松山商vs平安 2001年夏

2001年

伝統校の意地が交錯したナイトゲーム

大会前は選抜優勝の常総学院と剛腕・寺原(ダイエー)擁する日南学園の2強を横浜、明徳義塾の常連2校が追うと思われていた2001年大会。しかし、2回戦で常総学院、明徳義塾が相次いで敗退し、準々決勝第3試合では日南学園が横浜に惜敗し、第4試合を前にして残っていたのは、豪打の日大三、継投策が光る近江、緻密な野球の王者・横浜の3校であった。

そんな中、第4試合でぶつかったのは高校球界を代表する古豪の2校、松山商と平安であった。ともに派手さはないものの、しぶとい堅守と手堅い攻撃で接戦をものにし、8強に勝ち進んできていた。

松山商はあの奇跡のバックホームで優勝を果たした1996年夏以来の甲子園出場。その後は上甲監督率いる宇和島東や宇佐美監督率いる今治西など強豪ひしめく愛媛県で苦戦が続いていたが、この年は2年生エース阿部(近鉄)とリリーフエース稲垣の2人の右腕を中心に、伝統の守り勝つ野球で愛媛代表の座をつかんだ。

松山商といえば、堅守が持ち味だが、これは地域全体でチームを後押しする雰囲気の中で猛練習を行った賜物である。OBたちが毎夏チームを訪れて猛ノックを浴びせ、それを地元の熱烈な高校野球ファンの見守る中で選手たちは受け続ける。また、コントロールのいい投手に合わせて内外野は高度なサインプレーを磨き、内野のサインだけで80を超えるという緻密な守りを展開していた。

この堅いディフェンスに加えて、この年は長打力のある核弾頭・弓達、5年前の正捕手の弟で、この夏は選手宣誓も務めた3番捕手の石丸、勝負強い主砲・池田と打線も力を秘めていた。

甲子園では初戦で駒大苫小牧とのシーソーゲームを制すると、2回戦では九産大九州の強力打線を相手に2年生エース阿部が7回2アウトまで無安打ピッチングを展開。終盤に集中打で猛追を受けたが、リリーフの稲垣が落ち着いた投球で最終回を締めくくり、3回戦へコマを進めた。

そして、3回戦では秦(横浜)-岡崎(阪神)のバッテリーを擁するV候補の智辯学園と激突。個々の能力では上回る相手に対して、持ち前の堅守でしのぎ続ける。中盤に相手の守備ミスにも付け込んで3点を勝ち越すと、7回にはトリプルプレーでピンチを免れるなど、最後まで守りの堅さを見せつけて、終わってみれば4-3で1点差逃げ切り勝ち。伝統校のしたたかさを見せつけてベスト8進出を果たした。

松山商vs九産大九州 2001年夏 – 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

【好投手列伝】愛媛県篇記憶に残る平成の名投手 1/2 – 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

一方、平安は長らく低迷期を迎えていたが、1990年代前半に原田監督が就任してから徐々に復活の様相を呈していた。1997年にエース左腕・川口(オリックス)を中心に選抜8強、夏準優勝と完全復活を遂げると、1999年にも2年生エース香川を擁して8強入り。着々と実績を積み重ねていた。

しかし、その矢先、旧京都二中の流れを組む鳥羽高校が台頭する。名将・卯滝監督に率いられたチームは公立校ながら、体格のいい選手があつまり、エース谷口、主砲・近澤(近鉄)の投打の柱を軸に2000年に春夏連続出場を達成。選抜では4強入りを果たし、古豪復活を遂げた。2001年も鳥羽優勢の流れは変わらず、秋の近畿大会で優勝して3季連続の甲子園出場を成し遂げていた。

平安復活のためには何としても倒さなければならない相手。里井、国本の中軸を中心に攻撃力の高い鳥羽に対して負けないように、網無しグラブを用いて守備を鍛え上げ、主将・森村を中心に猛練習を積み重ねた。投手陣も2年生のサイドハンド右腕・高塚を中心にめどが立った。

