2023年選抜2回戦
専大松戸vs常葉大菊川
52% 48%
ともにディフェンス主体の野球をするチーム同士の対戦。両エースの出来が試合を左右するだろう。
専大松戸のエース平野は今大会でも大阪桐蔭・前田と並んで注目度No.1の右腕と言える。150キロ台のスピードボールは威力抜群であり、回転数・球威とも申し分なく、関東大会でも強打を誇るチームを封じ込めて見せた。平野だけでなく、角度のあるボールが武器の左腕・渡邉、技巧派右腕・青野も計算が立っており、投手力に関しては出場校中でも屈指だ。本調子なら4点以上奪うのはなかなか難しいものがあるだろう。
対する常葉大菊川は2008~2009年の革命的な走塁や、ノーサイン野球を掲げた2018年のようなチームカラーからは一新。選抜初優勝時の正捕手・石岡監督の元、割と正統派の攻撃スタイルになって印象だ。4番捕手の鈴木叶が軸になるが、昨秋は不振でなかなか結果を出せなかった。しかし、1番勝亦、3番岩崎がカバーするなど上位打線は実力者が並ぶ。犠打も駆使しながらある程度きっちり得点を積み重ねていく野球になるのかもしれない。
一方、常葉大菊川の2年生左腕・久保は平野とは対照的にくせ球で打たせて取る軟投派左腕だ。しかし、一見普通のボールに見えるが、なかなか真芯でとらえることは難しく、打たせて取る投球で凡打の山を築いていく。秋季県大会で22イニングを無失点に抑えた実績がそれを物語っている。速球に狙いを絞って振りぬいてくる打線には久保の投球が実に有効となりそうだ。
対する専大松戸は2年前の春夏の甲子園でいずれも打線がエース深沢(DeNA)を援護しきれずに敗退。全国クラスの投手の強いボールを打ち返すべく、強化を図ってきた。その成果があったか、上位から下位までパンチ力のある打者が並び、中山・吉田・太田の右打者3人を並べた中軸は強力だ。持丸監督も今年は自信を示しており、期待大と言えるだろう。常葉・久保のボールを手元まで引き付けて強いスイングでとらえられるかが重要だ。
専大松戸・平野が本調子なら、やはり若干専大松戸が優位にたちそうだ。常葉大菊川としては先制点を奪って、相手を慌てさせる展開に持ち込みたい。
主なOB
専大松戸…上沢直之(日本ハム)、高橋礼(ソフトバンク)、渡邉大樹(ヤクルト)、原嵩(ロッテ)、深沢鳳介(DeNA)
常葉大菊川…門奈哲寛(巨人)、田中健二朗(DeNA)、桒原樹(広島)、奈良間大己(日本ハム)、安西叶翔(日本ハム)
千葉 静岡
春 1勝 2勝
夏 3勝 5勝
計 4勝 7勝
対戦成績は春夏ともに静岡勢がリード。平成に入ってからも対戦が多い。
1999年選抜では柏陵・清水と静岡・高木(近鉄)の好左腕対決が実現。柏陵打線が初回に5得点の猛攻を見せるが、静岡打線も清水から1点ずつ取り返していき、終盤に同点に追いつく。延長13回に勝ち越しの2点を挙げた静岡が激闘を制し、2回戦へコマを進めた。この両左腕は夏も甲子園に姿を現し、清水は2完封、高木は18奪三振とそれぞれ快投を見せている。
一方、2011年夏の甲子園では習志野と静岡の伝統校対決が実現。この試合では7回表に衝撃のプレーが飛び出す。静岡の左腕・原崎はややモーションの大きい投手。習志野は満塁のチャンスを作ると、3塁ランナーの主将・宮内と小林監督はアイコンタクトで突入のサインを確認する。次の瞬間、塁上の3人のランナーが一斉にスタートを切り、間一髪でホームへ生還。これ以上ない形で追加点を奪った習志野が6-1と快勝で好スタートを切った。
その他にも1973年の強打の静岡と2年生エース土屋(中日)を擁する銚子商(江川の作新学院を下した)の試合など、数々の名試合を演じてきた両県。今回はどちらが勝利するのか。
思い出名勝負
2008年選抜3回戦
千葉経大付
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
3 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 1 | 7 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2 |
常葉菊川
千葉経大付 斎藤
常葉菊川 戸狩→野島
2008年選抜大会は開催前、神宮決勝を戦った常葉菊川と横浜の2強が中心に回ると言われていた。しかし、大会が始まると横浜は北大津に2-6とまさかの初戦敗退を喫する。そんな中、常葉菊川は3回戦で好投手・斎藤(巨人)を擁する千葉経大付との戦いが待ち受けていた。
常葉菊川は2006年の神宮4強に始まり、2007年選抜優勝、同選手権準優勝、同国体4強、そして、新チームでの神宮優勝と5大会連続で全国大会4強入り。この時代、最も安定して強さを発揮していたチームだった。犠打を使わずに強打と好走塁で得点を挙げるスタイルで好投手を次々打ち崩し、田中(DeNA)・戸狩のW左腕で相手打線を封じ込める。常葉菊川の野球が全国に新しい風を吹き込んでいた。
