ベールを脱いだ地元・兵庫の本格派右腕
2011年夏の2回戦では前評判の高い伝統校同士が初戦で顔を合わせた。

東洋大姫路は2008年の選抜4強の後にやや低迷したこともあって、以前指揮を取っていた藤田監督が復帰。投手育成の定評のある指揮官の元で好投手・原(ヤクルト)が順調に成長していった。兵庫大会決勝では選抜8強の加古川北と対戦。こちらも好右腕の井上と原の投げ合いは引き分け再試合の熱戦となったが、再試合も一人で投げ抜いて完封した原が東洋大姫路に5年ぶりの夏代表切符を呼び込んだ。

一方、海星は2002年以来9年ぶりの出場。就任1年目で甲子園出場を果たした加藤監督だったが、その後は苦しい時期が続き、「どうやって甲子園に行きつけばよいかわからなくなった」とのことだった。しかし、前年からエースの永江(西武)と牧瀬の右の2枚看板が安定したチームは、打っても3番を務める永江を中心に打線が強力に援護。長崎大会を力強く勝ち上がり、自身をもって甲子園に乗りこんできた。
窮地を救った女房役の一発
2011年夏2回戦
海星
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 |
| 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 3 | × | 4 |
東洋大姫路
海星 牧瀬→永江
東洋大姫路 原→岩谷

東洋大姫路はエース原、海星は牧瀬が先発。
やや攻撃力に課題を抱える東洋大姫路打線に対し、海星・牧瀬は序盤は原以上に安定感のある投球でスコアボードに0を並べる。序盤3回の攻防では強打の海星打線が原からチャンスを作るなど、押し気味に試合を進めていた。
しかし、4回裏に入って海星をアクシデントが襲う。1アウトを取ったところで牧瀬が足を引きずる仕草を見せ、途中降板。急遽ショートを守っていた永江がマウンドに向かう。永江が心の準備が整わない中、伝統校がそのスキを逃すわけがない。4番増田は交代後の初球をたたいて2塁打で出塁すると、暴投で三進。続く5番妻鹿がたたきつけた打球は高いバウンドで前進守備を抜け、センターへのタイムリーとなって1点を先制する。
1点を追う海星は6回表、1アウトから3番永江が会心の当たりで3塁打を放ち、同点のチャンスを迎える。しかし、1アウト1,3塁から重盗を狙って1塁ランナーがスタートを切るも、東洋大姫路内野陣の鍛えられた守りの前に飛び出した3塁ランナー永江が刺され、チャンスを逃してしまう。
流れを呼びこんだ東洋大姫路。だが、こちらも7回にアクシデントが発生する。7回裏、藤田監督が死球の原に臨時代走を送ったが、2塁に進んだところでさらに俊足のランナーと交代させたため、原の出場権がなくなってしまった。絶対的エースの突然の降板。名将の思わぬ采配ミスで東洋大姫路が窮地に陥る。
だが、この危機を県大会でほとんど登板のなかった右腕・岩谷が救う。1番江越のヒットなどで2アウトながら3塁にランナーを背負うも、低めを丁寧に突く投球で後続を三振に切って取り、8回表を無失点に。エースの陰で地道に努力を積み重ねてきた右腕が、大舞台で結果を残した。
その裏、東洋大姫路は女房役の後藤田が大仕事をやってのける。3番坪田、5番妻鹿のヒットで作ったチャンスに6番後藤田が永江のストレートをフルスイングすると、打球はレフトスタンドに飛び込む3ランに!東洋大姫路が終盤で大きな追加点を挙げると、9回を岩谷が落ち着いて締めてゲームセット。東洋大姫路が両チームにアクシデントの発生した試合を制し、3回戦進出を決めた。
まとめ
東洋大姫路はその後、3回戦も勝ち進んでベスト8に進出。2001年夏以降、出場5大会すべてで2勝以上を挙げ、出てきた時は安定した強さを見せた。近年は神戸国際大付や明石商など新興勢力に押され気味だが、ここ数年は再び復活の兆しもみられている。守りの野球で勝ち進む「TOYO」の野球を再び見たいファンは多いはずだ。
一方、敗れた海星は好調な立ち上がりだった牧瀬の降板が痛かった。終盤に付け入るすきもあったのだが、落ち着いた守りでしのぎ切った東洋大姫路のディフェンス力が上回ったということなのだろう。しかし、この年の経験を糧にその後は2014年、2016年、2019年と3度甲子園に出場。加藤監督の指導の下、県内屈指の伝統校は輝きを取り戻している。


コメント