興南vs報徳学園 2010年夏

2010年

琉球王者に立ちはだかった伝統校

2010年の夏の甲子園は史上6校目の春夏連覇を狙う興南が絶対的優勝候補として注目されていた。そんな王者の前に準決勝で立ちはだかったのが地元の伝統校・報徳学園だった。

興南は選抜制覇の原動力となったエース島袋(ソフトバンク)、前年の甲子園の貧打のイメージを払しょくせんとばかり打ちまくった打線、捕手・山川を中心とした堅い守備と投攻守にスキがない陣容。春の九州大会は控え選手を多く起用しながら圧勝で制するなど、チーム力は最高レベルに達していた。沖縄大会では糸満の好投手・宮國(巨人)を集中打で打ち崩し、2年連続の出場を決めた。

本戦に入ってからも明徳義塾、仙台育英といった常連校を危なげない戦いで下した。準々決勝ではエース島袋が序盤に3点を失うも、打線が聖光学院のエース斎内(阪神-ヤクルト)を打ち崩して終わってみれば10-3の大勝。順当にベスト4へとコマを進めた。

島袋は春以降覚えた落ちるボールを中盤から混ぜる投球で、持ち味のストレート主体の投球にさらに厚みが増し、打線は捕手寄りのポイントまでボールを引き付けて打つV字バッティングでストレートにも変化球にも対応。選抜からさらに投打にたくましさを増したチームに死角は見当たらない印象だった。

沖縄県勢初の夏制覇、そして春夏連覇に向けてあと2勝。満を持して準決勝の舞台に臨んだ。

そんな王者と準決勝で対戦することとなったのが地元の雄・報徳学園。春夏連覇を狙いながら初戦敗退に終わった2002年夏から5連敗を喫して苦しんだ時期もあったが、近田(ソフトバンク)を擁した2008年夏、捕手・平本の活躍が光った2009年選抜とそれぞれ8強、4強に進出し、一時期の不振は完全に脱却した感があった。

この年の兵庫県は岡本健(ソフトバンク)擁する神戸国際大付が強く、秋の近畿王者にまで上り詰めるなど優勝候補として君臨していた。しかし、冬場の練習を超えて強さを増したチームは春季大会で神戸国際に3-2と勝利。岡本が故障でいない影響もあったが、「王様のいないチームに負けてはいかん」との永田監督の言葉にナインも奮起した。勢いに乗ってそのまま春の近畿大会も制覇。決勝では山田哲人(ヤクルト)擁する履正社に6-0と完勝するなど手ごたえをつかんでいた。

投手陣はキレのある変化球を武器とするエース左腕・大西と1年生ながらストレートに伸びのある右腕・田村(西武)の2本柱が確立。一方、打線は俊足の選手が揃い、「走る報徳」としてこの夏は機動力野球で相手をかき回した。1番八代を筆頭に越井木下長谷場と上位から下位まで俊足が並ぶ顔ぶれはそれまでの報徳とは一線を画すイメージがあった。

兵庫大会準決勝では岡本が登板した神戸国際に8-4と完勝すると、甲子園では北陸勢とことごとくぶつかり、砺波工・福井商・新潟明訓といずれも接戦で振り切って勝ち進んだ。例年のようなスター選手はいなくとも、投打とも層の厚さは興南に劣らない印象があり、最強の挑戦者として準決勝に向かった。

序盤のビハインドを跳ね返した全員野球

2010年夏準決勝

興南

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 0 0 3 1 2 0 0 6
1 4 0 0 0 0 0 0 0 5

報徳学園

 

興南    島袋

報徳学園  大西→田村

春夏連覇を狙う興南に報徳学園がどう挑むかが注目された一戦。これまで2回戦の明徳義塾戦を除けば、どちらかというと力勝負を挑むチームとの対戦が多かった興南だが、この年の報徳は機動力と打力を兼ね備えたチーム。報徳のかき回す野球にバッテリーがいかにペースを乱されずに試合を進められるかが重要となった。

1回表、興南は報徳の先発・大西から1番国吉大、2番慶田城がいきなり連打を放ってチャンスメーク。しかし、この大会唯一当たりが止まっている4番真栄平が併殺に倒れ、無得点に終わる。捕手寄りまでボールを引き付ける興南の打撃だが、一つタイミングが狂うとボールに差し込まれがちになる諸刃の剣でもあった。

すると、1回裏に報徳は当たっている1番八代がヒットで出塁。50メートル5秒台で走るチーム1の俊足であり、興南バッテリーにとっては最も出したくないランナーを出してしまう。犠打で1アウト2塁となって打席には3番中島。準々決勝で2本のタイムリーを放ってチームの全得点をたたき出した男は島袋のストレートに狙いを絞ってはじき返すと、打球はファーストの真栄平を強襲してライトに抜け、報徳学園が1点を先制する。

