興南vs日大三 2010年選抜

2010年

決勝で繰り広げられた延長の名勝負

大会前、神宮王者・大垣日大、好投手・一二三(阪神)を擁する東海大相模、昨夏8強のメンバーが多く残る帝京が3強と考えられ、その後を近畿勢が追う展開が予想されていた。しかし、大会が始まると、東海大相模が初出場の自由が丘に逆転負けを喫して、まさかの初戦敗退。智辯和歌山、大阪桐蔭、神戸国際大付など前評判の高かった近畿勢は1校もベスト8に残れなかった。

そんな中、決勝に勝ち上がったのは、東京大会ベスト4ながら逆転選出を果たした日大三と昨年は春夏ともに初戦敗退に終わっていた興南の2校であった。ともに地力を高く評価され、裏の優勝候補と言われていたこの2校は非常に力強い戦ぶりを見せ、ファイナルを戦うにふさわしいチームであった。

沖縄・興南“伝説のピッチャー”は母校の事務職員に…元 ...

興南は昨年選抜で当時2年生エースの島袋が19三振を奪いながらも、富山商・横山に完封されて0-2と初戦敗退。夏は明豊を相手に3点のリードを奪いながらも、終盤リリーフした相手左腕・野口を打てずに3-4でサヨナラ負けを喫していた。当時のメンバーが多く残っていたとはいえ、秋の九州大会でも宮崎工の変則左腕・浜田(中日)を打てずに2-3と敗れており、打線に不安を抱えての大会であった。

しかし、我喜屋監督の指導の下、ミートポイントを捕手寄りにおいてとらえるV字バッティングを磨き上げてきた選手たちは、その打法にスイングスピードとパワーが追いつき、相手投手にかわす投球を捕まえられるようになってきた。初戦で関西の2年生左腕・堅田を攻略して、10安打4得点を挙げると、その後も継投策主体の智辯和歌山、速球派投手を複数擁する帝京、変則左腕・葛西が率いる大垣日大と難敵を次々打ち崩して、成長の跡を見せていた。

また、エース島袋(ソフトバンク)も直球一辺倒だった昨年から大きく成長を遂げ、捕手・山川とともに1試合を通しての配球の組み立てで相手打線を抑え込んだ。左投手でありながらプレートの3塁側を踏むスタイルを貫き、右打者のクロスファイヤーにこそ角度がつかないものの、左の好打者のインサイドにきっちりと速球を投げ込めるのも彼の特徴。智辯和歌山の西川揺(楽天)や左の好打者を多く擁した帝京、大垣日大をもってしても打ち崩すことはかなわず、難攻不落の存在になってきていた。

2008年春に沖縄尚学が2度目の選抜制覇、夏は浦添商がベスト4とここ数年結果を残してきた沖縄勢。県内のライバルに先を越されていた興南だったが、我喜屋監督就任後の着実な強化がこの大会でようやく日の目を浴び始めていた。同校初の優勝まであと1勝である。

【好投手列伝】沖縄県篇記憶に残る平成の名投手 2/2 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

asahi.com:高校野球ニュース「脳腫瘍を克服「プレーで元気づけ ...

一方、日大三は2006年夏に斎藤佑(日本ハム)を擁する早稲田実に西東京決勝で敗れて連覇が止まって以来、なかなか勝ち上がれない年が続いていた。2006年から2008年まで3大会連続で優勝校に敗れ、2007年は創価を相手に追い上げムードの中、雷が鳴ったことで金属バットが使えなくなるという不運もあった。一度勝ち運が逃げると、なかなか引き戻せないのが高校野球の世界でもある。

しかし、前年夏、関谷-吉田(ともにロッテ)のバッテリーを中心に久々に出場を果たすと潮目が変わる。この大会では2試合で4得点と強打の日大三の本領が発揮できなかったが、山崎(オリックス)・吉沢が残った新チームは前年以上の打力を武器に秋季東京大会を力強く勝ち上がる。準決勝で優勝した帝京に4-5と惜敗したが、相手を上回る12安打を放った打力が評価され、2002年以来8年ぶりとなる選抜出場を決めた。

すると、大会では日大三の打力が甲子園を席巻する。1回戦で山形中央の2年生左腕・横山(阪神)を打ち込んで14-4と大勝を収めると、準々決勝の敦賀気比戦でも10得点で大勝。準決勝では好投手・有原(日本ハム)を擁する広陵に8回表まで4-5とビハインドを背負っていたが、8回裏に一挙10点のビッグイニングで相手投手陣を粉砕した。投げては脳腫瘍を乗り越えたエース左腕・山崎が角度のある速球を武器に好投し、乱戦になった準決勝以外は、1試合平均2失点以下で試合をきっちり作っていた。

