広陵vs成田 2007年選抜

2007年
今治西―広陵 12奪三振で8回1失点と好投した広陵・野村=甲子園

1回戦で実現した好投手対決

2007年の選抜大会はエースで4番の中田翔(巨人)を擁する大阪桐蔭が優勝候補筆頭にあげられていたが、投手力にやや不安を抱えていたため、絶対的な存在ではなかった。

速球派右腕・佐藤由(ヤクルト)を擁する仙台育英、中村晃(ソフトバンク)・杉谷(日本ハム)など強打者の並ぶ帝京、エース丸(巨人)が軸の関東王者・千葉経済大付、田中健(DeNA)・戸狩のW左腕を擁する常葉菊川、近畿決勝で大阪桐蔭を下した報徳学園、神宮王者の高知、5季連続出場の関西、好投手・熊代(西武)が引っ張る今治西、俊足・藤村(巨人)のいる熊本工と北から南まで優勝候補が散在する状況となっていた。

そんな中、大会屈指の好右腕を擁し、打倒・大阪桐蔭に有力候補だった2チームが早くも初戦で顔を合わせることとなった。

野村祐輔らが明かす、しびれる3年間。広陵OBは修行を経て成長 ...

広陵は5季連続出場を果たした2004年春以来の出場であった。丸2年甲子園から遠ざかっていたが、この年のチームは投打にバランスの取れた陣容に仕上がっていた。エース野村(広島)は抜群のキレを誇るスライダーを武器に、コントロールよく内外に投げ分ける好投手。捕手・小林(巨人)との相性もばっちりで、ストレートとスライダーの2球種で相手を封じ込めることができた。3-2でサヨナラ勝ちした神宮初戦の帝京戦では11安打を浴びながらも、スライダーは1本もヒットを許さなかった。

また、打線も俊足巧打の1番櫟浦(とちうら)から、なんでもできる2番上本崇(広島)がつなぎ、チーム1の好打者・土生(広島)へとつながる。その後も、山下、福田、野村と中距離打者タイプの好打者が並び、つながりの良さは抜群であり、広陵らしい積極的な走塁も絡めて一気に大量点を奪い取る。

何より、このチームには自分たちを過信しない謙虚さがあった。一つ上の世代がのちに日本ハムで最多勝を獲得するエース左腕・吉川やショート松永などポテンシャルの高い選手を擁しながら、夏は広島大会準決勝で敗退したのを目の当たりにしていたからだ。「あれだけ上手かった先輩が出れなかったんだから、俺たちはもっとやらないといけない」というパターンで躍進する世代は近年の高校野球ではよく見られるが、この年の広陵もまさにそんなチームであった。

一方、成田は2年連続の出場。関東王者に輝いた昨年のチームは当時2年生のエース唐川(ロッテ)に加えて、同じ2年生の川村、4番も務める荒木と力のある3投手を使い分けて勝ち上がった。しかし、今年は川村が野手に専念し、唐川が絶対的エースとしてチームを牽引。打線も昨年よりやや力は落ち、唐川への依存度がやや高くなっていた。

しかし、そんな状況をものともしないくらい唐川の実力は図抜けていたのだ。もともとしなやかなフォームから繰り出す速球のキレに相手打者のバットは差し込まれ気味だったが、最終学年になって地のスピードが増したことにより、いよいよ手が付けられなくなっていた。秋季千葉県大会ではのちに強打で関東大会を制する千葉経済大付を2点に封じ込め、完投勝利を挙げている。関東8強で地域性でも不利だったが、絶対的エースの存在が選抜切符を手繰り寄せた。

そんな、唐川を支えるのが1番捕手として攻守でチームを牽引した西田と4番に座るスラッガー勝田であった。下位打線がやや非力な中、この2人にかかる期待は大きく、西田の出塁から勝田のタイムリーというパターンが最も得点が見込めた。スタメンに左打者が最大6人並ぶということもあり、足も絡めての攻撃でも活路を見出したいところだ。

【好投手列伝】千葉県篇記憶に残る平成の名投手 2/3 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

しのぎあい制した、控え投手の一打

2007年選抜1回戦

広陵

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 2
0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1

成田

 

広陵   野村

成田   唐川

広陵2-1成田/上本健が勝ち越し内野安打 | 広陵-成田 ...

総合力で広陵が上回るのは誰の目にも明らかだったが、難攻不落のエース唐川を打ち崩すことが出来なければ勝利は近寄ってこない。1回戦最注目の好カードは期待通りの接戦となった。

1回表、立ち上がりややボールが高い唐川に対し、広陵は1番櫟浦が積極的に打って出てセンターにはじき返す。犠打と2四球で満塁とチャンスを拡大し、唐川を追い込むが、ここは唐川がしっかり腕を振ってインサイドにストレートを投げ込み、6番小林を三振に取る。広陵としては絶好の先制機を逃すことになったが、このあたりのしぶとさはさすが唐川である。

一方、広陵の先発・野村は快調な立ち上がり。こちらはストレーク先行の投球で次々と打たせて取り、立ち上がり上位打線を3者凡退で抑える。左打者の多い成田打線にとってはやや見やすい球筋にも感じられたが、インサイドをきっちり突いて踏み込みを許さず、広陵バッテリーが自分たちの持ち味をしっかり出す。

好投手同士の投げ合いであるだけに両チームともに先制点が是が非でもほしいところ。先に手にしたのは広陵であった。2回表になってもまだストレートが高めに入る唐川から先頭の7番野村がヒットを放つと、1アウト後に9番林はエンドランに応えてレフトへのヒット。さらに1番櫟浦は2打席連続でセンターへ運んで満塁とすると、2番上本崇の併殺崩れの間に野村が生還して1点を先制する。調子が悪かったとはいえ、好球を確実にヒットにする広陵打線はさすがである。

