2025年の高校球界で大坂桐蔭以来、史上2校目となる2度目の春夏連覇を狙う横浜高校。
あの松坂大輔を擁した1998年の春夏連覇は圧巻の一言であった。そして、この年を皮切りに同校の黄金時代が始まったと言っても過言ではないだろう。小倉部長の緻密なデータ取りによる配球の妙と徹底した下半身強化で、数々の好投手が育った。出場するたびに優勝候補に名を連ね、幾多の大エースを擁して上位をにぎわせた。
しかし、そんな中にあって、全国のライバル校も決して手をこまねいていたわけではなく、幾多の強豪校が自慢の打力で、その横浜の好投手に立ちはだかってきた。
今回は、横浜の投手陣を攻略してきた強力打線を、「強打vs好投手」の対決の歴史として振り返っていきたい。
広陵(2003年選抜 決勝)
本命不在と言われた2003年の選抜大会。実力校目白押しであり、北から南まで強豪がひしめいていた。その中でも優勝候補の一番手グループと目されていた高校の内訳が次のとおりである。
東北…2年生エース・ダルビッシュ擁する東北王者
横浜…成瀬(ロッテ)・涌井(西武)の左右2枚看板に勝負強い打線の関東王者
浦和学院…好左腕・須永(日本ハム)を擁し、3季連続甲子園
遊学館…前年夏に1,2年生だけで8強入り。メンバーが全員残る北信越王者
中京…エース・榊原(オリックス)、核弾頭・城所(ソフトバンク)が引っ張る神宮王者
智辯和歌山…前年夏準Vメンバー多く残る強力打線
平安…西村・西野の強打コンビを擁する近畿王者
広陵…剛腕・西村(巨人)を擁し、3季連続の甲子園
徳島商…四国大会で明徳義塾・鳴門工と、前年の甲子園上位校を連続撃破。エース平岡(巨人)、主砲・東と投打の太い柱を擁する四国王者
明徳義塾…前年夏に悲願の全国制覇、沖田主将を中心に狙うは夏春連覇
延岡学園…強力打線に上田・神尾の左右2枚看板揃えて九州制覇、神宮でも準優勝
そして、大会の組み合わせ抽選を迎えると、なんとこの上記11校のうちの8校がA,Bブロックに固まったのだ。選抜大会は夏の大会と違って、地区大会の上位校が選ばれるため、有力校/出場校の割合は夏よりも高い傾向がある。そのため、組み合わせによっては激戦ブロックができやすいのだ。この大会も決して、C,Dブロックに強豪が少なかったわけではないが、やはり前半ブロックの戦いはシビアなものがあった。
そんな中、関東王者の横浜は、自信の戦力で大会に臨んでいた。前年秋の関東決勝では浦和学院の須永を8回裏に攻略し、一挙3得点で3-1と逆転勝ち。コントロール抜群の左腕・成瀬、快速球を誇る右腕・涌井の2枚看板は強力であり、打線もスラッガータイプの打者こそ不在であるものの、ベンチのハイレベルな要求にこたえられる野球脳の高い選手が揃っていた。
大会が始まると、まずは初戦となる2回戦で盛岡大付を10-0と一蹴(この当時はまだ同校は甲子園での勝利がなかった)。危なげないスタートを切る。
すると、2回戦から強豪との対戦が目白押しとなる。まず、3回戦で明徳義塾と激突。1998年夏に大逆転で下した相手との因縁の再戦であり、前年夏に初優勝を飾ったことで、同校のランクも1つ2つ上がった中での対決であった。この試合は取っては取られの攻防であり、横浜が得点すれば明徳が、明徳が得点すれば横浜が、といった形で両者譲らず、延長戦に突入。最後は延長12回に横浜打線が明徳の2年生エース鶴川をついにとらえれ4点を勝ち越すが、その裏に明徳にも満塁のチャンスがあり、最後までわからない好試合であった。
さらに、準々決勝では近畿王者の平安と息詰まる投手戦に。成瀬と平安の2年生エース服部の投げ合いは2-0のまま終盤に突入する。最終回に吉田のホームランが飛び出し、成瀬が2安打完封と一世一代の好投で試合を制したが、どちらに転んでもおかしくない試合であった。さらに、準決勝では徳島商守備陣の乱れにも乗じてエース平岡から5得点。成瀬から涌井への継投で徳島商打線の反撃をしのぎ切り、5-3で5年ぶりの決勝進出を果たした。
こうして、強豪対決を立て続けに制して決勝にコマを進めた横浜。中でも成瀬は高めの速球の使い方がうまく、一つ間違えば長打を食らいかねない際どい高さの速球で打ち気に逸る打者から空振りを奪った。ただ、この激戦の影響はチームに影を落としたのも間違いなく、1番荒波は明徳戦で骨折し、以後は出場できず。成瀬も爪の割れるアクシデントで、決勝を迎えるに当たって本調子ではなかった。そんな中、反対の山からするするっと勝ち上がってきたのが3季連続出場となる広陵である。
前年の甲子園を春夏経験したエース西村(巨人)がおり、白浜(広島)とのバッテリーは安定感抜群。ただ、打線は昨夏の主力の黒川・黒田・中林が抜け、メンバーが大幅に入れ替わっていた。ディフェンスが安定しているだけに、勝ち上がれるかは打線次第といったところであった。
そんな状況で始まった大会だが、初戦でいきなり中井監督がエースに雷を落とすこととなる。大会序盤に徳島商・平岡が最速147キロを記録したことで、初戦の旭川実戦ではストレートの球速を気にする傾向があった。すると、ベンチで「スピードガンコンテストじゃないんだ!」という叱責を受け、心を入れ替えたエースは、以後は、謙虚な気持ちで好投を見せる。これが功を奏したか、3回戦では遊学館とのV候補対決に6-0で完勝。ベンチワークも冴えて、エンドランを絡めて好左腕・小嶋(阪神)を攻略し、一気に波に乗った。
さらに準々決勝では近江、準決勝では東洋大姫路とともに近畿勢を下す。近江戦は終盤まで2-2と接戦ではあったが、自力では明らかに広陵の方が上回っていた。また、準決勝の東洋大姫路は花咲徳栄との延長引き分け再試合で疲労困憊。満足なコンディションではなく5-1のスコアだったが、よくこのスコアでおさまったなというくらい、広陵が押しっぱなしの試合であった。
こうして、順当に勝ち上がる中、広陵打線は1番上本博(阪神)、2番片山、3番藤田の上位打線が特に好調を維持。簡単に送らずに、積極的に盗塁エンドランを絡め、打席では好球はすべて振っていく。超攻撃的なスタイルで得点を重ね、数字以上の圧力を感じる戦いぶりであった。けが人を抱える横浜としては実に怖い相手だっただろう。
試合
広陵
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 2 | 0 | 2 | 2 | 0 | 4 | 0 | 2 | 3 | 15 |
| 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 3 |
横浜
横浜 涌井→成瀬
広陵 スタメン
| 1 | 上本 |
| 2 | 片山 |
| 3 | 藤田 |
| 4 | 白浜 |
| 5 | 安井 |
| 6 | 山口 |
| 7 | 原 |
| 8 | 西村 |
| 9 | 辻 |
横浜はケガの成瀬に代わって、涌井を先発に指名。明徳義塾戦、徳島商戦とリリーフで好投していたが、先発は初めてであった。試合が始まると、1回表にいきなり1番上本が痛烈なヒット。しかし、横浜守備陣の守備網に引っかかって、けん制タッチアウトとなる。これで落ち着くかと思われたが、2番片山に3塁打を浴びると、3番藤田は先制2ランを放つ。いきなりの出鼻をくじく一発横浜サイドには不穏な雰囲気が漂う。
その後、2回はなんとか無失点で封じるも、3回表に再び上本、片山、藤田の3連打で加点。さらに4回にも上本のタイムリー3塁打が飛び出し、4回で早くも6点を失う。広陵打線は上述した通り、甘く入ったコースはすべてスイングをかけてくるため、横浜バッテリーとしても窮屈な配球を余儀なくされていた印象だ。かさにかかって攻めてくる「サクラの広陵」を前に、2番手の成瀬も勢いを止めきれず、終わってみれば20安打15点の猛攻で、一方的な展開に。西村は大量リードに守られて9安打を浴びながも打たせて取り、15-3で広陵が3度目の頂点に輝いた。
ただ、両校の間にスコアほどの差はなかったことは明らかであった。決勝を迎えるまでの疲労度、コンディションの差が如実に出た結果だっただろう。ただ、それを差し引いても、広陵打線の破壊力は讃えられてしかるべきである。野手陣に前年の経験者がそう多く残ったわけではなかったが、大会を勝ち進むにつれて、どんどん力をつけていった印象だった。

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