終盤に見せた伝統校の底力
群雄割拠で優勝争いが混とんとしていた2019年の選抜大会。好投手・奥川(ヤクルト)を擁する星稜や神宮王者の札幌大谷、秋の試合でほとんど負けなかった広陵などがすべてベスト8を前に敗退し、4強の顔触れは、あるいは大会前の予想とは少し異なるものになっていたかもしれない。そんな中、準決勝第1試合は、2001年夏に対戦経験のある明豊と習志野の好カードとなった。
習志野は今大会前評判はそこまで高くなかったが、山内、岩沢の技巧派投手が先発してエース飯塚が締めくくる勝ちパターンを確立。2回戦ではV候補の星稜・奥川(ヤクルト)に対してコンパクトなスイングでストレートを狙い撃ちする試合巧者ぶりを見せた。過去夏2度の優勝経験を誇る千葉の伝統校が徐々にその存在感を増してきていた。

一方、明豊は秋の戦いでは打力には定評があるも、投手力にやや不安を抱える内容であった。しかし、本大会では初戦で好左腕・及川(阪神)を擁する横浜に打ち勝つと、2回戦以降は投手陣が奮起。キレのある変化球が武器の2年生左腕・若杉に加えて、ストレートに伸びのある3年生右腕の大畑、寺迫も本領を発揮し、神宮王者・札幌大谷、近畿王者・龍谷大平安を1点差で競り落として初の4強入りを決めた。
相手の強打を振り切った、リリーフエースの熱投
2019年選抜準決勝
習志野
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 1 | 3 | 0 | 6 |
| 3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 4 |
明豊
習志野 山内→飯塚
明豊 若杉→大畑

ともに準々決勝で1点差ゲームをものにした両チームの対戦。攻撃型チームの明豊と試合巧者の習志野という好対照なチームカラーの激突でもあった。
初回に習志野の攻撃を若杉が無難に0で切り抜けると、1回裏に明豊打線がその破壊力を見せつける。1番主将の表がストレートを思い切り引っ張ると、打球はレフトスタンドへ飛び込む先頭打者弾となっていきなり1点を先制。さらに落ち着かない左腕・山内からランナーをためると勝負強い5番薮田が2点タイムリー2塁打を放ち、初回に3点を先制する。
ところが、この3点が攻撃型チームの明豊を受け身に入らせたか、2回以降はチェンジアップを巧みに使う習志野バッテリーの術中にはまってしまう。カウントを取りに来る変化球を見ていくことで不利なカウントになってしまい、最終的に打たせて取られる格好で初回の攻撃が嘘のように凡打を山を築く。
すると、2回戦、準々決勝と逆転勝利を飾った習志野攻撃陣が徐々に明豊の守りに圧力をかけていく。3回表に1アウトランナー2塁からランナーの角田がショートのスキを逃さずショートゴロの間に三進。1,3塁となって重盗で1点を返すと、4番櫻井には広く空いた1,2塁間を狙われてライト前タイムリーでもう1点が入る。明豊にとっては初回につかんだいい流れが早くも水泡に帰すこととなる。
その後、若杉が立ち直って3-2のまま試合は進むが、なにかおいかける習志野の方に流れを行っているような雰囲気は続く。奥川のような好投手が相手でも、明豊のような強力打線が相手でもじっと耐えて自分たちに流れが来るのを待つ我慢強さがこの年の習志野ナインにはあった。
すると、7回表に習志野は球数が100球を超えた若杉をついに捕まえる。先頭の8番兼子が右中間を破る3塁打で週類すると、続く9番小沢はキレイにセンターにはじき返して同点。下位打線の長短打での同点に、明豊・川崎監督もたまらずこの回で若杉をベンチに下げる。
しかし、一旦習志野に傾いた流れは止まらない。8回表、習志野は先頭の4番櫻井が明豊の2番手・大畑の得意とする高めストレートを狙い打ち。ライトスタンドへ飛び込むホームランとなって1点を勝ち越すと、さらに下位打線の3連打に好走塁も絡めてこの回3点を奪う。勝負所で相手投手や守備のスキを逃さない試合巧者ぶりはさすが伝統校と思わせるものだった。
3点のビハインドを負った明豊だが、8回裏に意地の反撃。7回からマウンドに上がっていた習志野・飯塚から2本の長打を放ち、この大会初めてとなる自責点をつける。ただ、飯塚相手に2イニングで3点差はさしもの明豊もきつかった。最終回に四球のランナーを出すも、後続が続かず。習志野が見事な逆転勝利で初の決勝進出を決めた。
まとめ
習志野は決勝では東邦・石川(中日)に2本のホームランを浴びて0-6と完敗。しかし、前年まで3年連続夏の出場を果たしていた木更津総合に覇権を奪われかけていたが、この選抜では久々に存在感を示す戦いができた。夏もそのライバル木更津総合に競り勝って春夏連続出場を達成。熱烈な応援団とともに、これからも習志野が高校球界を盛り上げてくれそうだ。
対する明豊は選抜では初の決勝進出を逃したが、4強進出は過去最高成績であった。川崎監督のもとで着実に力をつけたチームが、2021年の選抜で決勝に進出したのは記憶に新しいところ。ベンチ入りメンバーも含めて全員野球でしたたかに勝ち上がる姿に、どこか2019年に対戦した習志野の姿が被ったのは私だけだろうか。2021年夏の戦いも期待大だ。


コメント