横浜vs八重山商工 2006年選抜

2006年

終盤に大きく動いた、強豪vs新鋭の激闘

優勝候補筆頭だった、田中将大(楽天)擁する駒大苫小牧が大会前に出場辞退するという異常事態で始まった2006年の選抜大会。大会前は横浜と智辯和歌山という春夏優勝経験のある強豪2校が優勝候補に挙がっていた。

2回戦では智辯和歌山が好左腕・尾藤を擁する岐阜城北に7-10と逆転負けを喫し、横浜にとっては優勝に向けてやや視界が良好になったかと思われたが…、その前に静かに立ちはだかったのが、沖縄から初出場を決めた八重山商工であった。

横浜は前年夏からエース格だった左腕・川角や1年生から甲子園を経験していた正捕手・福田(中日)を擁し、この年代は2か年計画で強化を進めてきた勝負の年であった。

打線は俊足の1番白井に始まり、巧打の3番高浜(ロッテ)、主砲・福田、広角に打ち分ける佐藤(ロッテ)の中軸が腰を据え、下位にも長打力のある下水流(広島)、越前、岡田がいるという豪華ラインナップ。前年秋は関東大会の準決勝で高崎商の技巧派左腕・石川翼にひねられて1-3と敗れたが、各選手のポテンシャルは群を抜いていることは誰の目にも明らかだった。おそらく、ここ数年単位でも指折りの強打線である。

一方、投手陣は安定感のある川角に、技巧派の西嶋、速球が魅力の浦川と3人の左腕を擁していたが、秋の戦いでは絶対的なエースと呼べる存在は現れなかった。打線の援護が見込めるだけに、各イニングを最少失点で切り抜けてくれればとい横浜首脳陣の思いがあった。

大会初戦はなんと近畿大会優勝の履正社が相手。右サイドからキレのあるスライダーを武器とする技巧派に対して、高浜のタイムリーによる1点に抑えられたが、この日はエース川角がわずか被安打2の完封ピッチで仁王立ち。小倉監督のデータ通りにコースに投げ分け、履正社の打線を牛耳った。虎視眈々と優勝を狙う横浜が、この当時はまだ春夏通じて2度目の出場だった履正社に格の違いを見せつけ、2回戦へコマを進めた。

これに対して八重山商工は少年野球時代から10年近く伊志嶺監督に指導を受けてきたナインが成熟の時を迎え、前年秋の九州大会では準優勝を達成。伸び伸び野球で快進撃を見せ、本大会でも期待が高いチームであった。

エース大嶺(ロッテ)はがっしりした体格から繰り出す伸びのある速球派威力抜群。本調子ならばそう点は望めない存在であり、監督の厳しい指導の下で精神面の成長も著しかった。また、同じく本格派の右腕・金城長も140キロ台の速球を投じることができ、安定感では大嶺より上との評もあった。

打線は非常に個性豊かで、積極性の光る1番捕手の友利、2試合に1個近く失策するも、バントをせずに強打でつなぐ2番ショート東舟道、当たった時の飛距離はチームNo.1のパワーヒッター3番金城長、広角に打ち分ける4番羽地といずれも小柄ながらパンチ力のある打者がずらりと並んでいた。下位の仲里、金城賢、新垣も当たっており、打力は侮れないものがあった。

1回戦は北信越王者の高岡商と対戦。夏春連続の出場で甲子園経験メンバーも多く、前年秋の神宮大会では優勝した駒大苫小牧に3-4と最も善戦したチームであった。

しかし、八重山商工は初回に金城長の先制ホームランが飛び出すなど、3点を先制すると、5回には相手打線に逆転タイムリーを浴びたかと思われたが、ベースの踏み忘れを見逃さずにアピールプレーでアウトに。これで勢いを得た大嶺はストレートで押す投球で強力打線から17三振を奪い、5安打2失点完投で甲子園初勝利を挙げた。

観衆を驚愕させた伝説の挟殺プレー

2006年選抜2回戦

横浜

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 1 6 0 0 0 0 0 7
0 0 0 0 0 1 0 5 0 6

八重山商工

 

横浜     川角→浦川

八重山商工  金城長→大嶺

さて、沖縄からの初出場校を迎え撃つこととなった強豪・横浜。初戦の履正社に比べると、くみしやすいかと思われたが、小倉コーチは、「大嶺にベストピッチをされたら1-4か1-5で負ける」と目論んでいた。

プロ注目捕手の土井(オリックス)を擁した履正社打線だったが、やや下位打線の弱さが目立ち、上位打線の苦手なポイントも絞りやすかった。一方、とんでもないコースに手を出すような打撃をしながらも、各打者が下位までパンチ力を秘める八重山商工打線に対しては、決して盤石とは言えない横浜投手陣はある程度の失点か覚悟していた。

何より、大嶺の1回戦の惚れ惚れするようなストレートを見ると、いくら自軍の強力打線をもってしても、取れて1点ではないかというのが名参謀の目論見であった。

ところが、この小倉コーチの心中を知ってか知らずか、伊志嶺監督は先発に金城長を起用する。実力派の好投手だったが、大嶺の真っすぐの威力を恐れていたy小浜サイドとしては願ってもない選手起用となる。

試合は立ち上がりは静かに幕を開けるが、3回に動き出す。9番ながら他チームなら間違いなく中軸を張れる9番岡田が高めのボールをとらえると打球は右中間スタンドへ飛び込むホームランになって1点を先制。横浜としてはできるだけ大嶺が出てくる前に得点んを重ねたいところだが、八重山商工サイドはまだ投手交代の気配はない。

