大会13日目第3試合
横浜
| 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 計 |
| 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 1 | 0 | 3 | 0 | 7 |
| 1 | 0 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 1× | 8 |
県岐阜商
横浜 織田→山脇→奥村頼
県岐阜商 渡辺→柴田→和田

V候補の横浜に伝統校の県立岐阜商が挑む構図と思われた試合は、立ち上がりから予想に反して県岐阜商が試合をリードした。中盤から横浜の反撃が始まり、延長タイブレークまで突入した好試合は、延長11回裏に県岐阜商の主砲・坂口のサヨナラ打で決着。今大会最高峰の好ゲームに球場全体から拍手が鳴りやまなかった。
試合
県岐阜商は、エース柴田ではなく、3回戦で好リリーフを見せた左腕・渡辺を先発に指名。一方、横浜は3回戦に続き、2年生右腕の織田を投入した。
渡辺は左打者が1番から7番まで並ぶ横浜打線に対し、縦に大きく割れるカーブを多投する。ゆったりしたフォームから手元でピュッと伸びる速球とこのカーブの組み合わせで勝負を挑んできた。藤井監督としても考えに考え抜いての起用だったことだろう。
1回表、1番奥村淩を見逃し三振に切って取るも、2番為永に死球を与える。3番阿部が内野ゴロで入れ替わるも、すかさず盗塁成功。ここで打席に4番奥村頼が入る。横浜の中核を成す男が、インサイドの速球をとらえた当たりはライト後方へ!誰もが先制の長打と思った打球は、しかし、ライト横山がいっぱいに伸ばしたグラブに吸い込まれる。甲子園球場を興奮のるつぼに落とし込むスーパーキャッチは、名門校が序盤から乗っていく流れの狼煙となったか。
1回裏、横浜の先発はこの日も2年生右腕・織田。2日前に完封勝利を飾っており、疲労はやや気にかかる。その立ち上がり、1番駒瀬が高めに浮いたチェンジアップをとらえてライト前へ。犠打は失敗に終わり、少し嫌な流れになりかけるも、風は県岐阜商に吹いていた。3番内山がストレートに差し込まれながらも流し打った打球は、浜風にも流されたか、レフト奥村頼のダイブが及ばずレフト線へポトリ。打球が転がる間に、駒瀬が一気にホームを駆け抜け、県岐阜商が大きな先制点を手にする。
この先制点で気が楽になったか、県岐阜商・渡辺は持ち味を存分に発揮していく。2回戦の綾羽で対戦した米田もそうだったが、緩いボールをうまく織り交ぜタイミングを外す投球で横浜打線に得点を与えない。3回表には打撃のいい9番織田のショート急襲の当たり(記録は失策)と1番奥村淩が粘って勝ちとった四球で、横浜がチャンスをつかむが、渡辺の緩急の前に為永、阿部と凡退。4回表にもランナーを背負いながら、5番小野のファーストへの強い当たりがライナーとなるなど、ハードラックもあって、渡辺がスイスイと中盤まで投げぬいていく。
一方、立ち上がりに失点した織田はストレートの伸びはさすがに大会前半ほどではない。2回、3回と県岐阜商打線をおさえるが、4回裏、2アウトから捕まってしまう。6番小鎗がバットを短く持ち、ノーステップ打法でインサイドの速球をレフトに運ぶと、7番横山は高めのボールを迷わず叩いてこれもレフト前へ落とす。県岐阜商の打撃もさすがだが、これまで詰まらせていたコースのボールが外野に運ばれるようになってきた。ここで8番渡辺が、これもインサイドの速球をコンパクトに打ち返し、打球はライト前へ。小鎗がホームへ頭から突っ込み、県岐阜商が2点目を上げる。
すると、横浜はピッチャーを織田から2番手の山脇にスイッチ。選抜の経験もある右腕だが、この夏の横浜投手陣を支えてきた大黒柱の降板は、試合の行方を混沌とさせるものであった。
山脇は続くピンチはしのいだものの、5回の横浜の攻撃が3人で終わると、相手の勢いを止めきれない。先頭の1番駒瀬のファウルフライはショート池田がスーパーキャッチしてアウトとするが、ここからの上位打線が怖いのが県岐阜商だ。2番稲熊がアウトコースのスライダーを引っ張ってレフトへはじき返すと、3番内山、4番坂口は高めの速球を痛打。連続短長打で3点目を上げる。織田を想定していた中で、速球への対応は万全であった。
思わぬビハインドを背負った横浜は、村田監督が復活を常々期待していた男を、ここでついにマウンドに上げる。エースナンバーを背負った左腕・奥村頼。県大会では思うような投球ができていなかったが、リベンジの舞台が大事な場面でめぐってきた。続く5番宮川に高いバウンドの内野ゴロを打たれ、1点は失うものの、後続は封じて5回を締めくくる。
