名将・小倉監督に率いられ、数々の名勝負を繰り広げてきた日大三。
その代名詞ともいえる強力打線は豊富な練習量に裏打ちされた技術と体力、気力によって培われてきた。これは、その強力打線と対峙した歴代の好投手たちの戦いの記録である。
2018年夏 準決勝 金足農 2-1 日大三

金足農
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 |
| 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 |
日大三
吉田輝星(金足農)
2018年夏の高校野球は大阪桐蔭の春夏連覇で幕をとしたが、大会の主役と言えたのが、金足農の吉田輝(オリックス)だった。初戦から鹿児島実、大垣日大、横浜、近江とことごとく甲子園の優勝・準優勝チームを撃破。特に3回戦の横浜戦は8回裏に6番高橋の逆転3ラン、準々決勝では9番斉藤の小サヨナラ2ランスクイズと、あまりにも劇的な勝ちっぷり!犠打に長打を絡めると言わんばかりの、オールドスタイルの攻撃が見事にはまっていた。
そして、何と言っても吉田輝の好投である。140キロ台後半の速球は、アウトローに突き刺すような球筋で決まり、相手打者は低いと思ったボールがストライクゾーンに決まる。回転軸がほぼ真縦に近いため、空気抵抗を受けずに、まるで藤川球児(阪神)の速球のように伸びる。相手打者はバットに当てることが難しく、ボールがバットの上を通過する場面もよく見られた。
そんな金足農の準決勝の相手が、西東京の雄・日大三である。選抜は三重の定本に完封され、強打の日大三としては悔しい思いをしたが、夏の西東京大会では、打線が奮起。片倉に8-6、東海大菅生に9-6、日大鶴ケ丘に5-3といずれも打撃戦を制し、5年ぶりの代表切符を掴んだ。投げては、中村。井上・広沢と3人の速球投手が先発し、左腕・河村がリリーフするスタイルを確立。小倉監督としても、選抜の時よりも迷いのない投手起用となった。
甲子園では初戦でスラッガー松井(巨人)のいた折尾愛心に16-3と大勝すると、2回戦、3回戦は奈良大付、龍谷大平安と近畿勢を連破。特に2回戦の奈良大付戦は、「青のプライド」が流れる中で、完全アウェーの雰囲気だったが、揺らぐことなく勝ちきる精神面の強さを見せた。そして、準々決勝では下関国際のエース鶴田に7回途中まで無安打に抑え込まれる展開に。しかし、2点ビハインドの8回裏に一気の集中打で逆転!最後はリリーフの河村が締め、劇的な逆転勝ちで優勝した2011年以来の4強入りを決めた。
焦点はもちろん、金足農・吉田と日大三打線の対決。日大三打線は、以前のような長打力はなくとも、準々決勝で見せた粘り強い攻撃は、過去の打線と比較しても引けを取らないものがあった。
しかし、試合開始と共に火を噴いたのは金足農打線だった。1回表、先頭の1番菅原が高めの速球をとらえてセンターへヒット。まるで、前の近江戦のサヨナラ2ランスクイズの勢いがそのまま続いているかのように、ボルテージが上がる。ここは、もちろん犠打で送って1アウト2塁。3番吉田は倒れるも、4番打川のすくったような打球がレフト線へぽとりと落ち、金足農が1点を先制する。
リードをもらった吉田だが、さすがに5試合目とあって前の試合までのようなスピードは出ない。しかし、往年の昭和の名投手がそうだったように、連投でいい意味で力が抜けると、スピードが落ちてもキレは失わない。低めに垂れそうなボールがコーナーに決まり、初回から4イニング連続でヒットを打たれながらもホームには帰さない。
日大三は、4回表に先発・井上が下位打線に連打を浴びると、早くも小倉監督がリリーフエースの河村をマウンドへ送る。このピンチは無失点でしのいだが、5回表に四球のランナーを犠打で進められると、5番大友にタイムリーを浴びて2点目。先手を取った継投でしのごうとしたが、追加点を許してしまう。
ただ、この試合は金足農にもプレッシャーがかかっていたのか、いつもは見られない犠打の失敗が目立つ。この失敗が流れを変えそうになるのだが、要所でことごとく吉田が踏ん張って得点は許さず。まさにエースの投球を見せ、103年ぶりの決勝進出を目指して突き進む。
