記憶に残る代打(1999年夏)

1999年

桐生第一 渡辺道人

大会11日目第1試合

1999年夏3回戦

静岡

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 2 0 0 0 0 0 0 1 3
0 0 0 1 0 0 3 0 × 4

桐生第一

 

静岡    高木→市川

桐生第一  正田

試合前予想

1990年代から若き指揮官・福田監督のもとで着実に出場回数を重ねていた桐生第一。1991年の選抜で初出場で8強入りを果たすと、1993年の夏も初出場で3回戦進出と手ごたえをつかんでいた。しかし、当時の高校球界はまだ公立校も非常に元気であり、1996年、1997年には県内のライバルである前橋工が2年連続で4強入りという快挙を成し遂げるなど、まだ県内は桐生第一1強の空気ではなかった。

そんな中、前年度に当たる1998年度のチームが左腕・小林正(中日)を擁して出場するも、明徳義塾に開幕戦でサヨナラ負けという悔しい結果に終わっており、1999年度のチームにはその悔しさを晴らす期待がかかっていた。しかし、秋季群馬大会を優勝し、1勝すれば選抜当確というシード枠を得て迎えた関東大会準々決勝では柏陵に2-3と惜敗してしまう。エース正田(日本ハム)が本調子でないこともあったが、立ち上がりから硬さが見られ、守備のミスも絡んでの痛い敗戦であった。

この敗戦をいい薬にしたナインは、夏に向けて足元を見つめなおし、着々と強化を図っていく。群馬大会では盤石のディフェンス力を武器に、点差以上の差を感じさせる内容で優勝を飾ると、甲子園ではいよいよ上州の怪腕がベールを脱ぐ。初戦は比叡山・村西(横浜)との好投手対決になったが、正田は7回2アウトから許した単打1本におさえる準完全試合で昨年果たせなかった初戦突破を果たす。すると、2回戦では、これまた仙台育英・真山(西武)という好投手との連戦になったが、打線が中盤に一挙6点のビッグイニングでみちのくの怪腕を攻略。危なげなく3回戦進出を決めた。

この年の夏は、前年の甲子園を沸かせた横浜やPL学園、秋から春にかけて結果を残してきた神宮王者・日南学園、選抜8強の海星といった強豪が軒並み予選で敗退したことでも知られている。そんな状況下で、地に足の着いた戦いを見せる桐生第一の存在感は日増しに高まっていた。

迎えた3回戦の相手は名門・静岡。こちらも好左腕・高木(近鉄)を擁し、実力派の右腕・伊市川との2枚看板は、大会でも指折りの投手陣として注目されていた。初戦でエース高木が17奪三振を記録する好投で倉吉北を8-0と圧倒すると、2回戦では甲府工の粘りに苦しみながらも、高木市川の継投で延長戦の末、3-2と振りきり、3回戦まで勝ち上がってきた。打線は大物こそいないものの、勝負強い打者がならび、上位から下位まで切れ目なく、小技も使える攻撃陣であり、相手からするとやりにくさを感じるチームだっただろう。

また、静岡は、選抜大会で桐生第一が秋に敗れた柏陵を延長の激闘の末に倒しており、桐生第一とすれば秋からの成長度合いを試す試金石となる試合でもあった。

展開

正田高木の好左腕対決で幕を開けたこの試合。実は、1999年大会は柏陵の清水も併せてカーブを武器とする左腕投手が非常に輝いた年でもあり、一説にはハーフスイングの判定が厳しかったため、三振を量産したとも言われている。

ただ、この試合は、結論から言うと、正田の出来が、あまり良くはなかった。おそらく4連投となった決勝を除くと、一番悪かった試合だろう。制球が乱れるところに加え、序盤、静岡打線のうまい攻撃が加味してくる。

2回表、先頭の4番築地が当てただけながら、うまい右打ちのヒットで塁に出ると、四球と犠打で1アウト2,3塁と着実にチャンスを拡大する。ここで7番捕手の鈴木にスクイズを決められて、静岡が1点を先行。さらに、8番高木にはカウント2-0と追い込みながら、高めに外すボールが内寄りに入り、レフトへの流し打ちで2点目を奪われる。

このバッテリーで挙げた2点が静岡守備陣を勢いづけ、桐生第一はなかなかその牙城を崩せない。4回裏に3番栗原、4番大広(楽天)、5番関口の3連打で1点は返すものの、それ以外のイニングは得点はおろかヒットすら出ない。正田が投じる長身からの角度の効いたカーブとは違い、ベース手前で急激に変化する高木のカーブの前に、桐生第一の打者のバットはくるくる回っていた。夏は初めてとなるベスト8を前に、東海屈指の左腕が大きく立ちはだかっていた。

そして、代打へ

静岡が2-1と1点リードで迎えた7回裏。高木は先頭の5番関口にレフトへの痛烈な2塁打を浴びるものの、次打者のバントは得意のカーブでスリーバント失敗に終わらせる。このイニングも厳しいのか…、そう思った矢先、静岡ベンチはここで右腕・市川への継投を選択する。これまで静岡のマウンドを守ってきた2枚看板の一人であり、2回戦の甲府工戦では継投が遅れたことで一時同点に追いつかれていた。この交代を結果論で失敗ととらえるのは簡単であり、意味のないことだが、高木のボールに苦戦していた桐生打線にとっては、あるいは願ったりの展開だったかもしれない。

すると、ここで福田監督も7番高草木の場面で代打・渡辺を送る。1,2回戦と2番打者としてスタメンでフル出場し、計4打数2安打で出塁率5割以上と結果を残していたが、この試合は左腕・高木対策ということもあってか、左打者の渡辺はスタメンを外れていた。だが、右腕・市川が登板とあっては、ベンチに置いておく選択肢はない。インサイド寄りの真っすぐをセオリー通りに引っ張ると、打球は1,2塁間を破るヒットとなって1,3塁に。途中出場ながら、ここまで攻撃の潤滑油として働いてきた巧打者が見事に役割を果たした。

この後、桐生打線は市川を攻め立てて2アウト満塁とすると、1番高橋が押し出しの死球でついに同点に。さらに、2番斎藤のたたきつけた打球は二遊間をしぶとく破る2点タイムリーとなり、この回一挙3点を奪って逆転!終盤に来て試合をひっくり返した。正田は、この試合で大会ワーストとなる10安打を浴びながらも、最終回の静岡の反撃を1点にとどめて、4-3と辛勝。苦しい試合を制し、初の夏8強入りを成し遂げたので阿多。

この後も、準決勝での樟南・上野(広島)との投手戦など苦しい試合は続いたが、優勝へ向けてのターニングポイントになったのは、劣勢をワンチャンスでひっくり返した、この静岡戦だったのではないだろうか。その立役者となったのは、途中出場でいぶし銀のヒットを放った巧打者であった。

今大会優勝校のターニングポイントになった試合

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