横浜高校投手陣を攻略した強力打線列伝⑩

2019年

2025年の高校球界で大坂桐蔭以来、史上2校目となる2度目の春夏連覇を狙う横浜高校。

あの松坂大輔を擁した1998年の春夏連覇は圧巻の一言であった。そして、この年を皮切りに同校の黄金時代が始まったと言っても過言ではないだろう。小倉部長の緻密なデータ取りによる配球の妙と徹底した下半身強化で、数々の好投手が育った。出場するたびに優勝候補に名を連ね、幾多の大エースを擁して上位をにぎわせた。

しかし、そんな中にあって、全国のライバル校も決して手をこまねいていたわけではなく、幾多の強豪校が自慢の打力で、その横浜の好投手に立ちはだかってきた。

今回は、横浜の投手陣を攻略してきた強力打線を、「強打vs好投手」の対決の歴史として振り返っていきたい。

明豊(2019年選抜 1回戦)

明豊 13得点で横浜に逆転勝ち、川崎監督「粘り強さ出せた ...

2016年夏から2018年夏まで3年連続出場を果たした横浜高校。2018年夏は吉田輝(日本ハム)擁する金足農を相手に常に先行して試合を優位に進めていたが、8回裏にエース板川が逆転3ランを被弾し、まさかの逆転負けを喫した。2回戦ではディフェンディングチャンピオンの花咲徳栄を下しており、勢いに乗ってきていたところだっただけにショックの残る敗戦ではあった。

しかし、新チームには期待のエースが残っており、平田監督はじめ首脳陣には翌年への手ごたえがあった。速球派左腕・及川(阪神)である。最速150キロを記録する左腕は、イップスで苦しんでいた時期もあったが、2年夏には復調の兆しを見せていた。完成度では一つ上のエース板川には及ばないが、持っているポテンシャルでは明らかに上。一つ壁を越えれば、全国制覇も夢でないような剛腕であった。

また、打線も前年からの経験者の1番内海、主砲・吉原を中心に強打者は揃っており、投打に実力の高さは折り紙付きであった。まずは秋の神奈川大会を順当に制覇。決勝ではのちに関東大会を制覇することになる、森敬斗(DeNA)擁する桐蔭学園にも大勝している。しかし、選抜切符をかけた準々決勝では村田賢(ソフトバンク)が投打の中心の春日部共栄を相手に苦戦。及川がストレートを狙い撃ちされ、まさかのコールド負けを喫してしまう。

同じ神奈川の桐蔭学園が優勝していたこと、2012年・2014年とすでに2度関東8強からの選出があったことを考慮すると、横浜の選出は厳しいかと思われたが、出場校発表の日、名前を呼ばれたのは、「YOKOHAMA」であった。それだけ選考委員にとっても、この年の横高への期待は大きかったのだろう。本戦では優勝争いをかき回す存在として注目が集まった。

 

その初戦の相手は、大分の明豊。2001年に初出場を果たしていた新鋭校だ。2000年代初頭は、柳ヶ浦を永年率いていた名将・大悟法監督が在籍しており、2008年~2009年の2年間は今宮健太(ソフトバンク)を擁して、甲子園を大いに沸かせる戦いを見せていた。

そして、ベテラン監督の後を受け、若き指揮官・川崎監督が2012年。智辯和歌山の選手として甲子園出場経験があり、大学卒業後は社会人野球を経て母校のコーチに戻っていた。その後、縁あって九州の強豪校の監督を任されたわけだが、就任当初は苦しい戦いを強いられた。特に初めて監督として甲子園の土を踏んだ2015年夏は初戦で準優勝校の仙台育英と対戦。大会記録となる10本の2塁打を浴び、打線も剛腕・佐藤世(オリックス)を相手に1点を返すのがやっと。終始ペースを握られたまま終わり、1-12と大敗を喫した。

しかし、智辯和歌山仕込みの体力と守備力、そして打力を磨く野球をチームに落とし込むと、徐々に結果が出始める。2017年夏は注目の強打者・濱田(ヤクルト)を擁し、坂井・神村学園といずれも打ち勝って8強に進出。準々決勝では天理に敗れはしたものの、3-13の最終回に満塁弾などで一挙6点を返す猛攻を見せ、攻撃野球全開で存在感を示した。

