横浜高校投手陣を攻略した強力打線列伝⑦

2011年

2025年の高校球界で大坂桐蔭以来、史上2校目となる2度目の春夏連覇を狙う横浜高校。

あの松坂大輔を擁した1998年の春夏連覇は圧巻の一言であった。そして、この年を皮切りに同校の黄金時代が始まったと言っても過言ではないだろう。小倉部長の緻密なデータ取りによる配球の妙と徹底した下半身強化で、数々の好投手が育った。出場するたびに優勝候補に名を連ね、幾多の大エースを擁して上位をにぎわせた。

しかし、そんな中にあって、全国のライバル校も決して手をこまねいていたわけではなく、幾多の強豪校が自慢の打力で、その横浜の好投手に立ちはだかってきた。

今回は、横浜の投手陣を攻略してきた強力打線を、「強打vs好投手」の対決の歴史として振り返っていきたい。

智辯学園(2011年夏 3回戦)

智弁学園9回2死から大逆転/夏の甲子園 - 高校野球ニュース :

選抜に続いての春夏連続出場を成し遂げた横浜高校。しかし、この時期の横浜は非常に苦しい道のりを歩んでいた。

というのも永年同じ神奈川で頭を押さえつけてきた東海大相模が躍進していたからだ。前年夏は決勝で東海大相模に3-9と敗戦。勝ったら甲子園の大一番で相模に敗れるのは久しぶりであった。相模は夏の甲子園は実に33年ぶりであった。甲子園ではエース・一二三(阪神)の好投で準優勝を飾ると、夏春連続出場となった選抜では5試合で77安打の猛打で優勝。今最も勢いに乗るチームであった。

一方、同じ選抜で横浜は波佐見の剛腕・松田(阪神)を打てずに、1-5と完敗。まさに明暗分かれる結果となった。前年夏は斎藤、選抜では山内とともに2年生エースを立てながら結果を残せなかった中で、この夏は投手陣を再整備。同じく2年生の右腕・(中日)と左腕・相馬の技巧派の2枚看板の継投で試合を作るようになった。また、主将にムードメーカーの乙坂(DeNA)を置いたことで、チームの雰囲気も明るくなっていった。

すると、神奈川大会の5回戦ではが見事な内角攻めで相模打線を封じ、3-1でリベンジを達成。決勝では当時1年生ながら高いポテンシャルを見せていた左腕・松井裕樹(パドレス)と150キロ右腕・柏原の2枚看板を擁する桐光学園との対戦になった。1-1のまま延長戦に入った試合は、10回裏、4番近藤(ソフトバンク)が柏原の高めの速球をとらえると、打球はセンター前に!サヨナラ勝ちで甲子園をつかみ取った横浜ナインの喜びようたるや凄いものがあった。苦しみを乗り越えたがゆえだったのだろう。

甲子園初戦では健大高崎と対戦。今や泣く子も黙る強豪校の健大高崎もこの年が初出場であった。横浜はプッシュバントなど多彩な攻めで序盤から5点を先行するが、健大高崎も中盤に自慢の打線がつながり、一挙に同点に追いつく。互いに譲らぬ攻防は、延長10回表に横浜が好返球で健大高崎のホーム生還を阻止すると、その裏に2番高橋にサヨナラヒットが飛び出して劇的な勝利に!選抜で成しえなかった初戦突破を果たし、3回戦へとコマを進めた。

其の3回戦の相手は奈良の智辯学園。実はこちらも横浜と同じような苦しみを味わっていた。直近の2年間は県内のライバル天理の後塵を拝し、天理は2009年選抜から2011年選抜までなんと5季連続出場を達成。その間、智辯学園は一度も甲子園に出場できず、苦しい時代を過ごしていた。中でも前年夏は決勝戦での直接対決で1-14と大敗を喫しており、この年はリベンジを果たすべくナインは燃えていた。

ところが、思いもよらぬ展開が訪れる。なんと天理に不祥事が発生し、戦わずして舞台を降りたのだ。ライバルのいない中、2年生エースの青山(オリックス)は「天理がいても智辯学園だったと思わせるような勝ち方をしたい」と話していたが、その言葉通りに圧倒する。同じ2年生の捕手・中道(オリックス)とのバッテリーで相手打線を封じ込めれば、打線は奈良大会新記録の10ホームランを量産。まさに圧倒的な勝ち方で奈良大会を3年ぶりに制覇した。

この打線、1番大西、2番浦野のコンビで機動力でかき回すと、中軸には2年生バッテリーの青山と中道が座り、打撃でもチームを牽引する。さらに後ろには小野山、小野、横浜といずれも4番を打つ力を持つ打者が並び、相手投手とすれば息つく暇もない打線となっていた。

