この地区が無双した!夏の戦い振り返り(九州編)

1994年

甲子園では各地区ごとに好不調が如実に表れるのが、見ているファンにとって興味を引くところだ。好調な地区では、一度勝ちだすと、地区内で「うちが一番先に負けられない」との意識が出てきて、簡単には負けなくなる相乗効果を生み出すことがある。そんな相乗効果で各地区ごとに無双状態になった大会は何年の大会だったが、振り返っていきたい。第1回の今回は九州地区編。

第76回大会(1994年)

前年の選抜から上宮・育英・智辯和歌山と3期連続で近畿地区が制していた当時の甲子園。しかし、1994年夏は選抜4強がすべて県予選で姿を消し、本命不在の大会といわれた。大会に入っても、V候補に挙げられていた宇和島東・横浜・浦和学院が2回戦までにすべて敗退する波乱の展開に。そんな中で、快進撃を見せたのが無印の存在が多かった九州地区のチームであった。

開幕戦で勝利してそのまま優勝まで突っ走った佐賀商、福岡-田村(広島)の黄金バッテリーを擁した樟南のファイナリスト2校に加え、長崎北陽台・柳ヶ浦と実に4校が8強に進出。そのほかにも好投手・伊佐を擁して横浜を下した那覇商もおり、九州勢が無類の強さを発揮した大会であった。

佐賀商(佐賀代表)

1回戦   〇6-2  浜松工

2回戦   〇6-1  関西

3回戦   〇2-1  那覇商

準々決勝   〇6-3  北海

準決勝    〇3-2  佐久

決勝     〇8-4  樟南

佐賀県内屈指の強豪校であり、名将・板谷監督に率いられて幾度も甲子園に姿を見せていた佐賀商。新谷投手(西武)の無安打無得点試合など印象に残るシーンも数多く残していたが、全国制覇は遠かった。1987年に田中監督が新たに就任し、迎えた1994年夏2年生エース峯を中心に下級生主体のチームが佐賀大会ノーシードから勝ち上がり、快進撃を見せた。

開幕戦で浜松工を6-2と会心の内容で下すと、2回戦は関西の2年生左腕・吉年(広島)、3回戦は那覇商の伊波と好投手を立て続けに攻略してベスト8へ進出。準々決勝では今大会旋風を巻き起こしていた北海を相手に、先発した控え投手を攻略し、序盤から主導権を渡さず、6-3でナイトゲームをものにした。

そして、準決勝からのファイナル2試合は感動的な試合に。

準決勝は初出場の佐久と対戦。本格派右腕・松崎の球威に苦しんでいたが、9回裏に主将の2番西原・3番山口の短長打と5番碇のタイムリーで2点差を追いつく。勢いに乗って迎えた延長10回、表の佐久の攻撃で無死3塁のピンチをしのぐと、10回裏に2番手左腕の柳沢から3番山口が殊勲のサヨナラ打を放ち、見事にサヨナラ勝ち!前夜の北海戦の終了からわずか半日ほどしか経過していない中での強攻日程だったが、2年生エース峯をバックが堅守と勝負強い打撃で支え、見事なサヨナラ勝ちを決めた。

そして、決勝は大会前から優勝候補の一角に挙げられていた同じ九州の樟南。同地区だからこそ、その実力をよく知る佐賀商ナインは試合前、「一方的なスコアだけは避けたい」と考えていた。

試合は2回裏、疲れの見える峯から樟南打線が3点を先制し、やはり樟南有利かと思われたが、中盤にセーフティバントをきっかけに同点に追いつくと、試合は佐賀商ムードに。この試合、樟南の捕手・田村の送球が2度も佐賀商のランナーに当たるなど、どこかツキが佐賀商に向いてきている感があった。そして、迎えた9回表、疲れの見える樟南のエース福岡を攻め立て、満塁のチャンスをつかむ。1番宮原は三振で2アウトとなるが、2番西原が低めの速球をバット一閃。打球はレフトスタンドへ飛び込む満塁弾となり、一気に試合を決めた。