そして、2018年秋の九州大会では4試合で32得点の猛打で準優勝。投手陣に故障が出た影響もあり、決勝は好捕手・進藤(日本ハム)らのいた筑陽学園に打ち負けたが、大会出場チームの中でも上位に位置する実力を秘めているのは明らかだった。切り込み隊長の1番、主軸の3番布施、4番野辺と上位打線は特に強力。剛腕・及川の攻略へ向け、腕を撫して向かってきた。

試合

明豊

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 5 4 1 0 0 3 0 13
3 1 0 0 0 0 1 0 0 5

横浜

 

横浜  及川→松本→木下→及川

 

明豊  スタメン

1
2 宮川
3 布施
4 野辺
5 薮田
6 青地
7 成田
8 若杉
9 野上

東西の強豪同士の注目の一戦。大会2日目の第2試合にそのカードは組まれた。

横浜の先発はもちろん及川。一方、明豊は左右、本格派、技巧派と多彩な陣容をそろえる中で、2年生左腕の若杉を指名してきた。

1回表、及川は明豊の強力打線を三者凡退で抑え込む。スライダー主体の投球で、ストレート狙いの打者のタイミングを外し、打たせて取る投球で内野ゴロを三つ奪って見せた。ストレートに頼って敗れた昨秋の反省もしっかり活かされた内容だ。

すると、打線も早々とエースを援護する。1番内海が頭部への死球で出塁すると、明豊・若杉に動揺が走る。1アウト後に3番小泉・4番吉原が連打を放って、2点を先行すると、さらにランナーをためて6番及川も自らタイムリーを放ち、この回一挙3点!最高のスタートを切る。さらに制球の定まらない若杉から2回にも1番内海のタイムリーで1点を追加。理想的な流れで滑りだす。

及川の実力を考えれば、あるいは試合が決まったかという展開。しかし、3回表に一気に暗転してしまう。

この回、先頭の8番若杉、9番野上に連続四球を与えてしまう。平田監督曰く、「軸足が折れていた」との試合後のコメントにあるように、投球フォームのメカニックにどこか支障が出ていたのかもしれない。一番よくない形でランナーをため、上位打線に回してしまう。

ここで、打席には1番。初回は高めのスライダーを打たされて凡退していた。ここでも、横浜バッテリーはスライダー2球で追い込むのだが、続く3球目、目先をかわすために投じたのか、ストレートを選択した一球が甘く入る。これを表が逃すわけもなく、三遊間を突破!2塁ランナーが返り、明豊が1点を返す。カウント的にも少し不用意なボールだったか。

さらに、犠打でランナーが進むと、打席には巧打の3番布施。こちらも初回はスライダーで打ち取られていたが、こちらはスライダーを狙い撃ちに行く。カウント2-0からインサイド低め、見逃せばボールとも言える高さを、左足を引いて開きながらとらえる!打球はあっという間にレフトフェンス際まで到達し、2者が余裕を持って生還。点差は1点となり、途端に試合はわからなくなった。

こうなると、追う者と追われる者の差は歴然。4番野辺は今度は左打席からアウトコースへ逃げていくスライダーを流し打ち、レフト線を破るタイムリー2塁打となって同点へ追いついた。この場面、横浜外野守備のちょっとしたスキをついて、一気にホームへ回したコーチャーと駆け抜けた布施も見事だった。この回、さらに6番青地のサード強襲のタイムリーも飛び出し、ついに及川をマウンドから引きず路下した。

こうなると、明豊の打線の勢いは止まらず。2番手で登板した大型左腕・松本(DeNA)も攻略し、5回までに10得点の猛攻で一気に試合を決めた。大会屈指の左腕・及川の失投を逃さずとらえ、さらにコースに決まった決め球も打ち砕く。明豊の打撃技術と集中力たるや、恐ろしいものがあった。この大会で明豊は4強に進出。川崎メソッドが浸透したチームは2年後の選抜でも準優勝を果たし、一気のブレイクスルーを成し遂げた。

一方、横浜はエースが3回で攻略されては打つ手なしであった。潜在能力抜群の左腕が阪神タイガースに指名され、その素質を開花させるのはもう数年先の話であった。

《選抜2019》高校野球 明豊VS横浜 ハイライト

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