好左腕打ち崩した強力打線
沖縄・興南が圧倒的な優勝候補として君臨していた2010年の選手権大会。大会初日に強打の智辯和歌山が成田・中川の好投の前に1-2で敗れ、打倒・興南の有力候補が早くも聖地を去ることとなった。そんな中、2回戦も快勝を収めた成田の、次の対戦相手を決めるカードは、東西の実力校が顔を合わせる好カードとなった。

北大津は、6年ぶり2度目の選抜出場。しかし、選抜では2006年から2008年にかけて3年連続で出場し、2008年の選抜大会では東北・横浜と大物食いをやってのけて、全国でも注目のチームとなっていた。そして、この年の代は、2学年上の先輩たちの活躍を目の当たりにして入学した選手たちであある。
エースは2年生右腕の岡本。右スリークオーター、サイドハンド、アンダーハンドと3つの投げ方を自在に操る技巧派であり、テンポのいい投球でリズムを作る。ストライク先行の投球をするため、相手打者は気づけば追い込まれてしまい、ボール球を打たされるという悪循環に陥っていた。そして、支える打線は、4番小谷を中心に強力。もともと前年秋は近畿大会で優勝校の神戸国際大附をあと一歩まで追い詰めた実力校であり、最後の夏にようやくそのベールがはがされることとなった。
1回戦の相手は、2年連続出場の常葉橘。前年は好投手・庄司(広島)の活躍で初出場ながら2勝を挙げており、その時のメンバーがスタメンで5人残っていた。下馬評では常葉橘有利と思われたが、北大津の強力打線が相手エース左腕・長谷川を襲う。5回までに5点を奪う猛攻でKOすると、6回以降も後続を打ち込んで、18安打11点の圧勝。2回に飛び出した9番村井のタイムリー3塁打は、「その打ち方で右中間抜けるんかい」という大根切りのようなスイングだったが、それだけ上位から下位までパワフルな打撃を見せた。
投げては岡本が緩急自在、そして投球フォームを1球ごとに変える変幻自在の投球で、経験者の残る常葉橘打線を翻弄。8回に疲れが出たところで4点はとられたものの、9回は本格派右腕・横江がきっちり抑え、夏の初勝利をつかみ取った。

一方、前橋商は前年の選抜出場を経験していたメンバーが複数残り、この一年間は群馬県内を負けなしで終えるという、安定感を誇っていた。
エース左腕の野口は、小柄ながら野球センスの塊とよべる投手。安定したコントロールで、伸びあがってくるような速球と多彩な変化球を丁寧に投げ分け、打たせて取ってリズムを作る。カーブ、スクリュー、カットボールといずれも自在に制球できるため、相手からすると非常に的が絞りづらい。また、フィールディングにも非常に長けた選手であり、牽制球にも緩急を加えて、油断したところを刺すなど、トータルの能力が高い選手であった。
また、打線は3番後藤駿(オリックス)、4番箱田の強力な中軸を中心に上位から下位まで隙の無い布陣を形成。特に後藤駿は走攻守3拍子揃った「群馬のイチロー」と評される選手であり、強肩と広い守備範囲で難しい打球も好捕。高校生では頭一つ抜けた身体能力を誇っていた。4番箱田も非常に勝負強く、この二人を1試合トータルで抑えるのはなかなか至難の業。7番には長打力のある沢浦が控えており、気の抜けない打線となっていた。
初戦は、牛鬼打線で一世を風靡した歴史を持つ宇和島東と対戦。伝統校を相手に、前橋商は初回から4番箱田のタイムリーなどで2点を先行すると、投げてはエース野口がわずか3安打で完封勝ち。けん制タッチアウトを奪うなど、隙のない投球を見せ、まずは順調な滑り出しを見せた。
拮抗が崩れた7回の集中打
2010年夏2回戦
北大津
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 0 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 4 | 2 | 0 | 9 |
| 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 3 |
前橋商
北大津 岡本
前橋商 野口→狩野→中曽根→林

