昨年は春は山梨学院、夏は慶応と関東勢が優勝に輝いたが、いずれも大会前に圧倒的な優勝候補だったわけではなく、勝ち上がりながら力をつけていった感があった。
今年の大会も、ぶっちぎりの存在は少なく、優勝候補からダークホースのチームまでの力の差は、近年でも最も少ないかもしれない。そんなどこが勝つか全く読めない戦国大会で、優勝を勝ち取るのは果たしてどのチームなのか、占っていきたい。
優勝候補先頭集団
まず、優勝争いを引っ張る先頭集団は下記に挙げた7チームになるか。
星稜は松井秀喜氏(ヤンキース)を擁した1992年度以来となる神宮大会制覇を達成。夏春連続出場で悲願の石川県勢初優勝を狙う。
投手陣は昨夏の甲子園を経験した左腕・佐宗がいたところに、右腕・道本も台頭してきたのが大きい。ややスリークオーター気味の佐宗と右本格派の道本という全くタイプの異なる2人がそれぞれ完投能力もあり、継投も自在というのは山下監督にとっても心強いだろう。佐宗は中学時代から全国経験豊富であり、甲子園でも臆することなく自分の持ち味を発揮しそうだ。
一方、4番萩原が神宮大会で2試合連続ホームランと活躍を見せたが、基本的に走力と小技を融合した、いわゆる「点の取れる野球」が持ち味だ。昨夏の創成館戦は、序盤に大量リードを許した焦りもあって、追い上げきれなかったが、今年は着実に得点を積み重ねることができる。俊足の1番吉田と2番中山のコンビで初回から相手バッテリーをかき回すことができるのが強みだ。
ここ数年は個々の能力は非常に高いが、もう一押しができない印象もあった星稜。今年壁を突き破る可能性は十二分にある。
その星稜と互角の接戦を演じた青森山田もV争いに堂々と加わる。
何といっても強みは、東北大会決勝で無安打無得点の快挙を演じたエース櫻田と剛腕・関という強力2枚看板の存在だ。櫻田は春以降のフォーム改善で球質が格段に良くなり、多彩な変化球がより生きるようになった。全国クラスの光星打線を相手にノーノーを演じるというのは並大抵の実力ではないだろう。また、同じく長身の右腕・関は櫻田以上の球威のある速球で相手打者をねじ伏せる。この剛腕2人の存在は、打高投低が予想される選抜では大きなアドバンテージとなる。
一方、打線は県大会決勝、東北大会決勝と2度にわたって光星の好左腕を攻略しており、上位から下位まで切れ目ない打線を形成する。中でも出塁率の高い1番佐藤洸は今大会でも屈指のリードオフマンと言えるだろう。4番原田、5番蛯名の2人はともにスタンドに放り込む力を持っており、彼らの前にランナーをためて回せれば、大量点もつながる。投手陣が安定しているだけに、腰を据えて着実に得点を重ねられていきたい。
2000年代は青森一強の時代を築いた同校だが、2010年代以降はライバル光星に大きく水をあけられた感がある。今大会で一気の巻き返しとともに、青森勢初優勝を狙う。
作新学院は2年連続の選抜出場。もともと打力の高い同校だが、今年は投手陣が充実し、一気に走る予感が高まる。
エースは昨年から期待されていた本格派右腕・小川哲。ケガの影響でなかなか本領を発揮できていなかったが、新チーム結成以降は本来のストレート主体に押す投球が戻り、最速147キロを誇る剛腕が復活を果たした。2番手にはサイドハンドの石毛も控えており、バックアップ体制も万全。継投で四苦八苦しながら打ち勝っていた昨年と比較すると、一番チームとして伸びたのが投手力だろう。
一方、例年強打を誇る打線は今年もその威力は健在だ。小針監督らしい強攻策主体のスタイルは変わらないが、今年はよりミート中心でコツコツ粘れるところが特徴となっている。コツコツとはいいつつも、関東決勝で21得点を挙げたように得点力は例年以上。4番廣田を中心に長打力のある選手も控えており、秋以降の台頭が楽しみだ。
昨年は8強で姿を消したが、甲子園での戦いを熟知している北関東の強豪が優勝争いに割って入るのは間違いないだろう。
健大高崎は関東大会4強ではあるが、期待の1年生の両輪が充実し、潜在能力ではトップクラスに位置するだろう。
投手陣は1年生ながら強力な左右2枚看板が控える。左腕・佐藤、右腕・石垣のコンビはともに140キロ台後半の速球を持つ本格派で有り、ポテンシャルは全国トップクラス。佐藤は本格派左腕にありがちな制球難も克服しつつあり、選抜での奪三振ショーに期待がかかる。同じく全国屈指の好捕手である箱山の存在も大きく、卓越したインサイドワークと強肩で下級生投手陣を盛り立てる。
