大坂桐蔭vs敦賀気比 2014年夏

2014年

大観衆を魅了した強打の応酬

2014年の選手権大会は開幕戦でいきなり選抜王者の龍谷大平安が敗れる波乱の幕開けになった。その後も豪華な投手陣を要した東海大相模やエースで4番の岸(西武)を中心とした明徳義塾など、有力校が次々に序盤で敗退。大会全体では東日本勢が圧倒的に優勢であり、ベスト16の実に11校を占めていた。

そんな中、ベスト4の第2試合で顔を合わせたのが、西日本勢で唯一4強入りした2年前の王者・大阪桐蔭と記録的な豪打で勝ち上がった敦賀気比であった。

大坂桐蔭は3年連続の選手権出場。しかし、春夏連覇を達成した一昨年、森友哉(オリックス)を中心に長距離砲の揃った昨年と違い、この年は個の力では以前のチームほど。秋季大会では大阪府予選でライバル履正社に1-14と惨敗し、選抜出場の道は早くも消滅。その履正社が選抜で準優勝し、大阪の勢力図が入れ替わりそうな様相を呈していた。

しかし、同じく秋季大会でPL学園にコールド負けを喫しながら、夏に全国制覇を成し遂げた2008年のように、冬場の鍛錬を乗り越えたチームは冬場の鍛錬を乗り越えて、春季近畿大会を制覇。2008年のエース福島由の弟の福島孝が左打者の内角へのカットボールを武器に成長し、2年生左腕・田中との2本柱を形成して、チームの骨格が出来上がってきた。

また、打線は、前年からの経験者の森晋、峯本、香月(ロッテ)に加えて、走れる4番正隋(楽天)や言葉で引っ張る主将・中村が絡み、上位打線を形成。特に峯本は攻撃型の2番打者として大阪大会では1試合2ホームランを放つなど、その打棒を発揮。夏の大阪大会準決勝では履正社投手陣を序盤で攻略し、6-2とリベンジを達成して、勢いそのままに夏の舞台に乗り込んできた。

その選手権大会では、初戦の開星戦で初回に4点を失う危機に見舞われるも、田中から福島孝への継投が決まって逆転勝ち。さらに、2回戦では3年連続での対戦となった明徳義塾の岸を香月の先制2ランなどで序盤から攻略して見せ、優勝候補対決を制する。この好投手攻略は殊の外チームに勢いを与え、3回戦では八頭を10-0と圧倒。準々決勝では「機動破壊」のスローガンを掲げる健大高崎を相手に盗塁こそ許したものの、決定打を与えず、主将・中村の勝ち越し2ランなどで5-2と完勝し、気づけば前年の成績を大きく超えるベスト4まで勝ち進んできた。

2014年選手権大会 写真特集:時事ドットコム

一方、敦賀気比は前年の選抜でエース岸本(中日)を中心にスラッガー山田、女房役の喜多とタレント軍団で4強入り。東監督になって初めての上位進出を果たし、手ごたえをつかんでいた。しかし、同年夏は伝統校・福井商のしたたかさに1-5と準決勝で敗れると、新チームは投手陣がなかなか整備できずに苦戦を強いられていた。

しかし、春先から2年生エース平沼(西武)が急成長を見せると、主将の浅井や峯を中心にもともと力のあった打線がかみ合い、夏は福井大会を圧勝。春季大会で敗れた福井工大福井との再戦でも相手を全く寄せつけず、5年ぶりの代表切符をつかみ取った。

すると、大会では敦賀気比の強打が全国を震撼させる。大会初日の第2試合では坂出商の左腕・金丸から峯、篠原のホームランなどで16得点の爆勝スタートを切ると、2回戦では初戦で選抜優勝の龍谷大平安を封じた春日部共栄の好左腕・金子も圧倒。初回に4番岡田のホームランで先制すると、2回までに6点を奪って主導権を強奪した。3回戦でも故障があったとはいえ、盛岡大付のエース松本(ソフトバンク)を打ち込み、16-1と大勝。1921年の和歌山中以来の3試合連続2桁得点での勝利を成し遂げた。