試合の焦点は、北大津の強力打線と小さな大投手・野口の対決であった。北大津打線は、宮崎監督が「1試合の攻撃が27球で終わってもよい」というほどの積極攻撃が持ち味であり、2008年の選抜大会ではこのスタイルで、横浜の好左腕・土屋(ロッテ)を攻略していた。上州の好左腕に対しても同じように積極打法で向かっていくこととなった。
1,2回は静かな試合の入り。北大津・岡本、前橋商・野口と、両チームの技巧派投手がヒットは打たれながらも打たせて取る投球でアウトを積み重ねる。前橋商としては、北大津打線が火を噴く前に先行して逃げ切る体制を作りたいところであった。
しかし、3回表、北大津打線が猛威を振るいだす。この回、先頭は初戦でホームランを放っていた9番村井。スタメン唯一の2年生ながら長打力を併せ持つ打者が、バスター打法でインハイ高めの真っすぐを振りぬくと、打球は高々と舞い上がってレフトスタンドへ着弾!豪快な一撃で、先制点を奪う。
前橋商も3回裏にすぐさま反撃を開始し、8番野口のヒットを足掛かりにチャンスメーク。打者2巡目に入って上位の左打者陣が岡本をとらえ始め、2番斉藤の犠飛で同点に追いつく。だが、打線の破壊力ではやはり北大津に一日の長あり。4回表、先頭の5番北野の豪快な一撃がレフトの頭上を越すと、6番中村の三塁線突破のタイムリーで勝ち越しに成功。さらに、2つの犠打で2アウト3塁とし、先ほどホームランの9番村井が、今度は右中間へ呼び込んではじき返し、タイムリーとなってリードを2点に広げる。
前橋商としては、エース野口がこれだけ痛打を浴びる展開もなかなか無く、苦戦を強いられる。しかし、5回、6回とセンター後藤の1塁へのダイレクト送球による併殺もあってなんとか追加点は与えずに踏みとどまる。北大津のエース岡本の変幻自在の投球と堅い守備の前になかなか突破口を開けなかった前橋商打線も、5回裏に1番森沢、2番斉藤が連打を放つなど、徐々に反撃体制を整えつつあった。
すると、6回裏、注目の3番後藤が1塁手の横を破るヒットを放つと、ライトの後逸もあって一気に3塁を奪う。ここで頼れる主砲・箱田は綺麗な流し打ちでレフトへタイムリー!1点差に詰め寄ると、さらに犠打と内野ゴロで3塁へ進み、打席には長距離砲の7番沢浦が入る。ここまでの2打席はタイミングが合っていなかったが、岡本のアウトコースのボールをうまく拾った打球は、ショートの頭上を越すタイムリーに。終盤に来て、各打者が捕手寄りのミートポイントでとらえることで、緩急を操る岡本の投球に対応し始めていた。
3-3の同点でいよいよ試合は終盤戦に。前橋商としては、追いついた者の勢いをかって、攻勢に出たいところであった。ただ、6回までに野口に9安打を浴びせていた北大津打線としても、いよいよ攻略の仕上げに取り掛かる段階となっていたのだ。
キレのある速球に対し、強いスイングではじき返す北大津打線。変化球にもしっかり軸回転で対応してくるため、技巧派投手としてはいよいよ逃げ場が無くなってくる。7回表、1番北林・2番大野が野口の速球を完ぺきにとらえた打球を放ち、無死1,2塁とすると、打席には3番山口。捕手として2年生エースを援護したい男が、前橋商バッテリーが意を決して投じたインサイドのボールを迷いなく振り切ると、打球は3塁線突破の勝ち越し2点打に!さらに、6番中村の2点タイムリー3塁打も飛び出し、この回計4点で関東屈指の好左腕をKOした。
一方、大量援護をもらった北大津・岡本は、7回以降は再び立ち直る。前橋商の打者に対し、山口がインサイドを有効に使い始め、技巧派らしく2段階も3段階も奥行きを残した投球で、終盤3イニングは1安打ピッチング。四死球も1しか与えず、125球の完投勝利で苦しい試合をものにしたのであった。
まとめ
北大津は、その後、3回戦でも成田の好投手・中川から山口のホームランなどで5点を奪取。最後は2年生エース岡本が捕まって逆転を許したが、打線の破壊力を全国に知らしめる形となった。公立校で、決して恵まれた環境にあるわけではないが、強気の姿勢で一時代を築いた北大津。今でも高校野球ファンの間では、鮮烈な印象として残っている。
一方、前橋商も敗れはしたものの、投攻守でその実力の片りんを十分に見せつけた。群馬は、その後、健大高崎・前橋育英の2校が台頭し、いずれも全国制覇を果たすなど、ハイレベルな地区として知られている。私学台頭の波にのまれ、この大会を最後に前橋商は甲子園から遠ざかってはいるが、2026年の群馬大会では決勝に進出して健大高崎に4-5と善戦したように、今なお名門として存在感を放ち続けている。


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