また、持ち前の強力打線は今年も健在。例年と比較すると、打力>走力の印象があるが、中軸を中心に打って局面を打開できるのは強みだ。4番箱山を中心に森山、田中らツボにはまると一発のある打者が揃う。また、走塁の意識が低いわけでは決してなく、相手のスキをついて先の塁を狙う健大高崎らしさは失われていない。例年、豊富な練習試合をこなす同校のスタイルで、経験に基づいた状況判断の正確さを出していけるのが強みと言えるだろう。
これまで出場回数の半分は8強以上に進む安定感がありながら、あと一押しができなかったのは、投手力の面が大きかったかもしれない。しかし、ここから2年間は頼れる左右両輪がおり、全国制覇の大きなチャンスなのは間違いない。関東の強豪が、ブレイクスルーを果たす大きなチャンスが到来している。
関東一は秋の東京大会を久々に制し、選抜出場権を獲得。神宮大会でも2勝を挙げており、実戦に強い「勝てるチーム」だ。
投手陣はコントロール抜群の左腕・畠中と同じく安定感の光るエース坂井の2枚看板。2人とも四死球から崩れる心配はなく、ゲームメイクに長けているのが特徴だ。特に坂井はストレートの球速も140キロ台後半をマークしており、本格派としての顔も持つ好投手だ。神宮では大阪桐蔭打線を相手に、序盤に奪ったリードを落ち着いて守り切り、強豪から白星をもぎ取った。全国でも通用する実力を持つ左右2枚看板で勝負をかける。
一方の打線も、神宮で大坂桐蔭をあわやコールド負けまで追い込んだように、破壊力は全国トップクラスだ。特に一発の魅力のある4番高橋は、放り込めるツボを持っており、選抜でも期待がかかる。140キロ台後半の速球にも力負けせず、神宮でも1試合平均7得点をたたき出した強打は、今年の関東一の大きな武器だ。俊足の1番飛田を中心に機動力もあり、百戦錬磨の米沢監督のタクトのもと、硬軟織り交ぜた攻撃で相手を崩しに行く。
ここ数年は、同じ東東京の二松学舎大付に押され気味だったが、秋は安定した戦いで東京を制した。出場すれば上位まで勝ち進む印象が強い関東一が、春の舞台で存在感を示せるか。
広陵は3年連続の選抜出場。高尾-只石のバッテリーが残り、安定感を誇る。
高尾は神宮大会でこそ星稜打線に捕まったが、本調子時の低めに突き刺さる重い速球は簡単に攻略することはできないだろう。捕手・只石はインサイドワークだけでなく、全体の統率も取れる好捕手。昨年は神宮で大坂桐蔭、選抜で山梨学院、夏は慶応といずれも全国大会で優勝校に敗れただけに今年は期するものがある。また、2番手の2年生右腕・堀田が中国大会決勝で完投するなど、連戦にも不安はない。
一方、打線は昨年の主砲・真鍋のような長距離砲はいないが、小技と走塁を駆使した攻撃で着実にランナーを進められるのが特徴だ。新チーム結成以来、完封負けは一度もなく、得点力は高い。4番只石は打線でも中心に座り、勝負強い打撃でランナーを返していく。1番濱本、2番田村の俊足コンビは相手バッテリーにとっては実にやりづらいコンビだ。あともう1点が取れずに惜敗した昨年の借りを返す攻撃を見せたい。
昨年はセミファイナルで力尽きたが、甲子園での経験値という点では今大会でもトップクラスだろう。サクラの広陵が4度目の全国制覇を成し遂げられるか、その戦いぶりに注目だ。
高知も3年連続の選抜となる。こちらは辻井、平の強力右腕2枚看板を擁し、経験豊富な濱口監督のもと試合巧者ぶりが光る。
本来、完投能力のある2人だが、その力を存分に引き出せるように継投策で臨んでいる。序盤は、経験値の高い辻井が先発し、終盤はスピードのある平が締めるパターンを確立。辻井は昨年の選抜でもすでにその実力は実証済みだ。手元で伸びる球質とその躍動感はともに一級品であり、来年のドラフト候補にも挙がるのではという逸材である。一方、秋以降に急成長を見せた平は速球のスピードでは辻井の上をいく。終盤の短いイニングでその力を一気に開放し、相手打線をねじ伏せていく。強力な右腕2枚看板が今年の高知の強みだ。
一方、軟式野球出身の濱口監督が率いる打線はうまさが光る。ここ2年を見ても決して大物うちがいるわけではないが、チャンスを確実にものにする攻撃が光り、必要な場面で進塁打を放てる選手が揃っている。大石、谷口、辻井の中軸にはいずれも長打力があり、この3人の前にスコアリングポジションに進んだ状態で回して、コツコツと得点を積み重ね、試合が終わってみれば勝っているのが高知というチームだ。秋以降に磨いてきた機動力を絡めて、さらに得点を伸ばしていきたい。
