右投手 吉岡暖(阿南光)
選抜初出場の阿南光の8強まで押し上げた本格派右腕。大会前から、注目された存在だったが、やはりその存在感は別格だった。初戦は東海チャンピオンの豊川が相手だったが、強力打線を相手にキレと角度のある速球で翻弄した。打線が、早々と援護点をプレゼントしたことで、より楽に投げられるようになったこともあってか、いい意味で力の抜けた状態から繰り出すボールを前に、東海屈指の強力打線もなすすべがなかった。
続く2回戦も九州王者の熊本国府が相手だったが、この試合でも速球狙いの相手に対して、変化球主体の投球でうまくかわすクレバーさも見せた。投手としての幅の広さがあり、相手打者を見ながら自在に狙いをかわしていけるところに、さらなるポテンシャルを感じさせた。準々決勝では代わりに先発した投手がつかまり、神宮王者の星稜に敗れたが、この試合でも吉岡の失点は1点のみ。まだまだ成長の余地を残した本格派右腕の、今後の歩みが楽しみでならない。
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左投手 佐藤龍月(健大高崎)
健大高崎を悲願の初優勝に導いた2年生エース。入学当初からその実力は高く評価されていたが、実際に甲子園のマウンドに降り立つと、改めてその凄さが際だった。プレートの1塁側いっぱいのところからインステップ気味に投げ込むボールは、横の角度がついており、相手打者にとっては、バットとボールの接点が非常に少ない状態となった。ボールの質自体も素晴らしく、速球とスライダーで相手打者を翻弄。特にスライダーは右左の違いはあるものの、ヤクルト・伊藤智を思い起こさせるほどの、切れ味であった。
1,2回戦はいずれも相手打線に得点を許さず、2回戦では九州屈指の強力打線を誇る明豊を7回2安打無失点に封じ込めた。このあたりから大会の雰囲気的にも、健大高崎・佐藤をいったいどこが崩すのかといった様相になってきていた。その後、指のアクシデントもあって、準決勝・決勝は同じ2年生の石垣に先発のマウンドを譲ったが、いずれも試合も終盤に完ぺきなリリーフを見せ、チームを勝利に導いた。ショートイニングで彼に目いっぱいの投球をされては、星稜も報徳学園も手の施しようがなかっただろう。
現在は、TJ手術を受けての復活を目指しているが、彼の野球人生はまだまだこれからであり、上のステージでの活躍が今から楽しみでならない。
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捕手 箱山遥人(健大高崎)
扇の要として、無冠だった強豪に初の全国タイトルをもたらした功績は計り知れないだろう。捕手としては、佐藤・石垣と才能豊かな2年生の左右2枚看板をリードし、打っては不動の4番として初戦から存在感を放ち続けた。強肩と卓越したインサイドワークで下級生投手陣を引っ張ったが、特に右腕・石垣に関しては、大会序盤は速球に威力がありながらもばらけていたところを、うまく彼の良さを引き出して、終盤に向けての成長に繋げた。
また、打線に関しては高山・森山と上州三山と言われる強力クリーンアップも形成。特にアウトコースの緩い変化球拾うのがうまく、ここぞという場面で、しっかり引き付けてレフト方向へタイムリーを放つ姿が目立った。彼の攻守両面での活躍を見るにつけ、やはり野球というスポーツにおける捕手の重要性を再認識させられるに至った、そんな大会であった。
「機動破壊」健大高崎の4番箱山遥人主将 衝撃キャノン「まだタイム削れる」 甲子園にかける第3回
一塁手 斎藤佑征(報徳学園)
大会前、打力がやや不安視されていた報徳学園。ドラフト指名された3番堀(オリックス)、4番石野といった長打力のある打者が不在であり、前年秋は大阪桐蔭に3-4と惜敗ではあったものの、リリーフした1年生の剛腕・森陽には全く歯が立たず、全国レベルの投手を相手にどこまで通用するかは未知数であった。そんな状況のなか、主砲としてチームを牽引し、2年連続での決勝の舞台に導いたのが、斎藤であった。
決勝戦こそ無安打に終わったものの、準決勝までの4試合で実に16打数9安打4打点の暴れっぷり。初戦となった愛工大名電戦のサヨナラヒットを皮切りに、毎試合大事な場面で打点を挙げて、チームを上昇気流に乗せた。ミートがうまい左打者が多かった打線にあって、不動の4番としてどっしりとした構えからシャープな打球を飛ばし、打線全体で「斎藤に回せばなんとかなる」といった雰囲気が出来ていた。
二塁手 山岡純平(報徳学園)
今朝丸、間木と2人の好右腕を擁し、堅守を武器に勝ち上がった報徳学園。2年生ながら抜群の存在感を放ったのが、橋本-山岡の二遊間であり、特に山岡の攻守にわたる活躍は出色だった。前年秋から橋本との1年生コンビはかなり騒がれていたが、全国区でもその守備力は明らかに頭一つ抜きんでていた。大阪桐蔭戦でもジャンピングキャッチもしかり、とにかく一歩目の出足が速く、通常なら抜けそうなあたりでも深いポジショニングと素早い捕球、そして正確な送球でアウトにしてしまった。
また、打っては6番打者として渋い役割を実践。19打数7安打で毎試合ヒットを記録し、中軸が残した後のランナーを返し、下位打線に向かっていく中でのチャンスメークも果たした。コンパクトなスイングから繰り出す鋭い打球を放ち、今年の報徳らしいミートのうまさを感じさせる打撃を見せた。攻守両面で「仕事人」と呼べるプレーぶりであった。
三塁手 針尾泰地(山梨学院)
