• 東邦vs育英 2005年選抜

    2022年01月21日

    本格派右腕同士のしびれる投手戦

    2005年の選抜は好投手が多く顔をそろえた大会となった。優勝した愛工大名電・斎賀、準優勝の神村学園・野上(西武)に羽黒の片山マウリシオ、神戸国際の大西(ソフトバンク)やプロで最多勝を獲得した柳ヶ浦・山口(巨人)、駒大苫小牧・田中(楽天、当時2年)など好投手が目白押し。多くの投手戦が展開された。

    そんな中でも屈指の好勝負を演じたのが育英・若竹(阪神)と東邦・木下(日本ハム)。大会前に5本の指に入ると言われた両投手がいきなり甲子園初戦で顔を合わせることとなった。

    育英は前年の近畿大会で準優勝を果たし、5年ぶりの選抜出場を獲得。同じ神戸市にある神戸国際大付に兵庫地区予選、兵庫大会決勝、近畿大会決勝と3度敗れたが、その他のチームには負け知らずで秋の戦いを終えた。

    注目株はなんといってもエース若竹。2年夏は選抜4強の社との5回戦でサヨナラホームランを浴びて散ったが、新チームでは不動のエースとして君臨し始めた。足を大きく挙げて胸をそらす豪快なフォームから繰り出すストレートは最速で140キロ台後半をマークし、アベレージでも140キロ台中盤を記録。高めのストレートの威力は抜群であり、秋の大会の防御率は1.24と安定感は際立っていた。

    そのエースを援護する打線も前年秋は、チーム打率3割越えでまずまずの数字を記録したが、神戸国際大付と3度相まみえて大西・有元という左右の好投手に抑え込まれてしまった。この年の兵庫にはその他にも、報徳学園の長身左腕・片山(楽天)や前年の選抜で活躍した社・大前、市尼崎・畑とハイレベルな好投手攻略がひしめきあっており、全国レベルの投手攻略が課題とされていた。

    上位打線には1番近藤、2番林、3番原の上位打線は安定して出塁が見込めたため、秋から4番を務めていた2年生のスラッガー吉井の成長がカギを握ることに。育英らしい機動力を活かした攻撃も絡めて、少ないチャンスを確実に活かすことができれば、自チームの失点は計算できるだけに勝機は広がってくると思われた。

    対する東邦はこれで3年連続の選抜出場。2年前は智辯和歌山との延長の激闘に敗れて初戦敗退したが、前年は連覇を狙う広陵を9-1と大差で圧倒し、2回戦でも優勝した済美と接戦を演じていた。2002年夏から長峰、三浦、そして前年の岩田(中日)と毎年のように好投手を擁してくる東邦にとってこの年のエース岩田も自信を持って送り出せる投手であった。

    下半身がどっしりし、体重移動もスムーズなフォームから繰り出すストレートはこちらも最速140キロ台中盤を記録。同じくプロ注目の捕手・水野(中日)とのコンビネーションは抜群であり、多彩な変化球も駆使して打たせて取る投球も得意であった。一学年上に同じ本格派右腕の岩田がいたことも、木下の成長を促したことは想像に難くない。

    打線は1番から瀬戸川、奥村、末藤と3人の左打者を並べ、鋭いスイングで相手投手に圧力をかける。4番には新2年生である眼鏡の好打者・西村を据え、勝負強い打撃で打点を稼いでいた。5番には女房役の水野が座り、こちらも頼りになる強打者であった。

    前年秋の東海大会では準々決勝でサヨナラ勝ちを飾るなど、しぶとい勝ち上がりを見せたが、決勝では愛知大会で敗れた名電に2-7と敗退。エース木下が登板しなかったとはいえ、悔しい敗戦を経て、打力強化に励んできていた。

    また、この年の東邦はこれまでチームを指揮してきた阪口監督が退き、新たに1977年の夏の準優勝メンバーである森田監督が就任。阪口監督の頃より意識的にコミュニケーションの回数を増やし、厳しい練習内容でチームを鍛え上げた。ユニフォームのロゴも一新し、新生・東邦としての新たな船出となる戦いに挑むこととなった。

    延長10回裏、女房役の一振りが決めた!

    2005年選抜1回戦

    育英

    1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
    0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
    0 0 0 0 0 0 0 0 0 1

    東邦

     

    育英  若竹

    東邦  木下

    ともに前年秋は地区大会で準優勝を飾り、県内に強力なライバルを抱えるチーム同士の激突。同じように本格派右腕をエースに持ち、勝負強い上位打線で期待の2年生4番を擁するという、何から何までチームカラーの重なるチームが、導かれるように初戦でぶつかることとなった。

    試合前練習では若竹・木下の2人とも、相手のブルペンをじっと睨みながら投球を行い、お互いに火花がバチバチであった。この2人の投げ合いとあって、試合前から投手戦で、なおかつ1点勝負になりそうな予感は観衆にも漂っていた。

