ドラマチックな結末を迎えた近畿勢対決
2019年選抜大会は、準々決勝を前に奥川(ヤクルト)を擁する星稜、神宮王者の札幌大谷、秋は練習試合を含めてほぼ負けなしだった広陵と前評判の高かったチームが次々に姿を消し、波乱の様相を呈していた。そんな中、最終ブロックを前評判通りに勝ち抜いてきたのが、明石商・智辯和歌山の近畿勢2校。前年秋の近畿大会で対戦していた両校が再び甲子園で相まみえることとなった。

明石商は前年夏に続いての甲子園出場。1年生で聖地を経験した中森(ロッテ)、1番来田(オリックス)という新2年生の投打の軸が残った新チームは秋の地区大会を力強く勝ち上がる。上級生にも中森と2枚看板を形成する右腕・宮口や、勝負強い主将・重宮、スラッガー安藤と力のある選手が揃い、秋の近畿大会では準優勝。元来、犠打中心に手堅い野球が持ち味の明石商だったが、この年は個々の打力でも局面を打開できる力を持っていた。
すると、本戦では、国士館・大分を寄せ付けず、危なげなく8強に進出。2回戦の大分戦では2ホームランを含む5長打を放ち、13得点で圧倒的な勝利を収めた。ただ、懸念材料としては右腕・宮口が故障で本調子ではなかったこと。2回戦の大分戦は先発したが本調子ではなく、今後の戦いを見据えると、2年生エース中森への負担は大きくなることが予想された。
ただ、その中森は2回戦で自らホームランを放つなど、本戦に入って絶好調。丹波篠山から明石に出てきたダイヤの原石は、やや体の硬さは感じるフォームながらも、持っているエンジンが違う。最速140キロ台終盤の直球と多彩な変化球を武器に、狙うはもちろん春の全国制覇であった。

その明石商に近畿大会準決勝で0-12と大敗を喫し、リベンジを執念を燃やすのが前年の選抜準優勝校・智辯和歌山であった。
平成の常勝軍団も、2012年~2016年までの5年間は春夏通じて出場は3回のみでいずれも初戦敗退と苦しい時代を過ごしてきた。高嶋監督時代のスパルタ指導と選手の気質が合わなくなってきたことも一つの要因だったが、中谷仁(阪神)、古宮克人など選手と年齢の近いコーチが間に入ることで、その問題も解消されつつあった。
すると、2017年夏に久々の1勝を挙げ、夏春連続出場を果たした前年(2018年)の選抜では準優勝を達成。智辯和歌山らしい打たれたら打ち返す攻撃野球で次々に白星をつかみ取った。ただ、打倒・大阪桐蔭を狙った臨んだ同年夏は近江との近畿勢対決で初戦敗退。相手の分厚い継投策にかわされ、エース平田が3ホームランを浴びて力尽きた。高嶋監督はこの夏を最後に勇退。これまでコーチとしてチームを支えてきた中谷が監督に就任した。
しかし、前年からエース池田陽が残ったとはいえ、投手陣は再建途上。西川、黒川(楽天)、東妻(DeNA)、根来と前年からのメンバーがごっそり残った打線と比較すると、不安は否めなかった。すると、近畿大会準決勝では前述したように明石商にコールド負けで敗退。選抜は当確だったとはいえ、課題を残してきた。中谷監督は高嶋監督時代から転換して自主性と考える力を重んじ、特に捕手・東妻にはリードでの考え方のエキスを注入し、配球面での成長を促した。また、打線に関しても打席の中での考え方を伝授し、各打者が迷いなく向かっていけるようになり、チームは攻守ともに成長を見せた。
迎えた甲子園では、初戦で21世紀枠の熊本西に13-2と大勝すると、2回戦では関東王者・桐蔭学園を封じた啓新の投手陣を攻略。安定した野球で2試合を勝ち抜き、ベスト8進出を決めた。迎えた準々決勝は前年秋にコールド負けを喫した明石商との再戦。待ちに待ったリベンジマッチが実現することとなった。
衝撃の2発で聖地揺らした2年生核弾頭
2019年選抜準々決勝
智辯和歌山
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 1 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 |
| 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1× | 4 |
明石商
智辯和歌山 池田泰→小林樹
明石商 中森

