横浜高校投手陣を攻略した強力打線列伝⑤

2025年の高校球界で大坂桐蔭以来、史上2校目となる2度目の春夏連覇を狙う横浜高校。

あの松坂大輔を擁した1998年の春夏連覇は圧巻の一言であった。そして、この年を皮切りに同校の黄金時代が始まったと言っても過言ではないだろう。小倉部長の緻密なデータ取りによる配球の妙と徹底した下半身強化で、数々の好投手が育った。出場するたびに優勝候補に名を連ね、幾多の大エースを擁して上位をにぎわせた。

しかし、そんな中にあって、全国のライバル校も決して手をこまねいていたわけではなく、幾多の強豪校が自慢の打力で、その横浜の好投手に立ちはだかってきた。

今回は、横浜の投手陣を攻略してきた強力打線を、「強打vs好投手」の対決の歴史として振り返っていきたい。

北大津（2001年選抜　2回戦）

2008年世代は1年夏に甲子園を経験した松本を中心に、エース土屋（ロッテ）、2年生の主砲・筒香（DeNA）、親分肌の主将・小川、巧打者・倉本（DeNA）とタレントが揃っていた。前年夏は、ライバル東海大相模を相手に、まさかの振り逃げ3ランで敗退してしまったが、新チームは順調に秋の地区大会を勝ち上がる。

秋の大会は投手力の高いチームが有利と言われる中、左腕・土屋の好投はことのほか大きかった。力感の抜けたフォームから繰り出すキレのある速球に、打者のタイミングを外すチェンジアップ、空振りの取れるスライダーと、剛球ではないものの、実戦で攻略するのはなかなか難しい投手である。神奈川大会、関東大会でもほとんど危なげなく勝ち上がり、関東決勝では県大会のリベンジに燃えるライバル慶応を3-2で返り討ちに。貫禄の勝ち上がりで3年ぶりの関東制覇を果たした。

そして、地区大会王者の揃う神宮大会でもまずは、東京王者の関東一を14-2とコールドで下す。続く準決勝では東北の好左腕・荻野に苦戦するも、2-3で迎えた最終回に一挙4点を奪て逆転勝ち。あの松坂大輔の時以来、久しぶりに神宮の決勝へコマを進めた。その決勝では常葉菊川に5-4と惜敗したものの、1-5の最終回に土屋のホームランなどで豪快に反撃。結局、エース戸狩が登板した試合で、常葉菊川を相手に互角の展開に持ち込んだのは、東海大会の中京大中京とこの横浜くらいであった。

大会前の評価でも常葉菊川と横浜が2TOP。土屋という安定感のあるエースがいるため、バランスという意味では優勝した2年前より上なのではという評価もあった。

選抜では、横浜は2回戦からの登場。記念大会だったため、1回戦枠が4つあり、その勝ち上がりを待つ形だった。その相手は滋賀の新興勢力・北大津だった。

2001年に近江が滋賀県勢初の準優勝を成し遂げ、21世紀に入ってから盛り上がりを見せていた滋賀の高校野球。近江一強になるかと思われた中で、待ったをかけたのが若き指揮官・宮崎監督が率いる北大津であった。2004年に好捕手・中西（ソフトバンク）を擁して夏の甲子園に初出場を果たすと、2006年からは3年連続で選抜に出場。技巧派投手を含めた継投策と強気の攻撃スタイルで、近畿地区でも異色の存在として注目されていた。

ただ、前年の2007年は1回戦で大垣日大に4-7と敗退していた。投手陣が不調で3投手で12四死球と完全に自滅した内容。相手の倍近いヒットを放ちながらも、得点差は大きく離されていた。この反省をばねに、前年からの経験者の右腕・河合が成長。近畿大会では履正社に延長戦の末に、12-8で惜敗したが、強豪と互角に打ち合った内容が高く評価され、準々決勝敗退チームの中では一番手で選出された。