    東邦・木下は1回表、先頭の近藤にヒットを許すも、落ち着いた投球で後続を打ちとると、その裏、育英の若竹はすさまじい投球を見せつける。胸を思い切りそらせたフォームから140キロ台後半のストレートを連発。1番瀬戸川を高めのストレートで空振り三振に切って取ると、その後も相手が狙ってきていることを分かっていながら、徹底したストレート攻めを見せ、無失点で切り抜ける。

    この若竹の投球に刺激を受けてはいたはずだが、木下の方は序盤から力みを見せずに、淡々と打者を打ち取っていく。3回には1番近藤に2本目のヒットを許しながらも、捕手・水野が好送球で盗塁を阻止。2回から6回まですべての攻撃を3人で退け、機動力を活かしたい育英にそのチャンスすら与えない投球を見せる。

    一方、これで3年連続の出場である東邦打線は若竹のストレートに対してシャープなスイングで対抗。得点こそ生まれないものの、高めのストレートに対してもhぅアウルで粘り始める。育英バッテリーもさすがにカーブ、スライダーを交えた投球にシフトし始め、ランナーを出しながらも粘り強く抑え込んでいく。ただ、中盤までは明らかに東邦の方がチャンスを多く迎えている印象だった。

    なんとか打開策を見出したい育英は7回表、1アウトから3番原が流し打ちのヒットを放って出塁。4番吉井は四球を選び、初回以来となる得点圏のランナーを得る。ここで木下に暴投も飛び出して1アウト1,3塁とチャンスを拡大し、絶好機を迎える。

    しかし、ここで代打・浜川のサードゴロで飛び出した3塁ランナーが憤死すると、さらにランダウンプレーの間に2塁を狙った浜川も刺されるという最悪の併殺プレーでチャンスを逸してしまう。木下相手に多くのチャンスは望めない中で、得点のカギを握っていた走塁にミスが出てしまったのは育英にとっては何とも痛かった。

    序盤から両エースともに無失点ピッチングが続く中で、初回から力投スタイルを見せていた若竹に疲労の色が濃くなる。8回には2番奥村、4番西村にヒットを浴びて2アウト満塁のピンチを背負うことに。最後は渾身の真っすぐで7番伊藤を三振に取ったが、ストレートの球威は如実に落ち始めていた。

    対する木下も序盤から中盤にかけて、しり上がりに球威・スピードとも増していったが、さすがに疲れが見えた終盤はヒットを許すようになる。だが、育英は9回表に1番近藤、2番原の連打が出ながらけん制死と盗塁死でチャンスが消滅。さらに延長に突入した10回にもランナーを出しながら併殺打と、チャンスを活かしきれない。

    攻撃の流れの悪さとエースの疲労度から見て、徐々に流れが東邦に傾き始めていることはグラウンドの選手も観衆も感じ始めていただろう。

    そして、延長10回裏、ついに決着の時は訪れた。終盤にはいってストレートのスピードが140キロ台の乗らなくなった若竹。2アウトから4番西村を四球で歩かせると、5番水野は2球目のアウトコース高めの速球を狙い打つ。打球は右中間を真っ二つに破る2塁打となり、1塁から西村が長駆生還。劇的なナイトゲームのサヨナラ劇が完結し、東邦が2回戦進出を決めた。

    まとめ

    東邦にとっては育英の若竹のスピードボールに対して、空振りをしながらも、序盤からシャープなスイングで圧力をかけ続けたことが勝機を手繰りよせただろう。木下も力みを抜き、この日のスピードは130キロ台がほとんどだったが、キレのあるボールで相手打者を打ち取った。また、内外野陣は捕手・水野を中心に堅守でエースを援護。最後はその水野が試合を決める一打を放ち、攻守でエースに応える活躍を見せた。

    勢いに乗った東邦は2回戦でも関東王者の東海大相模に7-3と完勝。木下は普段はあまり投じないフォークボールも駆使して、田中大(巨人)ら強打者の並ぶ打線を封じ込めた。準々決勝で羽黒に敗退したが、強豪2校を力勝負で下した戦いぶりは見事の一言。新指揮官に自信を与えるには十分な結果であった。

     

    一方、育英にとっては終盤の逸機がなんとも悔やまれた。お互いに出したランナーは東邦が11人、育英が9人とほとんど差がないが、残塁は東邦が11に対して、育英は3。いかに走塁ミスでチャンスをつぶしてしまったかが、如実にわかる数字であった。無失点で進んでいた試合だったが、若竹の方がプレッシャーのかかる比重は格段に大きかった気がする。

    それでも伸びのある速球を武器に延長まで無失点投球を続けた内容は、大会屈指の好投手の評判に違わないものであった。育英はこの大会を最後に甲子園をから遠ざかっているが、現在は1993年夏の優勝メンバーの安田監督が指揮し、激戦区の兵庫で虎視眈々と復活を狙っている。好投手を機動力で支える野球をもう一度甲子園で見てみたいものだ。

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