東北vs平安 2003年夏

2003年

2年生エース同士の珠玉の投手戦

2003年の夏は2回戦で強豪同士の対決が続いて優勝候補が次々に姿を消す波乱の展開となった。その関係もあって、3回戦の戦いでは16校残ったチームのうち、現実的に優勝を狙えるチームは4~5校くらいだった。そんな中で、大会前から優勝候補に挙がっていた東西の伝統校が相まみえた。

東北は2年生エースのダルビッシュ(パドレス)を中心に打者陣も家弓大沼横田と主軸を2年生が務める若いチームだった。この学年は入学前に仙台育英の不祥事により、県内外の有力選手が集中して入ってきた世代。名将・若生監督の元、東北勢初優勝に期待がかかっていた。そんな若い才能あふれる学年を、主将・片岡、捕手・佐藤(巨人)や宮田古川の二遊間のキーストンコンビといった包容力のある3年生が支え、理想的なチームに仕上がっていた。

しかし、東北地区では負けなしの最強チームも前年秋はエース榊原(オリックス)や好打者・城所(ソフトバンク)を擁する中京に1-5と完敗。選抜では3回戦で2回に5点を先制しながら、大会前に故障を抱えたエース・ダルビッシュが乱調で9-10と大逆転負けを喫した。立て直しが必要となったチームは投手層を厚くし、打線の強化も実って宮城大会決勝ではここ数年苦杯をなめ続けたライバル仙台育英を5-4と接戦で撃破。

甲子園では初戦でダルビッシュが筑陽学園打線につかまるも、右サイド右腕・真壁の好救援で11-6と振り切ってまずは1勝をマーク。2回戦では春の近畿大会を制し、選抜でも8強入りした強豪・近江とのV候補対決になったが、ダルビッシュをして「すごい打線だった」と言わしめた近江の強力打線に10安打を浴びながらも1点でしのぎ、3-1と逆転で勝利をものにした。初優勝へ向けてまずは大きな関門を突破した。

大会No.1投手(2003年夏) 服部大輔(平安) – 世界一の甲子園ブログ

対する平安は前年の選抜を経験した西村西野の主砲2人を中心に秋は打ち勝つ野球で近畿大会を制覇。勝ち上がりながら力をつけた2年生左腕・服部がエースに成長し、決勝では甲子園準Vメンバーが複数残る智辯和歌山にも逆転勝利を飾った。ただ神宮大会ではこの試合でぶつかる東北と対戦し、ダルビッシュの前に完封負け。服部は2失点と好投したが、いずれも3番大沼にタイムリーを浴びて失った2点が大きく響いた。

それでも大会前は優勝候補に挙がった選抜大会では2勝を挙げてベスト8入り。ただこの時代は冬場に雪で打撃練習が思うようにこなせず、秋に打力があっても選抜では思ったように打てない時代が続いていた。甲子園では宇部鴻城の技巧派左腕相手に4点、中京のエース榊原(オリックス)の前に3点と勝負強さは見えたものの、爆発力にはかけた。そして、準々決勝では横浜のエース左腕・成瀬(ロッテ)の前にわずか2安打で完封負け。打力よりもエース服部の好投の方が光った大会となった。

選抜の戦いを終えて「最強の平安として甲子園に行く」と気合を入れなおした主砲・西村の元、夏の京都大会では打線が爆発。福知山成美、京都外大西と府内の強力なライバルを相手に打力で圧倒した。不振に苦しんでいた4番西野も決勝で先制3ランを放ち、復活の兆しを見せた。甲子園では奇しくもここ数年の優勝校と立て続けに激突。初戦は一昨年の優勝校・日大三を8-1と圧倒すれば、2回戦では前年優勝校の明徳義塾相手に8回に西村の決勝犠飛で2-1と逆転勝ち。

エース服部も2試合連続で1失点完投し、鉄壁の守備陣も2試合を1失策で支えた。投攻守に安定した野球で古都の伝統校がいよいよ優勝を現実的にとらえだしていた。

延長11回、1年生の一打で決着

2003年夏3回戦

平安

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1

東北

 

平安  服部

東北  ダルビッシュ

前年秋の神宮大会でも対戦した両チームの激突。互いに相手の手の内もある程度分かっている中での再戦は両チームとも再びダルビッシュ服部とエースが先発のマウンドを踏んだ。

試合は立ち上がり、1回裏に東北が先制のチャンスを迎える。1番家弓が四球で出塁すると、盗塁、犠打で1アウト3塁となる。しかし、ここで服部は前年秋に決定打を許した3番大沼、長打のある4番横田を連続三振に切って取る。1回戦の日大三戦、そして2回戦の明徳義塾戦の終盤でも1アウトでランナーを3塁に背負った状態で得点を許さなかった服部。2年生ながら経験値と安定感は段違いの好投手だ。