神宮では豊川との乱打戦に敗れたものの、持っている力は全国トップクラスなのは間違いない四国王者。3年連続の春の舞台で、2度目の紫紺の大旗が見える位置まできているだろう。
第2集団
第2集団とは謳っているものの、その実、先頭集団とほとんど差がないのが今年の特徴だ。この第2集団も併せて、本当の先頭集団と言っても、ほぼ差し支えないだろう。
八戸学院光星は昨夏の甲子園を経験した強力左腕2人を擁し、優勝戦線へ加わる。
1年生から甲子園のマウンドを踏む洗平は流麗なフォームから繰り出すキレのあるボールが持ち味。秋の公式戦では防御率0点台をマークしており、伸びのある速球と精度の高い変化球で相手打者を牛耳る。試合の中でオンオフをつけた投球ができるのが強みだ。もう一人の左腕・岡本琉も昨夏に聖地のマウンドは経験済み。球威では洗平を上回り、スケールの大きな投手だ。ここに新たに左腕・森田も加わり、大会でも指折りの左腕王国を形成。得点を挙げるのは容易ではない。
一方、例年強打で鳴らす光星打線だが、秋の戦いでは苦しい試合が続いた。2番を務める砂子田以外はほとんどメンバーが入れ替わった影響があるが、東北決勝での無安打無得点試合など、思うように打てない試合が続いた。しかし、同校伝統の近距離バッティングをはじめとして、冬場の猛練習で鍛え上げてくるのが光星の特徴であり、春には一気に成長した姿を見せる可能性はある。今年は走れる選手も多く、鉄壁の投手陣を援護するためにも、1点1点しっかり積み重ねる野球をしていきたい。
ライバル青森山田に2度の敗戦を喫した昨秋の公式戦。しかし、秋に悔しい思いをしたチームが勝つことが多いのも選抜という舞台の特徴だ。青森勢初優勝を目指し、同県のライバルより先に帰るわけにはいかない。
山梨学院は2017年、2018年の大阪桐蔭以来となる選抜連覇を狙っての出陣となる。
昨年はエース林が神がかり的な急成長を見せて一気に頂点を極めた。しかし、今年の投手陣はまだ柱となる存在は決まっていない。ただ、裏を返せば、選択肢の多い投手陣とも言えるだろう。櫻田、大友のサイド右腕2人はともに安定感があり、特に恵まれた体格から繰り出す重い速球の大友、コーナーワークの光る櫻田とそれぞれ持ち味が異なる。そのほかにも加藤、山下ら複数の投手を擁しており、相手校も本番までその陣容は読みにくそうだ。
一方の打線も経験豊富な面々が揃っていた昨年からメンバーが一新し、特に内野は大半が2年生で占められている。しかし、長打力は昨年ほどではないが、機動力や状況に応じた打撃ができる点では、昨年に引けを取らない。野球IQの高い先輩たちを見て育った成果だろう。そんな中で、3番主将とチームの精神的支柱を務める中原が仕事を果たせるかは重要となる。初回の攻撃から彼のバットで主導権を握りたい。
あれよあれよと勝ち上がって頂点に輝いた昨年と違い、今年はある程度マークも厳しくなるのは仕方がない。しかし、下級生主体で勢いがあり、今年もチャレンジャー精神をもって1試合1試合勝ち上がれば、昨年と同じ景色が見えてくるはずだ。
大阪桐蔭は3年連続で秋の近畿大会を制覇。高校球界の王者が今年も全国の頂点を狙う。
投手陣の質の高さはおそらく全国でも5本の指には入るだろう。安定感のあるエース平嶋、新2年生ながら末恐ろしいポテンシャルを秘める剛腕・森に加え、中野・川上の両右腕、左腕・山口といずれも他校なら絶対的エースになれるメンツが揃う。中でも森の速球はおそらく短いイニングだと攻略困難なボールであり、当てるのも難しいボールである。ただ、神宮で1試合5失策と乱れたように、例年と比較して守備面に不安があるのは懸念材料だ。
そして、もう一つの懸念材料はやはり打線だろう。3番徳丸、4番ラマルと軸はしっかりしているが、今年は下位打線の得点力が例年に比較するとやや落ちる。境、吉田の1,2番の出塁もそうだが、やはり主軸2人の前にランナーを置くケースをより多く作ることが得点力アップにつながる。下位からでも四死球や単打を積み重ねて、上位へつなぐ攻撃が出来るかどうかが、本番での勝敗のカギを握りそうだ。
絶対的エースの前田(ソフトバンク)がいた昨年、一昨年と比較するとやや前評判では落ちるのは否めない今年の大阪桐蔭。しかし、逆にチャレンジャー精神で食らいついていく時の桐蔭の方が甲子園で結果を残す傾向もある。春夏計9度の優勝を誇る名門がどんな戦いをみせてくれるか非常に楽しみだ。