新チームになっても、主力野手が酒井、町田、前田、中川、伊藤と5人残り、センターラインが安定。戸狩はエースとしてきっちり試合を作り、右腕・野島を勝ち上がりながら育てる余裕も見せた。神宮では東洋大姫路の好投手・佐藤を13安打7得点で退け、決勝でも横浜のエース土屋(ロッテ)を攻略。自信をつけたナインはこの選抜初戦でも明豊の2年生エース今宮を(ソフトバンク)を余裕を持って攻略し、春連覇へ順調なスタートを切った。
一方、千葉経済大付は桜美林で優勝投手となった松本監督が就任して年々力をつけ、2004年夏には息子の松本啓(DeNA)がエースを務めて甲子園に初出場。東北のエース・ダルビッシュ(パドレス)に投げ勝つなど、初陣で4強入りする鮮烈なデビューを飾った。その後も、2006年夏は八重山商工に初戦敗退も、剛腕・大嶺(ロッテ)を攻略してあわやのところまで追い詰め、2007年度はエース丸(巨人)を中心に秋季関東大会を制覇。ここ数年は安定して結果を残していた。
その強さの源は選手個々のポテンシャルはもちろんのこと、松本監督が強く訴える「観察眼」にあった。練習中は気づいたことを逐一メモを取らせ、一つ一つにプレーを決して流さない。また、相手選手のプレーの傾向も試合前に徹底的に観察し、試合中はそのデータをもとに戦って結果を残してきた。この代も剛腕エース斎藤が目立っていたが、下級生時代から経験豊富な捕手・谷や好打者・内藤などハイレベルな野球を実践できる野球脳を持った選手が揃っていた。
試合前の焦点は常葉菊川の強力打線が千葉経済大付のエース斎藤を攻略できるかであった。しかし、試合開始から着火したのは千葉経済大付の打線である。
1回表、直球主体の戸狩の攻めを読み、1番重谷の2塁打を足掛かりに1アウト3塁とすると、3番谷も速球を狙い打っていきなりタイムリーを放つ。立ち上がり落ち着かない戸狩は続く4番稲葉の懐をつくが、これを稲葉は強振。打球はライトポール際へ飛び込むホームランとなり、いきなり相手エースから3点をもぎ取る。
ここのところ、全国大会で露出が多い常葉菊川だっただけに、千葉経大付としても対策は十分だっただろう。おまけに向こうは前年度のチャンピオンチームであり、挑んでいく姿勢も作りやすい。
1回裏、1点でも返したい常葉菊川の前にエース斎藤が立ちはだかる。重い球質の速球を武器に、1番中川、2番町田、3番前田をなんと3者連続で見逃し三振に切って取る。フルスイングが身上の常葉打線が手も出せないほどの凄いボール。常葉ナインがやや受けに回った可能性あるが、それにしても斎藤の気持ちの乗ったボールは素晴らしかった。この初回の投球が試合の流れを引き寄せたのは紛れもない事実であった。
2回以降は、戸狩も立ち直りを見せ、千葉経大付打線をほとんど3人で退けて、神宮優勝投手のプライドを見せる。ところが、これで流れを引き寄せたい常葉打線の前に千葉経済大付守備陣のポジショニングが立ちはだかる。中盤から再三内外野にいい当たりを飛ばし始めるが、思い切って守備位置を偏らせると、不思議なほどその位置に打球が飛んでいく。スタメンの半分強が昨年の優勝メンバーであり、打球の傾向もデータでしっかりととられていたのだ。
すると、2回から踏ん張りを見せていた戸狩はグラウンド整備を終えた6回に再び捕まる。ヒットと犠打、内野ゴロで2アウト3塁となると、8番樋口、9番齋藤、1番重谷と3者連続タイムリーでこの回3失点。キーとなるイニングであったが、相手を術中にはめた千葉経済大付の作り出した流れをせき止めることはできなかった。
斎藤は終盤はさすがに飛ばした影響か、常葉菊川打線に2点を奪われたが、昨年から全国を圧倒した打線を7安打2点に封じた投球は見事の一言。投打に相手の良さを出させなかった千葉経済大付が常葉菊川の選抜連覇を阻止し、前年を上回る8強入りを成し遂げた。
その後、千葉経済大付は準々決勝で長野日大との激闘を制し、8-7でサヨナラ勝ち。準決勝は聖望学園との関東対決に敗れたが、この大会で最高成績となる4強入りを成し遂げた。同年夏を最後に出場はないが、2004年から2008年の5年間で9勝5敗、春夏4強1回ずつという成績は、激戦区・千葉で一時代を築いたと言えるものだった。彼らの野球から学べることは非常に多かったと言えるだろう。
一方、敗れた常葉菊川は王者であるがゆえに、相手に研究されるジレンマに陥った一戦だった。投打とも完敗の内容であり、春先はチーム状態も落ち込んだが、夏に向けて再び再起を図った。エース戸狩を中心にしっかり守ること、そして走塁と打席で振り抜くスタイルを再確認したチームは夏の静岡大会を連覇。
甲子園ではエース戸狩が故障しながらも、智辯和歌山や浦添商と言った強豪を集中打で下し、準優勝を成し遂げた。2007年からの2年間、高校球界の主役は間違いなく常葉菊川だったと言える活躍であった。
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