剛腕vs強打、胸躍る対決!
予選で、優勝候補の大本命と言われた、中田翔擁する大阪桐蔭が敗退し、本命不在の中で幕を開けた2007年の選手権大会。その1回戦で好投手と強力打線がぶつかる注目のカードが実現することとなった。

仙台育英は前年夏から3季連続の甲子園出場。2001年の不祥事で、ライバルの東北高校に選手が流れて以来、覇権を完全に奪われていたが、前年の2006年の決勝で2年生エース佐藤(ヤクルト)の奮闘で東北との延長引き分け再試合を制し、ついに代表の座を奪い返すことに成功した。しかし、夏の甲子園では初戦の徳島商戦で快投を披露して初戦を突破するも、2回戦で同じ東北の日大山形に敗退。相手の4番常川に浴びた満塁走者一掃打が痛く、追いつくことができなかった。
新チームでは、佐藤が絶対的エースとなり、秋の東北大会を制するも、神宮では初戦で報徳学園に2-10とコールド負け。選抜でも初戦で優勝した常葉菊川に1-2と惜敗し、なかなか全国での1勝が遠い状況だった。佐藤自身の投球にも悔いはあったが、4番高橋を中心とした打線が援護しきれなかった部分もあり、本戦へ向けて正捕手を交代するなど、投攻守でチームの立て直しを図った。その結果、宮城大会では苦しみながらも勝ち続け、準決勝では相手の2年生左腕・荻野に投げ勝って3-2と辛勝。決勝は、仙台商の猛追を振り切り、8-4で3季連続の甲子園をつかんだのであった。

一方、智辯和歌山はこの世代は、いわゆる谷間の世代と言われ、苦しい時期を過ごしていた。前年夏に甲子園を沸かせた橋本、広井、亀田といった主力がほぼ全員3年生であり、経験値があったのはショートの楠本と、秋に橋本から正捕手を奪っていた植芝、夏の準決勝で代打で登場して田中将大からセンター前ヒットを放った芝田くらいであった。秋の大会では主砲・坂口(巨人)を1番に据える攻撃型の打線を組むも、選抜をかけた近畿大会準々決勝では強打の市川に3-10とコールド負け。なかなかチーム編成が見えてこない感があった。
しかし、春を迎え、1年生ながら将来性豊かな左腕・岡田(中日)が入学してくると、2年生の芝田とのリレーを確立。打線は、主将の田村を1番、楠本を2番に置くと、3~6番には勝谷、坂口、芝田、浦田と全員2年生を起用。2か年計画でチームを作ることも多い高嶋監督らしい編成であったが、正捕手の植芝や楠本など3年生がしっかりセンターラインを支えてこそのチームであった。和歌山大会では、例年以上に苦しい戦いとなるが、準々決勝の箕島戦では勝谷のサヨナラ満塁弾で勝利するなど、確実に勝ち上がっていた。決勝では高野山との投手戦を4-1で制し、これで3年連続の出場を達成。なんだかんだで、「和歌山の夏はやはり智辯」という伝統を崩さずに守り抜いたのであった。
勝利を引き寄せた、若き核弾頭
2007年夏1回戦
智辯和歌山
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 2 |
| 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 4 |
仙台育英
智辯和歌山 岡田→芝田
仙台育英 佐藤