最終回をエース峯が渾身の投球で締めくくっての初優勝!佐賀県勢として初めて甲子園を制したチームとなった。大会期間中に、前指揮官の板谷監督が急逝するという悲しい出来事もあったが、その遺志を引き継いで戦った田中監督にとっても、万感の思いがこみ上げる初優勝であった。

(3) 佐賀商・西原、満塁ホームラン(1994年決勝) – YouTube

【好投手列伝】佐賀県篇記憶に残る平成の名投手  | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

樟南(鹿児島代表)

2回戦    〇8-2    秋田

3回戦    〇4-1    双葉

準々決勝   〇14-5  長崎北陽台

準決勝    〇10-2  柳ヶ浦

決勝     ●4-8    佐賀商

2年生時から甲子園を沸かした福岡-田村(広島)のバッテリーが最終学年を迎えた樟南。前年夏は優勝候補筆頭の常総学院を追い詰めながら、降雨コールド再試合の末に0-1で惜敗していた。満を持して迎えた最終学年は、校名を鹿児島商工から樟南に改め、心機一転での戦いに注目が集まった。

しかし、この年は県内のライバル鹿児島実が強く、秋春と九州大会を制覇。強力打線を擁する宿命の相手を前に、苦戦を強いられていたが、最後の夏は決勝で5-3と勝利し、見事に2年連続の甲子園出場を果たした。

速球に威力がある福岡だが、状況に応じて技巧的な投球もできるのが強みであった。捕手・田村とのコンビで変幻自在に、相手打線を見ながらの投球で試合を作った。前年夏はエースを援護しきれなかった打線もこの夏は、中軸を打つ福岡・田村を中心に強力。得意の犠打でランナーを進め、きっちりタイムリーが飛び出す野球で毎試合きっちり先手を取り、決勝までの4試合で1度もリードを許さなかった。

2回戦からのくじを引いたことで日程面でも恵まれた樟南は、波乱の多かった1994年夏において、大会前に挙げられたV候補で唯一順当に勝ち上がったチームと言えた。準々決勝では長崎北陽台、準決勝では柳ヶ浦と同じ九州地区のチームとの対戦だったことも大きかった。全国で名を馳せたバッテリーを中心にした「樟南」というチームはそれだけ、試合前から同じ九州のチームにとっては見上げる存在だったのだ。

しかし、決勝戦はミラクルチーム佐賀商のグランドスラムに屈し、惜しくも準優勝に。名将・枦山監督が作り上げた最高傑作のチームは、栄冠を手にすることはできなかった。しかし、九州勢の強さ・貫禄を見せつけた、この夏の樟南の戦いぶりは全国の高校野球ファンの脳裏にしっかりと刻み込まれた。

(3) ⚾【平成6年】佐賀商業 対 樟南【高校野球・決勝】 – YouTube

【好投手列伝】鹿児島県篇記憶に残る平成の名投手 1/2 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

大会No.1投手(1994年夏) 福岡真一郎(樟南、鹿児島商工) | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

柳ヶ浦(大分代表)

1回戦   〇7-1  小山

2回戦   〇14-4  近江

3回戦   〇5-0  創価

準々決勝   〇6-5  仙台育英

準決勝    ●2-10  樟南

名将・大悟法監督に率いられ、ここ数年常連校となっていた柳ヶ浦。この年、エース野村の好投と強力打線の援護で快進撃を見せた。県外出身者が多いチームだったが、一致団結した戦いぶりは見ているものを魅了した。

初戦は選抜準優勝の経験もある小山を相手に先制、中押し、ダメ押しと理想的な展開でリードを広げると、投げてはエース野村がコントロールよく変化球をコーナーに投げ分けて7-1と快勝を収めた。続く2回戦では近江の3投手を相手に初戦以上の猛打を見せて、14-4で大勝。高山、小森田、村子、中原の上位4人で8安打を放ち、相手を圧倒した。

また、この試合も野村は飄々と相手打線をかわし、安定した投球でチームを勝利へ導いた。3回戦では創価の2年生エース大木のストレートを打線が攻略すれば、野村は緩急をつけた投球で相手打線を5安打で完封。3試合連続の2桁安打とエースの投球がかみ合って、堂々ベスト8に進出し、「柳ヶ浦強し」の声は日に日に増していった。

