2025年の高校球界で大坂桐蔭以来、史上2校目となる2度目の春夏連覇を狙う横浜高校。
あの松坂大輔を擁した1998年の春夏連覇は圧巻の一言であった。そして、この年を皮切りに同校の黄金時代が始まったと言っても過言ではないだろう。小倉部長の緻密なデータ取りによる配球の妙と徹底した下半身強化で、数々の好投手が育った。出場するたびに優勝候補に名を連ね、幾多の大エースを擁して上位をにぎわせた。
しかし、そんな中にあって、全国のライバル校も決して手をこまねいていたわけではなく、幾多の強豪校が自慢の打力で、その横浜の好投手に立ちはだかってきた。
今回は、横浜の投手陣を攻略してきた強力打線を、「強打vs好投手」の対決の歴史として振り返っていきたい。
八戸学院光星(2014年選抜 1回戦)

2013年夏から2季連続の甲子園出場となった2014年選抜の横浜高校。2013年夏の神奈川大会では、桐光学園・松井裕樹(パドレス)に対して、浅間・高浜(ともに日本ハム)の2年生主砲コンビがホームランを放ち、3-2と逆転で前年夏のリベンジを見事に果たしていた。甲子園でも丸亀に7-1と豪快に勝利して1勝をマーク。3回戦で優勝した前橋育英に敗れたが、2年ぶりの聖地で存在感を示した。
この年はスタメン9人の内、8人を2年生が占めており、他にも2年生エースの伊藤将(阪神)や好打者・渡辺(楽天、渡辺監督のお孫さん)を擁し、翌年に向けても非常に期待の持てる陣容だった。中でも、丸亀戦で5打数5安打となっとコントロールのうまさを見せた浅間、同じく丸亀戦でインサイドの速球をうまく振りぬいて3ランを放った高浜の二人は、高校球界でも屈指の存在感を放っていた。
また、伊藤がエースとして一本立ちしたことが大きく、当時はまだ細身ではあったが、低めに落ちる変化球に非常にキレがあり、三振の取れる左腕であった。秋の地区大会でも神奈川大会を順調に勝ち上がり、関東大会に進出。準々決勝で好左腕・田嶋(オリックス)のいる佐野日大に3-5と惜敗してしまったが、実力が高く評価され、関東5校目ながら選抜出場を決めた。
2012年の選抜でも関東5校目の選出でベスト8入りを果たしていた横浜高校。チームの地力は赤く評価されており、プレッシャーもかかりにくいため、優勝候補に推す声も多かった。その証拠に、当時の選抜雑誌でも表紙を飾っていたのは、横浜高校ナインを映した写真であった。
さて、その選抜初戦で対戦することとなったのは、東北の強豪・八戸学院光星である。2011年夏から3季連続で甲子園準優勝を果たしており、当時最も勢いに乗っていたチームの一つだ。2012年夏には、横浜高校を下して出場していたあの桐光学園を3-0と下しており、田村(ロッテ)・北條(阪神)の強打で松井裕樹を呑み込んだ姿は、全国を震撼させた。
2000年代初頭に、金沢監督のもとで強力打線を率いて何度も上位進出を果たした同校だったが、2004年からはライバル青森山田が6年連続で甲子園出場を果たしており、光星としては後塵を拝す闘いが続いていた。決して、チーム力が低下したわけではなかったが、なかなか結果が出なかった。そんな状況の中で、2010年3月に仲井監督に交代。翌年からは再び出場を重ねるようになったのは上述のとおりである。
プロ野球に多くの選手を輩出している同校だが、決して練習環境がすごく恵まれているわけではない。プロ野球のスカウトが「この環境からよく多くの有望な選手を輩出しているな」と驚くような状況であった。しかし、そんな中でもしっかり体づくりをし、振り込んで強力打線を形成してきた。中でも、近距離バッティングは有名な練習メニューの一つであり、近い位置から強いボールを投じてもらってそれを打ち返す練習でスイングの強さを磨いてきた。
そんな2年、3年上の世代の甲子園での活躍を見て入ってきたのが、この2014年の八戸学院光星(光星学院から校名変更後、初の甲子園)であった。2年前の主砲・北條の弟の北條裕が先頭打者に入り、巧打の足立を挟んで、森山・深江・蔡の強力クリーンアップが控える。特に、蔡は台湾からの留学生であるため、出場権がこの選抜大会までであり、意気込みは並々ならぬものがあった。左打席からのシュアな打撃には定評があり、ポイントゲッターとしての役割が期待されていた。