しかし、その裏、広陵は思わぬところからせっかく奪ったリードを吐き出す。簡単に2アウトを奪った後に6番松原のセンタへの当たりを櫟浦が後逸してしまい、ランナーは一気に3塁へ。続く7番唐川のショート深い位置への当たりを上本崇が懸命に処理するも、送球がそれて内野安打になり、松原が生還して成田が同点に追いつく。成田にとっては攻略の糸口が見当たらない雰囲気の中、相手のすきに付け込んだうまい点の取り方であった。

同点になった試合は中盤以降も広陵が押し気味だったが、なかなかホームを踏めない。3回表、4番山下が前の打席で詰まらされたインサイドの速球をレフトに打ち返すと、レフトの一瞬のスキを突いて2塁を奪う。犠打で1アウト3塁となり、続く6番小林の初球のサインはスクイズ。しかし、これを成田バッテリーが外し、山下が三本間で挟まれて得点を挙げられない。

さらに、5回にも連打で1アウト2,3塁のチャンスを作りながら、またしてもスクイズ失敗で3塁ランナーが封殺。唐川相手ということで、中井監督も打って返すのは難しいとの判断だったのだろうが、ここは完全に裏目に出てしまう。この中盤のピンチを立て続けにしのいだことで成田バッテリーは落ち着きを取り戻し、後半からは変化球主体の投球で立て直しを見せる。

一方、野村のキレのある速球とスライダーに抑え込まれていた成田だったが、劣勢を我慢していると流れがやってくるのが野球というスポーツだ。

8回裏、野村は先頭打者の死球を与えると、犠打失敗で1アウトになるものの、1番西田には痛烈にセンターにはじき返される。2番広田にも死球を与え、満塁とピンチを広げたところで打席には3番川村。昨年からの経験者でここまで2安打を放っている好打者が、スライダーをレフトへと打ち返す。浅い当たりだったが、このチャンスを逃したくない成田は3塁ランナーがスタート。しかし、広陵は7-5-2の見事な中継プレーでランナーの生還を許さない。山下、土生の中軸コンビが守備でもエースを支える。

試合は1-1のまま延長戦に突入。10回裏、成田にビッグチャンスが舞い込む。

1アウトから1番西田がレフトへのヒットで出塁。終盤になってさすがに野村の制球も甘くなる。続く2番広田の打席で暴投が飛び出すと、広田は高めの速球をレフトへ流し打ち、1,3塁となる。サヨナラがぐっと近づいた場面で、広陵サイドは勝負の満塁策を選択。ここで打席には主砲の勝田と成田にとって願ってもない展開だったが、痛烈な当たりはセカンドライナーとなって1塁ランナーが戻れず、併殺に終わる。後半に入ってほとんどのイニングでヒットが出ている成田だったが、どうしても決定打を奪うことができない。

11回もお互いにランナーを出し合いながら無得点に終わり、迎えた12回表にようやく決着の時を迎えた。1アウトから3番土生がこの日3本目のヒットとなる右中間への長打を放つと、相手守備陣のスキを見て一気に3塁へ。このあたりの走塁は3回の山下もそうだが、本当に鍛えられている。山下は倒れて2アウトとなるも、打席には5番上本健。野村の控え投手として地道に努力してきた男の放った打球はサード前ぼてぼてであったが、これが功を奏して勝ち越しのタイムリー内野安打となる。野球の神様が味方してくれたような一打であった。

待望のリードをもらった野村は12回裏もヒットのランナーを許したが、最後は後続をきっちり打ち取ってゲームセット。お互いにミスも多く出た試合だったが、見ごたえのある投手戦であり、最後は広陵が名門の意地を見せた格好となった。

まとめ

広陵としては唐川からヒットを放ちながらも、スクイズを含めた犠打のミスもあってなかなかホームを踏めないくるしいしあいであった。しかし、攻撃が機能しない分は、バッテリーを含めた守備陣がしっかり踏ん張り、再三のピンチも好守で踏ん張りを見せた。8回裏の犠飛の中継プレー、10回裏のセカンドライナー併殺、11回裏のセンター櫟浦の飛び出したランナーを刺した併殺と大事な場面でことごとく併殺を奪った守備力は素晴らしいものであった。

また、野村は終盤に入ってやや球威も落ち気味にはなったが、勝負所での制球を誤らないコントロールはさすがの一言であった。この後、準々決勝で立ち上がりを攻められて帝京の秋のリベンジを喫することになるが、夏はその課題も克服して好投を見せる。最後はがばい旋風の前に屈したが、見事準優勝投手に輝いたのだった。

佐賀北vs広陵 2007年夏 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

一方、敗れた成田も中盤までの劣勢を踏ん張って、優勝候補を相手にここまでの接戦に持ち込めたのはチーム力の向上に他ならなかった。唐川も自慢の速球が走らない中で、広陵の強力打線を相手に投球の引き出しの多さでしのいだのはさすがであった。惜しむらくは、秋の戦いで攻撃の軸となった犠打が終盤の大事な場面で決まらなかったことか。ただ、試合内容は観衆の拍手が示していた通り、讃えられるべきものであった。

しかし、その後も控え投手の台頭がなかったことから唐川への負担は大きく、夏の千葉大会では5回戦で東海大浦安に0-1と惜敗。延長14回を戦いながら、エースに援護点を捧げることはできなかった。攻撃力がなくてはやはり勝ち上がれないという課題を解消し、「唐川2世」と謳われた剛腕・中川諒を擁して夏の甲子園4強に勝ち上がるのはそれから3年後のことである。

【好投手列伝】千葉県篇記憶に残る平成の名投手 3/3 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

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