準々決勝では春夏連続出場の八戸学院光星を相手に2桁得点こそならなかったものの、初回の峯の3ランなどで7点を挙げた。また、投げてはエース平沼が抜群のコントロールと配球のうまさを武器に4試合のほとんどを一人で投げ抜いた。この2年生右腕の好投を土台に、監督が「彼らには何も言うことはない、好きに打っていい」という3番浅井、4番岡田、5番峯、6番御簗を中心とした打線が爆発し、記録的な強さで1995年以来となる夏4強入りを果たした。

2年生エース飲み込んだ、王者のしたたかさ

2014年夏準決勝

敦賀気比

1 2 3 4 5 6 7 8 9
5 0 1 0 2 0 1 0 0 9
3 2 0 5 0 3 0 2 × 15

大坂桐蔭

 

敦賀気比  平沼→山本→谷口

大坂桐蔭  福島

ベスト4は三重、日本文理、敦賀気比、大阪桐蔭の面々。その中で大阪桐蔭が唯一夏の優勝経験があった。この年の大阪桐蔭は例年のような圧倒的な破壊力はないものの、攻守にしぶとさがあり、負けにくいチームであった。そんな大阪桐蔭だが、投攻守走の中で唯一投手力については、若干の不安は抱えながらの戦いであり、ベスト4の残り3チームの中で打撃に頭一つ抜けている敦賀気比が一番大阪桐蔭に勝つ可能性が高いと感じていた。

互いに、打棒でリズムをつかみたい両チーム。敦賀気比は平沼、大阪桐蔭は福島孝がそれぞれ先発指名を受けたが、ある程度の失点は両監督ともに覚悟していただろう。

すると、1回表、敦賀気比の打線が早くも爆発する。

1アウトから2番下村が巧みな右打ちで出塁すると、3番浅井、4番岡田がともに火の出るような当たりでヒットを重ね、あっという間に満塁となる。ここで、5番峯がアウトコースの変化球にうまく合わせてレフト前に落として、1点を先制。敦賀気比打線の勢いは止まらない。内外の出し入れでかわそうとする大坂桐蔭バッテリーをあざ笑うかのように連打を連ねると、続く打席には6番御簗。冬練習でもとにかくバットを振り続けられる長距離砲が福島孝の甘く入った変化球をとらえると、打球はライトスタンドへ飛び込むグランドスラムとなって敦賀気比が5点を先制する。

試合前にある程度の失点は想定していた西谷監督だが、さすがにこれは想定外。初回を終えて帰ってきたバッテリーに「取られすぎや」と叱責したが、ここから王者の反撃が始まる。

スター選手が多い大阪桐蔭だが、控えで支えるデータ班の選手たちの能力も秀逸だ。敦賀気比のマウンドを守ってきた平沼の投球時のグラブの癖を見つけ出し、試合前から大阪桐蔭のスタメン陣はある程度、余裕を持って打席に入った。

1回表、1番中村は疲れもあってボールの先行する平沼からカウント0-2とすると、平沼のストライクを取りに来たストレートを狙い打つ。打球は左中間スタンドへ飛び込むホームランとなって、大阪桐蔭が1点を返す。この得点は大阪桐蔭ベンチに勇気を与える1点となる。

制球の定まらない平沼は2番峯本に四球を与えると、3番香月はインサイドに甘く入った変化球をライトに打ち返す。この大会では下位打線が低調だった大阪桐蔭だが、この2番峯本、3番香月のコンビが打ちまくり、補って余りある活躍を見せてきた。大阪桐蔭の誇る最強コンビの前にチャンスメークを許すと、ここで4番正隋にはなんと犠打のサインが出る。ノーアウトからは犠打、1アウトからはエンドランが多い西谷監督らしさの出た采配だったが、これを正隋が見事に決めると、続く5番森晋が1塁線を破るタイムリー2塁打を放って2者が生還。さっきまで5点あった差がすぐさま2点に縮まる。