夏の京都大会では準決勝でその鳥羽と対戦。初回に2点を先行されるも、落ち着いた守備で立て直すと、中盤以降打線が爆発して7-2と快勝し、平安の意地を見せつけた。決勝も立命館宇治に7-0と完勝。4年ぶりの夏代表切符を勝ち取った。

甲子園では初戦で酒田南の2年生・山田、3回戦で金沢のプロ注目投手・中林(阪神)とともに好左腕が相手であった。平安打線は両試合とも5安打のみだったが、犠打を駆使した手堅い攻めで得点を奪うと、守っては高塚-池田のバッテリーを2試合無失策の堅い守備で支えて最少失点で防ぎきる。少ないチャンスを活かし、堅守で守り切る野球で2試合接戦を制し、古豪が夏8強の座をつかみ取った。

【好投手列伝】京都府篇記憶に残る平成の名投手 2/4 – 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

堅守に次ぐ堅守、壮絶な鍔迫り合い制して松山商が4強入り

2001年夏準々決勝

松山商

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 2 0 0 0 0 2 0 4
0 0 0 1 0 1 0 1 0 3

平安

 

松山商  阿部→稲垣

平安   高塚

 

松山商は初戦から打線は好調を維持。1番弓達、3番石丸、4番池田の3人は打率5割以上と当たっており、特に3回戦で智辯学園の好投手・秦を攻略した自信は大きかった。投手陣は2年生エース阿部の成長が著しく、リリーフの稲垣もコントロール抜群。ただ、終盤に追い上げを許すことが多く、継投のタイミングがカギを握ると思われた。

一方の平安打線はここまで4安打を放っている4番保良、センスの光る5番今浪(ヤクルト、当時2年)が当たっていたが、チームとして2試合で打ったヒットは10本。スタメンの5人にまだヒットが出ておらず、左打者6人が並ぶ打線にとって好左腕とばかり当たったのは少しやりにくかったか。一方、守りは2試合無失策と実力通りの結果に。堅いディフェンスでしのいで打線の奮起を待ちたいところだった。

 

立ち上がりは両2年生エースが好投。平安のエース高塚はサイドから緩いボールをうまく駆使した緩急と内外の出し入れで松山商打線を翻弄すれば、松山商の阿部は試合を重ねるごとに力みが取れ、伸びのある速球を武器に力で平安打線を押し込む。2回裏には平安が野選も絡んで1アウト2,3塁の好機を得るが、打者・高塚のスクイズがフライとなって併殺に。松山商の落ち着いた守りの前に先制のチャンスを逃す。

このスクイズ失敗が気落ちを招いたか、高塚は続く3回表に松山商打線に捕まる。先頭の7番梅田にヒットを許すと、送って2アウト2塁から打席には1番弓達。長打力のある核弾頭が、真ん中寄りに入ったスライダーを逃さずフルスイングすると、打球は左中間スタンドに飛び込んで松山商が2点を先制。これまで堅守を武器に最少失点でしのいできた平安ディフェンス陣だったが、一発による得点はどうにもできない。

その後、両チームは堅守の応酬。3回裏には松山商の捕手・石丸が平安の盗塁を刺せば、4回表には平安の捕手・池田が飛び出したセカンドランナーを刺してピンチを防ぐ。守り合いの様相を呈してきたが、これまで左腕ばかり相手にしてきた平安打線も、この日は右投手の阿部に対して悪くない当たりが続いていた。

そして、打者一巡して迎えた4回裏、1アウトから平安は当たっている4番保良が真ん中寄りのカーブを引っ張ってライト線への2塁打で出塁。2アウト後、6番市来はインサイド寄りのストレートをセンターに返し、センター岩井の好返球も及ばず、1点差に迫る。左打者2人で挙げた得点に平安ベンチも手ごたえを感じていただろう。

