報徳学園vs日大三 2002年選抜

2002年

1回戦のトリを飾った黄金カード

前年秋に近畿大会、明治神宮大会を圧倒的な強さで制した報徳学園。組み合わせ抽選でどこが対戦相手になるか注目が集まったが、なんとその相手は前年夏の王者・日大三であった。抽選会場がざわめく中、1回戦最後の試合で東西の横綱が激突することとなった。

前年の代からスタメンのほとんどを2年生で占めて戦ってきた報徳学園。噂のタレント軍団は秋の大会でその評に違わぬ戦いを見せた。

エース大谷智久(ロッテ)は最速147キロの速球を武器とする本格派。高めの速球を威力抜群で、相手打者もなかなかバットを止めるのは難しかった。変化球の制球にも優れていて完成度の高い投球ができるタイプであり、選抜で横浜高校の松坂大輔(西武)と対戦経験のあった永田監督は、「平成の怪物」の姿を参考に大谷にアドバイスを送っていた。それほどの期待を込めた逸材であった。

打線も上位から下位までタレントぞろい。1番は50メートルを6秒フラットで走る俊足と一発の魅力を秘めた尾崎(日本ハム)が務め、小技の効く2番橋本を挟んで、天性のバットコントロールを誇る小さな大打者・松下、安定感ある打撃の4番長滝とつながる。

また、5番以降は流動的だったが、中軸を打つ力のある前山、石井の右の長距離砲、打撃もいい投手・大谷、左の巧打者・木下と強打者・巧打者がずらり。相手投手にとってはまるで息を抜くところのない打線であった。

近畿大会では初戦の天理戦で激闘をサヨナラで制すると、準決勝では平安・高塚、決勝では金光大阪・吉見(中日)と好投手を擁するライバルチームに快勝。大谷も徐々に調子を上げて、4試合を一人で投げ抜いた。神宮大会ではエース大谷を完全に温存し、高妻・尾崎・石井がそれぞれ完投勝利を挙げて、秋田経法大付・中京大中京・関西を圧倒。総合力の差を見せつけて秋の頂点に立ったチームは、全国のライバルの標的とされる存在になった。

対する日大三は小倉監督就任以降、徐々にチーム力を強化し、前年夏には悲願の全国制覇を達成。そこから幸内・野崎の二遊間と左腕・清代が残った新チームには夏春連覇の期待がかかっていた。

2001年夏は当時の大会チーム打率の最高記録を更新する猛打で優勝。都築(中日)、内田(ヤクルト)、原島と強打者を擁し、圧倒的な長打力で栄冠を勝ち取ったが、新チームの野手で残ったのは、2番・野崎、7番・幸内の2人だけであった。

秋の戦いでは1番野崎、3番幸内となり、2人が攻撃の軸となったが、そこに怪我で戦線を離れていた藤田が復帰して4番に定着。前年とは違って機動力を使える強みもあり、得点力は決して低くはなかった。

また、投手陣では甲子園を経験した清代がエースとして君臨。夏の2回戦の花咲徳栄戦でリリーフ登板してすっかり自信をつけた左腕、決め球のカーブを武器に安定したコントロールとキレで試合を作り、打たせて取る自分の持ち味を見失わずに、淡々と投げていった。

秋の大会では清代が大事な試合はほとんど一人で投げ抜き、粘り強い戦いで東京大会を勝ち上がると、決勝では強打の二松学舎大付に延長10回6-3と競り勝って優勝。神宮大会でも、スピード感ある野球の九州学院に競り勝ち、前年までの圧倒的な打力はなくとも、勝てるチームであることを証明して見せた。

女房役の一発が勝負を決めた

2002年選抜1回戦

日大三

1 2 3 4 5 6 7 8 9
2 0 0 0 0 0 0 0 0 2
0 0 0 1 1 0 1 0 × 3

日大三

 

日大三   清代

報徳学園  大谷

 

報徳学園と日大三が激突/第74回選抜高校野球 | スポーツ ...

