2025年選抜1回戦
山梨学院vs天理
51% 49%
2022年夏の甲子園の再戦となる両校。前回は2-1と接戦で天理が制したが、今回も競り合いになりそうだ。
山梨学院のエースは長身右腕の菰田。194㎝から繰り出す角度のあるボールは攻略は容易ではない。関東大会では東海大相模の強力打線を相手に真っ向から立ち向かって好投しており、全国トップレベルの強打者たちを向こうに回しても攻めの投球をすることができた。同じく本格派右腕の大友も控えているが、まずは菰田の先発完投が理想的か。関東大会では山梨学院らしくない守備のミスで敗退しただけに、このあたりの課題を冬の間にどこまで矯正できているかが失点数を左右しそうだ。
対する天理打線は、天理大学を永年指揮してきた藤原監督が就任し、より攻撃的な野球にシフトしてきた感がある。打力アップに加えて、大学野球で培った緻密な野球を落とし込んで、得点力を増してきた。1番赤埴をはじめとしてタレントが並んでおり、9番の石井が打率4割を超すように下位まで穴がない。さらに、昨夏も強力打線を誇りながら、ライバルの智辯学園に2-5と敗退したことで、新チームからはより足を絡めた攻撃に重きを置いてきた。NEW天理打線を甲子園で見せたいところだ。
一方、天理の投手陣は、継投を視野に入れる。制球力抜群の下坊、球威で押す伊藤と酒井といずれも右投手がつないで試合を作る。特に右腕・伊藤は球質が重い速球を武器に、近畿大会では好リリーフを見せた。また、守備陣も内外野に経験者が残ったことで堅守を誇り、公式戦の失策は8試合でわずか5と安定していた。近畿の準決勝では、東洋大姫路の強力打線に中盤つかまり、まさかのコールド負けを喫して流れの変わる怖さを体感した。チーム全体で守りのミスを減らし、失点は最小限にとどめたい。
対する山梨学院打線は、4番捕手の横山を中心にパワフルなスイングを見せ、新基準のバットでありながらも、打って勝つ姿勢を崩さずに挑む。しかし、決して大振りをするわけではなく、外野の間をライナーで抜く鋭い打球を広角に打ち分けるのが持ち味だ。初優勝を飾った2023年からバットの基準が代わった2024年と時代の変遷を乗り越えて結果を残しており、吉田監督の緻密さとパワフルさを両立させた打線で、今年も上位進出を狙えそうな布陣だ。
ともに投打に高い実力を誇る両チームだが、投手力で少し山梨学院に分があるか。いずれにせよワンサイドゲームになる可能性は低いだろう。屈指の好ゲームが生まれる予感。
主なOB
山梨学院…伊藤彰(ヤクルト)、明石健志(ソフトバンク)、牧野塁(オリックス)、松本哲也(巨人)、垣越建伸(中日)
天理…門田博光(南海)、鈴木康友(巨人)、関本賢太郎(阪神)、中村奨吾(ロッテ)、太田椋(オリックス)
奈良 山梨
春 0勝 0勝
夏 4勝 1勝
計 4勝 1勝
対戦はいずれも夏ばかりで、今回が選抜での初対戦となる。
2021年夏は3回戦で智辯学園と日本航空が対戦。智辯学園・小畠、日本航空・ヴァデルナの好投手対決となった試合は、日本航空が初回に先制するが、智辯学園が後半に入ってじりじりと地力を発揮。強力打線が日本航空投手陣を攻略し、終わってみれば前川(阪神)の一発を含む13安打7得点で勝利を手にした。この年の、夏の同校最高成績となる準優勝を果たすこととなる。
2021年選手権3回戦 智辯学園vs日本航空(12日目第1試合) | 世界一の甲子園ブログ
2004年夏は東海大甲府と天理が準々決勝で激突。両校の対戦は1992年以来12年ぶりであった。3番清水、4番仲澤(巨人)を中心とする東海大甲府打線を、山下・柴田の長身右腕2人を擁する天理投手陣がどう抑えるか注目された。試合は、初回に4番仲澤が柴田の高めに浮いたフォークをとらえ、先制2ラン。中盤にリリーフした山下も5番宮地の巧みな右打ちなどで攻略し、終わってみれば10-3と完勝を収めた。前年は広陵・西村(巨人)の前に完封負けを喫したが、この年は5試合で実に44得点をたたき出す猛打で4強入りを果たし、快進撃を見せた。
思い出名勝負
2022年夏1回戦
山梨学院
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 |
0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | × | 2 |
天理
山梨学院 山田→榎谷
天理 南沢
2022年夏の甲子園1回戦、実力校同士の好カードが実現した。ともに春夏連続出場ながら、天理は星稜に、山梨学院は木更津総合にともに延長タイブレークで敗退していた。両者とも悔しさをばねに夏の大会を勝ち抜いた。
天理はエース南沢が県大会を無失点で投げぬき、主砲・戸井(阪神)の活躍で県大会を圧倒。一方、山梨学院は選抜までのエース榎谷に加えて、右腕・山田が成長。打線は高橋、岳原ら2年生が成長し、打線全体のレベルが上がってきていた。投打に充実する実力者同士の好勝負が予想された。
天理の南沢は選抜で初戦敗退に終わったものの、星稜打線を終盤まで封じた実力者。188㎝の長身からサイドとスリークオーターの中間くらいの腕の振りでボールを投じる。ゆったりしたフォームからキレのあるボールを繰り出し、左打者のインサイドも強気に攻める。山梨大会で4割超えの打率をマークした強打の山梨学院打線をもってしても、なかなか自分のポイントではとらえきれない。
