2016年夏の甲子園振り返りまとめ

2016年

作新学院と北海という大会前は予想もしなかったカードとなった決勝は作新学院の54年ぶりの優勝で幕を閉じた。江川でも成しえなかった全国制覇を春秋と県予選敗退だったチームが達成するという快挙。あらためて高校生の成長スピードのすごさを実感させられた。

今大会ほど投手のレベルの高かった大会もそうないだろう。優勝投手の今井に大会前からBIG3と注目された藤平(横浜)、寺島(履正社)、高橋(花咲徳栄)、そして、広島新庄の左腕・堀に木更津総合の技巧派・早川とプロ注目の投手が目白押しだった。

その他にも投球は不振だったが、打棒で見せた東邦・藤嶋に樟南の左腕浜屋や選抜優勝投手の智弁学園・村上、履正社を破った常総学院の左腕・鈴木、20イニング無失点を継続した明徳義塾・中野、152キロを計測した松坂2世の創志学園・高田などなど好投手がひしめいていた。

地域別でみると関東の強豪校は力をいかんなく発揮。四国勢も高松商業が県大会で敗れた中、明徳・鳴門がベスト4、ベスト8にコマを進めた。一方、選抜で隆盛を極めた近畿勢はベスト8に一校も残れず。県大会で本命校が次々と姿を消したこともあっただろうが、意外な結果だった。

優勝校・作新学院は今井の圧巻の完封劇からスタートした。選抜準優勝校・高松商業を強打で下した尽誠学園を相手にアウトローいっぱいの150キロ台のストレートと切れ味鋭いカットボールで手を出させない。フォームも硬さがなく、無理せず150キロを投げられているところに凄みを感じた。夏まではコントロールがつかずに全国的にも無名だっただけに高校生は恐ろしいものである。打線は準決勝まで全て先制攻撃。小針監督らしい打って進める野球が功を奏し、バントを使わない野球には新時代の到来を予感させる。4番の入江は大会史上7人目となる3試合連続ホームラン。尽誠学園・渡辺や木更津総合・早川と標準以上の好投手相手に甘く入ったボールを逃さずスタンドインさせた。主将山本はショートで再三の好守を見せ、今井を盛り立てた。昨年まで5年連続出場だったチームが秋春と全く勝てなかったが、小針監督のもと「最後の最後まで成長し続けよう」と奮い立ち栄冠に輝いた。若い指揮官の元、新たな黄金時代はしばらく続きそうな気配である。

北海は22年ぶりの夏の勝ち星を挙げると一気に決勝まで勝ち上がった。5大会連続初戦敗退中で相手も金沢、徳島商業、東邦、明徳義塾、鹿児島実業と強豪校相手に苦杯をなめ続けていた。しかし、今大会は昨夏の登板で1アウトも取れなかったエース大西が成長。初戦で初出場の松山聖陵を相手に9回サヨナラ勝ちを収めると、準々決勝まで防御率0.67のエースをバックが硬い守備で盛り立て、88年ぶりにベスト4進出。準決勝では戦力的には完全に格上の秀岳館を相手に初回の相手のまずい攻めに助けられて無失点で切り抜けると、複数投手を擁する相手の継投のすきをついて、大西自ら先制打。4点を先行すると外角低めに集める丁寧な投球でしのぎ切り、初の決勝進出を果たした。決勝では作新の強打の前に力尽きたが、肘痛もある中で4試合連続の完投。昨年とは比較にならない投球を見せた。打線は残塁こそ多かったが、松山聖陵・アドゥワや日南学園・森山ら好投手に2桁安打を浴びせた。5番の川村は2打席連続のホームラン。このチームが素晴らしいのは精神面のぶれがないこと。派手なガッツポーズもしなければ、落胆もしない大人のチームで展開に左右されず、安定して戦えていた。北海道一の名門校ながら、駒大苫小牧に遅れをとっていたが、昨秋予選敗退のチームが全国で最も長い夏を過ごすことができた。

明徳義塾はここ2季連続の初戦敗退だったが、この夏は復活のベスト4となった。投打ともに黄金期の力強さこそないが、4番捕手古賀を中心にしたたかな戦いぶりを見せた。初戦は相手の境のミスを逃さず得点を重ねると、2戦目の嘉手納線は相手エースの仲地の狙い球を絞り、引き付けて逆方向にはじき返すバッティングで攻略。最後は3番西浦のグランドスラムで引導を渡した。準々決勝では春の四国大会でも対戦した鳴門を相手に徹底的に相手の苦手なコースを攻めてエース・中野が3安打完封。中野は春先の不調から完全復活。縦のスライダーの切れは抜群で、選抜の借りを返した。準決勝では大敗したが、エース今井を苦しめ、5回で96球投げさせて降板させた。ある意味、今井を攻略した唯一のチームと言えるだろう。94回以来4年ぶりのベスト4。明徳がこれだけ打った大会も久しぶりな気がする。名門復活を印象付ける大会となった。

