2025年選抜準決勝
健大高崎vs横浜
50.5% 49.5%
〇3-1 明徳義塾 〇4-2 市立和歌山
〇4-3 敦賀気比 〇8-7 沖縄尚学
〇9-1 花巻東 〇5-1 西日本短大付
大会前から優勝候補の最右翼に上げられていた関東の両雄。組み合わせを見て、この2校の勝ち上がりを予想していたファンも多かったことだろう。準決勝で期待通りに、V候補同士の一騎打ちとなる。
健大高崎は、大会前にエース石垣が故障するという不運に見舞われたが、そのアクシデントをものともしない投手層の厚さが、このチームにはある。1,2回戦で好投した下重は速球とチェンジアップの緩急で、準々決勝では同じく左腕の山田がテンポとコントロールを武器にスライダーで強打の花巻東打線を抑え込んだ。他チームならエース級の投手がこれだけ出てくるのだから強いわけである。そうこうしているうちに、リリーフでの登板となっている石垣も大会最速の155キロとエンジンが温まってきた。準々決勝で下重を温存できており、万全の態勢で準決勝を迎えられそうだ。
対する横浜打線は1,2回戦、そして準々決勝と一貫して感じるのは攻撃のスキのなさだ。1回戦は市立和歌山のエース土井の投球の傾向を見切り、早々と攻略。2回戦では沖尚の先発・上原有の立ち上がりを攻めて3ランで先行し、準々決勝では西短投手陣の継投のスキを縫って、逆方向への打撃で得点を重ねた。渡辺淩、阿部葉、渡辺頼とタレントが揃っているが、相手投手の状態と試合状況を見て一気呵成に畳みかける攻撃が出来るのが何より怖いだろう。あの憎たらしいほどの強さを誇った1998年~2006年までの横浜が完全に帰ってきた印象だ。
一方、横浜投手陣は、2回戦は少し違ったが、織田→奥村頼の継投で繋ぐスタイルで勝ち上がってきた。特に奥村頼が準々決勝で復活を遂げたのは大きい。左腕から繰り出すキレのある速球を武器に、あの西短の中軸を3者連続3球三振は、とんでもない偉業だ。ただ、懸念されるのは織田の状態だ。1回戦と準々決勝もそう大崩れはしていないが、どうしても立ち上がりに速球が高めに入り、相手打線に痛打を浴びるケースが目立つ。個人的には、キレで抑える奥村頼が先発し、終盤の短いイニングを織田がフルスロットルの投球で抑えるほうがいい気がするが、村田監督の判断はどうか。
対する健大高崎打線は、明徳・池崎、敦賀気比・菅田、花巻東・万谷といずれもタイプの異なる好左腕を相手に戦い、攻略してきた。特に1回戦で対戦した池崎の投球は別格であり、あのキレキレの投球は大会出場投手の中でもそうはいないだろう。それを終盤にはきっちり攻略したことがチームに自信をつけたのは間違いない。左打者が多いが、センターから逆方向へ無理なく打ち返す術を持っており、今大会の打線で本調子の左腕・奥村頼を攻略する可能性があるとすれば、この健大高崎の打線が真っ先にあがる。また、織田が先発の場合でも、立ち上がりにスキを見せれば、一気に飲み込むだろう。
投打にハイレベルな両チームだが、投手陣に関しては横浜のほうがわずかに隙があるか。いずれにせよ、昨秋の関東大会のように終盤までもつれる好試合になることは間違いないだろう。健大高崎のリベンジか、横浜の返り討ちか。注目の関東ダービー、待ったなしだ。
主なOB
健大高崎…長坂拳弥(阪神)、柘植世那(西武)、湯浅大(巨人)、是澤涼輔(西武)、清水叶人(広島)
横浜…松坂大輔(西武)、涌井秀章(中日)、近藤健介(ソフトバンク)、万波中正(日本ハム)、伊藤将司(阪神)
群馬 神奈川
春 0勝 0勝
夏 2勝 1勝
計 2勝 1勝
対戦はいずれも夏で、群馬の2勝1敗だ。
1999年夏は、準々決勝で桐生第一と桐蔭学園が激突。桐生第一・正田(日本ハム)と桐蔭学園・松本祥の好左腕対決となったが、正田が長身から繰り出すカーブを武器に強打の桐蔭学園打線を翻弄する。4番由田(オリックス)を軸に、少しのスキを見せると集中打を繰り出す桐蔭学園は、神奈川では前年春夏連覇の横浜もくだしていたが、正田の投球には一部のすきもなかった。結局、7回2アウトまで無安打に抑える好投で2安打完封。関東のライバル校を制し、勢いに乗って群馬勢初優勝を果たした。