強打の2番萩原や5割近い打率を残す2年生4番横尾(日本ハム)、大会記録に迫るヒット数を積み重ねる5番山崎、ともにホームランを放った3番平岩、6番吉沢と錚々たる強打者が居並ぶ打線は間違いなく、大会トップクラス。エースの好投も光り、投打ががっちりかみ合った野球で、2度目の選抜制覇を狙っていた。

【好投手列伝】東京都篇記憶に残る平成の名投手 5/5 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

最後は守備のミスから集中打で決着

2010年選抜決勝

興南

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
0 0 0 0 1 4 0 0 0 0 0 5 10
0 2 1 0 0 2 0 0 0 0 0 0 5

日大三

 

興南   島袋

日大三  山崎→吉永

興南は島袋、日大三は山崎と、ともに両エースが順当に先発のマウンドに上がった。試合の焦点はやはり、日大三の強力打線を興南のエース島袋がいかに抑えるかであった。

立ち上がり、島袋は自慢のストレートで2番萩原、3番平岩と怖い打者を連続三振に切って取る。投球の軸であるストレートに狙いを絞ってフルスイングする日大三打線に対し、興南バッテリーも一歩も引かない構えを見せる。対する日大三・山崎は速球とチェンジアップの緩急が効き、1,2回と危なげない投球で興南打線を封じ込めていく。

絶好の立ち上がりを見せた両投手。しかし、ひょんなところから失点を喫してしまう。許したのは島袋だった。2回裏、先頭の5番山崎に四球を与えると、続く6番吉沢の犠打をサード我如古が悪送球してまう。7番畔上にも四球を与え、無死満塁の大ピンチを迎えると、後続を連続で内野フライに打ち取ったにも関わらず、続く1番小林の打席で島袋がまさかのけん制悪送球。ボールがライトファウルグラウンドを転々とする間に2者が駆け抜け、日大三が2点を先制する。

さしもの島袋も決勝戦のマウンドに緊張があったか、ミスが重なっての先制点は痛い。ここに追い打ちをかけるように3回裏、日大三が追加点を挙げる。

先頭の3番平岩が島袋の高めの速球をとらえると、打球は高々と舞い上がる。センター慶田城はセンターフライと思って後ろ向きに下がるが、打球はグングン伸びてなんとバックスクリーンに飛び込むホームランとなる。準々決勝から2試合無安打に終わっていた平岩だったが、ここまで数々の好打者が苦戦してきた島袋の速球をあそこまで運んだ打撃はさすが日大三と思わせるものであった。また、日大三はこの回、5番山崎が大会最多安打タイ記録となる13本目のヒットを放ち、歴史に名を刻む。

先に3点欲しいと試合前に目論んでいた我喜屋監督だったが、その3点は日大三に刻まれた。守りの興南としては苦しい展開だったが、5回表に打線がようやく山崎をとらえる。

先頭の5番銘苅が巧みな流し打ちで出塁すると、四球などでつないで2アウト満塁に。ここで当たっている1番国吉大が山崎のボールをしっかり引き付けて三遊間を破り、1点を返す。その裏、島袋も得点圏にランナーを背負った場面で先ほど安打記録に並んだ5番山崎をすべて速球で空振り三振に切って取る。流れが悪い中でもしっかり踏ん張るところに昨年からの成長が感じられた。

すると、グラウンド整備が終わっての6回表。興南打線の猛反撃が始まる。先頭はこちらも最多安打タイ記録に王手をかけた3番我如古。山崎の速球に詰まりながらも、打球はふらふらっと上がってライト前にポトリと落ち、記録に並ぶヒットとなる。決していい当たりではなかったが、こういうヒットの方がダメージは大きいものだ。その後、2者が凡退して2アウトとなるが、我如古が盗塁で2塁へ進むと、6番山川がインサイドの速球をうまくセンターに打ち返して1点差に迫る。

中盤になって山崎の緩急に対応し始めたか、興南の各打者の対応が目に見えて良くなる。7番伊礼が死球でつなぐと、8番島袋は会心の流し打ちで左中間を破り、2者が生還して逆転。さらに9番大城(オリックス)もタイムリーを放ち、この回一挙4点を奪う。日大三の打者と比べると、体格は小柄な興南だが、相手のスキを逃さない集中力は一枚上手である。

2点のリードをもらって島袋は6回裏のマウンドへ。しかし、得点が入ると相手にも…という展開は野球にはよくある。1アウトから代打・大塚がこれまた島袋のストレートをとらえると、打球は右中間スタンドへ飛び込むホームランに。これまで数々の強豪を下してきた島袋だが、そのボールをスタンドまで2度も飛ばす日大三打線には恐れ入る。さらに9番鈴木がライト線へ落ちるラッキーな3塁打で出ると、続く1番小林が乾坤一擲のスクイズを決めて試合は同点に。一歩も譲らない攻防はそのまま後半戦に入る。