九州のファイナルを争った2校も当然、優勝争いのトップに加わってくる。
熊本国府は昨秋に快進撃を見せて、九州大会を初制覇。県内屈指の実力校が全国の舞台でついにベールを脱ぐ。
彼らの強みは何といっても投手陣を中心とした守り。エース坂井は球速こそ130キロ台だが、変化球の多彩さと精度の高さが打ちづらさを増している。その球種の多さを活かす捕手・寺尾のリードも冴えわたり、秋の九州では相手打線をことごとく翻弄した。また、準決勝で甲子園経験者が多数残る神村学園打線をわずか1点に抑えた左腕・植田も好投手。左サイドから繰り出す角度のあるボールを武器に、ストライクゾーンの横幅を活かした投球が光る。
一方、打線は犠打できっちり送って中軸が返すというオーソドックスな野球だが、秋の大会ではきっちり結果を残した。中でも主砲の内田は逆方向へも一発を放り込む力を持っており、山田監督の信頼も厚い。全国常連の神村や明豊の投手陣からもきっちりと得点を挙げたように、全国クラスの投手陣が相手でも仕事を果たせる打線だろう。守りに自信があるゆえの手堅さとも言えそうだ。
熊本工で甲子園経験のある山田監督のもと、徹底したディフェンス重視の「国府」野球がどこまで通じるか、台風の目となりうる存在だ。
明豊は夏春連続の甲子園出場。昨夏はあまりにも悔しいサヨナラ負けを喫しており、リベンジに燃える。
エースは昨年の夏の甲子園で最後のマウンドに立っていた右腕・野田。ダイナミックなフォームから繰り出す力のある速球を武器に、新チーム結成以降は投手陣の中心を担った。さらにスライダーの光る右腕・一ノ瀬や寺本・大堀の2年生左腕コンビなど、質量ともに豊富な投手陣を形成。2019年の4強、2021年の準優勝の時を彷彿とさせる層の厚さで、今回も勝負をかける。
一方、打線は同じく昨夏からの経験者である高木を2番に据え、1番木村とのコンビで試合開始時から相手バッテリーに揺さぶりをかける。石田・的場の中軸を中心に下位までずらりと好打者が並び、明豊らしいつながりの良さが、今年のチームにもある。秋の公式戦もまともに封じられたのは九州決勝の国府戦くらいであり、どんなタイプの投手相手でもある程度の対応は可能だろう。今年も強打・明豊は健在と言える。
智辯和歌山出身の川崎監督が、「智辯メソッド」を導入して以降、着実に甲子園で結果を残してきた明豊。ここ2大会は選抜で好結果を出しており、大分勢として津久見以来久々の優勝へ期待が高まる。
強打看板
打力をメインの武器に勝ち上がるのは、新バット解禁の今年の選抜において容易ではないだろう。しかし、いかに上げるチームにはその可能性を感じずにはいられない。
北海も夏春連続での甲子園出場。北国の強力打線が再び帰ってくる。
打線は昨夏の甲子園を経験した面々が上位陣にそのまま残り、破壊力を維持。勝負強い3番幌村に4番宮下、5番大石と続く打線は長打力と確実性を兼ね備える。昨夏、明豊の好投手を最終回ぎりぎりで捕まえたように、最後まであきらめない粘り強さも兼ね備える。下位にも高打率を残した吉井が控えており、ここから上位につながると一気の大量点も現実味を帯びてきそうだ。
一方、投手陣は秋の公式戦の大事な試合をほとんど投げぬいた松田が軸となる。夏までは経験値が多くなかったが、多彩な変化球をコントロールよく投げ込み、試合を壊さない安定感が光った。作新学院の強力打線と対した神宮初戦では9回を無失点と好投を披露。大きく自信をつけて、選抜の舞台に乗り込む。また、控えにはサイド右腕の新屋敷も控え、連戦にも不安はない。
打力が持ち味のチームだが、公式戦の失策は1と守備が堅く、神宮では作新学院と大接戦を演じた。地力の高い名門校が虎視眈々と頂点をうかがう。
常総学院は2021年以来3年ぶりの甲子園出場。甲子園準優勝投手の島田監督に率いられ、名門が帰ってくる。
持ち味の強力打線は秋の関東大会で3試合で21得点と爆発。しかも、専大松戸・花咲徳栄と全国区の強豪を相手に打ち込んだ結果だけに、その価値は高い。常総学院らしい、一度つながり始めると止まらない破壊力を持っており、その中心には絶対的な主砲の武田が座る。公式戦で4本のアーチを描いたように、好投手相手でも自分のスイングを崩さない、安定感がある。強打・常総学院を再び甲子園でお目見えできる可能性は非常に高い。