ストレートのスピードはあるとはいえ、まとまったオーソドックスタイプの金城長は、熟練の横浜打線にとっては怖い存在ではなかったか。4回表には上位打線がつながってつかんだチャンスに5番佐藤、6番下水流が連続長打を放って3点を追加。さらに、ようやく登板した大嶺が落ち着く前に攻めつけ、連続暴投も飛び出してこの回6点。計7-0とし、試合の趨勢を決めたかに思われた。

しかし、中盤以降に大嶺が調子を取り戻すと、強打の横浜打線から快音がぱたりと消える。6回に金城長の特大のホームラン(2試合連発)が飛び出すと、大嶺の調子はますます上がり、小倉コーチの試合前の懸念通り、追加点の入る気配はあまりしなくなる。とは言ってもついた点差は6点。ひっくり返る気配もしなかったが…

8回裏、八重山商工打線が突如としてつながり始める。この回やや球威の落ち始めた川角をとらえ、1アウトから3番金城長が痛烈なレフト前ヒットで出塁。さらに4番羽地はライト前にしぶとく落とすヒットで続くと、スタンドは「ハイサイおじさん」のリズムに乗って大盛り上がりとなる。伊志嶺監督もエンドランを積極的に絡めるなど、ムードは完全に八重山商工寄りだ。

ここで5番仲里がアウトサイドのスライダーをライト線にちょこんと落として1点を返すと、ライトの後逸も絡んで2,3塁。6番金城賢がスライダーをとらえて三遊間を破り、7-4。さらに、7番新垣も巧みな流し打ちで続き、3点差でなお1アウト1,3塁。横浜サイドはたまらず伝令を送る。川角の投げるコースも決して悪くないが、沖縄球児特有の上半身の強さが打球をことごとく外野まで運んでいく。

ここで打席には途中登板の大嶺。投球で勢いに乗るエースは、川角の高めのスライダーをとらえると、打球は打った瞬間にライトオーバーとわかる当たりに。塁上のランナーが次々生還して1点差に詰め寄ったが、打った大嶺はホームランを確信して走り出しが遅れ、2塁止まり。ベンチで伊志嶺監督が激怒していたが、まあこれも大嶺らしさかとこの時は思っていたが、これがのちに響くこととなる。

いよいよ余裕のなくなってきた横浜サイド。ここでついに川角に変えて、2番手の2年生左腕・浦川にスイッチする。この浦川に対して八重山商工の9番奥平は痛烈な投手ゴロを放ち、2塁ランナーの大嶺が飛び出してしまって挟殺プレーに。ここまではよくある光景だったが…

投手・浦川、サード・古城、ショート・高浜の3人がランダウンプレーで大嶺を挟殺しに行くが、この時打者走者の二塁進塁を阻止する目的でセカンドベースに入るはずのセカンド白井がベースに入らない。セカンドベースが空いているぞという、打者走者への無言のメッセージを送る。

ランダウンプレーの3人は挟殺をしながら、送球をセカンド方向へ送るタイミングと、奥平がセカンドを目指すタイミングが重なるのを待っていた。そして、奥平が向かってくることを確信したセカンド白井が合図を送ると、すかさず大嶺ではなく打者走者の奥平を刺しにセカンドへ送球。

これでアウトを得た後は、塁間で中途半端な位置にいた大嶺を刺して、併殺を完成。高校生どころかプロでもなかなかお目にかかれない高度な挟殺プレーの前にスタンドで見ていたスカウト陣も驚愕せずにはいれなかった。

八重山商工は9回裏にも1番友利、3番金城長のヒットで2アウトながら2,3塁の大チャンスを迎える。しかし、最後は4番羽地のショート深い位置への内野安打を高浜がつかんで好送球しファーストは間一髪アウト(強肩で知られる高浜のこの時の送球は140キロを超えていたのではともっぱらの噂)。新鋭校の猛追を振り切った横浜が苦しい試合をものにし、準優勝した2003年以来3年ぶりの選抜8強入りを果たしたのだった。

まとめ

横浜は小倉コーチの試合前のおおよその予想通りの内容で、リードを保っていたが、あの8回裏の場面での挟殺プレーは、思わず身震いがするものであった。何百回に一度あるかないかの場面であれだけの高度なプレーを、しかも追い上げられるプレッシャーのある中で完成させるにはよほど、普段から突き詰めた練習をしていなくてはならない。1点の重みを重視した緻密な横浜野球の真髄を見たシーンであった。

これで勢いに乗った横浜打線は準々決勝から大勝の連続。早稲田実・斎藤(日本ハム)、岐阜城北・尾藤(巨人)、清峰・有迫と好投手を擁したチームを相手に全て2桁得点でKOし、投手陣も継投策を駆使しながら余裕を持って試合を進めて3度目の選抜制覇を決めた。

永川(中日)、松坂(西武)を擁した過去2回の優勝と比較して打力でつかんだ優勝という感じがしたが、最も横浜らしさが出たのはやはりあの八重山商工戦の8回裏だったのではないだろうか。競り合いで終盤に入ったら勝てる気がしない、横浜の強さが凝縮された一戦だった。

 

一方、八重山商工は横浜の倍以上となる14安打を放ち、終盤は押しに押しまくっていたが、最後は横浜の素晴らしい堅守の前に散った。投打にパワフルな九州勢らしい好チームであったが、野球の完成度の高さでは横浜が一枚も二枚も上手だったのだろう。それでも大嶺の投球はスカウトの評価を上げるには十分で、ナインも大きく自信をつけた。

その後、夏も連続出場を果たし、大嶺は伊志嶺監督に怒られながらも、我慢の投球を見せて3回戦に進出。最後は智辯和歌山とのパワー勝負に敗れたが、力をフルに出し切った試合であり、悔いのない表情でナインは爽やかに聖地を後にした。

八重山商工打線の反撃 – YouTube

横浜高校 2つ殺し トリックプレー – YouTube

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