迎えた甲子園初戦は東北高校と対戦。2004年の初出場時にも対戦しており、当時はエース・ダルビッシュ（パドレス）のいたガチガチの優勝候補だったため、13-0と大差で敗れていた。この年も好左腕・荻野を擁し、V候補の一角を占める東北王者だったが、北大津は善戦を見せる。2点を先行されるが、河合–金田のバッテリーを中心に相手の機動力を封じ、食らいつく。すると、終盤に相手のミスに乗じて追い上げ、最後は6番橋本のタイムリーで逆転に成功！4年前のリベンジを見事に果たし、2年ぶりの選抜1勝を上げたのだった。

試合

横浜

北大津

横浜　 土屋→田山

北大津　スタメン

横浜としては大会が始まってからたっぷり6日間待たされての初戦。V候補としての出陣であり、10年前以来の春夏連覇を期待されていた。対する北大津は初戦をすでに終えており、昨年の雪辱も果たしている。失うもののない精神状態であり、試合前からマインドは北大津の方が有利だったかもしれない。

序盤は北大津・河合、横浜・土屋の投手戦に。土屋はキレのあるボールで右打者の内角を強気に突き、チェンジアップを交えた緩急でも打者を翻弄する。3回までを終えて0-0。静かな投手戦が続いていた。

試合が動き出したのは4回。1アウトから注目の主砲・筒香がアウトコースのボールを逆らわずに左中間へ打ち返す。高校生とは思えない打球は、未来の日本代表4番であることを、今となっては納得させられるようなものであった。さらに2アウト後には、6番土屋も左中間へタイムリー。打撃も非常に優れているエースのバットで、まずは横浜が先制点を奪う。

リードをもらった土屋。しかし、ここから北大津打線の猛反撃に会う。先頭の2番保木が内野安打を放つと、1アウト後に打席には4番石川（中日）を迎える。前年から主力を務める実力者は、土屋の高めに入ってくる変化球を逃さずとらえると、打球はレフトの頭の上を超すタイムリー2塁打となって同点に！すぐさま試合を振り出しに戻す。

ただ、ここまでは横浜バッテリーもある程度は想定内だっただろう。それだけ、北大津のクリーンアップの評価は高かった。問題はその後。5番金田のライトフライからのタッチアップで2アウト3塁となり、続くは初戦で決勝打を放った6番橋本。カウント0-3となり、四球もある状況となる。ここで横浜バッテリーは待球を予想し、ストライクを取りに行くが、これを橋本は迷わず振りぬく。「攻撃が27球で終わってもいい」という宮崎監督の信念のもと、打てるボールはすべて打っていく北大津の攻撃スタイルが、完全に横浜サイドの虚を突いた。

これで動揺した横浜の2年生捕手・小田はなかなか気持ちを切り替えられない。さらにランナーをためて8番河合には右中間を破る2点タイムリー2塁打を浴び、この回大量4点を失う。取られた点数もさることながら、内容がショックの残る失点であった。

リードをもらった河合は、余裕を持ってスイスイ投じていく。得意のスライダーをコースいっぱいに決め、ランナーを出しながらも要所を締める。8回には1点を返されたが、レフト保木のファインプレーにも救われ、最少失点で切り抜けた。6回には石川、8回には龍田と主軸にホームランも飛び出した北大津が、おわってみれば6-2と完勝。V候補の一角を新興勢力が下す、インパクトある一戦となった。

横浜としては、やはり橋本の逆転打が痛かった。小倉コーチと渡辺監督のもとで、1点にこだわる野球を突き詰めてきた横浜の高度な野球だったが、北大津の「超積極性」はその予想の範疇を上回るものであった。この大会は近畿勢が登場した6校いずれも初戦を突破し、好調ぶりが目立った年でもあった。

第80回 2008年 選抜高校野球大会 北大津 石川駿くん、龍田旬一郎くんのホームラン

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