智辯和歌山vs柳川 2000年夏

2000年

20世紀の最後を彩ったナイターの名勝負

2000年夏に優勝候補筆頭と言われた強打の智辯和歌山。そして、そのV候補の打倒一番手として名前が挙がっていた剛腕・香月(近鉄)を擁する柳川。準々決勝でこのV候補の2校が激突した。選抜でも準々決勝で対戦して、智辯和歌山が1-0と僅差で勝利しており、柳川にとっては待ちに待った雪辱戦であった。

智辯和歌山は前年夏がベスト4、選抜が準優勝と着実に全国で結果を残しており、この夏は2度目の全国制覇を狙っていた。高嶋監督の県大会で体力調整はしないという独特の調整法と持ち前の強打が相まって甲子園では3試合で32得点と打棒爆発。3番武内(ヤクルト)、4番池辺を中心にどこからでも長打が飛び出し、3回戦のPL学園戦では計4ホームランを放って、PLの選手をして「初めて野球をしていて怖かった」と言わしめた。

一方、投手陣と守備陣には一定の不安を残しており、選抜でエース格だった左腕・白野が不調で使えない中、中家と山野の右投手2人でなんとか踏ん張ってきた。ともに右のオーソドックスなタイプでインコースをうまく使いながら抑え込たいが、一度崩れだすと止まらないもろさもあった。また、守備陣も毎試合複数エラーを記録しており、受けに回った時はいかに打力が強いとはいえ、危ないのではないかと思われた。

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対する柳川はエース香月を中心に投攻守にまとまった大型チーム。秋の九州大会を圧倒的に制した力は本物で、エース香月はストレートとカーブに加えて、春先以降に覚えたナックルも駆使し、相手打線につけ入るすきを与えない。今大会でも屈指の好投手だった。

また、打線も松尾、永瀬、犬塚ら強打者がずらり。長打力ではやや智辯に劣るものの、得点力では全く引けを取らないだろう。2回戦では初戦で19奪三振を記録した浦和学院のエース坂元(ヤクルト)に対して、初回に速攻で4得点。相手の乱れを逃さないしたたかさも光る。守りも4番で捕手の永瀬を中心に安定しており、選抜後に監督が交代した影響を微塵も感じさせない充実ぶりであった。

 

さて、春の再戦ということになるが、今大会最強の打線と大会No.1右腕のがっぷり四つの戦いに否が応でも期待は高まっていた。

悪夢の8回、魔曲に乗って猛反撃が始まった

2000年夏準々決勝

柳川

10 11
1✖

智辯和歌山

 

柳川     香月

智辯和歌山  中家→松本→山野

打力では智辯和歌山に分があるが、投攻守の安定感では柳川が上か。香月を相手に大量点は難しいと思われただけに、智辯和歌山としては無駄な失点を抑えつつ、継投でしのぎたいところであった。

 

だが、そんな智辯和歌山の目論見は序盤から音をたてて崩れ始める。3回戦から連投となる中家が2回に柳川打線につかまり、5番犬塚のレフト前ヒットと外野のエラーなどで無死、1,3塁のピンチを招く。ここで柳川は7番河埜が取りに来たストレートをとらえて先制タイムリーを放つと、さらにこの回2番宮城のタイムリーにエラーも絡んで2点を追加。選抜で香月を援護できなかった柳川打線が早くも3点をもぎ取る。

 

反撃したい智辯打線は3回裏に4番池辺、4回裏には投手の中家が自らタイムリーを放って1点差に詰め寄る。この日の香月はボールに力はあるものの、やや制球が甘い印象であった。アウトになっても智辯和歌山の各打者の打球は確実に柳川バッテリーに圧力をかけていく。

 

しかし、3回以降立ち直ったかに見えた中家が5回に再び柳川打線に捕まる。4番永瀬、5番犬塚の連打でチャンスをつかむと、6番胡子がカウント3ボールから取りに来たストレートを逃さず、レフトへのタイムリー2塁打として2点を追加する。ここで高嶋監督は中家をあきらめて、この大会初登板の松本を送るも、ランナーを3塁においてボークを取られ、6点目。リリーフエース山野にスイッチするも、あの香月を相手に4点のビハインドとあって、監督も選手もこの段階で勝利をあきらめていた。

