東邦vs富岡西 2019年選抜

2026年

V候補を慌てさせた「ノーサイン野球」

本命不在と謳われた2019年の選抜大会。その1回戦で選抜最多優勝校を誇る伝統校と21世紀枠の新鋭のカードが組まれることとなった。

平成最初の優勝校・東邦、平成ラストVへまず1勝 21世紀枠・富岡 ...

東邦は2年連続の選抜出場。前年から主軸の3番石川(中日)、4番熊田を中心に打力には定評があり、全国トップクラスなのは明らかだった。ただ、前年の選抜に出場したチームは、秋の東海大会決勝まで練習試合も含めて負けなしという前評判の高いチームだったにも関わらず、初戦で花巻東に3-5と惜敗。相手の技巧派左腕に自慢の打線が封じられ、弱点とされた投手陣はそつのない攻めの前に失点を重ねた。夏も愛知大会予選で敗退し、力がありながら思うように結果を残せなかった。

その後、新チームになっても打線のポテンシャルの高さは一目瞭然だったが、投手陣に柱となる存在がなかなか出てこなかった。野手兼任の石川も秋の段階では不安定さが残り、本戦に向けてどんな投手起用になるかは不透明であった。ただ、そんな中でも主将・熊田を中心に守備や走塁の基本は徹底し、ミスが目立った前年と同じ轍は踏むまいとチームは気合を入れなおしていた。平成最初の優勝を狙う強豪が平成最後のVも狙って甲子園へと乗り込んできたのだ。

東邦が犠飛で先制 21世紀枠・富岡西からリード奪う | 毎日新聞

対する富岡西は野球どころの四国・徳島県からの初出場校。投手陣の柱は昨秋の公式戦を一人で投げ抜いた右腕・浮橋。最速140キロの速球に加え、スライダー・カーブ・チェンジアップ・カットボール・ツーシームと多彩な変化球で狙い球を絞らせない投球が光る好右腕だ。相撲、円盤投げなど多種目を経験してきたことで体の柔軟性も高く、しなやかなフォームからキレのあるボールを投げることができる。

また、打線は、小川監督が掲げるノーサイン野球で活路を見出す。練習で細かい状況設定を行い、選手同士が状況に応じて自らアイコンタクトでサインを出し合う大人の野球を展開する。打撃でも4番を務める浮橋のまわりを高打率の3番坂本、5番吉田が固め、勝負所ではエンドランを仕掛けて得点を奪ってきた。全国の舞台でどこまでこの攻撃が通用するか非常に楽しみであった。

難敵を退け、Vへ弾み

2019年選抜1回戦

富岡西

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 0 0 0 1 0 0 0 1
0 0 1 0 0 0 2 0 × 3

東邦

 

富岡西    浮橋

東邦     石川

さて、V候補でプレッシャーのかかる東邦としては初戦で不気味な相手を引いた格好となったが、図らずも試合は、一方的にはならず、接戦となっていく。

東邦の先発は、打っても主軸を務める3番石川。投打で負担が大きくなるが、この大会は森田監督が「石川と心中する」と覚悟をもっての起用であった。決して、投手らしい投球フォームとは言えないが、持ち前のセンスで内外角に丁寧にコントロールし、序盤、ヒットを許しながらも得点は与えない。

ただ、過去の甲子園を振り返っても、四国からの初出場校は何度も強豪の足元をすくってきた。その背景には好投手の存在があり、この富岡西のエース浮橋も小気味いい投球を見せる。小柄ながらフォームに躍動感があり、伸びのある速球とスライダーを武器に攻めの投球を見せる。2回裏には連打を浴びるものの、落ち着いて後続を抑え、1,2回と無失点。初めてとは思えない落ち着きぶりを見せる。

昨年は先制点を許してリズムを崩した東邦だけに、今年は何としても先制点が欲しいところ。3回裏、その待望の得点を手にする。先頭の9番山田が右方向への打撃で出塁すると、1番松井はランナーを進められなかったが、2番杉浦の打席でボークが飛び出して思わぬ形で進塁する。この動揺をついて杉浦が絶妙なセーフティバントを決めると、3番石川がきっちり打ち上げて3塁から山田が生還。東邦が1点のリードを奪った。

