2025年選抜1回戦
エナジックスポーツvs至学館
52% 48%
ともに甲子園初勝利を目指すチーム同士の対戦。互いに好投手を擁しており、締まった投手戦になりそうだ。
至学館の投手陣は新2年生の面々が中心となる。中でもエースナンバーを背負う尾崎は秋の公式戦防御率が0点台と抜群の安定感を誇る。コントロールが素晴らしく、ほとんど四死球を出さないため、味方に守りのリズムを作ることができるのが強みだ。また、尾崎以外にも加藤・磯村の左右の好投手が控えており、終盤勝負にも自信を持つ。愛知大会では、愛知啓成・中部大春日丘・名古屋たちばな・中京大中京と強豪との競り合いをことごとく守り勝ってきており、接戦に絶対の自信を持つ。
対するエナジックの打線は、ノーサイン野球を信条とする野球を掲げている。近年でも2019年の富岡西や2023年の城東のようにノーサインで選手個々の思考力を高めるチームが増えている。浦添商を2008年に4強に導いた名将・神谷監督のもと、状況に応じた打撃と走塁を自らの判断で繰り出していく野球を築き上げてきた。その中でも最も頼りになるのが、1番を務めるイーマン・琉海。50メートルを6秒フラットで駆け抜ける俊足を活かし、相手守備陣を混乱に陥れる。上位から下位まで打線に切れ目がなく、一度つながりだすと止まらないエナジック野球を甲子園でお披露目したいところだ。
一方、エナジックの投手陣を支えるのは左腕エースの久高である。こちらも秋の公式戦防御率が0点台と安定しており、140キロ台の速球に多彩な変化球を織り交ぜていく。以前と比べて力を抜いて打たせて取ることを覚えたことで、一気に飛躍した。また、野手兼任の福本も他チームならエースを担える実力の持ち主。左右の両輪を擁し、失点は計算で切る。秋は県大会決勝、九州大会決勝といずれも沖縄尚学に敗れただけに、本戦ではライバルより上に行きたいだろう。
対する至学館の打線は、数字上は高くはないものの、1番武藤、2番船橋の2人を中心に足と小技を絡めての攻撃が出来る。特に犠打にはこだわりを持っており、新基準バットの時代においては、強みとなる攻撃だ。下位打線が昨秋はやや迫力を欠いたものの、新2年生も多いため、一冬超えての成長が望めそうだ。投手陣が安定しているだけに、着実に1点を積み重ねる攻撃を見せたい。
神谷監督としては、至学館の安定した投手陣をいかに機動力で翻弄できるかとにらんでいるだろう。ノーサイン野球の真価を発揮できるか、至学館としてはそれを阻止できるか。2~3点の接戦となりそうだ。
主なOB
エナジックスポーツ…龍山暖(西武)
至学館…伊調馨(レスリング)、土性沙羅(レスリング)
沖縄 愛知
春 0勝 1勝
夏 2勝 0勝
計 2勝 1勝
対戦成績は春は愛知勢が、夏は沖縄勢がリード。
2014年の選抜では豊川・田中空と沖縄尚学・山城大の剛腕対決が実現した。神宮王者の沖尚に豊川が挑む構図かと思われたが、豊川打線が序盤から山城大の速球を攻略し、3番氷見の2本のタイムリーなど、3回までで6点を奪取。田中空の好投もあり、6-2と意外なワンサイドで初の4強進出を決めた。山城大は当時流行っていた足を高く上げるライアン投法で投げていたが、疲労がたまるとバランスを保つのが難しくなる諸刃の剣でもあった。
一方、昭和最後の大会となった1988年夏の甲子園では3回戦で沖縄水産と愛工大名電が対戦した。2回戦で優勝候補・高知商の剛腕・岡(ヤクルト)を攻略し、見事な逆転勝ちをおさめていた名電だったが、この試合は沖水の技巧派左腕・平良の前に苦戦。沖水はこれが5年連続出場であり、すっかり場慣れしたナインは、名電・加藤の四死球や相手のミスに付け込んで抜け目なく、得点を重ねる。雨の中断もあった難しい試合は、終わってみれば4-1で沖水の完勝に終わった。
剛腕・上原晃(中日)を擁した前年と比較すると、前評判はそこまで高くはなかったが、準々決勝でも浜松商に9回逆転サヨナラ勝ちを収め、当時の同校史上最高成績となる4強へ進出。ここから平成2,3年と2年連続準優勝へとつながり、沖縄水産の全盛期を迎えることとなる。
思い出名勝負
2012年夏1回戦
愛工大名電
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 4 |
0 | 2 | 3 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | × | 6 |
浦添商
愛工大名電 濱田
浦添商 宮里→照屋→宮里