 

香月は序盤はややコントロールに苦しんだが、中盤以降は変化球主体に立ち直って智辯和歌山の強打を封じ込んでいく。ストレートにめっぽう強い智辯の各打者もなかなか狙い球を絞らせてもらえない展開が続いていた。

 

そんな中で、7回表に流れを変えるプレーが出る。1番池田がレフト方向へはじき返した打球を智辯のレフト井口が後逸。痛いところでまたミスが出たかと思った矢先、池田は一目散にホームへ向かう。打球をそらした井口だったが、あとの処理は迅速に行い、中継プレーでホームタッチアウトに。柳川としては上位打線だっただけに無理をする場面ではなかったが、智辯の強打を相手に1点でも多くリードしたい気持ちがホームへ突っ込ませてしまったのだろう。

 

そして、やや球威の落ちてきたと永瀬が思っていた8回裏に、智辯の猛攻が始まる。まずは1アウトから選抜で香月から唯一の得点をたたき出した3番武内が低めのストレートに対してバット一閃。打球はあっという間にライトスタンドへ突き刺さった。ただ、それでもリードは3点。まだ慌てる場面ではない。しかし、球場のムードはジョックロックに乗って最高潮となり、4番池辺の死球と5番後藤のセンター前ヒットでランナーがたまる。

 

ここで打席には6番の山野。前日のPL戦で2ホームランを放ち、ポイントゲッターかつリリーフエースと投打の中心の男は「ここで一発出れば同点やなぁ」とぼんやり考えながら打席に入る。そして、香月の指の豆はこの回で敗れてしまっていた。ボールの制御が効かない香月の高めに浮いた変化球を山野がとらえた打球は高々と舞い上がる。レフトフライかと思われた打球はしかし、浜風にも乗ってぐんぐん伸び、左中間に弾む同点3ランに!まさかの展開に呆然とする柳川ナイン。4点のリードがふいになり、流れは完全に智辯和歌山のものとなった。

 

しかし、本来の球威も制球もないはずの香月はここから粘る。変化球が投げずらく、ストレート主体となりながら懸命の配球と丹念な投球のあの智辯打線を打ち取っていく。智辯和歌山の各打者も血の付いたボールを見て本来の投球でないとわかっていたが、それでも投げ続ける香月に感嘆せずにはいられなかった。

 

試合は延長戦に突入し、白熱した攻防が続いたが、11回裏についに決着が訪れた。2四球でランナーをためると、最後は5番後藤がアウトコースのストレートを見事流し打ちでライト線へ運ぶ。ライト胡子が懸命に追うも及ばず、智辯和歌山が劇的なサヨナラ勝ちでリベンジを狙った好敵手を返り討ち。2年連続の4強入りを果たした。

まとめ

智辯和歌山は信じられないような逆転勝利で4強入り。準決勝、決勝も苦戦しながらも逆転勝利をおさめ、3年ぶり2度目の栄冠に輝いた。智辯和歌山のベストゲームを挙げれば、必ずこの試合が出てくるが、ゴロよりフライ、そして長打を狙う打撃、体力で相手を上回る野球、相手に圧力をかけるフルスイングと智辯和歌山の歴史の中でも最も「らしい」チームだったと言えるのではないだろうか。大会通算100安打など数々の記録を塗り替えた20世紀最後の夏は今でも私たちの脳裏に焼き付いている。

そして、そんな智辯打線に一人で立ち向かったエース香月の戦う姿勢もまた見事であった。豆をつぶしながらも投げ続ける姿に、後ろで守るナインはどれほど勇気づけられただろう。選抜では完封された打線もこの試合は6点を奪って、九州最強とうたわれた打線の意地を見せた。結果、負けはしたものの、あの夏智辯を最も苦しめた投手。そしてチームとして香月と柳川の名もまた球史に刻まれるものとなった。

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