秀岳館は春夏連続のベスト4となり、鍛治舎監督が枚方ボーイズ時代から率いたメンバーの集大成を見せた。投手陣は田浦・中居・川端の左3人と右のエース有村による継投策を見せた。それぞれの特徴を捕手の九鬼が活かし、交代期も迷うことなくスパッと変えていた。鍛治舎監督が言うように「このピッチャーは変化球が外れだしたら交代」などそれぞれの交代のポイントを試合前から決めておくことによって、思い切りのよい継投を見せた。打線は振りの鋭さやパワーに関しては大会でもNo.1だったかもしれない。特に1番松尾と5番天本は好調を維持。松尾は春から比べてスイングの動きに無駄がなくなり、天本は県大会の不振から完全に脱却した。また、春にはなかった機動力もプラスされてバリエーション豊かな攻撃を見せた。枚方ボーイズからごっそりメンバーを引き抜いたため、かなり批判にさらされたが、そんな中でも九鬼を中心にまとまり、震災の被害にも負けずにプレーした。実力だけでなくハートの強さも見せるチームであった。

常総学院は3年ぶりのベスト8進出。その戦いぶりは常総野球の強さを物語っていた。初戦は近江の好投手・京山を粉砕。打力の高さを見せると、2戦目の中京戦では絶妙のバント攻撃。三塁前のセーフティバントにスクイズとパワーの中京に対して、うまさで対抗して8-3で勝利。ヒット数は10-8と拮抗していたが、得点差は5点ついていた。3回戦は優勝候補・履正社の立ち上がりを攻めて5点先取。初先発の山口の持ち味であるストレートをいきなり有村が捕らえて突破口を開くと、代わった寺島にも畳みかけてあっという間にリードを広げた。鈴木は13安打を浴びながらも1イニング1失点までにとどめて、7-4で勝利した。鈴木は選抜で鹿実にKOされた悔しさをばねに成長。左打者の懐にシュートを投げ込み強打者を詰まらせた。準々決勝では鈴木の疲れから秀岳館のホームラン攻勢に散ったが、常総らしいうまい野球で上位進出した。佐々木監督も徐々に自分の色を出し始めており。近々再び茨城に優勝旗が翻るかもしれない。

鳴門は5年連続の甲子園出場で3年ぶりのベスト8.現3年生は1年生のころから主力を張っていたが、ここ2年は初戦敗退が続いていた。しかし、今大会は開幕戦で佐久長聖を3-2で振り切ると、2回戦は選抜優勝校の智弁学園を撃破。3回戦では盛岡大付属との打撃戦を制した。投手河野は短いテークバックから最速145キロの切れのあるストレートを投げ込んだ。選抜優勝の智弁打線を5安打2失点で寄せ付けなかった。打線は持ち味のつながりを発揮。4番手束は開幕戦で弾丸ライナーのホームランを放ち、盛岡大付戦では控え投手の中山や小柄な1番日野もホームランとパンチ力も見せた。チームワークの良さも光り、四国の公立強豪校らしいチームであった。これで5年間で春夏通じてベスト83回。一時代を築いている。

聖光学院は10年連続の出場。これで夏4度目のベスト8.貫禄の戦いで、福島の盟主たる所以を見せてくれた。初戦は北北海道のクラーク記念国際に終盤まで1点に抑え込まれるも8回に相手のミスにつけ込んで満塁のチャンスを作ると2年生小泉が満塁走者一掃のスリーベースで見事な逆転勝利。3回戦は強打の東邦を相手に意表をついて控えの鈴木駿を先発に起用。伸びのあるストレートで強力打線をわずか5安打2失点に抑え込んだ。準々決勝では北海に力負けしたが、斉藤監督横山部長のタッグもすっかり板についてきて地力を見せつけた。不眠合宿・不動心など精神力を鍛える野球とA,Bチームに分けて競争心をあおる方法で今回も素晴らしいチームを作り上げた。

