好左腕打ち崩した新鋭校
中田翔(中日)擁する大阪桐蔭が全国的に優勝候補筆頭として注目された2007年夏。しかし、あと1勝で甲子園という大阪決勝で、府内の強力なライバルが立ちはだかった。前年夏、秋と2度にわたって大阪桐蔭に惜敗していた金光大阪。本格派左腕・植松(ロッテ)、技巧派右腕・弓削の左右2枚看板を擁し、前年夏からのメンバーを多く残したチームは、最後の夏に本領を発揮。逆転サヨナラゲームなどもありながら、激戦の大阪大会をしぶとく決勝まで勝ち上がってきた。
植松は春先までは不調にあえいでいたが、夏に復活を遂げ、大事な場面では抜群のコントロールを誇る右腕・弓削が好救援を見せる。また、対大阪桐蔭を想定し、徹底して守備力を鍛えてきたこともあり、内外野ともに鉄壁の布陣であった。特に二遊間の谷田-石井はアンツーカーから出るのではないかというほどの深い守備位置から正確な送球で次々とアウトを稼ぎ、エースを援護していた。
迎えた大阪決勝では初回に、先発・中田から1番石井の先頭打者ホームランなどで初回に3点を先取。この得点をエース植松が高めの速球を武器にした投球で守る。特に得意にしている4番中田は5打席ノーヒットに抑える会心の投球を見せた。打線が最終回に1点を追加すると、最後は1点差に迫られながらも後続を打ち取って優勝。長距離砲がずらりと並んだ打線を3点に抑えた植松は一躍全国注目の投手となった。
そんな金光大阪だが、夏の甲子園は初出場。その初戦の相手は2年前の選抜で初出場ながら準優勝を達成した神村学園であった。
永年、夙川学院でソフトボール界の名将として君臨した長沢監督を創部間もない野球部の監督に招聘。チームの根幹を作り上げ、2005年の選抜では創部2年目で準優勝を達成した。エース野上(西武)、4番天王寺谷という投打の軸を据えながら、その他のスタメンの打順は試合ごとに入れ替えるという猫の目打線で勝ち上がり、その柔軟な采配で全国を驚かせた。
ただ、その年の夏は前田大和(阪神)を擁する樟南に、9回3点差をひっくりかえされて逆転負け。終始リードしていた試合を最後の最後にうっちゃられ、やはり最後は鹿児島御三家(鹿児島実、樟南、鹿児島商)が上回るのかと、悔しい思いをした。
そして、この年、長沢監督から若い山本監督に指揮を受け継いだチームは躍動。右サイドのエース盛を強力打線が援護し、次々と強豪を打ちったる。迎えた決勝の相手は名門・鹿児島実。終盤に1点のリードを許すが、9回裏に相手エースを攻略し、劇的な逆転サヨナラ勝ちで、念願の夏初出場を果たした。
序盤の待球作戦と集中打で、注目左腕攻略す
2007年夏1回戦
神村学園
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 | 0 | 1 | 1 | 6 |
0 | 0 | 0 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 |
金光大阪
神村学園 盛
金光大阪 植松→弓削
初出場同士の対戦で有りながら、両者ともに実力は非常に高く評価されていた。このブロックは、東の横綱・帝京や春の近畿王者・智辯学園、大会最速の右腕・佐藤由(ヤクルト)を擁する仙台育英と強豪がずらり。優勝争いを占うブロックとして注目されていた。
金光大阪は大阪大会のチーム打率が3割6分と打線も好調ではあった。しかし、決して大物うちがいるわけではなく、どちらかと言えば、犠打できっちり送って、3番吉見、4番毛利、5番小松のタイムリーを待つという堅実な野球であった。
これに対し、神村学園は攻撃型のチームである。2年前の選抜では打順を入れ替えながら戦っていたが、この年は、ほぼ不動のオーダーである。2年生捕手の鶴田を4番に据え、同じく2年生ながら長打力のある小原を7番に。キーになる打順に長距離砲を置き、その周りを巧打者で固める怖い打線であった。
