好左腕攻略した伝統校
選抜8強の浦和学院や前年覇者の日大三、常連校・聖光学院、秋の中国王者の鳥取城北と実力校がそろった2012年夏のGブロック。名門校・天理と好左腕・長友を擁する宮崎工の一戦も注目の好カードであった。

天理は前年秋の奈良大会で3位になりながらも、近畿大会で藤浪(阪神)擁する大阪桐蔭を倒すなど快進撃を見せて準優勝を飾る。結局、あの春夏連覇を達成した2012年のチームを公式戦で唯一破ったのがこの年の天理である。近畿決勝では再び智辯学園に敗れたが、うまくいけば奈良勢同士による甲子園決勝もあるのではないかと思われていた。
しかし、選抜ではエース左腕・中谷が腰の疲労骨折で途中降板する緊急事態に。あとを継いだ速球派の山本が踏ん張っていたが、中盤以降に健大高崎の機動力にかき回され、終わってみたら3-9と初出場校に完敗を喫した。その後、投手陣は中谷に頼らない戦いを控え投手陣が心掛け、打線も4番に座っていた吉村を6番に回したことによって得点力が増した。夏の奈良大会は決勝で智辯学園を倒した畝傍に危なげなく、勝利し、春夏連続出場を達成。選抜のリベンジへ向けた戦いが始まった。

対する宮崎工は2010年の選抜以来の甲子園出場。好左腕・浜田(中日)を擁して、有原(日本ハム)、福田(オリックス)ら好選手を擁するV候補の広陵と互角に渡り合った試合を1年生の春にみた世代が、最終学年となって甲子園出場を決めた。広陵・有原の速球に力負けした教訓からパワーアップを図り、好左腕・長友の好投もあって夏は初めてとなる甲子園出場を決めた。
相手のミスを逃さなかった試合巧者
2012年夏1回戦
宮崎工
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
| 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | × | 3 |
天理
宮崎工 長友
天理 中谷→山本

試合前、地力では優位と思われた天理だったが、宮崎工のエース左腕・長友が予想を上回る投球で天理打線の前に立ちはだかる。見た目の迫力があるわけではないが、低めに丁寧に変化球を集める投球がさえ、特にチェンジアップは打者の左右関係なく投じてタイミングを外す。奈良県大会で2桁得点を重ねた天理の大型打線が完全に沈黙する。
一方、天理のエース左腕中谷も2年生時から甲子園のマウンドを経験しているためか、もう最後の夏は落ち着いたもの。こちらはキレのあるストレートを武器に宮崎工打線を落ち着いて打ち取っていく、両投手の好投が光り、序盤5回は静かな展開で得点は生まれなかった。
しかし、グラウンド整備の終わった6回は試合が動く一つのポイントだ。先にスキを見せたのは中谷。6回表、1アウトから1番浮田にヒットを許すと、2アウト後に3番黒木圭、4番伊比井にヒットが飛び出し、待望の先制点を手にする。全国レベルへと鍛え上げてきた打線がその練習の成果を見せた得点だった。
ところが、先制点をもらったことでかえって宮崎工も硬さが出たか、先頭の1番早田にヒットを許すと、2番東原はバスターをしかける、ショートゴロ併殺のはずがショートがこれをトンネルしてしまい、一転して大ピンチに陥る。ここで選抜の2番から中軸の3番に昇格した綿世が一塁への微妙な当たりを放つ。一塁手のベースカバーした長友への送球がそれる間に2者が生還し、天理がすぐさま逆転に成功する。
相手の隙に付け込んだ天理は7回から速球派右腕の山本を投入。選抜では健大高崎に打ち込まれた山本だったが、この試合は140キロ台の伸びあがる速球を武器に宮崎工打線にランナーを許しながらも得点を与えない。春夏連続では負けれないという意地の詰まった投球だった。
天理は7回裏にも7番木村の2塁打からチャンスをつかむと、9番主将の船曳がスクイズを決めて1点を追加する。大型打者が並んだ天理打線だったが、細かいつなぎの役目をする打者が随所に名を連ねており、非常にいやらしい打線に仕上がっていた。
2点のリードをもらった山本は結局最後まで宮崎工打線に得点を与えることなく、ゲームセット。選抜で勝利をものにできなかったバイオレット軍団が夏は自分たちの野球で1勝を挙げた。
まとめ
この勝利で勢いを得た天理はその後、鳥取城北、浦和学院を下して8強入りを果たす。特に関東王者の浦和学院との試合では序盤から相手のミスにしたたかに付け込んで得点を重ね、終わってみれば6-2と快勝。そこまで2試合で17点をたたき出していた浦学打線を相手に中谷は2失点完投し、会心の勝利を収めた。
それまで数年間は優勝候補に挙げられながら大会序盤での敗退が続いていた天理。しかし、この年は準々決勝で優勝した大阪桐蔭に敗れたものの、それまでのうっ憤を十分に晴らす大会となった。
対する宮崎工も守備の乱れから敗れはしたが、投打ともに実力は天理に決して見劣りしていなかった。強豪私学を相手に公立校でも十分に渡り合えることを示した。
また、それまでの数年は宮崎県としても素晴らしい戦いが続いていた。王者・常葉菊川を最後まで苦しめた2007年の日南学園、剛腕・赤川を擁した2008年の宮崎商、投打とも力強い戦で8強まで進出した2009年の都城商、2試合連続で延長の激闘を演じた2010年の延岡学園、聖光学院の好投手・斉内(ヤクルト)を追い詰めた2011年の日南学園、そして2012年の宮崎工。県を挙げて力を入れ充実した内容の試合が続いた先に、2013年の延岡学園の県勢初の決勝進出が待っていた。


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