また、2013年夏は、2年生エース高橋光(西武)を擁する前橋育英と横浜が対戦。横浜はスタメン9人中8人が2年生の若いチームながら、神奈川大会では、あの桐光学園・松井裕樹から浅間・高浜(ともに日本ハム)がホームランを放ち、2年生エース伊藤将(阪神)の好投もあって、逆転勝ちで前年のリベンジを果たした。
しかし、この試合は伊藤将が序盤から捕まり、1番工藤、2番田村に連続ホームランを浴びるなど、6回を投げて5失点。打線は、高橋光に大会初となる失点はつけたが、長身から繰り出す角度のある速球と低めにキレる変化球に苦戦し、1点どまりであった。1,2回戦と1-0での勝利で、2年生エースにおんぶにだっこの前橋育英だったが、この試合でいよいよ勢いに乗り、この大会で初出場初優勝を果たすこととなる。
群馬勢としては過去2回とも、神奈川勢を下した時は優勝している。今回も、そのジンクスに乗れるか、あるいは神奈川が意地を見せるか。注目の関東頂上決戦が幕を開ける。
思い出名勝負
2011年夏2回戦
健大高崎
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 計 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 |
0 | 2 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1× | 6 |
横浜
健大高崎 星野→三木→片貝
横浜 柳→相馬→向井
2011年夏は優勝した横浜をはじめとして関東勢が非常に元気な大会であった。そんな中、初出場で開幕戦を制した健大高崎と49代表校中で最後の登場となった名門・横浜という、注目のカードが実現した。
健大高崎は、青柳監督を招聘し、年々力をつけてきていた。前年夏も群馬大会で4強入りしており、機動力を活かした攻めの野球は関東の高校球児を確実に魅了し始めていた。そして、2011年夏、強打の1番小池、2年生スラッガーの3番竹内など打力の高い選手に加え、スタメンのほとんどが足が使えるという走れるチームがついに群馬の頂点をつかんだ。
迎えた甲子園ではなんと開幕戦に登場。伝統の今治西を相手に、9回表に2点差をひっくり返す見事な逆転劇を見せ、甲子園の舞台で効果の「BE TOGETHER」を歌い上げた。
対する横浜はこの時期は苦しんでいた。というのも永年同じ神奈川で頭を押さえつけてきた東海大相模が躍進していたからだ。前年夏は決勝で東海大相模に3-9と敗戦。勝ったら甲子園の大一番で相模に敗れるのは久しぶりであった。33年ぶりの出場だったのだから。その相模がエース一二三(阪神)の好投で準優勝を飾ると、夏春連続出場となった選抜では5試合で77安打の猛打で優勝。今最も勢いに乗るチームであった。
一方、同じ選抜で横浜は波佐見の剛腕・松田を打てずに、1-5と完敗。まさに明暗分かれる結果となった。前年夏は斎藤、選抜では山内とともに2年生エースを立てながら結果を残せなかった中で、この夏は投手陣を再整備。同じく2年生の右腕・柳(中日)と左腕・相馬の技巧派の2枚看板の継投で試合を作るようになった。また、主将にムードメーカーの乙坂(DeNA)を置いたことで、チームの雰囲気も明るくなっていった。
すると、神奈川大会の5回戦では柳が見事な内角攻めで相模打線を封じ、3-1で快勝。決勝では当時1年生ながら高いポテンシャルを見せていた左腕・松井裕樹(パドレス)と150キロ右腕・柏原の2枚看板を擁する桐光学園との対戦になった。1-1のまま延長戦に入った試合は、10回裏、4番近藤(ソフトバンク)が柏原の高めの速球をとらえると、打球はセンター前に!サヨナラ勝ちで甲子園をつかみ取った横浜ナインの喜びようたるや凄いものがあった。苦しみを乗り越えたがゆえだったのだろう。
