PL学園vs明徳義塾 1998年選抜

1998年

記念大会を彩った強豪同士の激闘

松坂大輔(西武)を擁する横浜高校が春夏連覇を達成した1998年の甲子園。公式戦44戦無敗という前代未聞の強さを誇った王者を中心に、この年はのちの松坂世代と評されるほどハイレベルな選手が揃い、数多くの名勝負を生みだした。高校野球人気を一気に加速させた一年と言える。

そんな最高に面白い年だったのだが、夏の甲子園において現実的に「打倒・横浜」を狙えたのがPL学園と明徳義塾の2校であった。その2校がこの年の選抜の準々決勝で対戦。強豪同士のつぶしあいの象徴ともいえる試合であった。

PL学園は選抜は3年ぶりの出場。甲子園経験のあるメンバーは2年前の夏を経験した2人だけであり、新チーム結成当初は全国で注目される存在ではなかった。実際、秋の大阪大会では阪南大高に敗れており、秋の近畿大会でも準々決勝で郡山に3-5と惜敗している。しかし、上重稲田浜田と3人の好投手を擁する投手陣と田中一(DeNA)、平石(楽天)、大西(近鉄)と俊足の選手を並べた攻撃陣ともに高いレベルにあり、個々の能力はさすがPLと言えるものがあった。

また、この大会はPL学園にとっていつも以上に簡単には負けられない大会であった。名将・中村監督がこの選抜を最後に勇退が決まっていたのだ。PL学園というチームを全国の頂点に導くこと6度。上の世界でもやっていけるように基本となるプレーを徹底して指導したことによって、数多くの選手をプロの世界に送り込んできた。当時通算勝利数ダントツ1位の監督が勇退するとあって、PLの選手たちも意気込みは強かった。

記念大会というこもあって36校が登場した本大会では8校のみが該当する1回戦枠を、しかも開幕戦を引き当てた。初戦は樟南を堅実な野球で5-1と退けると、2回戦では小谷野(オリックス)ら強打者を擁する創価と対戦。PL打線は2アウト後からしぶとく得点を挙げて差を広げれば、エース上重は粘り強い投球で創価打線を完封。9-0と大勝で強豪を退けた。

3回戦では好投手・東出(広島)を擁する敦賀気比から4番古畑が3試合連続となる先制打を放つと、終盤には田中一のファインプレーで同点のピンチを防ぎ、接戦をものにした。他の高校より1試合多くこなしたことでより勢いを増してきた感があり、大会を通じて怖い存在になりつつあった。

対する明徳義塾は3年連続の選抜出場。馬淵監督就任以来、着実に力をつけてきており、高知県内でもその存在感は増してきていた。特に寺本(ロッテ)、高橋一(ヤクルト)と投手2枚看板がそのまま残っていたことは大きく、寺本は前年の選抜でV候補筆頭と言われた強打の上宮打線を6回まで無失点に封じ。自信を深めていた。

夏の高知大会は藤川球児(阪神)擁する高知商にホームラン1本(藤川球児の兄の順一が放った)の1-0で敗れたが、新チームは打線も強力であり、順当に四国大会を制して、選抜の出場権を勝ち取った。地力は選抜で8強入りした2年前のチームよりも高く、馬淵監督も自信を深めていた。

ただ、このチームの唯一の不安点はエース左腕・寺本の制球難。初戦となった2回戦は京都西を2安打完封したが、なんと与えた四死球は10を数えた。しかも当時の明徳は気性の粗い選手が多く、野手は寺本に「ストライク投げんかい」と励ますどころか罵倒し、寺本も負けじと言い返す有様。高校野球が理想とするチームワークとは、ある意味一線を画したチームであった。

迎えた3回戦は常総学院と対戦。この日の寺本はさらに制球難が目立ち、3回までに9四死球を出して4失点KO。優勝候補に挙がった四国の雄が自滅でベスト8を前に姿を消すかと思われたが、ここからがこの年の明徳の底力を表す戦いであった。右アンダーハンドの高橋一が常総学院の反撃を抑えると、打線も中盤以降徐々に反撃。最後は5番谷口のタイムリーで試合をひっくり返し、8強一番乗りを果たした。エースのKOからの逆転劇がかえって明徳義塾というチームの強さを際立たせる結果となった。

明徳義塾に待っていた最終回の悪夢

1998年選抜準々決勝

明徳義塾

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 1 0 0 0 0 0 0 1 0 2
0 0 0 0 0 1 0 0 1 3

PL学園

 

明徳義塾   寺本

PL学園    上重→稲田

さて、上重稲田と左右の2枚看板と勝負強い打線を武器に勝ち上がったPLとエースがKOされて危なっかしい戦いぶりでも地力で逆転して勝ち上がった明徳義塾。洗練された野球の王者と荒々しさの際立つ強豪の対決。楽しみな対決となったが、やはり不安はエース寺本の制球がいつ崩れるかということであった。

 

