天理vs星稜 1992年選抜

1992年

試合巧者が見せた終盤の逆転劇

ラッキーゾーンが撤廃されてから初めての大会となった1992年の選抜。そんな記念すべき大会で、ベスト8まで勝ち上がってきた常連校2校が、準々決勝の第1試合で顔を合わせた。神宮大会の優勝校と2年前の夏の優勝校の対戦とあって、観衆も期待を込めて見守った。

星稜は山下監督が1年生時から投打の軸にと考えてきた左腕・山口と主砲・松井秀喜(ヤンキース)が順調に成長。前年夏にはV候補筆頭の松商学園に競り勝って、4強入りするなど、着実に階段を上がってきていた。そして、新チームになって迎えた神宮大会ではエース三沢(巨人)を擁する帝京に13-8と打ち勝って堂々の優勝を達成。満を持して甲子園初制覇を狙っていた。

甲子園では開幕戦に登場し、いきなり4番松井が4打数4安打の2ホームランと大当たり。ラッキーゾーン撤廃の影響などものともしない長打力に観衆は度肝を抜かれた。この試合を危なげなく制すると、2回戦では堀越の好投手・山本からも松井が8回にインサイドのボールをうまく払ってライトへ2ランを叩き込む。エース山口も完封勝利を挙げ、投打に危なげなくベスト8まで勝ち進んできた。

一方、一昨年の夏の王者・天理はこれで5季連続の甲子園出場。しかし、南(日本ハム)、谷口(巨人)と大型投手がエースでスケールが大きかった過去2年と違い、この年は小柄な選手が多いものの、しぶい野球が持ち味であった。近畿大会では西岡、井上の両投手を堅守で支え、準優勝。島監督に交代してまた新しい天理の野球を見せ始めていた。

本大会では初戦でエース西岡が米子商打線を3安打完封して1-0で勝利すると、2回戦でも名門・広島商に3-2と競り勝って8強に進出。エース西岡は体格には恵まれないが、スライダーを丁寧に低めに集めて打たせて取り、打線も少ないチャンスを確実に活かして得点を重ねた。従来の豪快なイメージとは異なるものの、試合巧者ぶりが際立つ勝ち上がりである。

初優勝狙う神宮王者に魔の8回

1992年選抜準々決勝

星稜

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 1 0 0 0 0 0 0 0 1
0 0 0 0 0 0 0 5 × 5

天理

 

星稜   山口

天理   西岡

ともに優勝へ向けて落とせない一戦。特に星稜にとっては、本大会で初めて同格以上の強豪と対戦する試合となった。

試合は序盤から星稜・山口、天理・西岡が一歩も引かない投手戦を見せる。2回表に星稜が下位打線で作ったチャンスを活かして、先制点を挙げるが、その他のイニングはなかなかランナーがホームに帰ってこない。

星稜・山口は2年生まではスローカーブを活かした緩急が持ち味だったが、前年夏の大阪桐蔭戦でそのスローカーブを狙われてホームランされ、敗退した。新チームになってからの走り込みで球威の増した左腕は、この日も快調な投球で天理のしぶとい打線を抑え込んでいく。

対する天理の西岡も1,2回戦以上に丁寧な投球で星稜打線を3回以降は無失点に封じ込める。特に4番の松井秀喜には細心の投球を見せ、長打を浴びないように丁寧に低めを突く。慎重になって2四球を与えたものの、4打席通じて1安打に抑えたのだから上々の結果だろう。

また、星稜打線に対しては投打の中心である3番山口、4番松井の注意が行き過ぎて、その後の5~7番を打つ月岩・福角・奥成に捕まるケースが多かった。しかし、西岡はそこでも神経を途切らせることなく後続を抑えており、星稜打線を「線」にしないことに成功する。

1点差で進行する試合。こうなると、1点リードしているほうによりプレッシャーがかかってくる。しかも、追われる方は初めての上位を狙うチーム、追う方は直近6年間で2度の全国制覇を果たしているチームだ。

星稜の山口は8回裏、疲れを最も感じるイニングでついに天理打線につかまる。9番から始まる打順で打線がつながり、同点のタイムリーが飛び出す。なお1アウト2,3塁となって4番大西の当たりはサード松井の元へ。これを松井がはじく間に3塁ランナーが生還し、土壇場で星稜が勝ち越しに成功する。

主将の失策による失点で動揺したか、山口は続く5番山本への投球が甘く入る。これを試合巧者の天理が逃すバズもなく、高々舞い上がった打球がレフト席へと吸い込まれてこの回一挙5得点。試合の趨勢を決めるには十分な点差であった。

9回表に星稜もランナーを出すが、最後は西岡が得意のスライダーをひっかけさせてセカンドゴロ併殺で無得点。天理が会心の逆転勝利でベスト4進出を果たした。

 

天理はその後、準決勝で東海大相模に惜敗。しかし、力では上回る相手に2-3と接戦を演じ、持ち味は十分に発揮した戦いだった。夏も連続出場を果たして8強入り。前年は大型チームで優勝候補に挙げられながら春夏ともに1勝に終わったが、野球は決して個々の力だけで決まるものではないことをこの年の代の選手たちが証明して見せた。

一方、星稜にとっては重圧に押しつぶされた格好になったか。おそらく星稜史上最も前評判の高いチームであり、優勝候補筆頭として臨む戦いは初めてだったかもしれない。これまで投手を軸に先制して手堅く守り勝つ野球が持ち味だった星稜が、松井秀喜という強烈な「打」の柱を引っ提げて臨んだ大会だったが、したたかな強豪の前に屈することとなった。

1992天理-星稜 – YouTube

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