ファイナルへの切符をかけた東西強豪の死闘
黄金世代が最終学年を迎えた大阪桐蔭の春夏連覇、金足農の快進撃などに沸いた2018年の高校野球。2018年の選抜では前年に続いての連覇を達成することになる大阪桐蔭だが、準決勝の反対の山では、その王者への挑戦権をかけて、東西の強豪が熾烈な戦いを繰り広げた。
智辯和歌山は前年夏に続いての甲子園出場。前年は1回戦で興南を相手に6点差をひっくり返す大逆転勝ちを果たしたが、この勝利が実に6年ぶりとなる勝利であった。平成の常勝軍団と謳われた強豪も、時代の波に飲まれる形で、高嶋監督も指導体制の変更などで苦労されたようだ。そんな中、林(広島)・文元・富田と中軸がごっそり残り、エース平田も安定した新チームは近畿大会で決勝まで進出。強打の智辯和歌山復活を印象付ける戦いを見せた。
しかし、こと「対大阪桐蔭」という観点で見ると、前年春の近畿大会、夏の甲子園、前年秋の近畿大会と3連敗中。高校球界の新王者を相手に苦杯をなめ続けていた。選抜組み合わせで反対の山に入ったため、戦うには決勝まで進むしかない。富山商、国学院栃木と危なげなく下すと、準々決勝ではその大阪桐蔭を神宮で破っていた創成館と激突。投手力の高いチームを相手に序盤から失点を重ね、2-7とリードを許すが、打線が驚異的な粘りで追い上げる。最終回に2点差を追いつくと、延長10回裏に6番黒川(楽天)のサヨナラ打が飛び出し、逆転勝ち。奇跡の勝利で準決勝へ顔を進めてきた。
一方、東海大相模は秋の関東大会こそ4強どまりだったが、その実力は全国でも屈指と評判だった。2015年に高校野球100周年で全国制覇を達成した時を見て、入学してきた世代。小松、山田、森下(阪神)の1~3番は東海大相模のアグレッシブベースボールを体現する攻撃的な野球で、序盤から相手に襲い掛かる。初回の得点力が異常に高い両校らしく、送っていくないし見ていくということは少なく、エンドラン・盗塁などでガンガン攻め立てていく。
また、投げては本格派右腕の斉藤と技巧派の2年生左腕の野口の2枚看板を確立。特に斎藤は高めの速球に伸びがあり、細身ながらその伸びのあるボールで相手打者を牛耳る投球を見せていた。大会に入ると、聖光学院・静岡・日本航空石川とことごとく前年の地区王者と対戦。序盤から圧力の効いた攻撃で2.3回戦を制すると、準々決勝では強打の日本航空石川も1点に封じ込めて、3-1と勝利。攻守ともに全くスキのない内容で準決勝進出を決めた。
この両校は2000年の選抜決勝で対戦した因縁の相手。当時のエース筑川とこの年のエース斎藤はどこか雰囲気に似たところがあった。また、東海大相模は近畿勢と相性が良く、この対戦まで実に10勝1敗とカモにしていた。智辯和歌山としては是が非でもこの試合を制し、決勝への切符を掴みたいところであった。
終盤に相手エースの決め球を攻略
2018年選抜準決勝
智辯和歌山
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 計 |
0 | 0 | 2 | 3 | 0 | 0 | 1 | 4 | 0 | 2 | 12 |
4 | 0 | 0 | 0 | 2 | 4 | 0 | 0 | 0 | 0 | 10 |
東海大相模
智辯和歌山 池田→平田
東海大相模 野口→斎藤
試合は、智辯和歌山が2年生右腕・池田、東海大相模が2年生左腕・野口を先発に指名。ともにエースを後ろに回し、総力戦の構えであった。
しかし、そんな思惑はいきなりかわされることとなる。1回裏、東海大相模は1番小松が高めの変化球を流し打つと、打球はレフトフェンスを直撃するあたりに。打球が転々とする間に迷いなく3塁を陥れる。続く2番山田も流し打ちでタイムリーを放ち、あっさり1点を先制する。いずれも変化球をとらえた当たり。さらに3番森下はストレートを狙って、こちらもレフト前に運ぶと、4番上杉は四球で無死満塁。ここで5番梶山が甘めの変化球を掬いあげて右中間を破り、走者一掃。いきなり4点を先行する。
普通のチームなら心が折れそうになる相模の猛攻。しかし、準々決勝ですでに奇跡の勝利を収めていた智辯ナインはあきらめない。何より雌伏の時を経て復活にかけるナインの気持ちは一丸となっていた。
打者一巡目は野口の投球にかわされたが、3回裏から反撃を開始する。3回裏、8番東妻(DeNA)がカーブをとらえてヒットで出塁。犠打で二進すると、2アウト後に2番西川、3番林がじっくりと選球して四球を選ぶ。満塁となって打席にはチャンスに強い4番文元。カーブの制球に苦しむ中、カウントを取りに来た真っすぐをとらえ、レフトへの2点タイムリー。試合の流れをぐっと引き寄せる。