リードをもらった東邦だが、この試合はここからが苦しかった。選手が自分で考えて動く「ノーサイン野球」の真髄が徐々に発揮され始め、中盤から富岡西の攻撃陣の圧力がかかる。状況に応じて、右方向への打撃でエンドランをかけるなど、一球一球狙いが変わり、それに対応する富岡西の選手たち。投打の能力では劣っても、野球を考える力では引けをとらず、4回表には1アウト満塁と一打逆転の場面まで石川を追い込んだ。また、投げては浮橋が4回、5回と調子を上げていき、無失点。富岡西にムードが傾きつつある中、1-0で試合は後半戦へ入っていった。

すると、6回表、グランド整備明けの大事なイニングでついに富岡西のスコアボードに「0」以外の数字が入る。1アウトから4番𠮷田が四球を選ぶと、ここでも選手自らエンドランを敢行!5番安藤が見事な流し打ちでつなぎ、1アウト1,3塁とチャンスを拡大する。この日2安打の山崎は打ち取られるも、2アウト1,3塁となって打席には7番木村。東邦バッテリーの配球がアウトコースに偏ったところを、逃さず食らいつくと、打球は1塁線を破るタイムリー2塁打に!見事な逆方向への打撃でランナーを迎え入れ、富岡西がついに同点に追いついた。

内容的にやや押され気味で硬さも見られる東邦。先発・石川の調子は悪くはなかったが、判官びいきの甲子園ファンは徐々に波乱を期待し始めていた。

だが、2年連続で初戦敗退するわけにはいかない東邦が、7回裏、それまで封じ込められていた浮橋をついに攻略にかかる。

この回、先頭の8番成沢が幸運な振り逃げで出塁。ここは犠打できっちり2塁へ進めると、1番松井が打席に。ここまで3打数無安打と結果の出ていなかった好打者だが、ここは初球からカウントを取りに来たボールを狙い打つ。アウトコースの速球を理想的な打撃で流し打った打球は、左中間に弾み、成沢が生還!さらに2アウト後、3番石川にもタイムリーが飛び出し、東邦が貴重な勝ち越し点を手にした。

富岡西の攻撃陣に終始手を焼いた石川だったが、8回、9回は相手の走塁死もあって、いずれも3人で攻撃を終了。インコースにも綺麗に糸を引くように制球するコントロールの良さが際立ち、終わってみれば、7安打1失点の完投で初戦を突破。昨年の雪辱を晴らし、甲子園1勝を手にした。

まとめ

その後、この1回戦で呪縛から解放されたのか、東邦は破竹の快進撃を見せる。打線は1番松井、2番杉浦のコンビから強力な中軸を経て、好調な6番長屋、7番吉納、8番河合まで続き、穴のない布陣を形成。広陵・河野(広島)、明石商・中森(ロッテ)、習志野・飯塚と好投手を次々に攻略した。そして、なんといっても大きかったのはエース石川の覚醒である。コントロールのコツを完全につかんだのか、ストライクゾーンの横幅をいっぱいに使った投球で、決勝は見事に習志野打線を完封。春に強い東邦の復活を高らかに告げる5度目の優勝を成し遂げることとなった。

一方、結果的にその東邦を最も苦しめたのは、この富岡西か準決勝で対戦した明石商のどちらかということだっただろう。東邦に初戦の硬さがあったとはいえ、「thinking baseball」で強豪を慌てさせた戦いぶりは見事だった。時代が自主性を求める中で、富岡西野球が出した答えはあるいは、正解の一つだったと言えたかもしれない。エース浮橋の好投も際立ち、内容では全く引けをとらない好試合であった。やはり、「四国の初出場校」は侮れない!と言えるだろう。

【ダイジェスト】2019年センバツ 富岡西×東邦

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