しかし、8回表、金足農は1アウト満塁のチャンスを作るが、2番佐々木夢のスクイズは失敗に。伝家の宝刀を封じられ、追加点を奪えない。すると、8回裏、日大三は1番金子、2番木代が粘って連打。ここで3番日置はレフトフライに倒れるも、続く4番大塚が意地のタイムリーを放ち、ついに1点差に詰め寄る。
最少得点差で試合は最終回へ。9回の金足農の攻撃を3番手の井上が3人で終わらせると、その裏、日大三は、1アウトから7番飯村、代打・前田が連打。最後まで吉田を苦しめる。しかし、最後は1番金子をセンターフライに打ち取ってゲームセット。金足農が吉田の好投と勝負強い打線で接戦をものにし、ついに第1回大会の秋田中以来となる決勝進出をつかんだ。
ただ、好投手を最後まで苦しめた日大三の粘りも大いに讃えられてしかるべきものであった。2001年、2011年のような圧倒的な強打はなくとも、しぶといチームカラーで結果を残したことは、小倉監督にとって新たな境地を切り開いた思いがあったかもしれない。
20180820金足農業vs 日大三高 8回裏2死 4番大塚 レフトタイムリーヒット
2022年夏 1回戦 聖光学院 4-2 日大三

聖光学院
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 |
| 0 | 0 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 1 | × | 4 |
日大三
佐山未来(聖光学院)
小倉監督最後の甲子園となった2022年夏。2018年以来甲子園から遠ざかっていたが、この年は見事に復活出場を果たした。投手陣は決勝で完投勝利を挙げた左腕・松藤を中心に多彩な陣容。過去は絶対的なエースがいることの多かった日大三だが、この年は4強入りした2018年とどこか被る雰囲気があった。みなコントロールがよく、試合を壊す心配がないため、小倉監督も思い切った継投策がとれそうだ。
打線は東海大菅生の好投手・鈴木を攻略したように破壊力十分。練習試合とはいえ、大阪桐蔭打線を封じ込めた投手を打ち崩したことは大いに自信になった。ヒットの3分の1を長打が占めるように、日大三らしいする力強い打球が飛ぶ。1番藤巻、3番富塚を中心に、勝負強い7番川崎など下位まで切れ目がない。3度目の夏制覇を狙えるチームだった。
その日大三の初戦の相手は、2012年の再戦となる福島・聖光学院。エース・佐山は、抜群のコントロールとテンポでチームに守りのリズムをもたらす。選抜では近江打線につかまってしまったが、最後の夏は球威も増して臨むことができた。2番手には成長著しい右腕の小林剛も台頭してきており、より分厚い投手陣となった。
一方、打線は決して爆発力を秘めているわけではないが、とにかく選球眼が良く、つなぐ意識が高い。特に安田、山浅(中日)の左打者2人はしぶとい打撃が光り、相手投手のちょっとした乱れを逃さない。前年に福島県での連覇の止まったことで、新たに自分たちを見つめなおした常勝軍団が再びの上位進出を狙って乗り込んできた。
日大三はエース左腕・松藤が先発。ところが、聖光学院サイドは大方の予想を覆して、エース佐山に代わり、左腕・小林剛がマウンドに上がった。左の好打者が並ぶ日大三打線に対し、ベテラン斎藤監督が開始からジャブを入れに来る。
しかし、そんなことはお構いなしとばかりに初回から日大三打線は聖光に襲い掛かる。1番藤巻が真ん中低めの変化球をうまくすくってライトにヒットし、犠打で二進。2アウト後に4番朝倉はアウトコースやや甘めに入ったスライダーをジャストミートして、センターのフェンス直撃のタイムリー2塁打とし、1点を先制する。聖光学院としては出鼻をくじかれる格好となった。
対する聖光学院も1回裏、1番赤堀が逆方向への打撃でライト前ヒット。こちらも犠打で二塁に進めるが、松藤は丹念にコーナーを突いて打ち取っていく。選球眼の良い聖光学院打線に対し、粘り負けしない投球を見せる。一方、聖光学院も小林剛が2回、3回とヒットを打たれるが、こちらも変化球主体に低めに丁寧に集める投球で日大三打線をかわす。