互いに初回に大量点を失った両投手だが、福島孝はすべて打たれた上での失点であり、2回以降はボール球をうまく打たせて、リズムを取り戻す。深刻だったのは平沼の方。大阪桐蔭の癖を見破った効果もあってか、普段手を出してくれるボール球になかなかバットを振ってくれないため、カウントがどんどん悪くなる。2回裏には四球の中村を1塁において、2番峯本が左中間へ流し打ちを見せると、この打球がなんと左中間スタンドに届くホームランとなって同点に。長く高校野球の歴史を見てきたが、あの流し打ちの角度で上がった打球がスタンドまで届くのを見るのは、高校野球では初めての感覚であった。

しかし、敦賀気比打線も黙ってはいない。3回表、6番御簗が福島孝の真ん中高めに入ったスライダーを振り抜くと、打球は再びライト席へ着弾。2打席連続となるホームランを放って再び一歩前に出る。打てると思ったボールにはどんどん手を出し、しかも確実に長打で仕留める敦賀気比の打撃力は、10年単位で見てもトップクラスに位置する破壊力を秘めていたと言えるだろう。

再びリードをもらった平沼。しかし、相手の持ち味を消す準備と技術力を併せ持つ大阪桐蔭打線の前に、自分の投球ができない。4回裏、先頭の8番福田光(ロッテ)のヒットを足掛かりに2アウト3塁とすると、2番峯本が今度は痛烈なセンター返しで再び同点に追いつく。これで完全に勢いを得た大阪桐蔭は4番正隋の右中間への2点タイムリー(この当たりもあの打ち方でよくここまで飛んだと言える)で勝ち越すと、とどめは5番森晋のライトポール際への2ラン。平沼のコントロールと平常心を奪い、たたみかけた攻撃は圧巻であった。

敦賀気比も5回表には当たっている下位打線の8番山本、9番中本がヒットを連ね、8-10と詰め寄るが、福島孝ー横井のバッテリーは打たれながらも、自分たちの投球を見失っていなかった。大阪桐蔭は6回裏にも3番香月のタイムロー2塁打でダメを押し、ついに平沼をKO。その後も、得点を奪い合ったが、最後までエースがマウンドに君臨した大阪桐蔭が試合の流れを渡さず。15-9で大打撃戦を制した大阪桐蔭が2年ぶり4度目の決勝進出を果たした。

 

まとめ

大坂桐蔭は決勝で三重高校に先行を許す苦しい展開に。しかし、7回裏に1番中村のテキサスタイムリーが飛び出して逆転に成功すると、最終回は三重の3番宇都宮を間一髪の内野ゴロで打ち取り、優勝を達成した。圧倒的なタレント力で優勝をさらってきた大阪桐蔭だが、この年は「負けにくさ」を追究したしたたなか野球で頂点に立った。過去、優勝経験のあった西谷監督にとっても、新たな自信を手にした年になったのではないだろうか。

一方、敦賀気比は準決勝で打ち負けたものの、スタメン全員が打率3割越え、打率4割越えが5人、5試合で7ホームランを記録した打撃は圧巻であった。「学園天国」のリズムに乗って、とにかく打ちまくったこの年の敦賀気比の戦いは、同年同じく4強入りした日本文理とともに北信越勢の攻撃のレベルの高さを証明したことは間違いないだろう。そして、この試合の悔しさをばねに成長した平沼を中心に、敦賀気比は翌年春、福井県勢初の優勝を手にすることとなる。

#1【名試合】2014年 大阪桐蔭 対 敦賀気比 衝撃の乱打戦まとめ – YouTube

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