一方、と主人は期待の本格派右腕・小林がエースを務める。最速149キロを誇る速球は威力十分であり、コーナーにきまるとそう簡単には手が出ない。投手出身の島田監督の指導のもと、細かい技術面まで準備は万端だ。控えには左腕・平や同じく本格派の右腕・斎藤、大川も控えており、層の厚さでは他校に引けを取らない陣容と言える。
3年前は2回戦で中京大中京に力負けして姿を消したが、その年のチームよりも実力は高そうだ。昨夏は土浦日大が快進撃を見せただけに、県内屈指の名門として負けていられないだろう。
東海地区の3チームはいずれも攻撃力が非常に高いのが特徴だ。
豊川は打力を武器に秋の東海大会を制覇。やや打に偏ったチームではあるが、その破壊力は「打力」だけで優勝戦線に入り込めるものを持つ。
打線の顔は何といってもモイセエフ・ニキータ。天性の長打力と勝負強さを持つ左のスラッガーは秋の公式戦で打率5割7分1厘、ホームラン6本と規格外の成績を残し、チームを久々の聖地へ導いた。彼の一打で球場の空気を一変させるだけのスター性があり、今大会でも最注目の強打者だ。また、モイセエフ以外の打者も、上位から下位まで実力者がずらり。神宮で高知の好投手2人を相手に4点差をひっくり返したように、今年の豊川相手にセーフティリードはなさそうだ。終盤の強さにも定評はあり、ドラマチックな試合が期待できるチームである。
一方の投手陣は顔ぶれは多彩。癖球が武器の左腕・鈴木爽と長身右腕の中西を中心に継投策が基本線となる。鈴木爽は手元で動くボールで打たせて取る投球が持ち味。彼が守りのリズムを作れれば、豊川のペースで試合を進めることができるだろう。ただ、絶対的な柱が現段階では見つかっていないのも事実。いかに継投のタイミングを見誤らずに進められるか、長谷川監督の手腕も問われる。
2014年はエース田中を中心とした投手力で4強入りを果たした豊川。以来、着々と力を蓄えてきた愛知の新鋭が、まったく違うスタイルのチームで再び結果を残せるのか注目が集まる。
宇治山田商はその豊川と東海大会準決勝で接戦を演じ、決勝進出した名電より先に進出が決まった実力校だ。
打線は破壊力と手堅さを兼ね備え、得点力は出場チーム中での上位に入るだろう。きっちりとランナーを犠打で進められるのも、得点圏で一本を出す自信があるからだ。中でも1番山本、2番伊藤の2人は秋の公式戦で、2人だけで25打点をマーク。チームの得点の3分の1近くをたたき出した。チャンスメークも決める役割もこなせる頼れるコンビである。また、5番泉は左打席からシャープなスイングでヒットを量産。主砲の小泉を簡単には歩かせられないのは彼の存在があるからだろう。
一方の投手陣はエース中村が柱となる。185㎝の長身から鞭のように腕をしならせて投げるため、見た目以上に対峙している打者は打ちづらいだろう。武器とするスライダーをどう生かすか、女房役の小泉のインサイドワークが重要となる。また、リリーバーの田中や同じく右腕の加古といった面々も控え、連戦にも不安はない。決して派手さのある投手陣ではないが、実力者が揃っている。
前回大会は剛腕・平生を擁して記念すべき「YAMASHO」としての初勝利を飾った。今回は、それを上回る2勝を目指し、久々の大舞台にたつ。
愛工大名電は選抜は意外にも12年ぶりの出場となる。かつて選抜の舞台をわかせた強豪が甲子園の舞台に降り立つ。
打線は破壊力と機動力を併せ持ち、今年も強力だ。昨夏は徳島商の剛腕・森に封じられたが、全国区の好投手と対戦した経験値は確実に新チームの財産となった。3番石見、4番石島の2人は試合の流れを変える長打を放つことができ、少々のビハインドを背負っても一気にひっくり返す雰囲気を持つ。一時期は機動力ベースで結果を残してきた同校だが、時代の流れに応じて再び強打のカラーが根付きつつある。今年も打って勝つスタイルで甲子園で結果を残す。
一方、投手陣も今年は粒ぞろいだ。チェンジアップを交えた緩急の光る左腕・大泉に加えて、最速150キロに迫る本格派の伊東、同じく本格派の左腕・古谷と陣容は豊富。秋の大会では失点がかさむ試合もあったが、全員持っているポテンシャルは非常に高い。コントロールと安定感が増せば、難攻不落の投手陣となる可能性を秘めている。
2004年、2005年はバント戦法で一世を風靡した名電野球。あれから月日がたち、カラーを入れ替えた「紫の常勝軍団」が再び全国の頂点をうかがう。
神村学園は昨夏の甲子園4強メンバーが多数残り、分厚い打線を形成。狙うは初出場時の準優勝を超える成績だ。
