名将・小倉監督に率いられ、数々の名勝負を繰り広げてきた日大三。
その代名詞ともいえる強力打線は豊富な練習量に裏打ちされた技術と体力、気力によって培われてきた。これは、その強力打線と対峙した歴代の好投手たちの戦いの記録である。
2004年夏 3回戦 駒大苫小牧 7-6 日大三

日大三
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 | 6 |
| 1 | 2 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | × | 7 |
駒大苫小牧
鈴木康仁(駒大苫小牧)
前年の2003年に続き、2年連続の出場となった日大三。前年から注目されていた佐々木大輔は、押しも押されぬ4番に成長し、世代屈指のスラッガーとしてホームランを量産する。そのまわりを2番中山、3番千田、6番後藤、7番江原と伸び盛りの2年生が固めたチームは、西東京大会を圧倒的な強さで勝ち抜いた。
昨年は不安視された投手陣も右サイドのエース浅香が成長。チューブトレーニングで鍛えた指の力を活かし、決め球のスライダーは右打者のアウトコースに鋭く逃げる。昨年に甲子園のマウンドを経験した左腕・小田も成長し、6試合を9失点にまとめ、盤石の強さで甲子園に帰ってきた。
その甲子園では初戦からPL学園との東西V候補対決に。大阪大会決勝で大坂桐蔭との、あの伝説の引き分け再試合を演じ、強者を下して勝ち上がった勢いがあった。しかし、試合が始まると、日大三の自慢の打棒が爆発。先発した後のメジャーリーガーである、当時1年生の前田健太(カブス)とエース中村圭の右腕2枚看板に18安打を浴びせて8得点。4番佐々木のホームランや1番松島の6安打の活躍で圧倒した。
また、投げてはエース浅香が2ホームランを浴びて5点を失うも、12三振を奪う力投。スタメンに右打者が8人並ぶPL打線には浅香のスライダーが実に効果的であった。地元・近畿のV候補を下し、一躍大会注目の存在になってきていた。
その日大三と3回戦でぶつかったのが、前の試合で念願の甲子園初勝利を上げた駒大苫小牧。PL学園とは異なり、4番原田をはじめとして左の強打者が揃う難敵だ。初戦の佐世保実戦では、左サイドの変則投手・当間が相手だったが、無理に引っ張らずに流して左中間を破る打撃が目立ち、15安打で7得点。そして、投げては岩田・鈴木の左の2枚看板が安定して試合を作る。特に鈴木は9回無死満塁から3者連続三振と圧巻の投球を展開。ストレート主体の真っ向勝負が光った。
ともに打力のあるチーム同士。試合は、序盤から打ち合いの様相を呈する。1回裏に、駒苫は4番原田が浅香の入ってくるボールをライト線に引っ張り、1点を先制。2回にも9番五十嵐がタイムリーを放つなど、右サイドに相性がいい左打者陣が結果を残す。
ただ、日大三打線もただでは引き下がらない。打者二巡目に入り、駒苫の先発・岩田から1番松島、4番佐々木がともにセンターオーバーの長打を放つなど、この回3安打を集中して2点を返す。松島はこれで初戦から8打席連続ヒットの大会タイ記録を達成。打の日大三を強烈に印象付ける活躍を見せた。
すると、ここで駒苫は2番手で初戦に好リリーフした左腕・鈴木をマウンドへ。この交代が試合の流れを大きく左右する。3回裏に駒大苫小牧が、またも左打者である1番桑原のタイムリーで1点を追加すると、4回から鈴木が圧巻の投球を見せる。なんと4回から7回までの4イニングを4番佐々木の2塁打1本、計8奪三振の快投である。初戦から猛威を振るっていた日大三打線を完全に封じ込めたのだ。
その原動力となったのが、鈴木の速球である。球速表示は130キロ台なのだが、その数値を疑いたくなるほどのスピードボール、いわゆる「キレを伴った本物の速球」である。速球にめっぽう強いはずの日大三の各打者が明らかに振り遅れ、まともに捕らえることができない。初戦で勝利したとはいえ、全国的にその実力はまだ未知数だった駒大苫小牧が、高校野球ファンの脳裏に初めてしっかり刻まれたのが、あるいはこの鈴木の投球からだったかもしれない。「こんな投手がいるのか…」と。
ただ、そうは言っても、真夏の甲子園での戦いで有り、さすがに終盤には疲れが出て8回表に同点に追いつかれる。しかし、中盤以降の大事な4イニングを消費したこと、日大三打線の勢いを一度寸断した効果は大きかった。駒苫打線は、追いつかれた直後の8回裏、打撃もいい8番鈴木が自らタイムリーを放つなど、この回3点を勝ち越し。9回表にも日大三打線の猛烈な追い上げにあうが、3つのアウトすべてを三振で奪い、7-6で東の横綱を退けて、初の8強に勝ち上がった。
この試合で、駒苫の岩田・鈴木が日大三打線から奪った三振の数はなんと17にも上った。強力打線を誇る日大三を相手の、この数字は驚異的である。6点は取られたものの、相手の最大の長所を、試合中盤から終盤にかけて完全に封じ込めたという意味では完勝と言えただろう。日大三としては、この年は優勝も狙える戦力を有していたとは思うが、新たに出現した北の王者に行く手を阻まれることとなった。
2005年夏 準々決勝 宇部商 5-3 日大三