迎えた準々決勝は同じく強力打線を擁し、金村(日本ハム)・昆の2枚看板を擁する仙台育英が相手。先制点の欲しい柳ヶ浦は4回表、けがで投手をあきらめ、野手に転向していた梶原が代打3ランを放ち、一気に流れを引き寄せる。5回表にも2点を追加し、本格派右腕・金村の速球をしっかりと攻略した。エース野村が打球を左腕に受けるアクシデントが発生するも、村上→村子へと継投して仙台育英打線の追撃をかわし、6-5で勝利。きわどい勝ち方ながら、チーム一丸となる野球で初のベスト4へと勝ち進んだ。

準決勝は打球を受けた影響で野村が本調子でなく、樟南に2-10と大敗したが、技巧派エースを強打で支える野球は迫力満点。大悟法監督らしい豪快な全員野球のチームが、その強さを見せつけた大会であった。

【好投手列伝】大分県篇記憶に残る平成の名投手 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

長崎北陽台(長崎代表)

長崎】普通の公立校でも勝ち進めるんだ――長崎北陽台 誇りの初出場3勝 ...

1回戦   〇2-0  関東一

2回戦   〇4-1  宿毛

3回戦   〇3-2  中越

準々決勝   ●5-14  樟南

高校ラグビーの強豪校として知られる進学校。しかし、この年は好投手・松尾を中心に守りの野球で快進撃を見せた。就任わずか3年でチームを甲子園に導いた宮原監督のさわやかさとブルーのユニフォームが相まって非常にフレッシュな印象の好チームであった。

初戦は選抜準優勝の経験もある東東京の強豪・関東一。試合は松尾と関東一・木村の投手戦となる。北陽台・松尾は強打の関東一打線を7回まで無安打に抑える完ぺきなピッチングを展開。140キロ台の速球と切れ味鋭いスライダーを武器に相手を全く寄せ付けない。7回にはセンター小江の背走キャッチが飛び出すなど、バックも好守でエースを援護した。打線は少ないチャンスを満塁からの内野ゴロと6番開のタイムリーで活かし、2-0と快勝。点差以上に差を感じさせる内容でまずは甲子園初勝利を手にした。

続く2回戦は大会注目の速球投手・藤本を擁する高知代表の宿毛と対戦。初出場ではあるが、かつて幾度も初めての出場で快進撃を見せてきた四国の代表だけあって、かなり不気味な存在であった。しかし、試合が始まると北陽台が試合巧者ぶりを発揮。5回裏に当たっている6番開のヒットを皮切りに無死満塁のチャンスを作ると、相手守備陣の乱れに乗じて3点を奪い、逆転に成功する。投げては、松尾が初回に先制点を献上するも、2回以降はスライダーを武器にわずか2安打しか許さず。終わってみれば、チーム力の差で4-1と快勝を収めた。

3回戦では好投手・穐谷を擁して快進撃を見せていた中越と対戦し、スクイズ2本を含むそつのない攻めで3点を奪取。松尾がこの日もスライダーを武器に好投し、3-2と接戦を制して初の8強入りを決めた。準々決勝は同じ九州の樟南を意識したか、守備が乱れて大敗を喫した。しかし、打力優位の夏にあって、守備力で勝ち上がった長崎北陽台の野球は、パワーで劣るチームに、確かな可能性を感じさせるものであった。

(3) 中越×長崎北陽台 フル – YouTube

【好投手列伝】長崎県篇記憶に残る平成の名投手 1/2 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

那覇商(沖縄代表)

2回戦   〇4-2  横浜

3回戦   ●1-2  佐賀商

好投手・伊佐を中心に粘り強い野球で春夏連続出場を果たした那覇商。選抜では試合巧者の高知商に0-6と完敗を喫したが、夏は強豪ひしめく沖縄大会を勝ち抜いて再び甲子園にやってきた。