経験者の残る上位打線の破壊力は抜群。絶対的主砲の正林がどっかり座り、昨夏の鹿児島決勝でサヨナラ弾を放った岩下、甲子園で大当たりを見せた上川床と続くラインナップは他校からすると、非常に圧力を感じるだろう。正林は左打席から放つ打球で相手投手を威圧できるだけの迫力を持ち、今大会出場選手の中でも指折りのスラッガーだ。1番には俊足好打の入木田が入り、強力クリーンナップを前にしっかりチャンスメークを行う。
一方、左右の両輪が抜けた投手陣で新たに台頭したのは本格派左腕の今村だ。秋の九州大会では沖縄尚学、日南学園と強豪を相手に最速142キロの速球に多彩な変化球を交えて、ほとんど失点を許さなかった。特にストレートには球速以上の力があり、相手打者のバットを押し込む威力がある。昨夏の甲子園では先発しながらも、早期降板となってしまったため、この春はリベンジに燃える。
昨年、多くの下級生を擁して全国で5試合を経験できたのは何よりも大きな財産だろう。この経験値と打力を活かし、選抜でも快進撃を狙う。
投手力で上位狙う
春は投手力と言われる選抜の舞台。
中央学院は関東5校目で2018年以来の選抜切符を獲得。しかし、実力は全国トップクラスに位置するだろう。
投手陣は3人の力のあるピッチャーでまかなう。長身の右腕・蔵並は角度を活かした速球とフォークボールが光り、「縦の攻め」で打者を翻弄する。一方、右サイドの臼井はストライクゾーンの横幅を使った攻めが得意だ。さらにスライダーの光る野手兼任の颯佐もおり、相馬監督が相手打線のタイプに応じて、投手を選択することができる。非常にバリエーションに富んだ陣容と言えるだろう。
一方、打線は派手さはないものの、勝負強い打者が並び、「山椒は小粒でもぴりりと辛い」印象だ。特に投手も務める颯佐は俊足好打の好選手であり、1番打者としてチームの突破口をいつも切り開いてきた。彼を中心に走れる選手がそろっており、足元から相手投手を崩せるのが強みだろう。各選手の状況判断の良さにも定評があり、得点力は数字以上に高い印象だ。
6年前は大谷という投打に注目の逸材がいる中での出場だったが、総合力では今年のほうがあるいは上かもしれない。上位進出へ向けて、まずは甲子園初勝利を狙う。
敦賀気比は4年連続の選抜出場。好左腕・竹下を擁し、虎視眈々と頂点を狙う。
竹下は1年生の時から全国の舞台を経験。昨年の選抜では敗れはしたものの、大阪桐蔭打線を3点に抑える好投を見せた。変化球はキレもコントロールもよく、技巧派ではあるが、勝負所で三振がとれる実力派左腕だ。好左腕の多い敦賀気比の系譜に恥じない、好投手と言えるだろう。後ろには速球派の右腕・宇野も控えており、竹下の投球に相手打線が慣れてきたところでかわすことができる。また、バックも二遊間の西口、岡部を中心に今年も堅守で盛り立てる。
一方、打線も派手さはないものの、シャープなスイングで鋭い打球を放つ、敦賀気比打線の特徴をしっかり引き継いでいる。2番に好打者の西口を置くことで、攻撃にアクセントを加え、初回から「1点にとどまらず2点以上を狙う」ことができる。打撃もいい5番竹下、経験値の高い3番野道が中軸に座り、新主砲の4番濱谷を挟む。その濱谷は秋はやや打率が残らなかったが、長打力の光る好打者だ。冬場を超えて、今年も強打の敦賀気比打線を見せていきたい。
一時期は東監督の去就問題に揺れたこともあったが、慰留に成功。選抜制覇の経験がある指揮官のもとで9年ぶりの頂点を狙う。
今年の近畿勢は好投手を擁するチームが多い。守りの展開で活路を開けるか。
報徳学園は2年連続の選抜出場。昨年のファイナルを経験した2人を中心に、再びの上位進出を目指す。
間木、今朝丸の2人は、もはや説明の必要もないほどの全国区の実力者だ。多彩な変化球を武器に安定感が光る間木、長身から繰り出す最速147キロの速球で押す今朝丸とタイプの違う2人の投手で相手打線を封じ込める。特に今朝丸は秋以降の成長度合いが著しく、ドラフト上位候補に位置するほどのボールを投げ込んでおり、本番で快投乱麻の投球が期待される。そのほかにも左腕・西田健など好投手が控えており、投手陣には全く不安はない。
一方の打線は堀(オリックス)、石野といった長距離砲がいた昨年と比較するとやや劣るのは否めない。そのぶん、攻撃で昨年以上に求められるのは犠打をはじめとした確実性の高い攻撃になるだろう。若い選手が多いだけに、昨年の選抜で大活躍を見せた3番西村をはじめとした3年生の働きもより重要になってくる。投手力がいいだけに先手を取って逃げ切る展開が作れれば理想的だ。