甲子園では初戦で鶴岡東と対戦。技巧派左腕・佐藤の前に打線が苦しんだが、中盤に青山中道のバッテリーがタイムリーを放ち、2点を先制!このリードを青山が守り切り、2-1と僅差ではあるが、初戦突破を果たした。3回戦の相手は横浜だったが、この試合前まで奈良県勢は神奈川勢を相手になんと11連敗中であった。奈良県勢として初の快挙を成し遂げるべく、智辯学園が打倒・横浜に燃えて勝ち上がってきたのだ。

試合

智辯学園

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 0 0 0 1 0 0 8 9
1 1 1 0 1 0 0 0 0 4

横浜

 

横浜 柳→相馬

 

智辯学園 スタメン

1 大西
2 浦野
3 青山
4 中道
5 小野山
6 小野
7 横浜
8 中尾
9 住谷

智弁学園とすれば奈良の連敗を止める千載一遇のチャンスが巡ってきたと言える試合。今回に限って言えば、個人の力ではためを張れる、ないし智弁の方が上だったかもしれない。バッテリーを中心に普段の野球をすれば十分渡り合える力関係で会った。

しかし、横浜の方が野球のうまさでは一味上。そこは5度の優勝を誇る横浜にはかなわない。智弁としてはできる限り横浜のうまさを消す戦いをしたいところ。青山は横浜戦に向けてフォークボールを温存しており、有効に使いたい。

 

が、立ち上がりから試合は完全に横浜ペース。初回に制球の定まらない青山から二つの四死球を得ると、2アウト1,3塁からダブルスチールを敢行。2年生バッテリーを揺さぶって先制点を奪うと、2,3,5回にも先頭が出て送ってタイムリーが出る理想的な攻め。乙坂は3度出塁してすべてホームを踏んだ。青山は制球に苦しみ、フォークで幻惑どころではない投球となってしまい、一時はKOされてしまうのではないかというピッチングだった。

一方、横浜のは急速こそ140キロを超えるか超えないかだが、テークバックの短いフォームから右打者のインサイドを攻める投球。いかにも長打力のありそうな智弁の打者の懐を果敢に攻め、打つ側としては全く手が出ない投球。内から外で泳がせ、外から内で腰を引かせる。理想の投球で8回まで3安打1失点に抑える。

しかし、その1点は6回のグランド整備後に青山のタイムリーで挙げた1点。智弁としてはここで流れを断ち切った。青山は立ち直り、真っすぐ・変化球ともコーナーに決まりだす。解禁したフォークも使って打者を牛耳った。

そして、9回の表、ここまで好投のだったが、終盤になるにしたがって徐々に制球が甘くなっていた。先頭の2番浦野にセンター前へ痛烈にはじき返されると渡辺監督は投手交代。左腕の相馬につなぐ。ここは神奈川を勝ち抜いた必勝パターンの継投に託す。

しかし、相馬は続く乗っている青山にライト前に運ばれ1,2塁となる。4番の中道はセンターフライ。5番小野山には特大のセンターフライを浴びてランナーはタッチアップするも2アウト1,3塁とようやくあとアウト1つまで詰め寄る。

ここで6番で投手も務める小野。好きな言葉は「意地」という男がセンター前に甘い真っすぐをはじき返して意地の1点を返す。なお2アウト1,2塁だが守る側としては守りやすい状態。

しかし、相馬はインコースを狙って7番横濱に痛恨のデッドボール。2アウト満塁で打者は代打の西村。これまで練習でもベンチでも声を張り続け、味方を鼓舞し続けたムードメーカーが打席に入るとスタンドから一番の大歓声。西村はファールで粘ると、インコースに入ってくる球をライトに押っ付けた。どん詰まりのあたりはしかし、ライトの前にポテンヒットとなり、2塁ランナーまで帰ってきて同点!西村はスタンドに向かってガッツポーズ。智弁が奇跡の同点劇を演じた。

横浜はさらに継投に転じるが、変わった流れは戻らず。その後も四死球にタイムリーを重ねた智弁はこの回一挙8得点で試合を決めた。

裏の攻撃で横浜もチャンスを作るが、最後は青山近藤を見逃し三振にしとめてゲームセット。長かった奈良の連敗の歴史に終止符を打った瞬間だった。

 

智辯学園打線は最終回のつながりは見事であった。長打で奈良大会を圧倒したこの年のチームだったが、「甲子園ではそうそう長打は出ない」との小阪監督の言葉通り、快音が止まりかけていた。そんな中、追い詰められた土壇場で見せた集中打は打撃の基本である「繋ぐ意識」がもたらしたものだったのだろう。奈良県勢初の快挙(対神奈川勢連敗STOP)を達成したこの年の智辯ナインの戦いぶりは今も高校野球ファンの脳裏に刻まれている。

一方、横浜にとっては、継投とはかくも難しいものかと思わされる試合だった。のインコース攻めは智辯学園打線を翻弄していたし、制球の乱れ始めた場面での相馬への交代は決して間違いではなかったはずだ。復活ROADへの足掛かりをつかみかけていた横浜の前に、甲子園の神様があまりにも残酷な結末を用意していた、そんな夏であった。

智弁学園強豪横浜高校に初勝利!

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