常勝軍団封じ込めた、エースの快投
剛腕・菊池雄星(エンゼルス)の花巻東や堂林(広島)を擁する中京大中京、九州の怪童・今宮(ソフトバンク)の明豊など優勝候補が乱立していた2009年の選手権大会。ベスト8を目前にした3回戦のラストゲームで、左右の好投手同士の投げ合いが実現した。
都城商は名将・原田監督に鍛えられて年々力をつけていたが、公立校の異動の関係で指揮官がチームを離れることとなってしまった。しかし、残されたナインは教えを糧に着々と成長。春季九州大会を着実に勝ち上がると、夏の宮崎大会も圧倒的に制覇。新西、藤本の強力な左右2枚看板と下位まで強力な打線で28年ぶりの出場で上位をうかがっていた。
甲子園では初戦で埼玉・聖望学園と対戦。好左腕・佐藤の立ち上がりをとらえて、6番米良の満塁走者一掃の2塁打などで4点を先制し、5-1と曲者チームを相手に完勝を収めた。続く2回戦では強打の三重高校相手に新西が長打を許しながらも散発8安打の3失点で完投し、打線も着々と得点を重ねて8-3で快勝を収めた。公立校ながら投打に力強い内容で、徐々に存在感を増していた。

対する智辯和歌山はV候補だった前年から野手のレギュラーがほとんど抜け、エース左腕・岡田(中日)にかかる比重が大きくなっていた。その岡田は下級生時はマウンドで感情をあらわにすることが多かったが、最終学年を迎えてメンタル面で成長を遂げる。和歌山大会では智辯和歌山には珍しく、チーム打率は2割4分台と低調だったが、岡田が無失点投球で投げ抜き、5年連続の代表切符をつかんだ。
甲子園では初戦で岡田が県大会同様に落ち着いた投球で滋賀学園を完封する。しかし、大会期間中に発熱してしまい、本調子でなかった2回戦は札幌第一打線につかまって5点を失う。危機的な状況に陥ったが、終盤に代打で出てきた3年生が仕事を果たして1点差に攻めると、最終回に3番西川遥(日本ハム)の逆転タイムリーが飛び出して劇的な逆転勝利を飾った。エースにおんぶにだっこと言われていたチームが底力を見せた戦いぶりだった。
立ち上がりの急襲で、好左腕を攻略
2009年夏3回戦
都城商
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 3 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 |
| 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
智辯和歌山
都城商 新西
智辯和歌山 岡田

前の試合で高嶋監督の甲子園勝利が最多タイ記録に並んだ智辯和歌山。しかし、この試合でもエース岡田の体調はすぐれず、女房役の平野も不安を抱えていた。
すると、1回表に早くも都城打線が火を噴く。先頭の1番吉原のヒットなどで1,2塁のチャンスをつかむと、当たっている5番松原、6番富永が岡田の高めに浮いたボールを逃さず痛打して3点を先制する。この二人に加えて、7番米良を合わせた3人の好調ぶりは大会でも際立っており、相手にすれば中軸がずっと続くような感覚だっただろう。エース新西と智辯のこの年の打力を考えると、この初回の3点はあまりにも大きな得点であった。
だが、反撃したい智辯和歌山打線も前の試合の最終回から勢いが残っていたか、四球で出塁した1番大畑を2塁において3番西川揺の引っ張った打球がファーストを強襲し、1点を返す。取られたすぐ後の得点だけに重要な1点であった。
これで勢いが出るかと思われた智辯和歌山打線だったが、大会に入って好調な新西の投球の前に2回以降は手が出ない。140キロ台の伸びのある速球をアウトローに決める新西に対して、前半は7番北畠の2塁打1本に抑え込まれる。
対する岡田は5回まで毎回の10安打を浴びる苦しい内容。4回表には3番藤本のタイムリーで1点を追加されて4点目を失うが、感覚的にはもっと得点を取られていてもおかしくない内容であった。
反撃したい智辯和歌山は6回に1番大畑のサードゴロエラーと2番岩佐戸のヒットで無死1,2塁と千載一遇のチャンスを迎える。しかし、手首の骨折で本調子でない3番西川が三振に倒れると、後続も打ち取られて得点を挙げることはできなかった。
押されっぱなしの内容だったが、岡田の我慢の投球は非常に見ごたえがあった。7回には無死満塁のピンチを迎えるも、渾身の投球で2三振を奪い、無失点で切り抜ける。真っすぐ勝負にこだわって痛打を浴びた前年の姿ももう微塵も見られなかった。
都城商のエース新西は結局、智辯和歌山打線をわずか5安打に抑えて1失点完投。藤本との2枚看板と大会前は言われていたが、本大会ですっかりエースとして一本立ちし、堂々8強入りを果たした。
まとめ
勝ち上がった都城商は準々決勝では疲れの見える新西が中京大中京・磯村(広島)に先制3ランを浴び、2-6で力尽きた。しかし、1~3回戦まですべて甲子園決勝進出の経験がある高校に対して投打に圧倒して完勝したことは、全国の公立校に大きな自信を与えたことだろう。
対する智辯和歌山はこの大会での高嶋監督の最多勝利記録達成はならなかった。西川揺の残った新チームは選抜の切符をつかみ取ると、本番では雨中の試合で高岡商の好投手・鍋田を攻略。6-1と完勝を収め、記念すべき59勝目を監督にプレゼントしたのだった。


コメント