先発は明石商が1回戦以来と2年生エース中森。一方、智辯和歌山は、技巧派左腕・池田泰を持ってきた。
1回表、強打者が揃う智辯和歌山の上位打線に対し、中森はやや慎重な投球になったのか、あるいは前日の疲れが残っていたのか、立ち上がりから連続四球を出してしまう。3番黒川は三振に切って取るも、4番東妻も四球を選び、満塁。際どいコースに決して手を出さない智辯の各打者の選球眼が中森を苦しめる。5番根来は高めの速球で三球三振に切って取るも、6番佐藤にはフルカウントからスライダーが高めに抜け、押し出しに。智辯和歌山が重厚な攻めで、まずは1点を先行する。
これに対し、2回戦で完投勝利を挙げていたエース池田陽を休ませるため、この日は他の投手での踏ん張りが必要な智辯和歌山。だが、1回裏に中森の盟友である同じ2年生の来田が大仕事をやってのける。
1回裏、先頭で打席に立つとカウント2-2から外を狙ったスライダーが甘く入るところを逃さない。打球は逆風関係なしでライトスタンドへ着弾。初回の失点をたった一人で跳ね返す一撃を放ち、パンチ力のあるところを見せる。池田泰はこれで動揺したのか、2番水上(楽天)に対してもスライダーが甘く入ったところを3塁線への2塁打にされると、犠打と内野ゴロの間にホームへ。すぐに逆転に成功し、智辯としては痛い初回の守りになった。
すぐに反撃したい智辯であったが、2回表、先頭の8番池田泰が四球で出塁しながらも、続く9番綾原の打席で盗塁に失敗。さらに、その綾原がショートの失策で出塁し、2番西川の2塁打で2,3塁としながら、このチャンスも3番黒川が打ち取られてしまい、活かせない。立ち上がりにやや硬さの見られた中森に対し、もう一つ攻め切れない展開が続く。
すると、2回裏、明石商は1アウトから8番清水が内野安打で塁に出ると、9番中森はバントを失敗して追い込まれながらも、エンドランを成功させて、ライトへのヒットで1,3塁とする。ここで打席には先ほどホームランの1番来田。池田泰のアウトコースの速球を軽々と外野最深部に運ぶと、これが犠飛となってもう1点を追加する。智辯・中谷監督にとっては池田泰にもう少し長いイニングを投げてもらいたかっただろうが、このイニングまででの交代となる。
明石商は、3回以降、中森が徐々に本来の調子を取り戻していく中、智辯和歌山としてはエースが使えず、先発も早期降板と苦しい状況になる。このピンチを救ったのが、2年生右腕の小林(広島)。真っ向投げ下ろしの速球に威力のある若き右腕は、立ち上がりに2つの四球こそ与えたものの、その球威で明石商打線に立ちはだかる。これまでの戦いであまりスポットの当たってこなかった第三の男が試合の行方を占う試金石になってくる。
この小林の好投に応えたい智辯打線。反撃を開始したのは5回表であった。先頭の2番西川がストレートをとらえてレフトへのヒットで出塁。続く3番黒川はここまで2打席チャンスで凡退していたが、初球のアウトコース速球をフルスイングした打球は、背走するレフトの頭上を軽々と超す2塁打に!1塁から西川が生還して、1点を返すと、続く4番東妻もストレートをとらえ、センターへヒットを放つ。これで3者連続でストレートを捉えてのヒットとなり、智辯らしい攻撃になってくる。5番根来はきっちり犠飛を打ち上げ、3塁から黒川が生還。試合は中盤で振り出しに戻る。
ここから、中森・小林の両2年生投手を互いの打線が攻めつける展開となるが、双方ともに再三チャンスを作りながらも得点には至らない。特に智辯和歌山は、7回表に先頭の4番東妻が3塁打で出塁して、絶好のチャンスを迎えるのだが、明石商バッテリーと守備陣の前に得点ならず。一球一球丁寧に堀を埋めるように選択肢を消していく、明石商のハイレベルなディフェンスの前に、あともう1点が奪えない。
ただ、この試合の殊勲者が誰かと言えば、小林になるだろう。こちらも6回裏には先頭打者に2塁打を浴び、7回にはノーアウトから連打を食らって、厳しい局面に立たされるが、ランナーを背負ってからが実に強い。6回は1アウト3塁からこの日2打点の来田を低めのフォークで空振り三振。7回のピンチでは無死1,2塁から飛び出した2塁ランナーを東妻が刺し、バックの堅守にも助けられて無失点で切り抜ける。秋に守乱で大敗した姿は、もうどこにもなかった。
3-3のまま試合は最終イニングへ。9回表、智辯和歌山は先頭の3番黒川がヒットで出塁し、犠打で2塁へ。5番根来は四球で歩いて1,2塁とチャンスを広げる。ここで打席には、今大会好調な6番佐藤。球数が150球を超え、苦しい状況の中森だったが、ここは初球の変化球をうまく打たせ、セカンドゴロ併殺に。打ち気にはやる打者の心理を逆手に取った捕手・水上の配球が見事であった。
ナイトゲームの中、近畿勢同士の白熱した攻防はどこまで続くかと思われた9回裏。結末は突然に訪れる。
この回、先頭は1番来田。第3打席以降は小林が抑えており、智辯バッテリーも力勝負で封じ込める自信があったのかもしれなかった。丁寧な配球でカウント2-2と追い込み、迎えた5球目。小林の真っすぐがど真ん中に入るところを来田は逃さなかった。打球は打った瞬間にそれとわかる当たりでライト席中段へ突き刺さるサヨナラホームラン!智辯の思惑を一瞬で打ち砕いた2年生がヒーローとなり、明石商が同校史上初となるベスト4進出を決めたのであった。
まとめ
明石商は、その後、準決勝で東邦と対戦。終盤に中森が3ランを浴び、明石商も4番安藤の2ランで追い上げたが、後一歩およばなかった。やはり、トーナメントを勝ち抜く上で、中森以外にもう一人柱になる存在は欲しかったか。しかし、夏は兵庫大会決勝で神戸国際大附との死闘を制して代表に名乗りを上げると、甲子園では3年生左腕・杉戸が躍動。スライダーを磨き上げた努力の男が、3回戦で完投勝利を挙げる活躍を見せ、春夏連続で4強へ進出することとなった。
一方、智辯和歌山としては、秋以降の成長の手ごたえをつかんでいただけに、悔しすぎる結末となった。東妻を中心にディフェンス面の成長は素晴らしく、高嶋監督が見ていた前年と比べ、この代は実に投攻守走のバランスが取れた好チームであった。夏は星稜との延長14回の死闘で、またもサヨナラホームランの前に散ることとなるのだが、春夏それぞれ2勝という結果以上に、実力の伴ったチームだったことは、高校野球ファンなら誰もが感じていたことだろう。2019年度の高校野球を象徴するチームの一つであった。


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