斎藤監督の狙いが当たりだしたかと思われたが、4回表に聖光のディフェンスにやや乱れが出る。先頭の5番金沢を四球で出すと、続く6番村上の犠打が野選となって1,2塁。改めて犠打で2,3塁となると、8番大川のセカンドゴロでバックホームが間に合わず、2点目が入る。
強打の日大三に対して、ミスが絡んでの失点は、聖光学院にとってはかなり嫌な失点だっただろう。ただ、さらなる大量失点の危機で、続く9番松藤の投手ライナーが併殺となり、聖光学院としては胸をなでおろす展開となる。
すると、ここ数年で最も力があるという打線が4回裏に反撃を開始する。先頭の2番高中がスライダーを完ぺきにとらえてレフトフェンス直撃の2塁打で出塁。1アウト後に暴投で三進すると、4番三好の高いバウンドのサードゴロの間に生還を果たす。固い甲子園のグラウンドを理解したたたきつける打撃で、そつなく1点を返す。
ゲームが動き始めた中盤、日大三は5回表にも1番藤巻がレフトへの2塁打で出塁する。左打者が左投手から逆方向に打ち返した打撃に、斎藤監督も危機感を覚えたか、犠打で1アウト3塁となって、ついにエース佐山をマウンドに送る。ここで3番冨塚には痛烈なライトライナーを打たれるも、ライト三好が好返球でタッチアップを狙った藤巻を刺し、追加点を許さない。エースへの継投に硬い守備も見せ、失点阻止。聖光学院としては流れを変えるきっかけとなる守りであった。
このいい流れに乗った5回裏、聖光学院は先頭の8番生田目が内野安打で出塁。盗塁失敗のダブルプレーでチャンスを逸しかけるも、当たっている1番赤堀がレフト線への2塁打で再びチャンスを作る。松藤の決め球のスライダーを各打者が確実にとらえ始める。続く2番高中も先ほどはスライダーを2塁打としている。バッテリーの直球勝負を読み切って高めのストレートをとらえると、打球は高々と舞い上がってレフト席に着弾。会心の逆転2ランで聖光学院が初めてリードを奪う。
リードをもらった聖光学院のエース佐山だが、強打の日大三を相手に毎回ピンチを背負う。7回には1アウトから代打・二宮、1番藤巻に長短打を浴びて1.3塁と大ピンチ。しかし、ここで2番寒川のとらえた打球はファースト伊藤のミットに収まり、3番冨塚もセンターフライで後一押しができない。日大三としてはツキにもやや見放されたような攻撃であった。
一方、日大三も必死の継投で7回には2アウト1,3塁のピンチを3番手の右腕・安田がしのぎ、優勝候補の意地を見せて食らいつく。しかし、1点差で迎えた8回裏、4番三好への変化球が甘く入ると、これを三好が逃さずとらえて、レフトへのホームランとなり、4-2。昨秋まではエース佐山におんぶに抱っこと言われた聖光学院だが、一冬そして春を超えて、打線に決定力がついた。
反撃したい日大三も最終回に2アウトから9番二宮がしぶとくヒットを放って出塁。一発出れば同点の場面を作って1番藤巻に回す。ここまで3安打と当たっている藤巻は低めの変化球をたたきつけるが、聖光内野陣がこれを落ち着いてさばいてゲームセット。聖光学院が10年前の対戦に続いて、日大三を接戦で下し、2回戦進出を決めた。
聖光学院は、試合前に斎藤監督が描いたプラン通りに、試合をひっくり返し、勝利を収めた。小林剛は序盤2点を失ったが、ある程度失点をする覚悟で臨んだこともあり、落ち着いた投球ですべて最少失点に抑えた。そして、エース佐山は再三ランナーを背負いながらもコースと高さを間違えない投球で勝利をつかみ取った。球速はそれほどでなくとも、コントロールとキレで抑え込める、そんな印象の投球である、どこか2012年のエース岡野(中日)にも通じるものがあった。
一方、日大三としては自信をもって臨んだ甲子園だったが、聖光学院の試合巧者ぶりに屈する格好となった。結果的にこれが小倉監督の最後の甲子園となり、悔しい結果にはなったが、この年も三高らしさは十分に見えた好チームであった。
10-0で勝つ野球を標榜し、投でも打でも圧倒する小倉スタイル。数々の好投手、そして強打者を輩出した日大三の野球は、21世紀の高校野球を語る上での欠かせないものであった。現在、三木監督がチームを率い、今も全国区の強豪として君臨しているが、小倉監督の残したDNAは確実に継承されているはずだ。


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