これで勢いに乗った服部は序盤から凄まじい三振ラッシュを見せる。球速こそ130キロ台だが、キレのあるストレートは左右のコーナーに突き刺さり、変化球は高めからちょうどいい高さに、そしてストライクゾーンからボールゾーンへと落ちる。すごいボールという印象はないが、「どのボールが打てるんだ?」という投球で好打者揃いの東北の打者をバッタバッタと三振に取る様はまさに爽快であった。

ただ、この服部の好投が相手エースに火をつけることとなる。今やメジャーリーガーでサイヤング賞候補にまで上がる投手となったダルビッシュだ。高校時代のダルビッシュは怪我や成長痛に悩まされ、どちらかといえばスライダーなどの変化球でかわす投球が印象的だったが、この試合はストレート主体にとにかく力で押す。服部に負けじと三振を奪い、最も警戒していたストレートにめっぽう強い3番西村からもそのストレートで見逃し三振を奪った。

とにかく両チームのエースの投球が素晴らしい中で、平安・原田監督は試合前の予定通りに、足でダルビッシュを揺さぶりに行く。夏以降メンバーに定着した9番西郷を中心に走れるメンバーもそろっていた平安は四死球で出たランナーが無警戒のダルビッシュから積極的に盗塁を決めていく。しかし、ホームに返さなければいいというダルビッシュの集中は途切れず、スコアリングポジションに進むとギアの上がる投球で平安打線を寄せ付けない。

試合中盤で早くも三振の数が2桁に達した両投手。しかし、三振の数では服部が上回っていたが、内容ではダルビッシュが凌駕し始める。県大会、そして甲子園初戦と圧倒的な長打力を見せてきた平安打線がこの日はまともにヒットすら出ない。試合終盤になってもわずか2安打に抑え込まれ、この日のダルビッシュはとにかく力で圧倒する。翌年の選抜ではノーヒットノーランも達成するダルビッシュだが、高校時代のベストピッチはと言われたら、この試合だったのではないかと思う。

ただ、味方打線が完全に抑え込まれる嫌な展開の中でも平安・服部の集中は途切れない。終盤になって徐々にランナーを背負うようになるが、勝負所で低めに落ちる変化球の前に東北の打者も決定打を放てず、試合は0-0のまま最終回へ。9回裏にはサヨナラの場面で女房役の佐藤が凡退し、ダルビッシュも徐々にいらだちを隠せなくなる。

服部が好投すればダルビッシュが、ダルビッシュが好投すれば服部がと互いが互いを高めような試合。中学時代から関西でお互いの存在を知っていたライバル同士が2年生ではあるものの、まるで最後の夏を戦っているかのような投げ合いを演じた。過去に甲子園で数々の好試合が繰り広げられたが、高校野球の全歴史の中でも5本の指にはいるのではないかと思うような素晴らしい投手戦だった。

球場もざわめくレベルとなった珠玉の投手戦。その結末を迎えたのは延長11回裏、しかも1年生のバットからだった。先頭の2番宮田のヒットを足掛かりに2アウト1,2塁とチャンスをつかむと、打席には1年生ながら東北のスタメンを勝ち取った加藤政。2ストライクと服部に追い込まれたが、外すつもりだったストレートが甘く入るのを逃さなかった。三遊間をキレイに破った打球は、レフト西村の懸命のバックホームも及ばず、宮田が一歩速く生還してサヨナラ勝ち。

東北が屈指の好ゲームを制し、久々のベスト8へとコマを進めた。

まとめ

その後、東北は光星学院、江の川と破って初の決勝進出を果たす。決勝では名将・木内監督を擁する常総学院の巧みな攻めの前に敗れたが、野球部史上初の快挙を成し遂げた夏となった。過去の高校野球の歴史でもそうだが、才能豊かな2年生を統率力のある3年生がまとめたチームは勝ち上がっていく例が多い。この年の東北も、その例に漏れない好チームであった。

対する平安は本気で優勝を狙っていただけに悔しい結果となったが、チーム力の高さは十分見せつけた大会となった。もし、この試合に勝っていればあるいはそのまま突っ走った可能性もあっただろう。投攻守のバランスという意味では、川口(オリックス)を擁して準優勝した1997年夏をも上回っていたかもしれない。その後、京都外大西や福知山成美の台頭で苦しい時期も過ごした原田監督だったが、2014年の選抜で念願の初優勝を果たすこととなる。

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