完全に県岐阜商ペースとなった試合。藤井監督は6回表、1番から始まる好打順で、満を持してエース柴田を持ってきた。打者3巡目に入るため、そろそろ渡辺が対応されてもおかしくない頃ではあった。しかし、これが横浜打線反撃のきっかけを与えることとなる。
1アウトから2番為永がやや甘く入った速球をしっかりとらえ、ライトへのヒットで出塁。すると、動揺があったか、あるいは厳しく攻める意識が強すぎたか、3番阿部・4番奥村頼に連続死球を与えてしまう。
ここで5番小野はストレートを打たされてセカンドゴロ。おあつらえ向きの併殺コースだったが、ボールを取ったショートからファーストへの送球が逸れる。捕球したファーストの足が離れ、判定待ちの一瞬の空白をついた隙を2塁ランナーの阿部葉が逃さなかった。一目散へホームへ突っ込み、内野ゴロの間に2点を奪取!まさに王者の隙の無い野球で複数得点をもぎ取ると、6番池田もセンターへのタイムリーで続き、この回計3点を奪った。
すると、追い上げムードの中、復活を期待され続けた左腕がついに蘇る。テンポのいい投球で回転数の多い真っすぐを応じ、好調・県岐阜商打線を封じていく。土壇場にきて、あの選抜で「immaculate inning(三者連続三球三振)」を達成した姿を思い起こさせる、素晴らしいピッチング!6回裏は2つの三振を奪うと、7回も併殺で切り抜け、チームの上昇ムードを加速させた。
1点差で試合は8回表。あの1998年からの約10年間、「接戦になると勝てない」と思わせた強い横浜の雰囲気を今年は感じさせる。先頭の2番為永、3番阿部とストレートを連続ヒット。柴田の投球の核となるボールだが、横浜上位打線がとらえにかかる。それでも強気の2年生エースは4番奥村頼、5番小野と内角攻めで打ち取り、2アウトまでこぎつけるが、ここから悪夢が待っていた。6番池田の打球はセカンド正面への強いゴロとなるが、これをセカンドが後逸。打球がセンターへ抜ける間に為永がホームを駆け抜け、ついに横浜が同点に追いつく。
県岐阜商としては、王者の重圧が自軍の守備に硬さをもたらしたか。昔、横浜と対戦したチームで何度も目にしてきた光景だ。追いついたものと追いつかれたもの、勢いがどちらにあるかは明白であった。
試合は4-4のまま推移。復活した奥村頼が8回裏を3人で封じれば、柴田も同点にされた後のイニングを3人で抑える。互いに譲らない試合は、9回裏に重要局面を迎えることとなった。
この回、県岐阜商は先頭の渡辺が、堅守のショート池田を襲う内野安打を放つ。犠打は失敗に終わるも、続く1番駒瀬のファーストゴロをさばいた小野のセカンドへの送球が1塁ランナーの渡辺に当たる悪送球に。それぞれ進塁し、1アウト2,3塁と絶体絶命のピンチを招く。
しかし、ここからが今年の横浜の強さを象徴する場面となった。村田監督がここで外野手を内野に持ってくる「内野5人シフト」を選択。昨年の大社-早稲田実を思い出したファンも多いことだろう。横浜ベンチと内野陣がプレッシャーをかけ、カウントは2ストライク。だが、県岐阜商ベンチは2番稲熊にスリーバントスクイズを指示する。決死のスクイズを敢行するも、ダッシュしたファースト小野がグラブトスをし、ホームタッチアウト!思いきった守備でサヨナラを許さない。
さらに、3番内山には死球で満塁となるも、ここで再びビッグプレーが!4番坂口の打球が1,2塁間深い位置へのゴロとなるが、これを取ったセカンド奥村淩が送球しようとした際、打球を取ろうとしたファースト小野は戻り切れないほど出てしまっていた。ここで奥村淩は即座に送球先を2塁へ入った池田に切り替え、セカンド封殺でアウト!野球における判断力・臨機応変力。わかる人にはわかる、超スーパープレーが飛び出し、サヨナラの危機を脱することに成功した。この時、流れが完全に横浜に傾く音が球場にいた人には聞こえたことだろう。
延長タイブレークに突入した10回表、横浜は先頭の2番為永が犠打を試みると、捕球した柴田がサードへ送球するも、これが悪送球に。2塁ランナーがホームを駆け抜けると、さらに無死2,3塁から3番阿部がたたきつけた打球はセンターへ抜けるタイムリー!後続も得点こそならなかったものの、盗塁も絡めて攻め続け、流れを渡さない攻撃で3点リードにて攻撃を終える。ほとんどの観衆は「県岐阜商もよく頑張った」と思ったのではないだろうか。
