延長にもつれこんだ名門同士の死闘
松井秀喜の5打席連続敬遠や選抜優勝校・帝京の初戦敗退、西日本短大付・森尾の熱投など話題に事欠かなかった1992年の選手権大会。その準々決勝第3試合で伝統校同士の白熱のバトルが展開された。

天理は3年連続の選手権出場。一昨年は南(日本ハム)、2年生谷口(巨人)のビッグ投手二人で2度目の全国制覇を果たすと、前年もエース谷口を中心に春夏連続出場を果たしていた。この2年間は大型選手が揃い、スケールの大きなチームであったが、この代は小柄な選手が多く、「山椒は小粒でもぴりりと辛い」という言葉がぴったり。選抜では神宮王者の星稜に終盤逆転勝ちを飾るなど、しぶとい戦いぶりが光っていた。
投手陣は小柄な技巧派右腕・西岡と速球派右腕・井上の2枚看板。ただ、西岡は右人差し指の詰めがはがれた影響でなかなか本来の投球とはいかなかった。そんな中でも、杉原・山崎・山本の中軸を中心とした打線の破壊力ともう一人の右腕・井上の力投で、大会では秀明・樹徳・東海大甲府と関東勢を3タテ。春夏連続で8強入りし、大型チームだった前年を上回る結果を残した。
一方、対するのは愛知の名門・東邦。3年前の選抜で悲願の初優勝を果たしたが、前年夏は1年生右腕・水谷を擁して出場するも、宇部商に0-2と敗れて初戦敗退を喫していた。しかし、この年は本格派右腕・山田貴をエースとし、愛知大会を圧倒的に制覇。前年のリベンジを果たすべく甲子園に乗り込んできた。また、ここ3年間は愛知勢の夏通算100勝がかかっていたが、足踏みが続いており、阪口監督も気合が入っていた。
本戦では初戦で倉敷商と対戦。3年前の夏に春夏連覇を阻止された因縁の相手だった。試合は、序盤から東邦の猛打が爆発し、6点を先行。中盤に山田貴が4点を返されるが、さらなる変劇は許さず、7-4と快勝でリベンジを果たした。続く3回戦では県岐阜商との東海対決となり、山田貴と県岐阜商・高橋の投手戦で0-0のまま9回へ。最後は、東邦の3番萩尾のサヨナラ打が飛び出し、劇的な形でバンビ坂本の1977年以来15年ぶりの夏8強を決めた。
負傷のエースを逃さなかった強力打線
1992年夏準々決勝
東邦
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 計 |
| 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 2 | 5 |
| 0 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 4 |
天理
東邦 山田貴
天理 西岡→井上

先発は天理が井上、東邦が山田貴。天理は継投策を当然視野に入れていたが、西岡の状態が気がかりであった。
序盤は両チームともに無安打で推移。井上、山田貴ともに速球に威力があり、力で相手打線を封じ込めにかかる。特に山田貴は2,3回にかけて5者連続三振を奪い、飛ばしに飛ばす。しかし、中盤になると、両チームの打線が相手投手を攻略にかかる。
4回表、東邦は中軸がつながり、ランナー3塁のチャンスで5番山田斉が犠飛を放って1点を先行する。しかし、直後の4回裏、天理は1番小寺のバントヒットを足掛かりに2アウト2,3塁とチャンスを作ると、5番山本が三遊間突破の逆転タイムリー!選抜の星稜戦でも貴重な一発を放った勝負強さが、この場面でも発揮された。
さらに、5回裏には2アウトから1番小寺がレフト線への流し打ちでヒットを放つと、打球は外野手がクッションを誤るライン上の難しい当たりに。俊足の小寺がヘルメットを飛ばして走りに走ると、そのままホームを駆け抜けるランニングホームランに!追加点を奪い、試合を優勢に進める。
しかし、東邦の強力打線が徐々に球威の落ちてきた井上を捉えだすと、7回無死2塁となったところで、天理・島監督はついに西岡をマウンドへ送る。西岡の得意とする変化球でなんとかかわそうという狙いだったが、いきなり暴投で3塁へ進まれると、6番加藤の犠飛で1点を返される。
2-3で試合は9回表へ。この年は主砲としてチームを牽引した4番水谷が先頭で右中間への2塁打を放つと、1アウト1,3塁とチャンスを広げて、打席には7番布施。西岡の投球に食らいつくと、三遊間深い位置への当たりは併殺崩れとなって、ついに同点に追いつく。
試合はそのまま延長戦へ。こうなると、ケガの影響がある西岡の方が分が悪かった。
11回表、東邦は先頭の4番水谷がこの日3本目のヒットをセンター返しで記録すると、5番山田斉の犠打は天理野手陣のミスを誘って、無死2、3塁とピンチが広がってしまう。6番加藤が四球を選んで満塁となると、西岡の状態はもう限界であった。7番布施に痛烈な当たりでセンターへ運ばれ、東邦が2点を勝ち越し。天理はここで井上が再登板し、後続をなんとか抑えたが、東邦が大きな大きなリードを奪うことに成功した。
だが、天理もこのまま終わるわけにはいかない。11回裏、先頭の代打・増田と山本が連続四球を選び、チャンスを作ると、1アウト後に7番福田のセカンドゴロがエラーを誘い、1アウト満塁に。東邦もお付き合いするように失策でピンチを招いてしまう。ここで代打・堀之内のファーストゴロが併殺崩れとなり、3塁ランナーがホームイン!1点差に詰め寄り、なおも2アウト2,3塁と一打逆転サヨナラの場面を迎える。
しかし、ここで山田貴が再び気合を入れなおす。打席には再登板していた8番井上。カウント2-2と追い込むと、最後は渾身の高め速球の前に空振り三振!大熱闘を制した東邦が、ベスト4の座を薄氷を踏む思いでつかみ取ることとなった。
まとめ
東邦はその後、準決勝の西日本短大付戦で前年までのエース水谷をマウンドへ送る。山田貴のスタミナの問題と、ここまでチームを引っ張ってくれた水谷へのご褒美の意味合いもあった。だが、初回から失点してしまい、早くも山田貴へ交代。好投手・森尾を相手にこのビハインドは大きかった。ただ、春に強いと言われた東邦が見せた夏の快進撃は、阪口監督にとっても非常にうれしいものだったろう。好試合を乗り越えたナインの姿はたくましさに満ちていた。
一方、敗れた天理はエースの負傷により、不運な形での敗退に。しかし、プロ注目の選手がいない中でも春夏計6勝を挙げた戦いぶりは、称賛に値するものであった。勝負強く、攻め時を逃さない攻撃陣、大事なところできっちり守れる守備陣、粘り強い投球を見せる2投手と投攻守のどれをとっても以前に見られたような脆さはなくなっていたのだ。1992年度を代表する好チームだったことは間違いないだろう。
【高校野球】1992年夏(平成4年) 第74回全国高等学校野球選手権大会~ハイライト後編 3回戦~決勝~


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