これに対して、山梨学院は選抜で快投を見せたエース榎谷に迫るほどの成長を見せた右腕・山田が先発。いきなり1番藤森、2番松本に連打を浴びて無死1,3塁とされるが、中軸を三振2つと内野ゴロに仕留め、ピンチを脱する。バランスの取れた投球フォームから内外角をきっちり投げ分け、好打者の並ぶ天理の中軸の決定打を許さなかった。
序盤は守り合いの様相。天理はセカンド藤森がファウルフライを見事にジャンピングキャッチするなど、守りの堅さを見せる。選抜の星稜戦で内野の守りの乱れから敗れた悔しさがしっかり活かされている。一方、山梨学院も先発の山田が全くスキのないピッチングを展開。抜群のコーナーワークで天理の打者をきりきり舞いさせる。選抜であれだけの投球を見せた榎谷から先発の座を奪っただけのことはあるというピッチング内容だ。
こうなると、先制点の占める比重は大きくなってくる。その大事な1点を先に手にしたのは伝統校・天理だった。
4回裏、1アウトから4番戸井がインサイドの速球をレフト線へ運ぶ2塁打とする。少し、甘く入ったとはいえ、やはり戸井のスイングは天理の打線の中でも別格だ。山梨学院バッテリーにもプレッシャーを与える一打となる。5番山村はセンターフライに終わるも、続く6番内藤が立ちはだかる。奈良大会後に、不調で打順降格となった男は、山田の決め球のスライダーを右打ちのお手本と言える打撃でライト前に打ち返し、戸井が生還。主砲の意地を見た一打だった。
先制点をもらった南沢は、力の抜けたフォームから投じるボールのキレで山梨学院打線を封じ込める。コース、高さの両方を間違う球はほとんどなく、山梨学院打線としてもなかなか攻略の糸口を見いだせない。そもそも、こういう角度から来るボールを練習する機会も少なく、初見で攻略するのはやはり難しい投手だろう。
6回表のピンチも三振ゲッツーでしのいだ天理はその裏に大きな追加点を挙げる。2アウトから4番戸井が今度はライトへ痛烈なヒットを放つと、打球が不規則にバウンドしてライトが後逸する間に2塁を奪う。ここで5番山村がすかさず初球のストレートをレフト線に打ち返す2塁打として追加点を奪う。相手の動揺が見える中での初球攻撃、4番5番と連続して逆方向へ打ち返すシュアな打撃、さすが名門・天理である・
南沢の出来を考えると大きな2点目が入り、試合は終盤戦へ。山梨学院は7回表に1アウトから7番岳原が2塁打を放ち、チャンスを迎える。山梨学院のラインナップの中ではこの岳原が最もタイミングがあっていそうだ。しかし、続く8番佐仲、代打・山本は連続三振に取られ、無得点。追い込んでから絶妙なコースに投じるスライダーは威力抜群だ。
一方、山梨学院も7回からエース榎谷を登板させ、流れを変えようとする。榎谷は選抜の時ほどの出来ではなかったが、伸びのある速球を武器に天理打線を2イニング無失点で封じる。関東屈指の好投手が意地の投球で流れを呼びこみに行く。
1点を追う最終回、山梨学院は強打でチームを牽引してきた4番高橋、5番相沢が打ち取られ、2アウト。万事休すかと思われたが、ここからドラマが起こるのが甲子園だ。6番渋谷が1,2塁間をしぶとく破るヒットで出塁すると、打席にはタイミングの合っている7番岳原。高めに浮いたスライダーをとらえると、打球は浜風に乗ってレフト大城の頭上を越え、ついに待望の1点が入る。
ここで、背走していた大城が足をつった影響で、少し間があく。今大会は酷暑の影響でこういう場面がどうしても多くなってしまっているが、この時間で天理バッテリーは落ち着きを取り戻すことができたか。続く8番佐仲をアウトコースのスライダーで打ち取り、打球はこの日再三好守を見せていたセカンド藤森の前へ。これを藤森がきっちりさばいて、1塁へ送球し、試合終了。1点を争う好ゲームをものにした天理が2回戦へコマを進めた。
天理はこの日は完全に「守り勝った」と言える試合だっただろう。打線は山梨学院・山田の好投の前に2点どまりだったが、その2点もエース南沢の投球と内外野の堅い守備で生み出した「守りのリズム」からの得点だっただろう。特に南沢は失投と呼べるボールは本当に少なく、選抜以上に相手にスキを見せない内容であった。
中村監督になってから、かつての脆さは少なくなり、持っている以上の力が出るようになってきた印象の天理。打つべき人が打ち、エースを中心にしっかり守り切れる好チームであった。
一方、敗れはしたものの、山梨学院もディフェンス面では素晴らしい内容だったと言えるだろう。特に、先発・山田は持ち味のコントロールを活かして、天理打線をきっちり封じる投球を見せた。6回にややエアポケットに入ったところを突かれた失点が結果的に痛かったが、それ以外はほぼ100点の投球だったのではないだろうか。
選抜で抑え込まれた打線は、再び全国レベルの好投手の前に屈する形となったが、野球は投手中心のスポーツである以上は、致し方ない結果だったような気はする。この悔しさを胸に挑んだ翌年の選抜で県勢初優勝を果たすこととなる。
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