その他にも6,7番には、新井勝徳・新井勝貴の新井兄弟も控え、二人とも左打席から強烈な当たりを放つ。上位から下位まで切れ目のない打線を形成し、下級生中心の投手陣を強力に援護した。その投手陣は中川、呉屋、八木(ロッテ)といずれも2年生ながらそれぞれに持ち味が異なるため、継投が実に効果的。捕手の馬場も2年生ながら強気のリードで投手陣を引っ張っていた。
試合
八戸学院光星
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 0 | 1 | 5 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 | 9 |
| 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | 5 |
横浜
横浜 伊藤→日暮→伊藤→小田→伊藤
八戸学院光星 スタメン
| 1 | 北條 |
| 2 | 足立 |
| 3 | 森山 |
| 4 | 深江 |
| 5 | 蔡 |
| 6 | 新井勝徳 |
| 7 | 新井勝貴 |
| 8 | 馬場 |
| 9 | 呉屋 |
さて、1回戦最終カードに組み込まれたこの対戦であるが、仲井監督にとってはこの横浜戦は特別なものであった。2011年夏からの3季連続の準優勝は前人未到の快挙であったが、同監督としてはまだ甲子園を戦う上での「格」が足りていないと思っていた。それは、甲子園の主役を担っていた横浜高校のようなチームを下してこそ手に入るものと考えており、「松井裕樹の桐光学園に勝ってもまだ足りない、横浜を倒してこそワンランクアップできる」と考えていた。
そんな横浜との対戦だが、八戸学院光星としては、投手陣が下級生中心であり、どうしてもディフェンス面ではある程度の失点は覚悟しなくてはならなかった。先発にはエース格だった中川ではなく、長身左腕の呉屋を指名。最初から継投を見据えて総力戦で臨む構えであった。
1回表を横浜の先発・伊藤が無失点で切り抜けると、その裏に横浜打線が早々と先手を取る。死球の1番浅間を犠打で送ると、2アウト後に4番高浜が高めの速球を痛打!打球はセンターの頭上をはるかに超えるタイムリー2塁打となって、1点を先行する。
初回の攻撃を見るに、いつ大量失点があってもおかしくない横浜打線の迫力。光星打線としては早めに得点を重ねておきたいところだ。すると、2回表、早くも反撃に出る。四球のランナーを犠打で送ると、8番馬場が右打席で入ってくるボールを引っ張り、タイムリーで同点に追いつく。伊藤はこの試合、立ち上がりもう一つボールが走っていない印象だった。
これでリズムをつかんだ光星打線は、3回表に一気に伊藤を捕まえる。
先頭の1番北條が豪快なプルヒッティングでレフト線を破ると、1アウト後に3番森山・4番深江と冷静に四球を選ぶ。伊藤の低めに落ちるボールに手を出さず、着々と外堀を埋めるような打席であった。続くは注目の5番蔡。高めに入ったボールを逃さずとらえると、打球はセンターへの2点タイムリーに!左投手攻略の理想とも言えるシュアな打撃である。この一打で勝ち越しに成功すると、さらに、6番新井勝徳の犠飛、8番馬場・9番呉屋のバッテリー勢のタイムリーで一挙5点のビッグイニングとした。
このセーフティリードで余裕を得た光星は、3回途中からエース中川をマウンドへ。内外へコントロールよく投げ分ける右腕が、失点をしながらも傷口を最少にとどめてイニングを消化する。打線は、中盤からは4番深江・6番新井勝徳のホームランで加点し、パワーのある所を見せ、横浜投手陣を圧倒した。横浜としては、エース伊藤が序盤でKOされたのはまさかの展開であり、必死の継投も後手に回ってしまった。
横浜は、最終回に4番高浜のタイムリーで1点を返し、打線は9安打で5点を上げたが、最後は中川が踏ん張ってゲームセット。八戸学院光星が東北勢として初めて横浜高校から勝利し(後に2018年に金足農も勝利)、歴史に残る白星を上げた。光星の仲井監督としては準優勝した2011年~2012年の大会を上回る感慨が残った大会であった。

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