木更津総合は春夏連続のベスト8.このチームは何といっても早川の力が絶大であった。目に見えてすごいボールはない代わりに打てるボールも少ないという印象。柔らかいフォームから伸びのあるストレートと低めへの切れのある変化球でバッターをきりきり舞いさせ、2試合連続のシャットアウトを成し遂げた。特に勝負所での集中力が光った。それだけに準々決勝で失投をホームランされて一気に点を失ったのは痛かった。打線は春から夏にかけて上位下位満遍なく打つようになり、少ないチャンスをものにしていった。千葉大会で4四阿連続1点差勝利したのは打線の力あってのものだろう。木更津総合の歴史を塗り替えたチームだった。

続いて3回戦敗退組。

履正社は過去最高とも言える戦力で乗り込み、2回戦では横浜との優勝候補対決を制した。エース寺島のストレートの質は素晴らしく、試合展開の中でon-offを切り替えられるクレバーな投手だった。打線は持ち味の送りバントを駆使して12回戦は確実に得点した。しかし、3回戦は先発の山口が得意のストレートを痛打され、2回で降板。リリーフした寺島も準備不足がたたり、守備ミスも絡んで失点した。打線も思わぬビハインドに拙攻を繰り返し13安打で4得点に終わった。春先からほとんどビハインドを食らわず戦ってきたこともあるだろうが、大量リードを許したときに足を使って仕掛け、ビッグイニングを作る攻撃ができなかった。下位打線で3連打しながら満塁どまりで無得点というシーンもあった。そのあたりの攻撃のバリエーションが加味されると大阪桐蔭のように優勝できるチームになるだろう。

東邦は初戦で北陸相手に強打爆発。4番藤嶋はサイクル越えの活躍を見せた。しかし、2戦目は八戸学院光星に大量リードを許す展開。7回で9-2とされたが、そこからしぶとい攻撃で得点を積み重ねた。リードを許していても積極的に盗塁をしかけていき、タイムリーにつなげていった。9回には4番藤嶋が凡退してツーアウトにおいこまれながら、そこから4人連続でヒットでつないで逆転サヨナラ勝ち。最後は観衆も味方につけて試合をひっくり返してしまった。負けていても笑顔を保ち続ける雰囲気に観客も引かれたのだろう。藤嶋・松山の調子が上がらず3回戦で姿を消したが、東邦の存在感を見せつけた夏であった。

ところで、この東邦八戸学院光星の1戦の観衆の反応については賛否両論あると思う。昔から甲子園にファンは判官ひいきなところがある。勝っているチームには厳しい宿命だろう。しかし、一つ言えることは選手はこういう事態も想定して精神力を鍛えなくてはいけないということだろう。大変だとは思うが。八戸学院光星が負けた原因の自分たちに求めている姿勢は素晴らしいものだった。

花咲徳栄はエース高橋が被安打は多いながらも好投。打線も中軸の左打者が樟南の好左腕・浜屋をとらえるなど力を発揮したが、3回戦で先発した控えの綱脇が2回に崩れて5失点。作新の今井相手には致命傷となった。今大会ビッグ3を擁した3チームはいずれも控え投手が失点して敗れる展開。トーナメントを勝ち抜く難しさを感じた。

広島新庄の堀は独特の腕の振りから145キロを計測したストレートと切れのあるスライダーで好投。2007年の都城泉が丘の諏訪を思い出させるようあ独特の腕の振りであり、練習でイメージするのは難しい投手だった。打線はつながりの良さと機動力で堀を援護したが、3回戦は木更津総合・早川に力負けした。

日南学園は負けるときはヒットが出ながら得点につながらない展開が多かったが、今回は八王子・市立和歌山相手にチャンスを逃さずタイムリーが出た。エース森山のゴロを打たせる投球も見事で、1回戦では20を数える内野ゴロを打たせた。ストレートは遅くともコントロールで勝てることを証明した。

盛岡大付属は3試合で5ホームランの強打がさく裂。154キロ右腕・高田を相手にして「15三振してもいいから10安打して来い」という思い切った指示でフルスイングを貫いた。スイングの強さはどこを相手にしても引けを取らないものだった。県内のライバル・花巻東が毎年のように好投手を生み出すため、それに対抗する打力を磨いてきたのが甲子園で爆発した。東北勢のレベルの高さを示した。

嘉手納は2回戦で前橋育英相手に見事な逆転勝利。外野守備・走塁はお粗末なところもあったが、磨き上げた打力でひっくり返した。沖縄らしいのんびりしたチームだったが、一気呵成の逆転劇は素晴らしかった。

いなべ総合は継投策と集中打で2勝を挙げた。尾崎監督の継投の思い切りの良さと捕手・渡辺の強肩も光った。

その他では横浜高校が2回戦で消えたが、個々の能力は高く平田監督の甲子園初勝利を飾った。県大会14ホームランの破壊力はすさまじく、新横浜時代の到来を予感させた。

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