2025年選抜決勝 横浜vs智辯和歌山(11日目第1試合)

2025年

大会11日目第1試合

智辯和歌山

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 1 0 0 0 0 0 2 1 4
1 0 2 0 0 6 2 0 × 11

横浜

 

智辯和歌山   渡辺→中井→宮口→若井→田中

横浜      織田→片山→奥村頼→山脇

東西の名門校同士の一騎打ちとなった決勝戦は、横浜打線が6回に智辯和歌山のエース渡辺を攻略!投攻守にスキのない試合運びを見せ、19年ぶり4度目となる春の頂点に輝いた。

試合

大方の予想通り、横浜は2年生右腕・織田、智辯和歌山はエース渡辺がそれぞれ5試合連続で先発のマウンドに上がった。

智辯和歌山は立ち上がり、ボールがやや高めに入る織田をとらえておきたいところ。しかし、準決勝で4安打の1番藤田を力でレフトフライに抑え込むと、後続も封じて3者凡退のスタートを切る。

その裏、智辯和歌山の渡辺は過去4試合に比べるとややスピードが乗らない様子。2回戦以降、継投策を用い、負担がかからないようにチーム全体でケアしていたが、それでも甲子園で投げる5試合目は想像以上に疲労があるのだろう。横浜は、1アウトから2番為永がショートへの内野安打で出塁。続く3番阿部葉の1,2塁間への打球がランナー為永の足に当たるハードラックでアウトになるが、阿部葉がすかさずディレードスチールでカバー。ここで4番奥村頼がインコースの速球を痛烈にライトへぎっぱり、阿部葉が生還して横浜が先制点を奪う。

先制を許した智辯和歌山だが、チャレンジャーの立場で臨める彼らは序盤戦、いい精神状態で臨めていた様子。2回表、準決勝で4安打と大当たりだった4番福元がライトへのヒットを放つと、ライトがはじくスキを見て、2塁を奪う。続く5番荒井はインサイドの速球をうまく流し打ち、1,3塁に。この場面、大事には至らなかったが、レフト奥村頼がバックホームを焦って一瞬をボールをはじく場面もあり、どこか横浜の方が気おされているような感じがあった。1アウト後、7番大谷の打席で中谷監督はスクイズを敢行。これが成功し、智辯和歌山が同点に追いつく。

智辯としては、横浜が落ち着いていない、この序盤戦で前に出たいところ。2回裏にはセンター藤田は横浜の6番池田の打球をダイビングキャッチするなど、智辯寄りのムードが流れていた。しかし、これで5試合目となる織田も経験値が増してきたか、立ち直りが早い。3回表には、死球で出したランナーを3塁まで進められるが、3番山下をインサイドへの速球で詰まらせ、ショートゴロに打ちとる。2年生エースの成長が垣間見える攻防である。

すると、3回裏、横浜が智辯のミスに乗じて勝ち越し点を上げる。先頭の9番織田が見事なセンター返しで出塁。続く1番奥村淩の犠打を、渡辺がはじいてしまい、オールセーフとなる。このスキを王者が見逃すはずもなく、犠打で2,3塁に。ここで要警戒の3番阿部葉に対し、智辯バッテリーは細心の注意を払っての投球を見せるも、5球目のアウトコース高め、完全なボールゾーンのコースを流し打つと、打球はレフト線ぎりぎりに落ちるタイムリーに!あのコースを打たれてはお手上げという、見事なバッティングで2点を勝ち越す。

リードを許した智辯和歌山は、横浜の投手層を考えると早めに追いついておきたいところ。しかし、2点をもらった織田が完全に立ち直る。大会序盤は、出力の調整がうまくいっていない様子だったが、準決勝の健大高崎戦あたりからいい意味で力が抜け、7-8割の力でキレもスピードも十分な速球が低めに収まるようになってきた。準決勝まで猛打を見せてきた智辯打線を4,5回と無失点に封じていく。

一方、智辯の渡辺も3回に失点はしたものの、4,5回と丁寧な投球で横浜打線を抑える。左打者へのアウトコースへの速球がやや流れ気味だったが、そこもうまく修正し、スピードは130キロ台でもキレのあるボールで丁寧にコースを突いて打たせて取っていく。

横浜の2点リードで試合は後半戦、両者の明暗を分けた運命の「6回の攻防」へ向かう。

6回表、智辯和歌山は先頭の2番が四球で出塁。3番山下が一発で犠打を決め、1アウト2塁とチャンスを作る。ジョックロックが鳴り響く中、打席には主砲・福元。すると、カウント1-1からの3球目が暴投となり、ランナーは3塁へ進む。点差は2点あるとはいえ、ここで得点が入れば試合の行方はまだわからない。しかし、さらにカウントが2-2と進んだところで、村田監督織田を下げ、なんと2番手で片山をマウンドへ送る。カウント途中での交代であり、しかもエース奥村頼ではなく、片山の登板。二重三重に予想を裏切る継投策に打って出た。

試合の行方を左右する重要な局面。この場面で片山は高めからのスライダーで空振り三振と最高の結果で応える。投手・打者、どちらにとっても非常に難しい局面であり、高さという意味では失投ともとらえかねないボールだったが、タイミングを見事に外し、ワンポイントリリーフを勤め上げた。さらに続く5番荒井の場面では、今度はエースの奥村頼をマウンドへ。荒井の打球はセンターへの鋭い打球となったが、きれながら伸びていった打球を阿部葉がダイビングキャッチ。智辯の勝機を根こそぎ奪い去るような好守で、この回を無失点に切って取った。

この6回表の攻防が智辯に与えたショックは大きかったか、その裏、横浜が一気呵成の攻めを見せる。先頭の3番阿部葉、4番奥村頼が連打を放つと、5番小野はショートの好守で併殺に打ち取るが、6番池田が死球で繋ぎ、2アウト1,3塁に。ここで、7番駒橋が捕手らしく、相手の配球を読み切ったように、インサイドの速球をセンターへ。大きな大きな1点を追加し、点差を3点に広げる。

この回、渡辺のストレートもなかなか140キロ台には乗らなくなる。苦しい場面で、さらに横浜打線の圧力がのしかかる。8番今村の痛烈な当たりがサード奥の股間を抜け、1点を追加して5-1。智辯にとっては痛い失点で点差が広がると、王者はこのスキに一気に畳みかける。9番江坂、1番奥村淩、2番為永と3者連続のタイムリーでついに渡辺をKO。さらに代わった2番手の中井から3番阿部葉がこのイニング2本目のヒットとなるタイムリーを放ち、このイニング6点の猛攻で試合の趨勢を決めた。

さらに、7回裏にも9番江坂の2点タイムリーが飛び出し、点差は10点に。思わぬ大差となったが、智辯和歌山も最後まで粘りを見せた。8回表、1番藤田、2番の連打でチャンスをつかむと、4番福元奥村頼のスライダーをとらえ、会心の打球でライト頭上を越すタイムリー3塁打とする。強打・智辯の意地を見せるような打撃で、奥村頼をマウンドからひきずり下ろすと、9回表には4番手の右腕・山脇も攻めつけ、3番山下のタイムリーで4点目を上げた。

なお、2アウト満塁とし、打席には先ほどタイムリーの4番福元。これまで数々の終盤のビッグイニングを見せてきた智辯和歌山の猛攻に高校野球ファンの期待も最高潮に達した。しかし、最後はとらえた当たりがセカンドの正面を突くライナーとなって試合終了。横浜が強豪同士の対決を制し、投攻守にスキを見せない試合運びで、19年ぶり4度目となる春の頂点に輝いた。

まとめ

横浜は、松坂大輔を擁した1998年以来となる公式戦無敗での選抜優勝を達成。しかし、超高校級右腕・松坂という極上のアドバンテージを得た98年と違い、今年は投手陣の陣容を含め、ベンチ総動員での総合力の高さがもたらした優勝だったと言えるだろう。大会前は、難攻不落と思われた2年生エース織田が、中盤以降捕まるケースが多かったが、先輩投手陣がリリーフで好投してカバー。特に、エース奥村頼は、準々決勝で3者連続の3球三振を奪うなど、投手陣の精神的支柱となった。戦いを重ねるうちに、織田もペースをつかみ始め、力みの取れた内容で、大会終盤は好投を披露した。

また、打線は2回戦から1番奥村淩、2番為永、3番阿部葉の並びにしてから、打線の巡りが格段に良くなった。出塁率の高い奥村淩、何でもできる為永、ここぞの場面で相手の心をへし折るようなタイムリーを放つ阿部葉。3人がそれぞれ求められた役割をきっちり果たす強さは、大会出場校の中で頭一つ抜けた「破壊力」を持っていた。対戦相手にとっては、二重三重に圧力を感じる攻撃だったのは間違いない。

投攻守のまとまりとベンチの意図を理解できるハイレベルな野球脳は、あの伝説の先輩たちに全く引けを取らなかったと言える。夏に向けて、全国の高校球児の標的となるが、彼らならそんな重圧をはねのけ、2度目となる前人未到の偉業を達成するのではないか。そう感じさせるだけの内容を見せた、2025年の選抜大会だった。

一方、智辯和歌山も敗れはしたものの、ここ数年の不振を払拭する見事な準優勝だった。エース渡辺を中心に3試合を完封した投手陣、安定したディフェンス力、そして、戻ってきた看板の打力とすべてがかみ合っての快進撃だった。ここ数年は相手の技巧派投手を打てず、先行されて焦る展開の中で、守備が乱れて失点を重ねるといった内容が続いていたが、今大会は打線が序盤に先制点を奪い、エース渡辺の好投で、序盤から試合を支配できた。この展開が作れれば、もともとポテンシャルは高いだけに、強さを発揮できる地盤はある。

中谷監督も2021年の優勝以来、なかなか結果が出ていなかったが、この準優勝で呪縛から解き放たれたことだろう。元プロ野球選手であり、故・野村監督から帝王学を学んだこともあって、高校生に教えたいこと、伝えたい経験は山ほどあるはず。しかし、とかく時間がない状況で、しかもトーナメント制ですぐに結果を求められる高校野球にあって、思うようにいかないのは致し方ない面がある。彼に限らず、元プロ野球の選手が監督になって、なかなか結果を残せていないケースはごまんとあるのだ。

おそらく、同じ守備をとっても高嶋監督の守備の鍛え方と中谷監督の守備の鍛え方は異なるはず。ただ、結果が出ない時期があったなかでも、中谷監督の求めるハイレベルな野球が、特に守りの面で、時間をかけて智辯和歌山に少しずつ浸透していったことが、今大会の快進撃につながったのは間違いない。2回戦のエナジック戦で相手の執拗な機動力野球に耐えられたのも、その成果だろう。自らのスタイルを浸透させるのにはやはり一定の時間はかかるものだが、信念を曲げずに戦い続けたことが実を結んでの準優勝であった。一つの壁を突き抜け、今後訪れるであろう智辯和歌山の黄金時代を、これから楽しみに待ちたいと思う。

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