昨年のファイナルを経験した選手が残り、あと一歩で優勝を逃した悔しさも知っている地元の名門・報徳学園。昨年以上の投手力を活かせるかどうかは打線とチームワークにかかっていると言えそうだ。
京都外大西は実に18年ぶりの選抜出場。府内屈指の伝統校が甲子園に帰ってくる。
エースは技巧派左腕の田中。秋は強豪ひしめく京都、近畿の大会を持ち味の打たせて取る投球で勝ち上がっていった。特に選抜へ向けての分水嶺だった準々決勝の履正社戦では、序盤に味方打線が奪ったリードをうまく生かし、緩急とコーナーワークで全国屈指のタレント軍団をしのぎ切った。試合中でも冷静さを失わない度胸の良さが光る。
一方、打線は決して強力打線とは言えないが、勝負所を逃さない集中力を持つ。中でも主砲の相馬はチーム内でダントツトップの14打点をマークしており、ここぞという場面で一本を出せる勝負強さがある。伝統的に機動力の光るチームカラーであり、谷・杉浦の1,2番コンビを中心に序盤から足でかき回して攻撃のリズムをつくっていきたい。
過去、京都西時代に幾度も名勝負を繰り広げた選抜の舞台。復活をかける伝統校の戦いから目が離せない。
京都国際はここ数年ですっかり伝統校の仲間入りを果たし、今回が春夏計4度目の全国の舞台となる。
エースは大会でも注目の左腕・中崎。少し低めの腕の位置から角度をつけて放たれるボールは非常にキレがあり、秋の公式戦の防御率は0点台をマークした。コントロールで苦労する心配もないため、ベンチは安心して試合を任せられる。また、速球に威力のある鳥羽、ポテンシャルの高い西村とその他にも続々左腕投手が控えており、大会でも屈指の「左腕王国」を形成している。これだけで他校より大きなアドバンテージを取っていると言えるだろう。
一方、打線は昨年度のチームからメンバーが複数残り、秋の大会では大事な場面できっちり仕事を果たした。中でも4番に座る高岸は5割に迫る打率をマークし、勝負強さと長打力でチームを牽引した。2021年のチームと比較すると、やや長打力には劣るが、その分つながりの良さは目立ち、下位にもミートのうまい打者が続く。得点力は過去のチームに引けをとらないものがある。
甲子園での戦いを熟知している小牧監督のもと、この力をしっかり発揮できる「国際野球」が再び全国を席巻するのか、期待大だ。
耐久は春夏通じて初めての甲子園出場。好右腕・冷水を擁し、不気味な存在として君臨する。
その冷水は非常にクレバーな投手という印象が強い。最速140キロを超える質の高い速球と多彩な変化球はもちろんだが、試合の中でも出力の出し入れや状況判断、勝負所での投球と、目に見えない部分での打たれにくさを兼ね備えた投手だ。新チーム結成以降、大事な試合はほとんど一人で投げぬいており、スタミナにも不安はない。優勝を狙う強豪校にとっては、初戦から最も当たりたくないタイプの投手と言えるだろう。
一方、エースを援護する打線は、公立校らしい手堅く送って一本を待つスタイルではなく、打ってつなぐスタイルで活路を見出す。各打者とも逆方向への意識が高く、相手のポジショニングも見定めて、打撃ができる。トップバッターの堀端、主砲の岡川とポイントゲッターは決まっているだけに、その他の打順で打線を「線」にできるかどうか、昨秋のようなクレバーが攻撃が出来れば得点力がぐっと広がる。
新基準のバットが導入され、投高打低が予想される今年の選抜。守り勝つスタイルの耐久が大会をかき回す可能性は十分ある。
創志学園は名将・門馬監督が就任して2年目で早くも聖地の切符をつかみ取った。
投手陣は左腕・山口、右腕・中野の頼れる両輪がおり、中国大会では4試合で失点はわずかに3。好捕手・後藤の存在もあり、ディフェンスには絶対の自信を持つ。山口は左やや横手気味の腕の位置からコントロールよく変化球を投げ分ける技巧派。一方の中野は長身から繰り出す速球が武器の本格派だ。タイプの違う両投手はいずれも完投能力があり、また継投策がより効力を増す。守り勝つスタイルは今年の選抜でも威力を発揮しそうだ。
対する打線も、数字に表れない力を持つ。アグレッシブベースボールを掲げる門馬監督のもとで、初回から高い集中力で相手に襲い掛かる。特に核弾頭の1番亀谷は指揮官も信頼を寄せる努力家で有り、試合の入りから味方打線に勢いを与える。これまでの甲子園では得点力に苦しむことも多々あった同校だが、門馬スタイルで一気に印象を変える可能性が高い。