宇部商
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 3 | 5 |
| 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 0 | 3 |
日大三
好永貴雄(宇部商)
3年連続の甲子園出場となった日大三。前年の夏を経験した江原、中山、千田、後藤がそれぞれ1番、2番、3番、5番に座り、4番には西東京No.1と謳われた強打者・多田を据える。全国制覇時にも引けを取らない強力打線が完成し、小倉監督も自信を深めての甲子園であった。また、投げてはエース左腕の大越が安定。西東京大会では他を全く寄せ付けず、本戦でもV候補の一角を堂々と占めていた。
甲子園では、初戦で明徳義塾の出場辞退に伴って急遽代替出場となった高知と対戦。好投手・二神(阪神)が相手だったが、三高打線が火を噴く。2回裏に1番江原のホームランなどで4点を先行すると、終盤には4番多田にも一発が飛び出し、6得点。投げては、エース大越が必殺のスライダーを武器に14奪三振の力投。初戦の戦いぶりを見る限り、関東勢で最も優勝を狙えそうなのがこの日大三であった。
続く3回戦では2番主将・中山の活躍などで前橋商の好投手・富田も打ち崩し、9-6で勝利。打撃戦で最終回には相手の反撃にあったが、2番手の右腕・加藤の好救援があり、昨年超えられなかった3回戦の壁を突破した。4年ぶりの夏の甲子園制覇へ徐々に期待は高まっていた。
その日大三と準々決勝でぶつかったのが、山口の伝統校・宇部商である。過去、甲子園で幾度も劇的なホームランを放って名勝負を繰り広げてきた同校は、名将・玉国監督の一心野球そスローガンのもと、今年も強力なチームを作り上げてきた。選抜では2回戦で優勝した愛工大名電に0-2と惜敗も、夏は山口大会を順当に勝ち抜いて甲子園へ。この年の中国地方では強力打線を誇る関西とこの宇部商が完全に2TOPと言えるほど、確かな強さがあった。
そのチームの中心は左腕エースの好永。決して剛球を操るタイプではないが、左腕投手特有の腰の横回転を活かした体重移動から勢いのあるボールを内外角に散らしていく。このタイプは実際に対してみると、想像以上に打ちにくいのだ。
また、打線も上位から下位まで非常に当たっており、初戦の新潟明訓戦ではなんと20安打をマーク。7-4でまずは順当に初戦を突破する。2回戦では静清工との機動力野球対決を、堅守と好永の好投で4-0と制すると、3回戦は昨夏の出場メンバーが多く残る強豪・酒田南に1イニング8得点の猛攻を見せて、11-2と圧勝。タイプの違う相手を、宇部商らしい野球でねじ伏せ、ベスト8へと駆け上がってきた。
迎えた東西強豪対決は、初回から宇部商が先制。大越の牽制悪送球も絡んでしまい、4番好永にタイムリーを浴びる。5回に初戦の1番から打順を下げていた7番江原の、今大会2本目となるホームランで追い付くが、直後の6回表に再び宇部商が勝ち越し。日大三としては、なかなか試合のリズムを掴ませてもらえない。
三高自慢の打線は、この試合も序盤からヒットは出ており、決して抑え込まれたわけではない。しかし、ランナーを背負っても強気にインサイドを突き、ボールを散らす好永の投球の前にどうしても大事なところで1本が出ないのだ。宇部商が2-1とリードし、試合は最終盤へ向かう。
しかし、夏の連戦を山口大会から一人で投げ抜いてきたタフネス左腕にもさすがに疲れが走る。8回裏、徐々にボールが高めにはいりだしたところをとらえ、日大三は満塁のチャンスを作る。ここで、打線には8番捕手の桑田。宇部商バッテリーがきっとインコースを突いてくると読みきってとらえた打球は、三遊間突破の逆転タイムリーに!ここにきて、この試合初めてのリードを奪った。
後は、このリードをエース大越が守るだけ。しかし、最終回の粘りに定評のある宇部商の怖さはここからだった。9番星山、1番井田の連打でチャンスを作ると、犠打も作戦としてはある場面で、2番上村に玉国監督は迷わず強攻策。これが、ライトオーバーの逆転三塁打となり、再度試合をひっくり返した。
この回、さらに好永が自らセンターへタイムリーを放って5-3とするが、9回裏に日大三も千田、多田が連打を放ち、最後まで食らいつく。しかし、最後は5番後藤がセンターフライに倒れてゲームセット。粘り合いを制した宇部商が強豪対決を制し、久しぶりの4強進出を決めたのだった。
日大三はこの試合、12安打を放ちながらも3得点。終盤に一度は逆転したが、最後まで好永を崩しきるには至らなかった。スピードはなくとも、コントロールとキレ、丁寧さで強力打線を抑えきれるという、お手本のような好永のピッチングであった。


コメント