試合が始まると、序盤は神村学園ペースとなる。3回には9番若松の内野安打を皮切りに満塁までチャンスを拡大。試合前は打ってくるかと思われた神村打線だったが、バスター戦法で植松の高めの速球に安易に手を出さない。この戦法が功を奏し、細かい制球力が有るわけではない植松の球数はかさんでいく。5回まで2安打3四死球と数字としてはそれほどの印象はないが、すでに球数は100球が見えるところまで達していた。
一方、神村学園のサイド右腕・盛は躍動感のあるフォームから繰り出す癖球が持ち味。序盤3回は、金光大阪打線もタイミングが合わず、静かに0行進でイニングを重ねていた。
しかし、4回裏、苦しむエースを援護すべく、打線が奮起する。好打者の3番吉見が2塁打で出塁すると、4番毛利の四球を挟んで、5番小松が先制タイムリー。さらに6番斎藤の犠飛も飛び出し、2点目。打者2巡目に入って、盛のボールに対応し始めた。
さらに5回裏にも2番古莊のタイムリーが飛び出して3点目。植松も5回までを無失点で切り抜け、金光大阪ペースの試合に思えた。あの大阪桐蔭を倒した自信もあり、3点のリードを守り切る絵図はあっただろう。ただ、神村学園打線が序盤からボディブローのようにかけていた攻撃の圧力が6回表に入って現れ始める。
この回、先頭の2番東のヒットと3番木下のヒットでランナーをためると、犠打で送って2,3塁から植松に暴投が飛び出し、まず1点。さらに6番西をショートゴロに打ち取るが、これを名手・谷田がこぼし、チェンジとなるはずが、アウトが取れない。守りの野球の金光大阪としてはらしくないミスが続いた。
続く、裏の4番である7番小原がタイムリーを放って1点差となると、打席には投げ合ってきた8番盛。球数が100球に到達し、植松の球威も落ちていた。アウトコースのボールを素直に打ち返した打球は、右中間を真っ二つに破り、2者が生還。この回、一挙4点の猛攻で試合をひっくり返した。
自ら逆転打を放った森はこの後勢いに乗る。毎イニングランナーは出すものの、荒れ気味の投球で的が絞りにくく、金光大阪打線は苦戦する。スコアリングポジションに進まれてもあと一本を許さない粘りも光った。
金光大阪は8回表から右腕・弓削をマウンドへ。必勝の投手リレーであり、横井監督も全幅の信頼を置く右腕だ。しかし、その立ち上がり、長打の打てる7番・小原が待ち構えていた。弓削の速球がわずかに甘く入るのを逃さずに引っ張った打球は、なんとレフトスタンドへ飛び込むソロホームランに!金光大阪にとっては痛い一本となったが、長沢監督にとってはしてやったりの一打だっただろう。小原は9回にもタイムリー2塁打を放ち、3安打3打点の大活躍であった。
金光大阪は最終回に望みをつなぐも、最後はタイムリーを放っていた2番古莊が打ち取られてゲームセット。神村学園・盛から6四死球を取りながらも、5安打で3点に抑えられた。全国No.1の優勝候補を下し、勢いに乗って乗り込んだ大阪の新鋭の前に立ちはだかったのは、同じく新鋭ながらしたたかな戦いのできる実力校であった。
まとめ
神村学園としては序盤の攻めが功を奏し、会心の内容でつかんだ1勝であった。2年前の選抜準優勝は、1年生から試合に出ていたメンバーが多く、その恩恵を受けた面もあった。それだけに、名門・鹿実をくだしてのこの年の出場、そして、甲子園での1勝は若き指揮官にとって格別なものだっただろう。そこから時は流れ、今や神村学園は春夏通算12回の出場を誇る、全国屈指の強豪となっている。
一方、金光大阪はほろ苦い夏の甲子園デビューとなった。ただでさえ初出場なうえに、大阪桐蔭を下したことで、報道も過熱し、気の毒な面もあった。ただ、ここから全国制覇を幾度も重ねていくことになる大阪桐蔭に勝った功績は色あせることなく、今も大阪の高校野球ファンの脳裏に刻まれている。この戦いから15年後の春、当時と同じようなバッテリーを中心とした守りのチームで、甲子園初勝利を手にすることとなる。
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