この先制点を契機に、地元の大声援に乗ってチャレンジャーの報徳学園が勢いに乗る。2回裏、これまた俊足の7番木下が出塁すると、この日の報徳は手堅くランナーを犠打で進める。好投手・島袋が相手とあって柔軟な対応を見せる。さらに、1アウト2塁から9番長谷場、1番八代が粘って四球をもぎ取り、満塁にチャンス拡大。絶好の場面で再び3番中島に打席が巡る。

ここまで変化球が高めに浮きがちな島袋。興南バッテリーの傾向として、中盤以降の変化球主体の攻めの布石として序盤はストレートで押す傾向があり、なおさら直球の割合が増える。それでも島袋の球威、球質が勝ってここまでは抑えてきたが、この日はその判断があだとなる。ストレート狙いの中島にアウトコースのストレートを左中間に完ぺきに打ち返されると、センター慶田城のダイブも及ばず、塁上の走者がすべて生還。中島に2打席で計4打点を献上する結果となる」。

さらに、4番越井にもタイムリーが飛び出し、この回一気に4点を追加。報徳学園が序盤で大きなリードを奪い、球場は大歓声に包まれる。準々決勝でも2回に3点を先行されたが、その時とは明らかに違う雰囲気となっていた。

反撃したい興南は3回表にも満塁のチャンスを作るが、またしても4番真栄平がセカンドゴロに倒れ、なかなか報徳の先発・大西を捕まえきれない。興南にとっては春夏10試合目で最も苦しい試合展開となっていた。

しかし、日々の生活から我喜屋監督に心身を鍛えられていた興南ナインは動じてはいなかった。5回表、8番島袋のヒットと9番大城(オリックス)のサードゴロエラーで作った1アウト2,3塁のチャンスに2番慶田城がサードのグラブを強襲するタイムリーを放つ。この場面、2塁走者の大城は見事なスライディングでホームを陥れており、興南の走塁の技術はまた見事だ。

さらに送球間に2塁へ進んだ慶田城を3番我如古がヒットで迎え入れ、ここも慶田城が素晴らしい走塁技術で捕手のミットをかいくぐる。打って投げてだけではない細かい技術の応酬に、また興南の強さが際立ってくる。

こうなると、追う側と追われる側の勢いの差が徐々に表れ始める。6回表にも島袋のタイムリーで興南が1点を返すと、その裏に1番八代に左中間を破る当たりを打たれるが、興南の内外野陣が素晴らしい中継プレーを見せて八代は三塁手前でタッチアウト。巧みな走塁で1点を奪い、堅い守備でチャンスを与えない。スキのない興南野球が完全に流れを引き寄せた。

勢いにのった興南は7回表、1アウト2塁のチャンスで打席には3番我如古。選抜で個人大会通算安打のタイ記録をマークした主将が大西のスライダーを完ぺきに打ち返すと打球は右中間を破る3塁打となってついに興南が同点に追いつく。大西のキレのあるボールに対して中盤以降は興南の各打者が対応できるようになってきていた。

報徳学園はここでスピードボールが武器の1年生田村をマウンドに送る。興南は4番真栄平がマウンドへ。ここまでチャンスに凡退を繰り返していた主砲が田村のストレートをセンターに返すと、打球は前進守備の間を抜けてセンターに転がり、興南が逆転!苦しんでいた主砲の一打にベンチもスタンドも沸き返った。

この試合初めてのリードをもらった島袋は後半はフルスロットル。8回裏には3者三振に抑え、チームに流れにのる。

そして、迎えた9回裏。報徳は1アウトから2番が意地のヒットで出塁すると、盗塁と悪送球で2アウト3塁とラストチャンスを迎える。打席には2年生の主砲・越井。しかし、調子を取り戻した島袋は最後まで球威が落ちず、4番越井をインハイのストレートで空振り三振にとってゲームセット。興南が苦しい試合を制して決勝進出を決めた。

まとめ

興南にとっては2回までに想定外のビハインドを背負う展開となったが、それをひっくり返したことでなおのこと強さが際立つ試合であった。堅実な守備に巧みな走塁、エース島袋の3回以降の好投とビハインドを跳ね返した打線以外にも勝因は数多く挙げられた。それだけすべてにおいてスキのないチームができたのも、我喜屋監督が「なんくるないさ」を排して、厳しくチームを指導したたまものであった。

この試合で死線を乗り越えた興南は、決勝で一二三(阪神)-大城卓(巨人)のバッテリーが率いる東海大相模を相手に13-1と大勝。圧倒的な強さで沖縄県勢悲願の夏の甲子園優勝を果たし、琉球に初めて真紅の大優勝旗を持ち帰った。

 

一方、敗れた報徳学園も興南を土俵際まで追いつめた戦いぶりは素晴らしかった。興南のナインが最も苦しい試合と挙げたように、序盤の集中打は確実に王者を追い詰めていた。中盤以降、持ちこたえられずに逆転は許したが、これは興南の野球を褒めるしかないだろう。左右の2本柱を擁した投手陣と走って打てる選手をそろえた攻撃陣はともに大会トップレベルであり、改めて伝統校の底力を示した戦いとなった。

興南vs報徳学園 – YouTube

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