タレント軍団の進撃止めた北の王者
2005年夏の準決勝第2試合は、前年夏の王者と投打にスター級の選手を擁す優勝候補が激突!大会最注目の好カードとなった。
駒大苫小牧は前年夏に北海道勢初の優勝という快挙を成し遂げ、そこから林-辻の二遊間とサード五十嵐が残り、ディフェンス面は計算できるチームになっていた。しかし、秋の北海道大会を制して迎えた神宮大会では羽黒のエース片山マウリシオに4安打3得点に抑えられ、2桁安打を放った相手と比べ、4-3のスコア以上の力の差を感じる内容となった。また、選抜では開幕戦で勝利を挙げるも、2回戦では神戸国際大付のエース左腕・大西(ソフトバンク)にあわや無安打無得点となる1安打完封負けを喫し、前年のチームと比べて打撃に課題が残るのは明らかであった。
しかし、そんな中で2年生右腕の田中将(楽天)が急成長。130キロ台の高速スライダーを武器に、エース松橋と技巧派右腕・吉岡の投手陣に割って入り、主戦格として頭角を現し始めた。さらに、打線も昨年ほどの破壊力はないものの、持ち味の走塁に磨きをかけ、相手のスキに一気に攻め込んで得点を奪うスタイルで、手ごたえをつかみ始めていた。甲子園では聖心ウルスラ・日本航空を危なげなく下すと、準々決勝では鳴門工を相手に1-6から奇跡的な逆転勝ちを達成。ライト前ヒットで2塁を狙った5番岡山の走塁が相手のミスを呼び、一気に大量点を上げて試合をものにした。
選抜終了時は、「今年もいいチームだが、さすがに優勝は厳しいか」と思っていた駒大苫小牧だったが、ここにきて一気に優勝の可能性は膨らんできた印象だった。
対する大阪桐蔭は、今年は4番平田(中日)、エース辻内(巨人)と投打に太い柱を擁し、大阪勢として久々に全国上位へ勝ち進んできた。正直、総合力では投打とも層が厚かった2004年度のチームの方が上と思われていたが、その代は選抜にこそ出場したものの、夏はPL学園との決勝引き分け再試合に敗れ、出場はかなわなかった。高校野球あるあるだが、1つ上の代がタレントが揃いながらも、結果が出ないと、その代は真摯に努力して結果を残すケースがままある。この代の大阪桐蔭もそんなチームであった。
辻内は2年生時から抜群のスピードと球威があったが、ややコントロールに難があり、最後の夏にそれがどう出るかが心配された。しかし、準々決勝で2年生エース前田健太(ツインズ)のPL学園に4-2と逆転勝ちで昨年のリベンジを果たすと、その後は電車道で勝ち進む。スーパー1年生・中田翔の投打にわたる活躍もあり、甲子園では初戦の春日部共栄戦こそ辻内が打ち込まれて苦戦したものの、その後は自分の投球を取り戻し、8強まで勝ち進んだ。
そして、準々決勝では前年の選抜で敗れている東北と対戦。中盤に辻内が集中打で逆転を許すも、4番平田が4打数4安打3ホームランの大爆発!一人で5打点を挙げる活躍で試合をひっくり返し、優勝候補の大本命が大阪勢としては、大阪桐蔭自身が初出場初優勝を果たした1991年以来、実に14年ぶりに夏のベスト4まで勝ち進んできた。
剛腕を攻略した集中攻撃
2005年夏準決勝
駒大苫小牧
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 計 |
0 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 6 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 2 | 0 | 0 | 5 |
大阪桐蔭
駒大苫小牧 田中→吉岡
大阪桐蔭 辻内
試合の焦点はもちろん、「辻内を駒大苫小牧打線がどう攻略するか」だったが、その一方で、甲子園にきてより一層、調子を上げてきていた駒大苫小牧の2年生右腕・田中が大阪桐蔭打線にどこまで通用するかも見ものであった。
1回表、駒大苫小牧打線は、1番林が四球で出塁すると、犠打で二進。ここで3番辻、4番本間に対して大阪桐蔭バッテリーは変化球主体の投球で連続三振に切って取る。この投球ができるようになったのが、辻内の成長であったが、ややらしくないような感じにも見えた。
一方、駒大苫小牧の先発・田中は好調な入り。高速スライダーを武器に大阪桐蔭の篠原・謝敷・小林と好打者3人を簡単に料理する。4番平田の前にランナーを出さないという香田監督の狙い通りのスタートとなる。
この2年生右腕の立ち上がりを受け、2回表、駒大苫小牧打線の猛攻が始まる。秋春と好投手との対決での敗戦を受け、数少ないチャンス・勝負所で一気に畳みかけられる攻撃を目指してきた成果が表れたのだ。
先頭の5番岡山が四球を選ぶと、すかさず二盗に成功。続く6番青地のバントは小フライとなるが、これがバッテリー間の間に落ちるラッキーな内野安打となり、無死1,3塁に。剛腕を足元から揺さぶる。ここで7番鷲谷、8番田中の2年生コンビがいずれも辻内の130キロ台の速球をとらえ、連続タイムリーとなる長短打を放って一気に3点を先行する。連投のためか、辻内の速球が走っていなかったこともあるが、それにしても見事な攻めである。
まだまだ攻め手を緩めない駒大苫小牧打線。犠打失敗などで2アウトを取られるが、なお1,2塁のチャンスで3番辻がセンターへタイムリーを放つと、3塁を狙ったランナーを刺そうとした送球がそれ、1塁ランナーまでホームを陥れる。この回、一挙5点の猛攻!前年王者でありながら、大会屈指の剛腕に立ち向かっていく彼らの姿はまさにチャレンジャーのそれであった。のちに大阪桐蔭の西谷監督に「本当に強かった」と言わしめた、息をもつかせない猛攻は、駒大苫小牧の集中力と磨き上げた走塁の成せる業だったのだ。
一方、思わぬビハインドを背負うこととなった西の横綱。その前に、のちに海を渡ることとなる2年生の怪腕が立ちはだかる。前日に3ホームランの平田を伝家の宝刀・スライダーで三振に打ち取ると、ここから無双状態となる。140キロ付近ながら伸びのある速球がコーナーに決まり、スライダー・フォークは打者の視界から消えるほどの切れ味を見せる。4試合で48安打を放ってきた大阪桐蔭打線が、5回まで1本のヒットも出すことができない。
これに対し、辻内は序盤は自慢のストレートが走らず、苦しい内容となるが、なんとか踏ん張っていると、5回のピンチをしのいだあたりからようやくエンジンが温まり始める。それまで変化球主体だった投球から、速球で押す元来のスタイルに戻し、駒大苫小牧打線から三振の山を築く。5点のリードがあったとはいえ、このエースの覚醒には香田監督も嫌な予感がしただろう。
すると、序盤から飛ばしに飛ばしていた田中が終盤に入ってやや疲れは見え始める。6回裏、先頭の林がストレートが甘くなったところをとらえて会心の2塁打。これは得点にこそつながらなかったが、空気を換えるには十分な一打であった。
そして、7回裏、先頭は怪物1年生の5番中田。高めの速球に差し込まれたあたりは深く守っていたセンターの前に落ちるテキサス性のヒットとなり、大事なランナーとなる。これを6番米川が当たりそこないながらも内野ゴロできっちり進めると、7番川本はサードを強襲するあたりのヒットを放って中田がホームイン。大阪桐蔭が初得点を挙げる。この回の駒苫の守りや田中の投球は特にまずいところはなかったのだが、何か嫌な形で1点が入ることとなる。
続く打席には7番辻内。もともと打撃はそう期待されていない打者だが、チームの追い風が背中を押したのか、高めの速球を叩いた打球は左中間へ伸びる。外野の間を割るかと思われた打球は、しかし、どんどんどんどん伸びていってスタンドに突き刺さる2ランホームランに!打たれた田中も唖然とする一打。遥か後方にいたはずのV候補筆頭が気づけば、2点差まで迫ってきていた。
