右投手 斎藤佑樹(早稲田実)
2006年夏の甲子園で最も輝きを放ったのは早稲田実を初優勝に導いた斎藤佑樹(日本ハム)だっただろう。大会前までは好投手の一人という位置づけだったが、本戦に入るとその存在感は大きくなっていった。2回戦での大阪桐蔭・中田翔(日本ハム)との名勝負や決勝戦の引き分け再試合などを切り抜け、大会が終了するころには、その活躍はもはや伝説の域になっていった。
選抜から下半身が沈みこむフォームに変えることでストレートの最速は149キロまでアップ。低めに落ちるスライダーと強気の内角攻めで強打者をねじ伏せていった。投げるボールだけでなく、試合の流れを読む嗅覚やフィールディングなど、投手としてのすべての能力を兼ね備えた投手であった。大会後の話では、準決勝の鹿児島工戦で力を抜いた投球を覚えたとのこと。試合を重ねるたびに、斎藤もナインも成長し、早稲田実は全国の頂点へと上り詰めた。
【好投手列伝】東京都篇記憶に残る平成の名投手 4/5 – 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)
高校野球 早稲田実vs駒大苫小牧 2006年 第88回選手権大会 決勝 – YouTube
左投手 乾真大(東洋大姫路)
名将・藤田監督の辞任後、初の甲子園出場を果たした2006年夏の東洋大姫路。投打ががっちりかみ合って激戦の兵庫大会を勝ち抜いたのだが、その原動力はなんといっても本格派左腕・乾(日本ハム)と技巧派左腕・飛石の2人が担う投手力であった。兵庫大会決勝では選抜で2試合を完封勝利した神港学園との対戦だったが、相手の2年生エース林との投げ合いを制し、5-4と逆転サヨナラ勝ちを呼び込んだ。
決して体格に恵まれていたわけではなかったが、真っ向上から投げ下ろす角度のある速球と縦に大きく割れるカーブで、初戦は甲府工打線を2失点で完投。粘り強い相手の攻撃に最終回は2アウト満塁まで詰め寄られたが、最後は渾身の投球でしのぎ切った。続く3回戦では好投した飛石の後を受けて、初戦逆転勝ちの勢いに乗る桐生第一打線をぴしゃり。チームを1986年以来となる夏8強に押し上げた。
準々決勝で北の王者・駒大苫小牧に屈したが、堀口監督体制になってからも、出場すれば強い東洋大姫路の伝統をしっかり守り抜いた。
【好投手列伝】兵庫県篇記憶に残る平成の名投手 3/4 – 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)
高校野球 駒大苫小牧vs東洋大姫路 2006年夏甲子園準々決勝 第88回大会 – YouTube
捕手 鮫島哲新(鹿児島工)
初出場で4強入りと快進撃を果たした鹿児島工。そのチームを主将、捕手、4番と全ての面で支えたのが鮫島哲新であった。本格派右腕・榎下(日本ハム)、技巧派左腕・下茂と2人のタイプの違う好投手をリードで支え、打っては勝負強い打撃でここぞという場面に結果を残した。
初戦は49代表校中最後の登場となり、しかも相手は開幕戦の大逆転劇で波に乗る伝統校・高知商であった。戦前は不利の予想だったが、榎下を懸命のリードで引っ張ると、同点で迎えた7回表に2番手の2年生右腕・津田から決勝のタイムリー。内角を突いた重い速球に力負けすることなく運び、チームに甲子園初勝利をもたらした。
その後、3回戦では香川西に9-3と大勝し、迎えた準々決勝は福知山成美と激突。ここまで3試合連続2桁安打と波に乗る強豪を相手にリードを許す苦しい展開となったが、終盤に代打・今吉晃の内野安打を起点に同点に追いつく。そして、2-2の同点で迎えた延長10回表、鮫島は相手エース駒谷の決め球のスライダーが甘く入るのを逃さず、バット一閃。打球はセンターバックスクリーンへ飛び込む勝ち越しホームランとなって鹿児島工は初出場4強の快挙を果たしたのだった。
それまで、鹿児島実・樟南・鹿児島商の3強だった鹿児島の高校野球だったが、前年選抜準優勝の神村学園とこの年の鹿児島工の活躍は、時代が変わりつつあることを予感させるものであった。
一塁手 広井亮介(智辯和歌山)
大会新記録となる11ホームランを放った2000年の智辯和歌山を長打力で上回るのではないかと期待されたのが、2006年世代の智辯和歌山であった。前年から広井、橋本(阪神)、亀田、古宮と主要メンバーが残ったチームは練習試合も含めてほとんど負けることなく快進撃を続け、目だった敗戦も秋の近畿大会決勝で打撃戦の末に敗れた履正社戦、守乱で敗退した選抜の岐阜城北戦くらいのものであった。