しかし、試合が始まると寺本はいつも通り四球を出しながらも要所を踏ん張って得点を許さない。王者PLを相手に気合満々で力強いボールを投じ続け、好打者揃いのPL打線を抑えこんでいく。

むしろ立ち上がりはPLの上重から四球からピンチを招く。2回裏、先頭の4番寺本を四球で出すと、犠打と内野ゴロの間で2アウト3塁となって、7番藤本がアウトコースのスライダーをセンターにうまく落として1点を先制する。

1点のリードをもらった寺本はPL打線を相手に5回まで無失点の好投。この日はカーブが低めに制球され、勝負所で決定打を許さない。荒れ球のイメージもあってPLの打者にとっては的を絞りにくく、5回裏には田中一がけん制で刺されるなど、ミスもあってなかなか得点に結びつかない。

そんな嫌な流れのPLだったが、6回裏に頼れる4番が仕事を果たす。前の試合まで3試合連続で先制打を放っていた古畑が内野安打で出塁した平石を2塁において、インサイド甘めにに入ったストレートを痛烈に3塁線に引っ張る2塁打とし、ついに試合を振り出しに戻す。

援護をもらったPLの上重はアウトコース主体の我慢の投球で鋭いスイングの明徳打線を相手に0を並べ続ける。7回表には自らの好フィールディングで相手の犠打を併殺に切って取るなど、ようやくリズムも出始めていた。一方、寺本もいつものもろい一面がなく、この日は8回まで4安打1失点に抑え込む。

同点で迎えた9回表、徐々に調子の出てきた上重に落とし穴が待っていた。先頭の4番寺本がインサイド甘めのスライダーを完ぺきにとらえると、打球は利sとスタンドへ飛び込むホームランに!投打の軸が自ら勝ち越し点をたたき出し、いよいよ勝負あったかという展開に、馬淵監督も手ごたえを得たに違いない。

ところが、この勝ち越し点が寺本から伸びやかな投球を奪ってしまう。9回裏、過去何度も「逆転のPL」と呼ばれた名門校が意地を見せる。中村監督から「先輩たちは何度もこういう試合を勝ち上がってきたんだぞ」との言葉を受け、冷静に寺本のボールを見極め始める。

7番石橋、代打・松丸、1番田中一が四球をむしり取り、満塁のビッグチャンスとなると、2アウト後に打席には3番大西。カウント1-3から高めのストレートを見送ると、判定はボール!ガッツポーズで大西が1塁へ向かい、押し出しで同点に追いつく。この場面、寺本も何とかしようという意図の見える投球だったが、腕を振れば高めに抜け、置きにいけば低めに垂れ、どうしてもストライクが入らなかい。1点をリードしたことによって硬さが抜けない投球になってしまったか。

こうなると、追いついたものと追いつかれたものの勢いの差は歴然である。10回表、2番手で登板したPLの稲田が素晴らしいコントロールとテンポで明徳打線を3者凡退に抑えると、その裏にPL打線が再び寺本を攻めつける。

1アウトから6番三上がファーストを強襲する2塁打で出塁すると、2四死球で1アウト満塁とサヨナラのチャンス。ここで打席に入った稲田はカウント2-3まで持ち込むと、最後はストライクを取るしかなくなった寺本のストレートをとらえて鮮やかに三遊間を破り、サヨナラ勝ち。PLが驚異的な粘りを発揮して四国王者を下し、4年ぶりのベスト4進出を決めた。

まとめ

PL学園は素晴らしい粘りで強敵を下し、4強へ進出。準決勝でも王者・横浜を3-2とこの大会で最も苦しめ、PLここにありを全国へアピールした。特筆すべきはこの年は初めからプロが注目するような逸材が揃っていたわけではなかったということ。結果的に何人かがプロ入りしたが、勝ち上がりながら強くなっていたのがこの年のPLであった。

夏の大会では延長17回の死闘を演じてさらに全国を沸かすことになるわけだが、この選抜の明徳戦がなければ横浜との因縁も生まれなかったわけで、まさにその後の死闘につながる好勝負であった。

 

一方、敗れた明徳と馬淵監督にとっては悔やんでも悔やみきれない試合となってしまった。継投を考えたタイミングも何度もあっただろうが、馬淵監督は最後までエースにその行く末を託した。結果、サヨナラ負けとなり、荒々しいこの年のチームらしい負け方ではあったが、この試合は少なからず、チームにショックを与えた。春季高知大会では土居(横浜)を擁する高知にあっさりとひねられ、県大会で敗退した。

しかし、一度落ち込んだ分、夏に向けて盛り返した時の反動は強く、夏の高知大会では谷口のサヨナラ弾で2-1とサヨナラ勝ち。勢いのままに4強まで勝ち進んだ。最後は横浜に再び信じられないサヨナラ負けを喫するが、明徳義塾というチームが大きく前進した一年となったことは間違いない。馬淵監督が悲願の全国制覇を果たすのはこの4年後のことである。

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