勢いは完全に大阪桐蔭に。終盤になって無双モードの辻内から、駒苫打線は点数どころかランナーすらも出ない状況だ。8回裏、大阪桐蔭は先頭の1番篠原がうまい右打ちで出塁すると、犠打で二進。ここで3番主将の小林が初球、高めに浮いたスライダーを逃さず、1塁線を破るタイムリー2塁打を放つ。これが限界点と考えた香田監督はついに田中を下げて、2番手に吉岡を送る。しかし、続く4番平田の打席で痛恨の捕逸が飛び出し、ランナーが3塁へ進むと、平田のショートゴロの間に小林が生還。最終盤にきて、ついに試合が振り出しに戻った。
この勢いを加速させるかのように、9回表は辻内が3者連続三振の力投。サヨナラ勝ちへ向けて、チームを鼓舞するような投球を見せる。しかし、追いつかれても駒苫は冷静だった。ベンチ前で香田監督が「お前ら、大阪桐蔭と試合してるんだぞ、追いつかれるのなんか想定ないだろ」と呼びかけ、挑戦者の気持ちを取り戻す。9回裏、吉岡が四球を出しながらも、後続をきっちり抑え、試合は延長戦に突入する。
迎えた10回表、飛ばしに飛ばしてきた辻内に対し、駒苫の上位打線が牙をむく。
先頭は1番林。前年にサイクルヒットも達成した主将は、辻内のスライダーを理想的な打撃でとらえ、打球は左中間を深々と破る。実に5回以来となるランナーが出ると同時に、大阪桐蔭一色だった球場の雰囲気も変わり始める。2番五十嵐の犠打で3塁に進むと、打席には3番辻。林・五十嵐と同じく昨年の優勝を知る男は、辻内の高め、148キロのボールにも力負けしない。数々の打者が空振りしてきたボールにしっかりアジャストすると、打球はライト線を深々と破るタイムリーとなってついに勝ち越し点を手にする。駒苫の執念を感じさせる一打であった。
さらに、この後、5番岡山にもヒットが飛び出すが、ここはレフト篠原が好返球でタッチアウトに。この流れに乗って攻める大阪桐蔭は、10回裏に1アウトから2番謝敷がヒットで塁に出る。ここで続く3番小林は、先ほどタイムリー2塁打を放っていたが、犠打を敢行。最も信頼のおける、後ろの主砲にすべてを託した。
その平田に対し、投手3人の中で最もスピード・球威には欠ける右腕・吉岡は、しかし、冷静であった。セカンド林を中心に内野も声掛けを徹底。絶対に長打にならないコースを丹念に突き続けると、最後はアウトコース低めのスライダーに平田のバットが出て空振り三振に!フルスイングの男にハーフスイングしかさせなかった駒苫バッテリーの勝ちであった。相手のエースを打ち、4番を抑えるという堂々の勝ちっぷりで、駒大苫小牧が2年連続のファイナルへと勝ち上がったのだった。
まとめ
2試合連続の死闘を切り抜けた駒大苫小牧。気づけば、もう、昨年と同じ「ゾーン」に入っていた。決勝戦は同じく大会中に勢いに乗った京都外大西が相手であったが、経験値としたたかさで駒苫が一枚上であった。終盤に同点にこそ追いつかれたものの、7回裏に内野安打と好走塁で1年生の速球派右腕・本田を攻略。終盤を田中が締め、実に57年ぶりとなる夏連覇を達成し、前年に続く頂点は加害焼いたのだった。
翌年は、斎藤佑樹(日本ハム)の早稲田実に決勝で敗れたが、3年連続でファイナルに進出。あの時代の甲子園の主役が誰がどう見ても、駒大苫小牧であった。走塁とカバーリングを徹底し、全国の強豪にチャレンジャー精神で立ち向かっていった駒苫の野球は、その後の北海道勢のチーム作りにも大きな影響を与えることとなる。
一方、敗れた大阪桐蔭は、投打に太い柱を擁しながらも、惜しくも決勝には手が届かなかった。大阪桐蔭は、ここから3季連続で優勝校に敗退。生みの苦しみというか、真の強豪になっていくための必要なステップアップだったのかもしれない。特に西谷監督にとって、この駒大苫小牧戦の敗戦は非常に得るものが大きかったようだ。この試合を見て、翌年に入学した代が、3年後に大阪桐蔭として17年ぶりの優勝を果たすこととなる。
【駒大苫小牧 vs 大阪桐蔭⚾HDフル動画】第87回全国高校野球選手権大会(平成17年)準決勝「西谷監督を恐れさせた駒苫の雰囲気」 (youtube.com)
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