大会は報徳学園を中心に近畿勢が席巻するかと思われたが、智辯和歌山・平安・金光大阪と前評判の高かったチームが次々敗退(相手が関西、浦和学院、明徳義塾と組み合わせに恵まれなかった面もあるが)。気づけば、関西勢は開幕戦に勝利した大体大浪商と報徳学園だけになっていた。

一方、日大三も前年の昨年は姫路工の剛腕・真田(巨人)と対戦しており、2年連続で兵庫勢の好投手を対戦することに。夏も2年連続で上位進出していた樟南と対戦しており、3季連続で初戦は厳しい相手との組み合わせになった。しかし、その強豪・好投手を下すことで自信をつけて優勝に結びつけた面もあり、今大会も初戦を勝つことで勢いに乗っていきたいところであった。

剛腕・大谷を強打・日大三がどう攻略するかが試合の重要な焦点であった。前年よりやや小粒とはいえ、強打の看板を簡単に下げるつもりはない日大三は初回、立ち上がりが課題の大谷に襲い掛かる。

1番野崎が選球眼良く四球を選ぶと、犠打で送って1アウト2塁から打席には3番幸内。積極性の光る好打者は、前年の春夏の甲子園8試合を経験したこともあり、好球は逃さない。インサイドのストレートに対して引き付けてはじき返した打球は、レフト前へのテキサスタイムリーとなって1点を先制。さらに続く4番藤田もライトへタイムリーを放ち、いきなり2点を先行する。

2点のプレゼントをもらった清代は初回の1アウト1,3塁のピンチをしのぐと、2,3回と強打の報徳打線を封じ込める。3回にはけん制でアウトも奪うなど、落ち着いた投球はさすが前年の経験者だ。一方、報徳のエース大谷も2回以降は徐々に本来の調子を取り戻す。初回にタイムリーを放った幸内も、打席で「これだけの伸びのあるストレートは見たことない」と感じ始めていた。

すると、中盤に入って1巡目は眠っていた報徳打線が目を覚ます。4回裏、「野球は2アウトから」の格言通り、2アウトランナーなしから内野安打の5番大谷を1塁において、6番石井がストレートを強烈に引っ張る。打球はあっという間にレフトの横を抜けていき、1塁から大谷が生還。報徳に勇気を与える1点が入る。

さらに5回裏には、下位ながら力のある8番前山のヒットを足掛かりに2アウト1,3塁のチャンスを迎えると、3番松下は清代の決め球のカーブがやや高めの入るところを逃さずセンターに返して、同点に追いつく。前年秋の公式戦で6割台の打率を残した屈指のヒットメーカーが相手投手の得意球を攻略して見せた。

中盤以降、すっかり調子を取り戻した大谷は毎回のようにヒットは許しながらもすべて単打であり、スコアリングポジションにも簡単に進ませない。カウント球にも勝負球にもなるストレートに対して、日大三打線は来るとわかっていながらもどうしても差し込まれてしまう。

次の1点が勝負を決める展開となって横綱同士の好勝負。その得点をたたき出したのは意外な男であった。超タレント軍団の報徳打線に合って唯一打力が劣っていた9番捕手の荒畑。普段は守り専任という印象だったが、決め球のカーブを打たれてストレートの割合が増えていたところを見逃さない。清代のストレートが高めに浮いたところを思い切り引っ張ると、打球はレフトスタンドへ飛び込むホームランとなって1点を勝ち越し。終盤で大きな「1」がスコアボードに刻まれた。

女房役の一発でリードをもらった大谷は8回から9回にかけて5者連続アウトとラストスパートをかける。しかし、そこは日大三にも東の横綱の意地がある。2アウトランナーなしから7番清代、代打・萩原とセンターから逆方向への打撃でヒットを連ね、逆転のランナーまで出塁。さらに一人つながれば、1番主将の野崎までという場面だったが、最後は9番佐藤が空振り三振でゲームセット。終盤も球威の落ちなかった大谷がストレートで押し切り、8安打2失点完投で優勝候補対決を制した。

まとめ

これで勢いに乗った報徳学園はその後、広陵・西村(巨人)、浦和学院・須永(日本ハム)、福井商・中谷と好投手を次々打ち崩し、決勝では鳴門工を圧倒して28年ぶりの優勝を達成。上位打線は調子がなかなか上がらなかったが、石井・前山・木下・大谷の下位打線組が打ちまくり、相手投手を苦しめた。

また大谷も被安打は多かったが、狙われていてもストレートで押し切る投球で5試合をすべて完投。抜群のスタミナと球威を見せつけ、世代No.1の評を裏切らない投球で地元の名門校に春夏通算3度目の栄冠をもたらした。

 

また、日大三も敗れはしたものの、「さすが三高」と思わせるしぶとい戦いであった。特に初回の大谷の立ち上がりを攻めたスピーディーな攻撃は見事であり、改めて「攻めのチーム」であることを感じさせた。エース清代も強打の報徳相手に3失点でに粘り抜き、大谷に勝るとも劣らない投球。投打に実力の高さを見せ、聖地を後にした。

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