さらに攻勢を強める平安は、6回裏、2アウトランナーなしからまたしても5番今浪、6番市来の左打者コンビが連打を放ってチャンスを迎えると、続く7番池田は捕手らしい読みの効いた打撃を見せる。当初、スライダー狙いだったが、2球スライダーが外に続いたのを見て、狙い球をインサイドの真っすぐに変更。これがドンピシャで的中し、レフト越えの2塁打となって同点に追いつく。

しかし、この時1塁ランナーの市来の生還を完ぺきな中継プレーで松山商が刺し、逆転は許さない。両チームともほれぼれするような完成度の高い堅守を見せ、高校生のお手本と言える試合になる。松山商は7回からリリーフの稲垣がマウンドに上がり、アウトコース低めを丹念に突く投球で平安打線に立ち向かっていた。

中盤以降、毎イニングランナーをためて激しく攻め合い、そして守り合う両チーム。均衡が崩れたのは8回表だった。

疲れの見え始めた高塚に対して、松山商は2番横松、3番石丸の長短打などで満塁のビッグチャンスをつかむ。ここでパワーヒッターの5番岩井に対して平安の捕手・池田は意表を突いたインサイドストレートを投じるが、これを岩井は狙い球を絞らずに来た球を打つ打撃でセンターに返し、松山商が2点を勝ち越す。池田の読みは間違いではなかったが、松山商の思い切りが勝った。

2点を追う平安もすかさず、8回裏に反撃。ここまで大会通じて無安打の3番主将・森村が執念の内野安打で出塁すると、続く4番保良のショートゴロはおあつらえ向きの併殺コースだったが、珍しくショートの弓達がセカンド悪送球し、無死1,3塁になる。5番今浪の打球は投手ゴロ併殺となるが、3塁ランナーが生還し、最終回を前に試合は1点差となる。

9回の松山商の得点を0でしのいだ平安。最終回、1アウトから代打の山脇が死球で出塁すると、続く9番鹿渡の打球でエンドランを敢行する。これを打者が見逃してしまうが、山脇のスタートが良く、結果的に盗塁が成功。土壇場でスコアリングポジションにランナーを進める。

だが、ここからが松山商の真骨頂であった。9番鹿渡はセンター方向への痛烈な当たりに対して、投手の投球と打者のスイングで打球方向を予測していた弓達が正面でキャッチ。セオリー通りに自分より左の打球に対してスタートを切っていた山脇を2,3塁間で素早く挟殺し、状況は2アウト1塁となる。土壇場のこの場面での落ち着いた守りはさすが松山商であった。

落ち着きを取り戻したバッテリーは最後はこの日2安打と当たっている1番林に対してフルカウントからストレートで真っ向勝負を敢行。気迫に押されたか、真ん中寄りのボールに対して林のバットが空を切り、松山商が優勝した1996年以来5年ぶりのベスト4進出を決めた。

まとめ

松山商は続く準決勝の近江戦でも試合を優位に進めていたが、終盤に近江の長打攻勢に稲垣がつかまって5-4と逆転負けを喫した。ただ、決勝進出はならなかったが、松山商らしさを存分に出した戦いぶりはさすがの一言であった。

この時はまさかこれが平成最後の出場になるとは夢にも思わず。現在は、今治西を何度も甲子園に導いた大野監督が就任して復活を期している。投手を中心とした鉄壁の守備と、大物うちはいなくとも勝負所で単打を連ねて畳みかける打線でもう一度聖地に帰ってくることを期待しているオールドファンは多いだろう。

 

一方、平安も敗れはしたものの、原田監督も納得の好試合で観衆を沸かせた。これで出場4大会連続で8強以上と安定した結果を残し続けた平安はその後も、好左腕・服部を擁して春夏連続出場を果たすなど、安定しだ成績を収めている。亀岡にグラウンドができてからは課題だった打力も増し、2018年夏にはついに甲子園100勝を達成。まだまだ京都の高校野球を沸かせてくれるだろう。

2001年夏 準々決勝 平安VS松山商業【当日の熱闘甲子園もアリ】 – YouTube

コメント

タイトルとURLをコピーしました