春の近畿大会も優勝して迎えた最後の夏は和歌山大会でも圧勝の連続で春夏連続出場を達成。すると、甲子園に来てからその打棒で全国を魅了したのが3番広井であった。他校の監督をして、「智辯和歌山の中軸は丸太が並んでいる」と言わしめた体格から放たれる打球は次々と放物線を描く。恵まれた体格と懐の深い柔らかい打撃は相手投手にとっても打たれる気しかしなかっただろう。
初戦で県岐阜商の好投手・竹中からホームランを放つと、3回戦では八重山商工のエース大嶺(ロッテ)からも中盤に逆転3ランをマーク。結局、5試合で4本のアーチを描き、最後は駒大苫小牧のエース田中将(楽天)に屈したものの、4強まで進出。準々決勝の帝京戦では1試合5ホームランの新記録を作るなど、「打撃の智辯和歌山」面目躍如の夏となった。
智辯和歌山vs帝京 2006年夏 – 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)
高校野球 智辯和歌山vs帝京 第88回全国高等学校野球選手権大会 準々決勝 2006年 – YouTube
二塁手 金城長靖(八重山商工)
主砲兼2番手右腕とした投打でチームを支えたのが、金城長靖であった。選抜でも左右両打席でホームランを放ったパワーヒッターは、この年の夏も予選から好調を維持。投手としても、調子の波が大きいエース大嶺の後を受けて、しばしば試合の流れを落ち着かせる役目を担った。
甲子園初戦では投打にいきなりフル回転。4点を追う中盤に貴重なタイムリーを放って同点劇を導くと、8回裏に大嶺の悪送球から勝ち越し点を奪われた場面では2番手として登板し、相手打線の勢いを止めた。すると、2点差を追う最終回には凡退すれば試合終了の場面でショートを強襲する強烈なヒットを放ち、続く4番羽地のタイムリーで再び同点に追いついた。この苦しい試合を延長戦の末に制することになったが、金城長の活躍なくしては得られない勝利だっただろう。
初戦で乱調だったエースに代わって、2回戦では先発のマウンドに。140キロ台の速球と変化球を低めに集めて、松代打線を封じ込めると、打っては中盤にセンターバックスクリーンへ飛び込む特大の3ランを放ち、観衆の度肝を抜いた。上背はないが、パワーのがっちり詰まった体格から放たれる打球は、全国の高校野球ファンに強烈な印象を与えることとなった。
第88回全国高校野球選手権大会 1回戦 八重山商工対千葉経大付 8/10 – YouTube
三塁手 三谷忠央(駒大苫小牧)
3連覇を狙っていた北の王者・駒大苫小牧。しかし、大会が始まると、エース田中将(楽天)がウイルス性胃腸炎のため、不調に喘ぎ、苦しい試合が続いていた。その逆境を何度も救ったのが、好打者・三谷のバットであった。
3回戦の青森山田戦は、6点のビハインドを追いつき、最終回にも3番中澤の奇跡的な同点アーチが飛び出すというシーソーゲームに。喧騒が鳴りやまない中、5番田中将がセンターへのヒットで出塁すると、続く打席には6番三谷が。コンパクトな打撃で真ん中寄りのスライダーを振り抜くと、打球は瞬く間に左中間を破り、1塁から田中将が長駆生還。劇的なサヨナラ打で8強進出を決めた。
すると、好調を買われて準々決勝は1番に抜擢。この試合でも駒大苫小牧は三谷のヒットを足掛かりに4点差を追いつくと、7回には2番手で登板した東洋大姫路の左腕・乾からしぶとく内野安打を奪取。これが勝ち越しのタイムリーとなって再び難敵を退けた。その後、決勝再試合でも斎藤佑樹からホームランを放つなど、最後まで好調を維持。田中将や主砲・本間ら、もともと注目されていたメンバーを上回るインパクトを残した。
高校野球 駒大苫小牧vs青森山田 2006年夏甲子園3回戦 第88回大会 – YouTube
遊撃手 青木優(日大山形)
それまで全国で唯一夏のベスト8の経験がなかった山形県。その不名誉な歴史に終止符を打ったのが2006年の日大山形であった。2年生阿部を強力打線が支えるチームで、1回戦から開星・杉原(横浜)、仙台育英・佐藤由(ヤクルト)と好投手を攻略。中盤以降に集中打を見せる、得意なパターンで進撃を見せた。
その中にあって、日大山形らしい泥臭いスタイルを地で行っていたのが、3番ショートの青木。3回戦では相手の今治西がエースを先発させなかったことに奮い立ち、序盤から今治西投手陣を粉砕。終盤に一度は逆転されるが、8回に青木が貴重な同点タイムリーを放ち、最後は延長戦の末に逆転サヨナラ勝ちを収めた。ショートとしても再三にわたる好守でエース阿部を支えた。
すると、続く準々決勝では前日に200球以上を一人で投げ抜いた阿部に代わって先発のマウンドへ。早稲田実の好投手・斎藤を向こうに回して一歩も引かない好投を見せると、打っても2安打を放って、一時は試合をひっくり返して見せた。最後は8回に力尽きたが、泥だらけのユニフォームでマウンドに立つ姿は、高校野球ファンの脳裏に強烈に焼き付くものであった。
第88回全国高校野球選手権大会2早稲田実業対日大山形 – YouTube
左翼手 塩沢佑太(帝京)
2002年以来、実に4年ぶりの出場であった帝京。平成初期は常勝を謳っていた強豪も、2000年代に入ってからは苦しい戦いが続いていた。しかし、この年の帝京は上位から下位まで走れるメンバーがそろい、東東京大会ではなんと48盗塁を記録。それまでの豪打の帝京に加えて、「走れる帝京」という新たなチームカラーで甲子園に乗り込んできた。
すると、初戦では1番不破の先頭打者弾や2年生中村晃(ソフトバンク)の勝ち越しホームランなど、計4本のホームランで試合巧者・如水館に圧勝。中でも5番塩沢はバックスクリーンに特大の一発を放り込み、4番中村に続く2者連続のホームランを放ち、帝京打線の凄まじいパワーを見せつけた。
ただ、準々決勝では智辯和歌山の猛打の前に下級生中心の投手陣が打ち込まれて劣勢に陥る。しかし、2-8と6点ビハインドの8回に塩沢が再びセンターバックスクリーンへ飛び込む2ランホームランを放つと、流れが変わり始める。4点差で迎えた最終回に4番中村晃、5番塩沢がタイムリーを放つと、9番沼田までの6連打が飛び出して、一挙8点を奪取。土壇場で驚異的な粘り腰を見せた。
結局、最後は逆転サヨナラ負けを喫して甲子園を後にすることとなったが、あの球史に残る逆転劇の流れを引き出したのが、8回の塩沢の2ランホームランだったのは間違いないだろう。
智辯和歌山vs帝京 2006年夏 – 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)
高校野球 智辯和歌山vs帝京 第88回全国高等学校野球選手権大会 準々決勝 2006年 – YouTube
中堅手 土居慎司(今治西)
3年ぶりに夏の甲子園に姿を見せた今治西。愛媛大会準決勝では済美の好投手・沢良木を、決勝では選抜に出場していた今治北の右腕・西原(広島)を打ち込み、高い攻撃力を示して、聖地に乗り込んできた。
その甲子園では常総学院、文星芸大付と関東の強豪を2桁得点で連破。3番熊代、4番宇高、5番崎原の中軸を中心とした長打力もさることながら、1番土居を筆頭に一気に試合の流れを呼びこむ機動力も素晴らしいものがあった。一度流れを引き寄せると、とめどなくつながって大量点をたたき出す攻撃力は、大会でも5本の指に入るのではと思わせる破壊力があった。
3回戦で2年生エース熊代(西武)を先発させなかったことで、試合の流れをつかみきれずに敗退したが、もしこの試合をものにしていた場合、準々決勝で早稲田実の斎藤佑樹(日本ハム)をどれだけ苦しめていたかと、今でも妄想してしまう自分がいる。
第88回全国高校野球選手権大会 3回戦 日大山形対今治西 1/5 – YouTube
右翼手 渡辺壮大(福知山成美)
1999年以来2度目の甲子園出場、福知山成美の校名では初出場だった2006年夏。しかし、京都府大会では伝統校・龍谷大平安や前年夏の甲子園準優勝校である京都外大西と強豪を次々なぎ倒しており、その実力は高く評価されていた。
甲子園では初戦で前年の選抜優勝校の愛工大名電との対戦となったが、常に試合をリードしていたのは福知山成美。エース駒谷が右サイドから最速140キロを超える速球とスライダーで名電打線に立ち向かえば、打っては13安打の猛攻で相手投手陣を圧倒。中でも5番渡辺は左打席からのシュアな打撃で3安打を放ち、主砲・塚下の後の打順で貴重な役割を果たした。
その後も、2回戦では静岡商の好左腕・大野、3回戦では熊本工の技巧派左腕・隈部とともに相手の2年生エースを強打で攻略。グアテマラでの指導経験から得た、田所監督の自由奔放な攻撃スタイルが実を結び、4試合で計48安打の猛打で強打の福知山成美の印象を強烈に刻み付けた、
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