さて、甲子園で最速記録を狙うと意気込む剛腕・佐藤に対し、智辯和歌山打線がどう立ち向かうのか。昨夏は同じ剛腕タイプの駒大苫小牧・田中(楽天)に敗れたが、この時は真っすぐよりもスライダーに翻弄された感があった。速球で押してくる佐藤と智辯和歌山の、特に才能豊かな2年生軍団が相対した時、どうなるのか、試合前からワクワクが止まらなかった。
試合は、立ち上がり、いきなり仙台育英が主導権を握る。1回表を佐藤が圧巻の投球で3者凡退に打ち取ると、その裏、1年生左腕・岡田に打線が襲い掛かる。やや緊張君のサウスポーに対し、好打者の1番橋本(巨人)が四球を選ぶと、2アウトになりながらも犠打で2塁へ。ここで、主砲・高橋がアウトコースの速球を豪快に右中間ははじき返し、タイムリー3塁打として、まず1点。さらに5番加藤もセンター前タイムリーで続き、いきなり2点を先行する。
これまで、エースになかなか援護を挙げられなかった打線がくれた初回の2点のリード。これは、佐藤の心に火をつけるには十分だっただろう。序盤から凄まじい勢いで飛ばしていく。
ストレートに強いはずの智辯和歌山打線だが、150キロ台を連発する佐藤の投球の前に全く手が出ない。これまでも150キロを計測する投手は、松坂大輔の登場以来、何人かいたが、これだけコンスタントに連発した投手は記憶にないくらいであった。バットにボールが当たりそうな気配がなく、当たったとしてもぼてぼての当たり。マシンで160キロ台に設定していたとしても、やはり生身の人間が投げる150キロ台は別物だ。
智辯和歌山は、3回表にショートと佐藤自身の失策でランナーをだすが、勝負所でコーナーいっぱいに決まる速球が素晴らしく、得点を挙げるには至らない。5回表に7番大島がようやくチーム初ヒットとなる内野安打を放つも、後続は3者連続三振。5回までに8三振を記録したが、その数字以上に圧倒した内容であり、果たして得点は入るのかといった雰囲気が漂う。
ただ、智辯和歌山もチームとしてディフェンス面の成長を見せ、2回以降は、仙台育英打線を封じ込めていく。岡田が2回裏に三者連続三振を奪って立ち直ると、4回裏にピンチを招いたところではいち早く2番手の左腕・芝田にスイッチ。このあたりは、継投に慣れている高嶋監督らしく、思い切りのいい決断であった。
試合は、仙台育英が2-0とリードのまま前半戦を終了。内容は圧倒的に仙台育英が押しているにも関わらず、リードは初回の2点のみ。徐々に仙台育英にも圧力はかかっていたのか。
すると、グランド整備明けの6回表。試合が一気に動く。先頭の2番楠本を三振に打ち取るも、3番の好打者・勝谷を佐藤は四球で出してしまう。ここで、打席には2年生ながら期待を一身に受ける主砲・坂口。速球に狙いを絞っていたが、スライダーが高めに入るところを逃さなかった。打球は、打った瞬間にホームランと分かる完ぺきな当たり!レフトスタンド中段まで届く豪快な一撃で、一気に試合を振り出しに戻す。打たれた佐藤は唖然とするほどの一発。天性の飛距離を誇る若き主砲が、一躍その名を全国にとどろかせた瞬間であった。
2-2の同点となった試合は、その後、緊迫した守り合いに。佐藤は6回表、ホームランを打たれた後にも2安打を浴びてピンチを招くが、代打・森本を三振に打ち取り、ピンチを逃れる。8回表には、先ほどホームランを打たれた坂口に対し、アウトローの真っすぐで見逃し三振を奪ってやり返すなど、渾身の投球でこれ以上の点は与えない。智辯・芝田も毎回ランナーを出しながら、バックの堅守もあってしのぎ、試合は同点のまま8回裏に突入する。
この回、芝田は簡単に2アウトを奪うが、春以降に正捕手となった8番一丸にヒットを許すと、打撃のいい9番佐藤には四球を与える。ここで、打席には2年生のトップバッター橋本。スタメンの中で最も打撃センスの光る、俊足の好打者は芝田の速球がアウトコース高めに入るところを逃さなかった。左打席から流し打った打球は、背走するレフトの頭上を越え、切れることなくレフトフェアゾーンにイン!2者を返す貴重なタイムリー3塁打となり、土壇場で再びエースに援護点をもたらした。
リードをもらった佐藤は、残っていた余力を振り絞るように快速球と高速スライダーを投げこんでいく。最後はチームの屋台骨を支えた3年生の1番田村と2番楠本を三振に打ち取り、3者連続三振でゲームセット!これまでの悔しさを見事に晴らす快投を見せ、笑顔でホームベース付近に仙台育英ナインが集まったのであった。
まとめ
仙台育英は、その後、2回戦で再び智辯勢である、智辯学園と対戦。この試合で、佐藤は当時の大会最速記録である155キロを計測し、ついに歴史にその名を刻むこととなった。しかし、試合は5回裏に浴びた集中打での5点が致命傷となり、敗退。ボールの質自体は本当に素晴らしく、仙台育英復活の流れを作り出したエースだったが、やはりかくも全国で勝つという事は難しいのだと感じさせられた。
一方、智辯和歌山は若い選手たちが多く出場したことで経験値が残り、翌年は春夏連続で8強入り。夏の3回戦では1イニング3ホームラン、坂口は1イニングで個人2ホームランという凄まじい集中打を見せて、彼らもまた、歴史に名を残したのであった。しかし、常々高嶋監督が言われていたように、やはり「チームを作るのは3年生」である。彼らの活躍の礎にあったのは、前の年の夏に苦しみながらも全国へと連れて行ったくれた3年生の尽力があってこそだったと言えるだろう。派手さはなくとも、きっちり守ることのできる好チームであった。
個人的に鳥肌が立った高校野球のシーン⑦ 智辯和歌山vs仙台育英


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