選抜連覇を狙ったチームの5番打者として、8強入りに貢献した。前年秋の関東大会では、選抜出場の分水嶺となる準々決勝の桐光学園戦で、延長11回に決勝の2点タイムリーを記録。3つ上のお兄さんも同じ山梨学院で主将を務めており、その思いも汲んでの貴重な一打であった。
迎えた選抜では京都外大西、創志学園と実力校を相手にいずれも完勝。前年の優勝メンバーはほとんど残っていなかったが、試合状況・相手投手の状態を見ながら、腰を据えて攻略にかかる様子は、どこか「大人のチーム」と感じさせた。針尾は1回戦で好左腕・田中からセンターへのヒットを放ってつなぎの役目を果たすと、2回戦では試合の趨勢を決める2点タイムリ―2塁打をマーク。2試合ともヒットはこの1本であったが、大事な場面で5番としての役目を果たした大会となった。
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遊撃手 颯佐心汰(中央学院)
大会前から投攻守3拍子揃った、スーパーショート兼リリーフエースとして注目されていた逸材。攻守でハイスペックぶりを発揮し、チームの4強入りに貢献した。試合開始時は5番ショートとして先発。強肩を活かした深い守備位置からの送球でアウトを積み重ね、高い身体能力で難しい当たりも難なくさばいた。また、打っても16打数6安打3打点と活躍。俊足を活かした好走塁も光り、振り切るスイングも合わせて、思い切りの良さが光るプレーぶりであった。
投手としても、速球とスライダーを軸に、力で相手を抑え込める魅力がある。上のステージでどういう選択をしていくかは、これからの彼次第ではあるが、彼の最大の長所は俊足・強肩であり、1番ショートあたりが、最もおさまりの良いポジションな気もする。いずれにせよ、見るものをワクワクさせる選手なのは間違いなく、2028年のドラフト指名は充分ありうるだろう。
【2024年ドラフト候補】颯佐 心汰(中央学院)選手のプレー集
左翼手 佐藤隆樹(青森山田)
選抜初勝利から一気に8強入りを果たした青森山田。京都国際、広陵と西の強豪を立て続けにサヨナラで破っての快進撃は、同県のライバル光星の一歩先を行く結果であった。中でも1番佐藤隆の活躍は素晴らしく、小柄な体から速球、変化球ともに対応できる柔軟な打撃でヒットを量産。テークバックが非常に柔らかく、どの球種にも対応できるのが彼の強みだった。
初戦は、京都国際に終盤に追いつかれるも、サヨナラ勝ちで勝利を収めると、2回戦では広陵の好投手・高尾と対戦。追いつ追われつの接戦ながら、3点ビハインドで9回裏を迎える。しかし、下位打線の粘りで1アウト満塁のチャンスを迎えると、打席に立った佐藤隆は広陵・高尾の初球のスライダーを迷いなく振りぬく。打球は左中間を深々と破る同点のタイムリー3塁打となり、土壇場で試合は振り出しに。まさに起死回生の一打であり、今大会で最も大きなインパクトを残したと言っても過言ではないだろう。
この大会では2年生であり、まだまだ成長の余地を残していそうな、センスあふれるプレーヤーであった。
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中堅手 青木勝吾(中央学院)
千葉県の新鋭校として、ある意味では今大会最もインパクトを残したのが中央学院だった。そのチームを先頭打者として力強くけん引したのが、青木勝吾である。
4試合で14打数7安打7打点という数字もさることながら、そのうちの4本が長打だった点が素晴らしい。初戦は耐久の好投手・冷水が相手だったが、終盤の7回に真ん中寄りに入ったボールを痛打した打球はレフトの頭上をはるかに超えるタイムリーとなって、試合の趨勢を決めた。新基準バットの影響でなかなか外野手の頭上を越す打球が見られなかった中で、彼の打球は素晴らしい飛距離を見せた。
2回戦で宇治山田商との打ち合いを制すると、準々決勝では関・桜田と剛腕二人を擁する青森山田と激突。初回に1点を先行されるが、2回に青木の勝ち越し打ですぐさま逆転に成功する。青木はこの試合で3安打を放ち、いずれも長打という凄まじい結果を残した。繰り返すが、新基準バットで長打が出にくい大会でのこの結果だけに、なおさら価値がある。前年秋に感じたパワー不足を補うべく続けた努力が、見事に花開いた選抜であった。
右翼手 境亮陽(大阪桐蔭)
新基準バットになり、長打の数が目に見えて減少した2024年の選抜。これまで何度も強力打線を作って甲子園を沸かせてきた大阪桐蔭も例外ではなく、3試合で放ったヒットは20本、長打は4本であった。しかし、そんな中、1番打者としてチャンスメークも決める役割も果たし、縦横無尽にホームを駆け抜けたのが境であった。
初戦の北海戦は、相手投手の制球難に付け込み、1安打1四球と1番としての仕事を果たすと、2回戦の神村学園戦では神村学園の継投策に惑わされることなく、3安打を記録。先発した左腕・上川床からは巧みな流し打ちを見せると、第3打席ではライト頭上を破る打球を放ち、俊足を飛ばしてランニングホームランに!3安打の活躍でチームを8強に押し上げた。
準々決勝では、前年秋に勝利していた報徳学園との対戦に。初回から守備のミスが出て、追いかける展開となり、打線も報徳のエース今朝丸(阪神)の快速球の前に苦戦する。しかし、そんな中にあっても、境のバットはとどまるところを知らず、この試合でも3安打の大当たり。角度も球威も十分の速球に対し、コンパクトなスイングで広角に打ち分け、個人の勝負では完全に境に軍配が上がった。卒業後は、法政大学に進み、早くも活躍を見せており、卒業後のドラフトが今から楽しみである。
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