しかし、次こそは甲子園初勝利を、と臨んだ初戦の対戦相手は、何と東の横綱・横浜高校。矢野、紀田、多村(横浜ベイスターズ)、斎藤(巨人)と後にプロ入りする選手4人を擁し、投打に超高校級の戦力を持つV候補の筆頭格であった。夏の出場こそ5年ぶりだったが、選抜は2年連続出場中であり、甲子園慣れしているチームであ。集大成の夏に、満を持して全国制覇を狙っていた。

そんな横浜が相手だったが、伊佐は序盤から変幻自在の投球を見せる。上手投げだった選抜から夏に向けて横手投げも取り入れ、1球ごとに投球フォームを変えて横浜打線をかわしていく。打線も序盤から横浜のエース矢野の決め球のカーブにしっかりアジャストし、常に先手を取って試合を進めていった。取っては取られの展開であったが、那覇商としてはしっかり守ってリズムを作る展開は、自分たちの臨んだものであった。伊佐は結局、斎藤・紀田・多村の中軸にヒットを許さず、横浜の強力打線を5安打2失点で完投。4-2でジャイアントキリングを果たし、大きな1勝をつかみ取った。

続く2回戦は佐賀商との九州公立校対決に。この試合も那覇商は序盤に先制点を奪うが、攻撃力に勝る佐賀商が徐々に伊佐に圧力をかける。7回にスクイズで佐賀商が同点に追いつくと、8回には1年生4番田中のタイムリーが飛び出して2-1。那覇商も健闘したが、佐賀商のエース峯の緩急を攻略しきれず、ベスト16で姿を消すこととなった。

しかし、選抜での完封負けからチームが大きく成長したことを示す戦いぶりを見せた夏であった。

【好投手列伝】沖縄県篇記憶に残る平成の名投手 1/2 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

延岡学園(宮崎代表)

甲子園常連校 宮崎 延岡学園高校 野球部ユニフォーム L(実使用 ...

1回戦   ●4-12  東農大二

エース黒木知(ロッテ)を擁した1991年以来3年ぶりに夏の甲子園に戻ってきた延岡学園。毎年の様に代表校が入れ替わる宮崎にあって新勢力として注目される存在であり、強力打線を武器に甲子園初勝利を狙っていた。初戦の相手は群馬の伝統校・東農大二。投手陣が不安定で序盤から大量リードを許したが、延岡学園打線も相手と同じ11安打を放ち、強打の片りんは見せた。結果は大差での敗戦となったが、ここから出場を積み重ね、宮崎の常連校へとなっていった。

九州工(福岡代表)

1回戦   ●1-9  水戸商

実に24年ぶりに激戦区・福岡を制し、甲子園にたどり着いた九州工。福岡大会終盤は、エース落合が打ち込まれる場面も目立ったが、打線が強力に援護し、決勝戦は九州国際大付を相手に4点差をひっくり返して見事に出場切符をつかみ取った。

初戦の相手は選抜準優勝の常総学院が敗れる波乱の茨城大会を制した水戸商。九州工はこの強敵を相手に初回に幸先よく先制点を奪い、エース落合も粘りの投球を見せて、中盤までは互角の展開を見せる。しかし、終盤は水戸商の強力打線にエース落合が捕まり、1-9と敗戦。激戦区を勝ち抜いた実力の片りんを見せたが、惜しくも初戦敗退となった。

(3) 理想的な左中間への弾道 – YouTube

済々黌(熊本代表)

1回戦   ●0-3  愛知

熊本県勢で唯一優勝経験のある伝統校が4年ぶりの甲子園出場。右腕・沢田が県大会から一人でマウンドを守り抜き、バックも無失策の堅守でエースを支えた。初戦は小島・山内と好投手2人を擁する愛知との対戦となった。

沢田、小島の両投手が譲らない投手戦は4回まで0-0で進行した。しかし、5回に沢田のボールが高めに浮き、タイムリー2本と暴投で3失点。結果的に、スコアボードに0以外の数字が刻まれたのはこのイニングだけであった。引き締まった投手戦は0-3で愛知に軍配が上がった。ただ、濟々黌の守備陣はこの試合も無失策であり、沢田も自分の持ち味はしっかり出し切った投球を見せた。熊本屈指の伝統校がその実力はしっかり出し切った夏であった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました