独断と偏見で選ぶ、2006年選抜でベスト8へ進めなかったイチオシの好チーム

2006年

関西(岡山)

1 ダース 10 石丸
2 小原 11 中村
3 下田 12 小林
4 山本直 13 森田
5 14 宮本
6 安井 15 川邉
7 徳岡 16 榧木
8 上田 17 山本雄
9 熊代 18 久保

夏のV腕苦しめた、タレント軍団

2005年選抜から2007年選抜まで5季連続出場を果たした岡山の強豪・関西。この5大会連続出場はすべて優勝候補に名を連ねる実力を有していたが、結果は2007年の選抜8強が最高成績であった。しかし、高校野球史において早期敗退にも関わらず、これだけドラマチックな結末で敗れ続けたチームもかつてなかったのではないだろうか。それだけこの時期の関西の戦いぶりはインパクトがあり、数々の熱戦を繰り広げていた。

中でも2006年の選抜の戦いは今でも高校野球ファンの心をわしづかみにしており、その結末はまるで夏の戦いかと思わせるほどの、ドラマチックな幕切れであった。

この頃の関西は投打ともスケールが大きく、「個」の力で相手を圧倒する戦いを見せていた。この2006年世代は中軸を務めた上田(ヤクルト)・安井、エースのダース・ローマシュ・匡(日本ハム)を中心に前年から試合経験豊富な選手が多く、全国屈指の総合力を誇っていた。中でも上田・安井・下田の中軸は素晴らしい破壊力を有しており、強肩・強打を誇るアスリートタイプの3番上田、確実性の高い4番安井、勝負強さの光る5番下田と持ち味の違う3人が相手投手を打ち崩していった。

また、投げては昨夏からエース格の長身右腕・ダースに加え、2年生の技巧派右腕・中村が加わった投手陣も安定感があり、秋の中国大会は危なげなく制覇。神宮大会でも初戦で秋田商を下すと、準決勝では近畿王者の履正社に逆転勝ちを収めた。この試合では履正社の技巧派の好投手・魚谷から山本直が逆転ホームランを放ち、改めて上位から下位まで破壊力のある打者が並んでいることを示した。

決勝では駒大苫小牧のエース田中(楽天)の前に完封負けを喫し、準優勝に終わったが、本戦ではその駒大苫小牧がまさかの出場辞退に。王者不在で始まった大会において、「西のタレント軍団」関西の存在感が否が応でも増していったのだった。

1回戦

関西

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 0 0 1 4 0 1 0 6
1 0 0 0 0 1 0 2 0 4

光星学院

 

初戦の相手は東北の雄・光星学院。4強入りした2000年夏を皮切りに4年間で3度、選手権8強以上に勝ち進んでいた強豪だ。この代のエース桑鶴は2003年にベスト8入りした桑鶴の弟。兄と同じ技巧派のエースは巧みな制球力を武器に試合を作る投手であった。また、打線の軸である4番坂本(巨人)は天性のバッティングセンスと華麗なショートの守備でチームを牽引。投打にしっかりとした柱を擁し、侮れない相手であった。

光星学院・金沢監督は試合前、「関西は素質の高い選手が多く、サッカーで言えばブラジルのようなチームだ」と警戒心をあらわにしていた。しかし、先手を取ったのは光星学院。1回裏、ランナーを2塁において4番坂本がダースのカーブをしっかりためてレフトへはじき返し、1点を先制。この打撃を見て、スカウトが指名を決断したといわれるほど、見事な一撃であった。

試合は光星学院が1点リードのまま進むが、徐々に関西打線の「圧」が桑鶴を飲み込み始める。一つでもコースを間違えば、一気に長打にされる重圧感があったのだろう。5回表に9番山本直の同点ホームランで追いつくと、6回表には4番安井の内野安打を皮切りに満塁のチャンスを築き、山本直・熊代・徳岡が次々にタイムリーを放って一挙に4点を勝ち越した。投げてはダースが4点を失いながらも我慢の投球で甲子園初完投。スコアこそ6-4だったが、放ったヒット数は15対6であり、毎回安打で最初から最後まで攻め抜いてつかんだ勝利であった。

 

2回戦

早稲田実

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15
0 0 0 0 2 1 3 0 1 0 0 0 0 0 0 7
0 0 1 0 1 0 2 0 3 0 0 0 0 0 0 7

関西

第78回(2006年)選抜高校野球大会 2回戦 早稲田実 対 関西 1/5 – YouTube

第78回(2006年)選抜高校野球大会 2回戦 早稲田実 対 関西 2/5 – YouTube

第78回(2006年)選抜高校野球大会 2回戦 早稲田実 対 関西 3/5 – YouTube

第78回(2006年)選抜高校野球大会 2回戦 早稲田実 対 関西 4/5 – YouTube

1回戦を勝ち上がり、迎えた2回戦の相手は伝統校・早稲田実であった。かつて王貞治(巨人)、荒木大輔(ヤクルト)などスター選手を擁し、幾度も聖地に出場してきた早実だったが、荒木の5季連続出場以降、この年までの24年間で実は出場回数は春夏計1回ずつしかなかった。東東京時代は帝京、西東京に移ってからは日大三と、パワーや体力に勝る相手に頭脳的で洗練された野球の早実は苦汁をなめさせられていた。

しかし、この年はエース斎藤佑樹(日本ハム)を中心にディフェンスを固め、クレバーな野球でしぶとく秋の東京大会を制した。サード小柳との連係プレーで4試合連続3塁でけん制アウトを奪うなど、早実らしい野球に加え、通いの選手が多い中でも各人がしっかり自己管理を行い、体力面でもライバル校に負けない力強さを身に着けていた。選抜初戦は北海道栄を投打に圧倒して7-0と快勝。まずは順調に初戦を突破してきた。

試合の焦点はもちろん、関西の強力打線vs好投手・斎藤佑樹。しかし、チームの実力としてはやはり関西のほうが一枚も二枚も上と思われていた。同年夏に全国制覇を果たす早稲田実だが、選抜の段階ではまだ打線はやや非力な印象があった。右腕2枚看板を擁する関西は投手陣も安定しており、関西有利の声が多かった。

 

しかし、試合が始まると互角の展開で推移。早稲田実は上述した必殺の3塁けん制で3塁ランナーの上田を刺すと、5回には2番小柳に公式戦初ホームランとなる逆転2ランが飛び出す。関西打線も斎藤佑樹を攻めて2点を奪い、5回を終わって試合は2-2の同点。期待にたがわぬ熱戦となった。

だが、ここから関西サイドの不安要素が飛び出す。エース・ダースが腰痛の影響で本調子ではなかったのだ。1回戦はなんとか持ったが、6回から救援登板したこの試合では制球力を欠いてボールが高めに浮いてしまう。試合巧者の早稲田実はこの乱れを逃さず、川西、船橋のタイムリーなどで4点の勝ち越しに成功する。エース斎藤佑樹に十分すぎる援護点をもたらした。

追い詰められた関西。4点を追う展開となったが、関西打線が底力を見せたのはここからであった。7回裏に3番上田が会心の打撃でバックスクリーンに2ランを放つと、3点差で迎えた9回裏には1番熊代の失策に2者連続の死球で満塁のチャンスをつかむ。ここで4番安井は高めに浮いた速球を右中間にはじき返し、塁上の走者を一掃。土壇場での同点劇に関西ベンチは歓喜に沸いた。しかし、さらに続く無死3塁のピンチでは、早実バッテリーが満塁策を取り、7番東を併殺に打ち取るなど無失点でしのぐ。斎藤の粘り腰もさすがであった。

延長に入ってからは一進一退の攻防に。ダースのサヨナラかと思われた打球を早実のレフト船橋がファインプレーでつかみ取るなど、ともに総力を使い果たした試合は15回で決着がつかず、2003年の東洋大姫路vs花咲徳栄以来となる延長引き分け再試合を戦うこととなった。

2回戦    再試合

早稲田実

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 1 0 1 0 0 0 2 4
0 0 0 0 0 0 1 2 0 3

関西

第78回(2006年)選抜高校野球大会 2回戦(再試合) 早稲田実 対 関西 1/5 – YouTube

第78回(2006年)選抜高校野球大会 2回戦(再試合) 早稲田実 対 関西 2/5 – YouTube

第78回(2006年)選抜高校野球大会 2回戦(再試合) 早稲田実 対 関西 3/5 – YouTube

第78回(2006年)選抜高校野球大会 2回戦(再試合) 早稲田実 対 関西 4/5 – YouTube

第78回(2006年)選抜高校野球大会 2回戦(再試合) 早稲田実 対 関西 5/5 – YouTube

15回を完投した斎藤佑樹と6回からロングリリーフを見せたダース。ともにエースの疲労の色は濃く、先発は早稲田実が2年生右腕・塚田、関西が右腕・中村であった。

関西打線をどうかわすか、和泉監督としては怖さもあったと思うが、1,2回を塚田が丁寧な投球で無難に立ち上がる。すると、3回に好調の2番小柳が先制タイムリーを放って早実が1点を先制。ここで流れをつかむべく、早実はエース斎藤をマウンドに送り、試合は早実ペースで進む。ここまで活発だった関西打線だが、この日は斎藤の低めに決まるボールを前に苦戦を強いられていた。5回にも1点を追加し、早実2点リードで試合は後半戦に突入する。

しかし、この両校の試合がこのまま終わるはずもなかった。7回裏2アウト1塁から1番熊代が斎藤のインサイドの真っすぐをしっかりとらえると、打球は左中間を深々と破るタイムリー2塁打となって関西が1点を返す。ライバル日大三を倒すべく磨いてきた内角速球だったが、このボールを見事にとらえた熊代の打撃はさすが関西と思わせるものであった。

1点差に迫り、緊迫感を増す試合。8回裏にも関西打線は得点圏にランナーを進める。ここで勝負強さの光る5番下田が再び斎藤の速球をとらえると、打球は1戦目の上田の打球と同じようにセンターバックスクリーンへ飛びこみ、関西が一気に試合をひっくり返した。歓喜に沸く関西、まさかという早稲田実。両者の立場は一瞬にして入れ替わったのだった。

この試合初めてとなるリードをもらい、最終回のマウンドへ向かう2年生右腕・中村。しかし、彼にもプレッシャーは当然のしかかる。1アウトから4番後藤にヒットを許すと、打席には甲子園で乗っている男・船橋が入る。中村のインサイドのボールを引っ張ると、打球は1,2塁間を抜けてライトへ。これを熊代が後逸してしまい、打者走者の船橋も一気に生還して早実が再逆転!信じられない展開に球場も騒然となる。

しかし、前年は選抜で雨中の激戦の末に慶応にサヨナラ負け、夏は京都外大西に6点差をひっくり返されて逆転負けと悔しい敗戦の続いていた関西もこのまま引き下がるわけにはいかない。9回裏、3番上田のラッキーな内野安打などで2アウトながら満塁となり、打席には4番安井。1戦目の再現のようなシーンが訪れ、ムードは最高潮となる。しかし、最後は早実バッテリーの強気な内角攻めの前にキャッチャーフライに打ち取られ、ゲームセット。2日にわたる熱戦を制した早稲田実が、久々にベスト8へとコマを進めたのだった。

試合終了後は季節外れの雪が降り、まるで両チームを讃えるかのような風景が広がった。熱戦の多かった2006年の甲子園の中でも強烈に印象に残った「関西vs早稲田実」はこうして幕を閉じたのだった。

 

この後、準々決勝ではさすがに疲れの残る斎藤が優勝した横浜打線につかまって敗退したが、夏は前評判をかわす快進撃で決勝に進出する。決勝では神宮で力負けした駒大苫小牧と互角に渡り合い、なんとまたしても引き分け再試合に突入した。しかし、選抜で一度再試合を経験した早実ナインは落ち着いていた。決勝は斎藤の力投と勝負強い打線がかみ合い、4-3と勝利。都の名門に悲願であった夏の全国制覇をもたらし、歴史に名を刻んで見せた。

一方、破れた関西は夏も文星芸大付に逆転負けし、4季連続で悔しすぎる敗戦を喫することとなった。だが、投打にタレントをそろえた関西の実力の高さは、高校野球ファンなら誰もが知るところであった。この選抜での死闘が早稲田実の実力を高めたことは間違いなく、早実の夏の優勝はこの関西との死闘があったからといっても過言ではないだろう。2006年の関西は、ベスト8を前に去るのはあまりに惜しい好チームであり、今でも私たちの心の中に鮮烈に印象付けられている。

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