2012年の高校野球は史上初めて、決勝が春夏とも同一カードとなり、大坂桐蔭と光星学院の強さが際立った年であった。しかし、戦前、この2校に並ぶ存在として挙げられていたのが剛腕・濱田(中日)を擁する愛工大名電であった。神宮大会は決勝で、選抜は準々決勝で光星学院に惜敗していたが、その実力は上記2校と合わせて3強と謳われるほどのものであった。
濱田の剛球と佐藤、鳥居ら左の好打者をずらりと並べた打線は、ともに全国トップレベル。愛知大会決勝ではライバル東邦との死闘を制し、春夏連続出場を達成。夏の大会は初戦敗退が続いていたが、この年はその呪縛を解き放つ、絶好の機会であった。
その愛工大名電を引いたのは、夏に実績のある沖縄代表・浦添商であった。宮里、照屋と2人の速球派右腕を擁し、打線も宮里・伊良波・呉屋の中軸を中心にパンチ力のある打者が並んでいた。決勝ではライバル沖縄尚学のエース山田を打ち込み、8-5と乱戦を制して勝利。4年ぶりの代表切符をつかみ取った。
盛根監督、神谷監督の築き上げてきた「人間力野球」の伝統を継承してきた浦添商。打たれ強い速球派右腕2人を強力打線が支え、「夏の大会で勝ち上がりそうな好チーム」として甲子園へ乗り込んできた。
しかし、そんな強豪を相手にも浦添商ナインはひるむことはなかった。先発・宮里は立ち上がり、自慢の快速球で愛工大名電打線に立ち向かう。左打者のインサイドを臆することなく攻め、序盤を無失点で立ち上がる。
一方、愛工大名電の濱田は本来の球威・スピードがどうも出てこない。愛知大会の疲労の影響か、はたまた調整がうまくいかなかったのか、ストレートのスピードは140キロ台に乗るのがやっと。本来は140キロ台後半の重い球質のボールであったが、無失点に抑えた初回もどこか本来の投球には見えなかった。
すると、2回裏、浦添商は打っても4番を務める宮里が濱田のアウトコースのストレートを流し打つ。打球は、右中間最深部へ飛び込むホームランとなり、浦添商が1点を先制。右打者が流し打ちで打ち込んだ一打は名電の度肝を抜く一打であり、ショックを与える打撃であった。この回、さらに下位打線もつながり8番喜瀬のスクイズでもう1点を追加。2点を先行する。
予想外の流れに動揺したか、3回裏には名電守備陣にミスが続く。ヒットで出た1番東江を犠打で送ると、内野陣に立て続けにエラーが飛び出し、満塁に。ここで、長打力のある6番呉屋が高めの変化球をとらえると、打球は満塁の走者を一掃するタイムリー2塁打に。3回を終わって5-0。まさかの展開となる。
だが、名電も優勝候補の名に懸けて、そして公式戦で2度敗れている光星学院へのリベンジに向けて、簡単には退けない。全国屈指の強力打線が、4回表に宮里の速球をとらえ、2アウト2,3塁とすると、6番松井のショート強襲のタイムリーと浦添商の内野陣のミスで2点を返す。
浦添商は5回表に迷わず、2番手で照屋を送り込む。照屋も宮里と同じ本格派であり、伸びとスピードでは宮里を上回る。しかし、追撃態勢に入った名電打線は迫力十分。本気で全国制覇を狙っていた打線のスイングは非常にシャープだ。6回表にもヒットのランナーを出すと、夏に4番へ昇格した6番鳥居が見事な流し打ちでタイムリー2塁打を放つ。さらに後続の打者がじっくり選球して満塁にすると、8番濱田はと押し出しの死球となり、4-5。ついに1点差にまで詰め寄ることに成功する。
ここで一気に捕まえたい名電だったが、6,7回ともう一押しができない。すると、浦添商は7回裏に久々に得点圏へランナーを進めると、2番大城利のテキサス性のタイムリーで1点を追加。流れをぐっと引き寄せる得点を上げた。
8回からはライトの守備に回っていた宮里が再登板。終盤の名電打線の反撃をしのぎ、6-4でゲームセット。3強の一角と言われた強豪に対し、初戦で見事なジャイアントキリングを成し遂げた。
浦添商はその後、2回戦でも地元・兵庫の滝川第二を寄せ付けず、6-1と完勝。3回戦はあの松井裕樹(パドレス)の桐光学園に及ばなかったものの、照屋のホームランなどで追い上げを、最後まで存在感ある戦いを見せた。今も県内有数の強豪校として、その名を知られている。
一方、名電は優勝候補に挙げられながら悔しい初戦敗退に。優勝するポテンシャルのあるチームだったが、やはり夏の初戦は難しかった。その後、2018年に初戦突破を果たして、初戦敗退の連続記録をストップさせると、2022年夏は快進撃。2回戦では因縁の八戸学院光星(元光星学院)にもサヨナラ勝ちを収め、強豪3校を撃破して、8強に輝いた。
愛工大名電vs浦添商 ダイジェスト(第94回選手権・1回戦)
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