試合が進むにつれて島袋の疲れが見えるかと思われたが、大会随一の強力打線を相手にひるまず投げるエースの投球が試合を支配していく。日大三打線も負けずにフルスイングを続けるが、7回以降ランナーこそ出るものの、ヒットがぱったりと止まる。速球だけに頼ることなく、巧みに変化球を織り交ぜ、投球の軸を先手必勝で変えていく興南バッテリー。そこには速球にこだわって打たれた昨夏の明豊戦の姿はもうなかった。

日大三・山崎も負けじと7回以降踏ん張り、試合は延長戦へ。接戦を決めるのは四死球、ミス、長打とはよく言ったものだが、11回裏に日大三に攻撃のミスが出てしまう。先頭の8番大塚が四球で出塁するも、後続が続けてバント失敗。島袋の鍛えられたフィールディングの前にランナーが2塁へ到達できない。日大三にとっては、なんとも痛いイニングとなってしまう。

この相手のミスによる流れの変化を逃さないのが試合巧者・興南だ。12回表、一気に試合を決めにいく。1アウトから4番真栄平が日大三の内野陣の連係ミスで出塁。日大三は負の連鎖を断ち切れない。ここで小倉監督がついに山崎をあきらめてショートの吉沢をマウンドへ送るも、吉沢は思うようにストライクが入らず、2者連続で四球を与える。1アウト満塁となって7番伊礼の打球はサード横尾の前へ。横尾は半身の体勢からホームへバックホームを行うも、これが悪送球となって2者が生還。大きな大きな勝ち越しの2点が入る。

前のイニングから自分たちの野球ができない日大三に対して、興南はここぞとばかりに畳みかけ、島袋がセンターオーバーの2点タイムリーを放つなど、この回一挙5点を挙げる。島袋は準決勝までわずか1安打だったが、この試合は2点タイムリー2塁打を2本放ち、まさに千両役者の活躍であった。大量リードをもらった12回裏をきっちりと抑え、興南が沖縄勢として2年ぶり3度目となる選抜制覇を果たしたのだった。

第82回選抜・決勝 興南vs日大三 ダイジェスト『前編』 – YouTube

第82回選抜・決勝 興南vs日大三 ダイジェスト『後編』 – YouTube

まとめ

興南は春季大会以降も快進撃を続け、春の九州大会はエースを起用することなく、圧勝。全国制覇を達成し、駆け上がってからは他を寄せ付けない強さを見せていた。高校生であるがゆえに、慢心があってもおかしくなかったが、選抜決勝の試合後に我喜屋監督が「日大三のようなパワーのあるチームに今のままでは夏は勝てない」と言ったように、選手の手綱をすっかりと引き締めて、夏の大会へと向かった。

その夏の大会では明徳義塾や仙台育英、聖光学院といった常連校を寄せ付けずにことごとく完勝。準決勝の報徳学園戦こそ苦戦を強いられたものの、この5点差をひっくり返した試合こそ興南の強さを際立たせるものであった。決勝は選抜で優勝候補の筆頭だった東海大相模に13-1と圧勝し、史上6校目の春夏連覇を達成。「小さな仕事をきっちりこなせる者が大きな仕事を果たせる」という我喜屋監督の指導方針のもと、南国の球児達が最高の大仕事をやってのけた年となった。

興南vs報徳学園 2010年夏 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

一方、その我喜屋監督を恐れさせるほどの強打を見せた日大三だったが、夏の西東京大会では兄弟校の日大鶴ケ丘に延長戦の末5-6と惜敗してしまう。大量リードをひっくり返されてのよもやの敗戦だったが、最後は2年生右腕・吉永がピンチの場面で内野陣が声をかけにいけず、そのまま相手に決勝点を許してしまった。個々のポテンシャルがいかに高くとも、それだけでは勝てないのが野球の怖さであり、面白さでもあった。

しかし、翌年の日大三はエース吉永と鈴木のバッテリーに畔上、横尾、高山と強打者の並ぶ打線で圧倒的な強さを発揮した。選抜こそ準決勝で三好(楽天)-高城(DeNA)のバッテリーが率いる九州国際大付に敗れたが、神宮・夏の甲子園・国体とそのほかの3大会はすべて優勝。「10点取って0点に抑える野球がしたい」という小倉監督の理想をまさに体現したチームが、大輪の花を咲かせ、前年の雪辱を晴らす格好となった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました