九州王者苦しめた復興のシンボル

東日本大震災から1年が経過するも、まだ復興の最中だった2012年選抜。その状況下で、21世紀枠として選出されたのが、被災地からの代表・石巻工であった。練習環境もなかなかままならない中で、選手たちは復興活動にも協力。主将兼捕手の阿部人、カーブを武器とする長身右腕・三浦のバッテリーを中心に、新チームは秋の宮城大会をしぶとく勝ち上がり、宮城大会で準優勝を達成する。
東北大会では初戦で田村(ロッテ)、北條(阪神)を擁する光星学院に大敗したものの、献身的な加活動とチーム力が評価され、石巻工は選抜切符を手にする。阿部人主将は開幕日に選手宣誓(大会運営から打診された)も行い、チームは復興のシンボルとして、大きな期待を背負って甲子園に乗り込んできた。

しかし、その石巻工の初戦の相手は、なんと九州王者の神村学園である。前年夏、3季連続種つじょゆを狙っていた大本命の鹿児島実がまさかの敗退を喫する中、4年ぶりに代表切符を獲得。甲子園では初戦敗退に終わったものの、エース柿沢(楽天)を中心に多くのメンバーが残ったチームは、安定した戦いで鹿児島大会・九州大会を勝ち抜いていった。
本格派右腕の柿沢、技巧派左腕・平藪のタイプの違う左右2枚看板に加え、打線も俊足の1番新納を筆頭に足のある選手が多く、機動力豊かな打線を形成していた。決して、長打が多く出るチームではなかったが、秋の九州大会決勝では九州学院の好左腕・大塚(楽天)を1イニング8得点の速攻で沈め、九州の頂点をつかみ取った。九州王者として臨んだ神宮大会では、初戦で優勝した光星学院にサヨナラ負けを喫するも、土俵際まで強豪を追い詰め、本大会でも優勝候補の一角に名を連ねていた。
4点差ひっくり返した驚異の集中打
2012年選抜1回戦
神村学園
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
| 1 | 1 | 0 | 2 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 9 |
| 0 | 0 | 0 | 5 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 |
石巻工
神村学園 平藪→柿沢
石巻工 三浦→阿部剛

試合前は、九州王者・神村学園の優位を予想するものがほとんど。序盤はその予想通り、神村ペースで試合が進んでいく。
初回、俊足の1番新納が死球で出塁すると、さっそく盗塁を敢行。1アウト後に打撃もいい先発・平藪がタイムリーヒットを放ち、1点を先行する。2回にも四球で出たランナーを犠打で送り、下位打線の核である8番中野がタイムリー。いずれも1ヒットで1点を積み重ねるという神村学園らしい機動力野球で試合をリードする。
神村学園の先発・平藪は左腕から内外に丁寧に投げ分ける投球で、内野ゴロの山を築く投球。1回に石巻工は3番阿部人にチーム初ヒットが飛び出すも、チャンス拡大はならず。淡々とアウトが積み重なっていく形で、ディフェンス面でも神村学園がなかなかスキを見せてくれない。
すると、2-0で迎えた4回表には先頭の6番瀬口にヒットを許すと、犠打で二進。ここで8番中野のセカンドゴロがエラーを誘う形となり、さらにピンチが広がる。このチャンスを試合巧者の神村学園が逃すはずもなく、盗塁で2,3塁となると、ラストバッターの二河がタイムリーヒットを放って2者が生還。点差は4点に広がり、これは勝負あったかという雰囲気も流れ始めていた。
ところが、ここから被災地の思いを背負った石巻工が素晴らしい反発力を見せる。
4回裏、2番斎藤が右中間への3塁打で出塁すると、平藪の投球がやや単調になったこともあり、石巻工打線との波長が合い始める。3番阿部人がセンターへの痛烈なタイムリーを放って、甲子園初得点を記録。球場は石巻工の応援一色の雰囲気となる。続く4番三浦が死球でつなぐと、6番遠藤・7番阿部克と連打が続いて2-4。追いすがる石巻工の前に九州王者もたじたじになっていた。
そして、なお1アウト満塁の場面で迎える打者は8番伊勢。ここで平藪は狙い通りに内野ゴロを打たせるのだが、これをショート二河がまさかのトンネル。打球が左中間を転々とする間に満塁のランナーがすべてホームに生還し、石巻工が一気に試合をひっくり返した。まさに起死回生の大逆転劇。甲子園球場の石巻工のスタンドはお祭り騒ぎとなった。
ただ、この攻撃でエース三浦が手に死球を受けたことが直後の守りで響く形に。制球が定まらない中、3番平藪のヒットの後に四球を連発。失策も絡み、神村打線が打者一巡の猛攻で一挙5点をたたき出した。石巻工に5点を返された直後に、すぐにそつなく取り返すあたりは、さすが九州王者の面目躍如といったところだった。
試合は、その後、神村の2番手・柿沢の力の投球の前に石巻工打線が沈黙。石巻工も2番手・阿部剛が無失点で踏ん張り、5-9のまま試合は進んだが、跳ね返すまでには至らなかった。石巻工の健闘を球場全体が讃える中、神村学園が貫禄を示し、2回戦へコマを進めた。
まとめ
神村学園はその後、2回戦で健大高崎の機動力野球にかき回され、1-3と惜敗。夏も連続出場を果たすが、秋に敗れた光星学院へのリベンジならず、3回戦で4-9と敗退した。投攻守に非常に総合力が高く、この年の九州では最強と呼べるチームだったが、やはり全国の舞台で勝ち続けるのは簡単でないと感じさせられる結果となった。
一方、石巻工は敗れはしたものの、大健闘を見せ、被災地の方たちを大いに喜ばせる戦いを見せた。逆境にいる中でも決してあきらめない姿勢を貫いた戦いが、多くの方に勇気を与えたのは間違いないだろう。白星こそならなかったものの、歴代の21世紀枠の中でも、最も大きなインパクトを残したチームの一つであった。


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