さらに4回表には、先頭の6番黒川がラッキーなテキサス性の2塁打で出塁。犠打で二進後に東妻が2打席連続のヒットとなるタイムリーで1点を返すと、ここでも打撃のいい9番平田に犠打を命じ、2塁へ進める。このあたりは名将・高嶋監督に采配の迷いはない。この作戦に応え、1番神崎、2番西川がいずれも右打席から逆方向への打撃でタイムリーを放ち、試合をひっくり返す。相模としてはもう少し野口で引っ張りたいところだったと思うが、智辯の強打がそれを許さなかった。
一方、2回以降、継投した智辯のエース平田の前に沈黙していた相模だったが、こちらも黙ってはいない。5回裏、2アウトランナー1塁から7番渡辺が高めに浮いた変化球をとらえると、打球はライトポール際に飛び込む逆転2ランに。これは捕手・東妻がベンチで高嶋監督に大激怒されたことでも有名になった一打だが、それだけ怖い打者を7番という打順に置けるのが相模の強さであった。
これで流れが傾いたか、6回裏、智辯和歌山に痛いミスが続く。9番佐藤をストレートの四球で出すと、続く1番小松のファーストゴロを文元が悪送球。無死1,3塁となり盗塁で2,3塁に。前進守備を引いた智辯だが、2番山田の痛烈な打球をショート西川が後逸。打球が左中間を転々とする間に2者が生還する。3塁まで進んだ山田を3番森下の犠飛で返すと、その後も2塁打で出た4番上杉がサード林の送球エラーで帰って10点目。内野3ポジションでエラーがついてしまい、10-5。完全に試合は決まったかと思われた。
しかし、ここから再び智辯和歌山の奇跡の猛攻が幕を開ける。7回表に斎藤の暴投で1点を返すが、まだ点差は4点。ただ、8回というイニングはこれまで幾度も智辯和歌山が奇跡を起こしてきたイニングであった。打順が上位に回るこの回が最後のチャンスでもあった。
8回表、智辯和歌山は1アウトから9番平田、1番神崎が連打。いずれもセンターから逆方向への打撃で斎藤に食らいつく。代打・目代は三振で2アウトとなるが、盗塁で2,3塁として打席には3番林。高嶋監督が最も期待を寄せるスラッガーである。相模バッテリーはここで強みとしている高めの速球を選択。しかし、これを林が完ぺきにとらえると打球はあと数十センチでホームランかという当たりで右中間フェンスを直撃。2者が生還し、8-10と2点差に迫る。
この一打は点差を詰めただけでなく、相手バッテリーの頼みとしていたボールを潰したという意味でも大きな一打であった。重圧のかかる中、続く4番文元、5番富田が四球を選ぶと、打席には前の試合でサヨナラ打の6番黒川。初球のスライダーを迷わずとらえた打球はセンターに転がり、再び2者生還のタイムリーに。それまで難攻不落だった相模の右腕が顔色を失う猛攻で、ついに同点に追いついた。
こうなると、試合は智辯のペースに。両エースとも球数がかさんでいたが、より疲労が濃いはずの平田の方が元気になってきていた。野球とは面白いものだ。延長戦に突入した試合は、10回表に智辯が5番富田の犠飛でついに勝ち越しに成功。さらにラッキーボーイの黒川がタイムリーで続き、大きな2点をスコアボードに刻み付けた。投げては平田が実に180球を投じる熱投で最後を締めくくり、12-10で勝利。ついに決勝の舞台にたどりついた。
その決勝では大阪桐蔭と4度対戦。しかし、根尾の好投で自慢の打線を封じ込まれ、2-5と惜敗し、久々の選抜優勝はならなかった。それでも、低迷がささやかれていたチームを久々に上位に返り咲かせたこの年の戦いぶりは見事の一言。翌年に中谷新監督に交代した時には、すっかり強豪の顔に戻り、夏は星稜と延長の大激闘を繰り広げた。2021年にはコロナ明けの夏の大会を制して、21年ぶりの全国制覇を達成。復活を高らかに印象付けた。
一方、敗れた相模の戦いぶりも見事であった。負けてなお強しというか、相模を倒すのはこうも大変なことなのかと思わせるチームであった。終盤は智辯ナインを後押しする球場のアウェーな雰囲気もあり、少し気の毒な面もあった。
翌年夏にも出場を果たし、楽しみな代が続いていた相模だったが、コロナの影響で甲子園大会が中止に。コロナ明けの2021年の選抜大会を制して3度目の優勝を果たしたものの、同年夏はコロナ感染で出場停止となってしまった。一時代を築いた門馬監督だったが、この年を最後に東海大相模の監督を退任。一つの時代が終焉したことを感じさせるとともに、改めて歴史に名を残す偉大な監督であった。
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