東邦・阪口監督にとってはバンビ坂本を擁した第57大会に続く準優勝。試合のビデオを見直し、ベンチ前で険しい表情を浮かべる自らの姿を顧みて、この大会はできるだけ柔和な表情を心掛けるようになっていた。

    迎えた本大会では、山田が貫禄の投球で2試合連続完封。2回戦で対戦した報徳学園の監督をして、「この時期に山田君のボールを見れただけで収穫」と言わしめるピッチングだった。準々決勝では近大付の強力打線につかまって終盤に追いつかれるも、高木のサヨナラ打で劇的勝利。準決勝では勢いに乗る京都西に2点を先行されるも中盤に相手のミスにも付け込んで、逆転勝ちを収め、2年連続の決勝進出を決めた。

    攻守ともがっぷり四つの好試合

    上宮

    10
    2✖

    東邦

     

    上宮  宮田

    東邦  山田

     

    試合の焦点は上宮の強力打線を東邦バッテリーがどう封じ込めるかであった。また、強気の内角攻めが光る上宮の2年生エース宮田に対して、東邦の勝負強い打線がどう対応するかも注目された。

    両校の監督はそれぞれ相手投手に対する対応策を授けた。上宮の山上監督は「ストレート、変化球のどちらでもよいので球種をしっかり絞って狙え」と王道の指示。一方、東邦の阪口監督は「打席のぎりぎりの位置に立って、宮田投手のシュートを殺せ」と指示した。

    しかし、山田は無類の制球力とキレで、宮田は打席ぎりぎりに立たれてもなお強気なインコース攻めで、相手打線を封じ込める。5回に上宮はスクイズで、東邦は2番高木のタイムリーでそれぞれ1点を挙げるが、その他の回は両投手の出来が相手打線を上回った。

    特に、山田は1年間の成長を表すかのような投球で上宮の打線を封じ込んだ。終盤にはピンチの場面でベンチからの元木を敬遠する指示にも従って冷静に対応。相手応援席からのヤジもあったが、素知らぬ顔で続く打者を打ち取ってピンチをしのいだ。

    そして、試合は衝撃の延長戦へと向かっていく…

    ボールが逃げていく…

    延長10回表、疲れの見える山田から上宮はランナーを一人出すと、続く元木もクリーンヒットでつなぐ。ここで、勝負強い5番岡田が打席に入ると、山田のインコースやや甘めのストレートをとらえた打球は三塁手を強襲。打球がファウルゾーンを転々とする間にセカンドランナーの内藤がホームに生還し、待望の勝ち越し点をもぎ取る。山田は後続を打ち取り、1点差で試合は最後の東邦の攻撃を迎えた。

    10回裏、東邦は先頭の8番村上が死球で出塁。ここで、阪口監督は9番安井にバスターエンドランをしかける。打球はセカンド方向に飛び、してやったりと思った瞬間、そこにはバント処理のために、ファーストのベースカバーに走っているはずのセカンドが待っていた。

    これは普段からバスターをされる可能性を考慮し、セカンドがぎりぎりまで動かないように訓練された上宮の内野陣の練習の成果であった。前方にダッシュしていたファーストも急いで戻り、見事併殺を完成。王者・PLをはじめとして強豪やくせ者が多い大阪でもまれたことによる緻密な野球が大事な場面で重要なアウトをもたらした。

    ハイレベルな攻防の末に残ったのは2アウトランナーなしのシチュエーション。阪口監督は「やはり俺は準優勝の男か…」と観念しかけていた。一方、上宮の山上監督の視線の先には閉会式に向けて用意されていた紫紺の大優勝旗が運び込まれていた。意識はしないようにしていたものの、ほぼ手中に収めかけた気分だったことだろう。

    しかし、次の瞬間に山上監督は自分の目を疑うこととなる。宮田が目に涙を浮かべていたのだ。「何をしているんだ!」と怒りたくなったそうだが、ここまで強豪のマウンドを一人で守り抜いてきた2年生エースにかかっていた重圧を考えると、致し方ないことだったかもしれない。ショートの元木が必死に気持ちを落ち着かせ、宮田はバッターに向かう。

    しかし、一度切れた集中力を取り戻すのは難しい。宮田は1番山中にストライクが入らず、ストレートの四球でランナーに出すと、続く2番高木にはショート深い位置への内野安打を許し、スコアリングポジションにランナーを進めてしまう。

    ここで、打席には山田を懸命にリードしてきた3番捕手の原が入る。ベンチを見ると、鬼の阪口と言われた監督は笑顔を見せていた。気持ちに余裕のできた原は、宮田が初球は自信のあるシュートで攻めてくるだろうと予測。この読みがズバリ当たり、詰まりながらもしっかりミートした打球はセンターに弾むヒットとなる。センター小野寺は好返球を見せるも、山中が2塁から間一髪生還し、土壇場で試合は振り出しに戻る。そして、ここからあまりに残酷な幕切れを迎えるのだ。

    ファーストランナーの高木が飛び出し、捕手・宮田はボールを持って追い詰めるが、気持ちの焦りからランナーとまだ距離のあった3塁へ送球してしまう。送球を受けた種田は慌ててセカンドへ送球。この送球がワンバウンドとなってしまい、後ろに抜ける。それでもライトがカバーしており、だれもが2アウト1,2塁で試合再開と思った。

    次の瞬間、送球が芝生の切れ目に当たって大きくイレギュラーする。ボールは無人の外野を転々とする。実況が「ボールが、ボールが逃げていく!」と叫ぶ中、高木がホームに生還し、東邦が劇的な逆転サヨナラで優勝。つい1分前までリードを保っていた上宮は、まさに天国から地獄へと突き落とされ、初優勝の夢は泡と消えたのだった。

    まとめ

    阪口監督にとっては3度目の決勝でついに初優勝を勝ち取った。猛練習で鍛え上げてきた鬼の監督として知られていたが、前年の教訓を活かし、自らのスタイルを柔軟に変えたことによって初の栄冠をつかみ取った。中京や名電など強豪の台頭で押され気味に時期もありながら、愛知の私学4強の一角として君臨し続ける東邦高校。平成31年には平成最後の選抜でも優勝し、今なおその力は健在である。

     

    一方、上宮にとっては九分九厘手中に収めていた勝利がするりと逃げていった。野球の怖さを思い知らされる展開。まさに一寸先は闇という言葉がそのまま当てはまるような試合になってしまった。のちにプロ入りする選手を複数擁し、実力は十分だったが、それだけでは勝ちきれないのが高校野球である。夏は仙台育英に2-10とまさかの大敗で敗れ去った。

    そして、その4年後に選抜初優勝をもたらしたのは、好左腕・牧野を中心に堅い守備陣を形成し、どこかあの年の東邦と似たような雰囲気を持つチームであった。