さて、49代表校で最後の登場となった横浜。最も調整が難しいと言われるが、名門・横浜、そして名将・渡辺監督はその不利さは十分理解している。立ち上がり、猛攻を仕掛けたのは横浜だった。
序盤、健大高崎の攻撃を先発・柳がうまくかわして立ち上がると、2回裏に先手を取る。先頭の5番樋口(日本ハム)がヒットを放つと、1アウト後に7番青木はエンドランを決めて、1,3塁。横浜らしい抜け目のない攻めでチャンスを拡大すると、8番柳は見事にスクイズを成功。さらに9番伊達は低めの速球をものの見事にすくいあげ、2点目を手にする。
この先制点で勢いに乗った横浜は、3回裏にも死球で出た2番高橋を3番近藤がライトへのヒットで3塁へ進ませる。1.3塁を作るという、攻撃の鉄則を貫く横浜はやはり強い。その後、昨夏はエースながら、この夏は4番で活躍していた斎藤がタイムリーを放つと、7番拝崎の犠飛も飛び出して4点目。着々とリードを広げる。
4回にも1番乙坂のタイムリーで1点を追加し、横浜が5点リードで後半戦へ。ここまで内外を丁寧に突く投球で健大高崎打線を抑えてきた柳。しかし、開幕戦を逆転で制したチャレンジャーはただでは引き下がらない。
6回表、5点を追う健大高崎は、3番竹内、4番門村の中軸が連打。犠打で進塁すると、6番柳沢がうまい打撃でセンターに打ち返し、2点を返す。ここにきて横浜バッテリーの投球パターンにも慣れてきたのだろう。さらに四球と8番宇野の2塁打でついに柳をKOすると、2アウト後に打席には1番小池。俊足と強打を併せ持つ理想の1番打者が2番手・相馬のボールをとらえると、打球はライト線に弾む同点の2点タイムリー3塁打に!一気呵成の猛攻でついに試合は振り出しに戻った。
その後は、両者ともしのぎ合いに。健大高崎は、6回からエース左腕の片貝がマウンドに立ち、退路を断つ。一方、横浜も必死の継投と堅守で応戦。9回表には2アウト3塁と健大高崎に一打勝ち越しの場面を作られるが、2年生ショート高橋の好守で相手に得点を与えなかった。さらに10回表にも2アウト2塁から当たっている8番宇野にヒットが飛び出すが、レフト伊達の好返球で阻止と、いぶし銀の活躍を見せる選手たちが光り輝く。
試合は5-5の同点で延長戦へ。こうなると、後攻めで甲子園経験豊富な横浜のほうが有利だったか。10回裏、相手の失策を皮切りに攻め立てる。1アウト1,3塁のチャンスが1番乙坂の内野ゴロで潰えかけるが、スコアリングポジションにランナーを残し、打席には先ほど好守を見せた2番高橋。片貝のボールをとらえた打球は三遊間を突破すると、2塁ランナーの伊達が3塁を回る。レフト竹内の懸命のバックホームも及ばず、横浜がサヨナラ勝ち!がっぷり四つの好試合を制した横浜が3回戦進出を決めた。
その後、横浜は3回戦で智辯学園を相手に終始、試合をリードしながら9回に一挙8失点を喫するまさかの逆転負け。2試合とも強烈な印象を残し、甲子園を去った。しかし、後から振り返ると、乙坂・近藤らスター選手揃いの印象が強いが、当時は本当に泥臭く勝利を目指す、高校生らしいチームであった。このチームでライバル東海大相模の進撃を止め、甲子園でも1勝を上げたことは、横浜にとって大きな意味があったはずだ。今年のチームにも通じる粘り強さを秘めたチームであった。
一方、健大高崎は、サヨナラで敗退したが、自分たちの野球が全国で通用する手ごたえを感じた試合だったのではないだろうか。この試合を経験した左腕・三木がエースとなり、3番竹内が不動の核弾頭となった新チームは、関東大会を勝ち上がって4強に進出。選抜では天理・神村学園と西の強豪を下し、堂々4強入りを果たした。試合開始とともに走って走って相手をかき乱す、「機動破壊」全盛の野球が華々しく幕を開けた時期であった。
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