選抜も夏も3回ずつの出場ながら、いずれも最高成績は2回戦進出。強豪相手に行く手を阻まれることも多かったが、春夏計4度の優勝経験を持つ名将の存在は選手たちの自信になるだろう。創志学園が甲子園の主役になれるか、注目だ。
阿南光は新野時代の1992年以来となる選抜出場。V候補の横浜をうっちゃった、あの大会以来の旋風を巻き起こしたい。
エースの吉岡は全国トップクラスの実力を持つ本格派右腕。恵まれた体格から繰り出す快速球に加え、変化球の精度も高い。加えて、ほとんどの試合を一人で投げぬいてきたように、スタミナにも不安はない。本大会で球数制限にひっかかりさえしなければ、吉岡の投球で一気に勝ち上がる可能性は高い。剛腕エースを軸に勝ち上がる四国勢はこれまでにも何校もいただけに期待が高まる。
打線は、シュアな打撃の3番福田が中心。左打席から広角に打ち分け、チャンスでの勝負強さも光る。エースが安定しているだけに、上位打線を先制点をもぎ取り、守り勝つ展開に持ち込めれば、一気の快進撃もあり得るチームだろう。
ダークホース
学法石川は名将・佐々木順一郎監督が就任して初めての全国大会出場となる。背番号2のエース大栄とエースナンバーを背負う大友、光星打線を相手に好投を見せた左腕・佐藤翼という3人の計算のたつ投手陣をそろえ、東北大会では県1位校をなぎ倒して4強入りを決めた。打線は4番大栄への負担がやや大きい印象があっただけに、他のメンバーがいかに打てるかが本番の成否のカギを握る。聖光1強の時代が長く続いた中で、伝統校復活の足掛かりをつかめるか、注目が集まる。
日本航空石川は神宮大会枠によって出場権を獲得。蜂谷、猶明、長井の2年生右腕3本柱を擁し、投手陣は非常に安定している。いずれも完投能力が高く、試合途中からのロングリリーフも可能なため、中村監督としてもゲームプランを組み立てやすいだろう。例年、強打が売り物の打線は秋の段階ではメンバーを変えながら探り探り戦っていた感はあったが、ここにきて大砲候補の荒牧を中心にメンバーは出そろってきている。秋は星稜、敦賀気比と1点差ゲームを演じており、本番で大物食いを果たす可能性は十分ある。
近江は夏春連続の甲子園出場。河越、西山と旧チームからマウンドを経験してきた左右の両輪がいるのは心強い。特に西山は昨秋の近畿大会でわずか76球での完封劇を見せたように、スライダー主体に巧みに打たせて取る投球が光る。失点が計算できるのが今年のチームの強みだ。一方、近畿大会2試合で2得点に終わった打線が、冬場をこえてどこまで成長しているか。出塁率の高い1番中村を活かすためにも中軸の人選が大事になる。準優勝を果たした2022年に迫るインパクトを残したい。
東海大福岡は好投手・安田を擁して8強入りした2017年以来の選抜出場。今大会は九州大会に反映されているように、どちらかと言えば打線に自信を持つチームだ。光冨、宗翔の1,2番コンビを中心に打って走ってチャンスを拡大する「繋ぎ」の強さが、このチームにはある。長身から投げ下ろす速球が武器のエース佐藤は、完投能力があり、失点してもゲーム中に立て直せる投手だ。投打ともにしぶとさが光るチームが、粘り強い戦いで、まずは前回大会に並ぶ8強を目指す。
田辺は21世紀枠ながら、県大会で市立和歌山・智辯和歌山の県内2強を下し、近畿大会でも京都国際と接戦を演じた。一般枠に勝るとも劣らない実力を持つチームだ。エース寺西は真っ向から投げ下ろすストレートが武器。相手打者の予想以上の角度で突き刺さるため、攻略は容易ではない。この寺西を中心にチーム全体に落ち着きがあり、守って守って、打線はチャンスで山本結・山本陣の中軸コンビに回すというスタイルが確立している。冷静な戦いぶりでV候補を食う準備は整っている。
別海は21世紀枠で初の甲子園出場権をつかみ取った。エース堺は、180㎝の長身を生かし、サイドから繰り出す癖球を武器に、内外の出し入れで勝負ができるのが持ち味だ。伝家の宝刀・スライダーを活かすためにも、相手打者の懐をどれだけ攻めれるかがカギを握りそうだ。センターラインを中心に守りも堅いだけに、4番立蔵を中心とした打線がどれだけ援護点をもたらせられるかが、勝敗の行方を左右するだろう。
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