しかし、今年の県岐阜商ナインには底知れない力が宿っている。3点差を追いかける10回裏、好調の5番宮川に対し、ベンチの指示はもちろん強攻策。これに宮川が応え、初球、真ん中寄りに入った速球をセンターに打ち返す。ランナー満塁で打席には女房役の6番小鎗。こちらもカウント1-0からの2球目、やや高めに入った速球をとらえると、打球は左中間を深々と破っていく。塁上のランナーが脱兎のごとくホームを駆け抜け、7-7の同点!宮川にしろ、小鎗にしろ、この土壇場で臆することなく勝負をかけていく精神力の強さは、並大抵のことではない。横浜にとっては目の前に見えていた白星への流れがするりと抜け落ちていった瞬間だった。
ただ、この後、なお無理2塁のチャンスを迎えるも、7番横山は犠打失敗。さらに8番渡辺のヒットと盗塁で1アウト2,3塁と再びサヨナラの場面になるが、ここでも横浜ベンチは「内野5人シフト」を敷き、得点を与えなかった。同点のまま、タイブレークは11回へ。史上2校目となる2度目の春夏連覇の夢へ、王者は最後まであきらめることをしない。
迎えた11回表、ここで県岐阜商は、代打を送った柴田にかわり、左腕・和田を送る。まだ甲子園での登板の無い2年生左腕だが、こちらも臆することなく立ち向かう。犠打で1アウト2,3塁となるも、9番今村、1番奥村淩に対し、徹底してアウトコース低めを突いていく。結果はともに内野ゴロ。横浜の攻撃をわずか7球で終わらせ、スコアボードに貴重な「0」を刻んだ。
見どころ満載、今大会最高峰の好ゲーム。しかし、11回裏、ついに決着の時が訪れた。
奥村頼は、先頭の2番稲熊に高めの速球でバントを決めさせず、最後は低めのスライダーで空振り三振。さらに3番内山もファーストゴロに打ち取り、今度は小野が落ち着いてさばいて2アウトとする。次のイニングまであとアウト一つ。
打席には4番坂口を迎える。十分に間を取った後、2ストライクと追い込み、バッテリー有利のカウントで迎えた4球目。力が入ったか、ストレートが高めに浮いたところを坂口は逃さなかった。球威のある速球に対し、逆らわずバットを出してとらえた打球はレフトへ弾むサヨナラ打!県岐阜商が最高の「ルーズベルトゲーム」を制し、2009年以来16年ぶりのベスト4進出を決めたのだった。
まとめ
県岐阜商は激戦を勝ち抜いての4強入り。序盤に織田を攻略したコンパクトな打撃、そして10回裏に積極果敢に打って出た姿勢、いずれも素晴らしいとしか言いようがない。前監督の鍛治舎巧さんが、低迷しかかっていた母校を再建すべく就任し、甲子園でこそ結果は出なかったものの、「イズム」を残したことで、選抜王者から16安打を放つ強力打線が出来上がった。上位から下位までどこからでもつながる強力打線は、たゆまぬ努力がうみだしたものに相違ない。
また、投げては2年生投手3人のリレーで横浜に立ち向かい、中でも先発・渡辺と3番手で11回を抑えた和田の2年生左腕コンビは横浜打線に得点を与えずに流れをぐっと引き込んだ。自分たちの持ち味を十分理解し、決して力任せの投球をしないところに、芯の強さを感じさせたと言える。また、柴田はこの日、苦しい投球にはなったものの、終盤のピンチを最後のところで粘り切ったことで、その後の打線の反撃を呼び込むこととなった。公立校としても久々の4強入り、しかも選抜覇者を破っての勝利。高校野球の無限の可能性を提示した勝利だったのではないだろうか。
一方、横浜も敗れはしたものの、投攻守走すべてにおいてハイレベルなプレーを見せた。なかでも9回裏に見せた守備力の高さは、普段から相当考えて練りこんでないとできないものだ。6回の好走塁もそうだが、横浜全盛期の「1点勝負」での強さが完全に復活したことを世に知らしめた。また、投げては左腕・奥村頼が最後の最後にエースらしい投球でチームを鼓舞した。最後、追いつかれ、敗れはしたものの、再三のサヨナラのピンチをしのいだ姿は、まさに村田監督が求めたものだったのではないだろうか。
1998年以来となる春夏連覇はならなかった横浜。しかし、松坂大輔(西武)という超高校級のエースを擁した時と比較すると、今年は総合力で勝ち抜いた印象が強かった。ピッチャーを繋ぎ、走塁・守備でも抜け目がない。1998年が「強いチーム」とするならば、今年は本当に「いいチーム」だなという思いで見ていた。来年以降も有望な下級生が控えているが、今年、このスタイルの野球で結果を残したことは、今後に向けて大きな自信になるはず。横浜の真の黄金時代の幕開けがこれからなのかもしれない。そんな予感を抱いての試合の終幕となった。
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